マフィンのゲンガーを起点にしてオニゴーリを翻弄し、見事1勝を奪い返すのであった。
『ナギ選手、絶体絶命の状況からZワザで大逆転勝利!! コレにより団体戦の勝敗はシングルバトル1にて決まります!!』
『あのZワザ、実に素晴らしい一手だった! 威力はもちろんのこと、ナギ選手の熱いパッションがこっちまで伝わってきたよ』
「やったやった!! セキガク勝った!! っていうことは……オドリドリ!!」
「ほほほーう!!」
飛び上がるチャンにオドリドリが小刻みに首肯して見せる。ナギがシングル1へ望みを繋いだ。それは即ち……
「お姉さんの試合だーッ!!」
「ほーほほほーう!!」
カントーからはるばる応援に駆け付けて、念願のリコの全国大会初試合。チャンとオドリドリは盛大に飛び跳ねた。
「あの青年か」
シゲルはエク学側からトレーナーサークルへ向かうアメジオが一昨日、セキガクとポケモンスクールの試合を隣り合って観戦していた爽やかな彼だと気付いた。
いい顔をしている。そう思った。若い頃の自分ほどではないが。
「アン。この子を預かっててくれる?」
「んー?」
そんなリコはネクストサークルからアンの腕の中へボールを開き、ミブリムの小さなボディを抱かせた。
「みぃー?」
「その子、昨日ゲットしたばかりだから流石にすぐ試合って訳にもいかないでしょ? だからせめて試合の空気と、観戦だけでもさせたいなって」
「オッケー! 任された!」
アンの八重歯の見える底抜けに明るい笑顔に笑みを返す。続けてマフィンに頭を下げた。
「マフィン部長、ありがとうございます。私にこんな大舞台を託してくれて、アメジオと戦える機会をくれて……」
「オーダー決めたのはホタルだよ。ねぇ?」
話を振られたホタルは一瞬憮然として見せる。
マフィンが異様なまでにリコへの執着を隠そうともしてこなかったのは、リコこそセキガクの次世代を担うエース……マフィンの言う『柱』として自分の後釜を任せるつもりであるというのは知っている。
リコからすれば一方通行かもしれないにしろ、マフィンと2人のやり取りに部の方針が影響を受けるというのは、事実上チームを預かる立場であるホタルからして面白いこととするには慎重であった。
「まぁ、本当にアメジオがシングル1に入ってくるかどうかは分からなかったがな」
それでもホタルは、そんな個人的な不満よりもチームの空気を優先できる人となりをしていた。
なにより今のセキガクバトル部の全てはマフィンから始まっている。やる気のなかった先輩たちからチームを引き継ぎ、勝ち抜くために必要なチームの利益となるというならば、ある程度の専横も見越して立ち回るのが自分の役回りだと定義出来ていた。その専横でリコが成長出来ている事実も確かにあるのだ。
「とにかく思い切りやって来い。そして勝つんだ。それがこいつにとって何よりの返礼になる」
「頑張れ! リコ!!」
「……期待している」
「頼んだよ」
ホタルに続けてロイ、キラリ、ミコがリコに声をかけていく。
「フン……勝つしかないだろ」
腕を組み、リコからそっぽを向けたままドットも呟く。
「みんな……行ってきます!」
1人1人に首肯を返し、リコは元気よくネクストサークルを出た。
「よぉ。あとは任せたぜ」
「はいッ!」
ナギとも入れ替わりで言葉を交わし、リコはトレーナーサークルへ入る。
「っとと……!」
ハイタッチをスルーされたナギはバランスを崩しかけるコミカルさを醸し出してからベンチへ戻った。
「ナギ先輩、お疲れ様!」
「おう」
ロイからタオルとボトルを受け取れば、ナギはタオルを頭にかけ、ゴクゴクと喉を鳴らしスポーツドリンクを飲み干していく。
快勝こそしたものの相手はドーピングによるパワーアップをしていたも同然。一手ごとに薄氷を踏む思いであったのは発汗量から明らかであった。
「どうだい。なかなかカッコよかったろ」
「うん!!」
屈託なく笑みを向けてくる後輩に、ナギは白い歯を見せて返した。
「お疲れ様」
「クソがッ!!」
倒れたオニゴーリを回収してベンチに戻る際、サンゴは入れ替わりのアメジオと言葉を交わすことはなかった。
アメジオの労いの言葉も負けた相手への煽りとしか聞こえなかったが、エク学においては結果こそ全て。負けたものには弁明の権利も、相手へ突っかかる権限もありはしないのだ。
そのルールのためにサンゴはこの場はおとなしく引き下がっただけであり、負けた理由を自身に求めることはしなかった。
「おいスピネル! このボールの力、もっとオニ強くなんねーの!?」
「もちろん。この大会での運用データをもとに更なる改良を予定していますとも」
普段監督を『スッピー』とあだ名で呼ぶ余裕すら怒れるサンゴにはなくなっていた。
ゲンガーのほろびのうたによるサイクル戦の強要は、スピネルにもラクリボールが現状抱える欠点を明文化するヒントを与えていた。
『確かに現在のラクリボールに仕込んであるラクリウムの量では投入1回分しかポケモンにパワーアップを施すことは出来ませんね。このままでは交代合戦に対応できない』
この気付きに至ることが出来た『収穫』が、負けて帰ってきたサンゴへの嫌味を忘れさせたに過ぎないのだ。
これから始まるアメジオの試合も勝つなら勝つでよし、負けