ボタンたちスター団が待つ決勝の舞台を目指し、リコたちセキガクバトル部は因縁のエクシード学園との試合を迎えるのであった。
『さぁ決勝進出をかけた大一番! 挨拶の後は両チーム一旦ベンチに下がりそれぞれ気合いを入れ直すことでしょう!!』
『円陣にも学校ごとの特色があって見ていて楽しくなるよね』
そんな放送席でのやり取りなどはエクシード学園には関係のない話であった。
エク学にも円陣自体はあった。だがスピネルの監督就任と同時にそれらは廃止させられた。理由は単純、そういった熱血スポ根的要素をスピネルが心底嫌っているからだ。声を出して勝てるなら苦労はない。そんな非科学的なパフォーマンスなど無意味であるとバッサリ切り捨てられていた。
「全国大会初出場でベスト4までいけたとなれば最低限の成果は果たせました。ギベオン様もお喜びになられるでしょう。後はラクリボールの実地試験ついでに軽く流していきなさい」
「「はッ!」」
黒髪に青いメッシュが入った男はインディ、黒髪に赤いメッシュが入った女はルーベラと言い、どちらもエクスプローラーズにおいてはスピネル子飼いの部下である。ラクリボールの試作型をテストするという名目で学生身分としてチームに捩じ込んだのだ。
スピネルとしてはバトル部監督という立場上、最低限の功績は既にあげた後であり、チームの成績などには興味がない。予選リーグでアメジオを干していたのも、ラクリボールのテスト運用以外の目的はなかった。アメジオがラクリボールの使用を徹底的に拒否したことを理由として監督への造反行為、その懲罰という体で予選は干していた。
『アメジオはおそらくラクリボールを使わないでしょう。コレを監督からの命令違反として報告すれば如何にギベオン様といえど私が大鉈を振うのに対して待ったはかけられないはず、ウフフフフ……』
ラクリボールによる一定の成果を得たことで最低限度の目的は既に達成しているスピネルにとって、この試合でアメジオを起用した目的としてはなんともドス黒いものであった。
「いよいよエクシード学園との試合だ。奴らはおそらくこの試合でもラクリウムを利用したボールを使ってくると思う。アメジオ以外はな」
セキガク側ベンチでは、さすがに相手が相手ということで円陣の中にフリードも混ざっていた。
「……エク学とグループ予選を戦ったパシオのアカデミーとフェルム道場学習塾の監督へ個人的にコンタクトを取ってみた。彼らとの試合後で特に出場メンバーのポケモンたちに異常は見られないとのこと」
「あくまで自己強化、ドーピングをしれっとやってる、ってところね」
ミコの要約にキラリは首肯を返す。
「奴らが外道を走るというならば、それこそボクたちは王道を走るべきだろう。正々堂々、今日まで積み重ねてきたものを出し切っていこう!」
「「「はいッ!!」」」
「ウス」
ホタルがまとめ、円陣に入り、掛け声をスタートさせる。
「セキガクゥゥゥーーーッ!!」
「「「「「ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!!」」」」」
「ウオーーーーーッ!!」
マフィンが吼えることで締めとなった。
このメンバーでの円陣は泣いても笑っても今回のを含めてあと2回……もう1回は決勝か、3位決定戦を残すのみだ。
本人が努めて言及もせず、雰囲気も出さないだけで3年生にとってこの全国大会は中学最後の晴れ舞台なのだ。
「これよりダブルバトル、エクシード学園2年インディ選手&ルーベラ選手vsセキエイ学園2年ミコ選手&1年ロイ選手の試合を行います!!」
『さぁ注目の初戦、ダブルバトルを戦う先発の顔ぶれはどんなポケモンたちが並ぶのでしょうかッ!?』
「「ゆけ!!」」
インディとルーベラはあばれうしポケモンケンタロスのリージョンフォーム、通常パルデアの姿を繰り出す。
インディのは横向きに伸びた2つのコブが付いた太い形状のツノに放水器官を持つウォーター種で、ルーベラのは角先が鋭く顔の前へ突出る形に曲がり、赤い模様が入った体毛は逆立っているブレイズ種だ。
「「ぶもももぁぁぁッ!!」」
そんな種族的な容姿とは別に、ボールが開かれた際に散布されるピンク色の物質に巻かれることで2体とも全身からモヤを放っていた。
「彼ら、やっぱり『やってる』ね」
客席から呟くシゲルは口元をへの字に曲げていた。
確かにケンタロス2体を覆ったピンク色のモヤは一見すればボールデコによるエフェクトにしか映らない。その巧妙さが不愉快だった。
シゲルもシゲルでトレーナーとしては真剣勝負に燃える時期が確かにあったのだ。エク学のやりようは、真剣勝負そのものを腐す悪意に満ち満ちているようにしか見えなかった。
「いくよ、相棒!」
「ぶーい!」
「いくぞハッサムー!」
「はッ! さむッ!」
対するミコは足元にいたイーブイを、ロイはハッサムを先発させる。
『ホント、いいオーダー組んでくれるよホタルは』
ミコは、ラクリウムと個人的に因縁がある自分の突出を防ぐ目的でロイとのタッグを編成したホタルの意を読み取っていた。
背中の傷が疼くのは確かだ。が、そのために後輩の面倒をかなぐり捨てるほどミコは浅薄な場の持ち主ではなかった。
『この傷の礼は、バッチリ勝つことでしろってことだ!』
不敵に口角を釣り上げ、ミコは相棒へ指示を飛ばした。
「イーブイ! ブレイズ種へびりびりエレキ!」
「ぶいぃびびぃ!」
イーブイの全身より素早く飛んだ電撃がルーベラのケンタロスにヒットし、屈強なボディからスパークが迸る。
『ミコ選手のイーブイ、相棒技でブレイズ種へ先制攻撃! まひ状態に陥れたーッ!!』
『相方のハッサムに対してのいい援護射撃だね。ほのお技はハッサムにとって唯一の弱点だから』
「インディ!」
「分かっている! ケンタロスは既にハッサムに狙いを定めた!」
「ぶももももらぁッ!!」
勢いのままに、というどころか勢いだけでインディのケンタロスはツノを青く発色させながらハッサムへ迫る。パルデアケンタロスの種ごとにタイプエネルギーの発露が変化するレイジングブルだ。
「迎え撃つんだハッサム! きりさく!!」
「さぁぁぁむッ!!」
進化したことで増量したパワーを活かし、ハッサムはカニバサミを振り下ろす。
直進の勢いと振り下ろされたカニバサミ、衝突の結果はすぐに出た。
「ふぁッ!?」
「ハッサム!?」
『ハッサム、吹っ飛ばされたーッ!!』
ウォーター種はみずタイプであり質量を伴う水分を扱う性質からパルデアケンタロスの中では最も重い115.0kgだ。それでも118.0kgのハッサムをまるで風に吹かれた木の葉のように吹き飛ばす様は鮮烈であった。
「ロイ!」
「よそ見をしている暇はなくてよ!」
「ぶるるるるもぁ!!」
イーブイにもブレイズ種のレイジングブルが迫っていた。まひによる素早さの低下もお構いなしの突進だ。
「わるわるゾーン!!」
「ぶいわぁる!!」
イーブイの全身から発散されたあくエネルギーが攻撃のみならず、物理攻撃に対して効力を持つ障壁となった。リフレクターの展開だ。
「チィッ……!」
猪口才な奴、とルーベラはミコに歯噛みする。
対するミコは鼻で笑って見せた。インディとルーベラに対して、そちらの優位はあくまでラクリボールによるパワーアップ分のものでしかないと言外に嗤って見せていた。
「さ、さむッ……!」
「大丈夫かハッサム!?」
どうにか空中で体勢を立て直し着地に成功するも、ハッサムの体力の大半は先の激突で持っていかれてしまっていた。
『ミコ先輩がブレイズの方を見てくれているなら……!』
ロイはボールを向け、
「戻って来るんだハッサム」
ハッサムを引っ込める。交代先は、
「いけーッ!!」
「くぁぁ〜ッ!!」
タイカイデンだ。
『ロイ選手、大ダメージを負ったハッサムを交代! タイカイデンで挽回を狙います!!』
『うーむ……』
カブはエンジンシティのジムリーダーを務めて長く、齢50を迎えようという中でもまだまだ意気軒昂であることを取り柄としていた。そんなカブの眼力からも、フィールドでバトルに出ているケンタロス2体の様子がどこかおかしいとは感じ取っていた。
それでも審判団が動かない以上は追求のしようもない、セキガク側は厳しい試合運びを要求され続けるであろうと予測していた。
「なぁマフィンよ。ホントに昨日言ってた通りなんだろうな?」
「それを確かめるのにうってつけなのはナギしかいないんだよ。仮に俺の考えが外れてたとしても、お前なら自分でどうにかしてくれるだろ?」
「言ってくれるぜ」
ネクストサークルにてユニフォームの汚れも気にすることなく胡座をかいているナギがベンチのマフィンと言葉を交わしている。
『なんの話だろう……?』
リコに野郎2人の会話の意図はイマイチ掴めなかった。
『空中なら突進攻撃は出来ないはず!!』
高度をじゅうぶんに取り、跳躍力を含めての肉弾戦を警戒させるタイカイデンへロイはテラスタルオーブを取り出す。
「輝け! 夢の結晶!!」
繰り出してすぐに投げ込むオーブによりタイカイデンはテラスタル。眩いでんきのテラスタルジュエルを被った。
「テラスタルパワー! チャージビーム!!」
「くぁぁぁびび!!」
テラスタルジュエルが輝き、タイカイデンは広げた両翼を媒介としてでんきエネルギーを溜め込み、2条の黄色い電流光線を発射する。
「エクシード社の科学力を甘く見ないでもらいたいな!」
こういった場面で自分やケンタロスのことを前面に押し出さないのがインディ、そしてルーベラの本質であった。スピネルの腹心として立ち回るにあたり、血湧き肉躍るという概念とは無縁なのだ。
「ぶもももぶしゃあッ!!」
自らを狙いとして放たれたチャージビームを前にインディのケンタロスはツノから水球弾を発射。
ピンク色の不穏なエネルギーが混入したみずのはどうがチャージビームを一方的に押し返し、
「くぁぁぁッ!!」
「タイカイデンッ!!」
タイカイデンを襲った。
『インディ選手のケンタロス! ウォーター種ながらタイプ相性の不利をものともせずに技のぶつけ合いで競り勝ったーッ!!』
『タイカイデンはテラスタルをしていた。だのにこうまで簡単に押し負けるものかな……?』
「ぶもももぼぉらぁ!!」
「あなたもすぐに終わらせてあげる!」
ミコはルーベラに取り合うことをしなかった。撃墜されたタイカイデンへ向けてなおもウォーター種が突進をかけていたのが見えたからだ。
主人であるインディは薄ら笑いを浮かべたままで、過剰な追撃を止めようという意識はない……。
「イーブイ! びりびりエレキをウォーターに!!」
「ぶいびりりぃッ!!」
「このッ……!!」
イーブイからの電撃が突き刺さり、ウォーター種には効果抜群、さらには体がしびれて進撃が止まる。
自分を無視されてルーベラは憤慨するが彼女のケンタロスもまた体がしびれて動けない有様であった。そこを見越してミコはインディのケンタロスを狙ったのだ。
「くぁ、あ、あ……!」
みずのはどうで撃墜されたタイカイデンは立ち上がること叶わずテラスタルは解除され、完全に目を回し倒れてしまう。ハッサムの耐久力で辛うじて耐え切れたに過ぎないラクリウムの威力をまざまざと見せつけられた形であった。
「タイカイデン、戦闘不能! ケンタロスの勝ち!!」
「審判さん」
タイカイデンへのジャッジからロイの脱落を告げる審判へミコは声をかける。
「なんだい?」
「この試合、ここで降参します」
ミコの宣言に、フィールドはもちろんスタジアム全体にどよめきが走った。
『あーッとミコ選手、タッグのロイ選手がやられた段階で降参宣言! カブさん、コレは一体!?』
『ダブルバトルは盤面上の数的有利がものをいうからね。2vs1になったところで降参するのはポケモン愛護の観点からしてプロでもよくある話だよ』
「ミコ先輩! 先輩とイーブイならまだ……」
降参を宣言したことに食い下がろうとするロイは口を噤むよりなかった。ミコがあえて悪戯っぽく口元に人差し指を立てて見せたからだ。
それは、これ以上無駄に粘ることで奴らにデータを渡したくないという意図のあらわれであった。
「本当にいいのかね?」
「はい。お願いします」
改めて確認して来る審判に対しミコも首肯を返す。
そうして審判は己の持ち場へと戻り、職務に邁進をした。
「ミコ選手の降参により、現時点を以てダブルバトルの勝者はエクシード学園2年インディ選手&ルーベラ選手とします!!」
「ぶーい」
タイカイデンが回収される中、いきり立ったままのケンタロスを尻目にイーブイはそそくさとミコの足元へ帰っていった。
『インディ』
23歳。エクスプローラーズのスタッフ。
スピネル子飼いの部下であり、彼の傘下として活動している。
ルーベラとコンビを組んでおり、扱うポケモンの系列も合わせて連携してくる司令塔タイプだ。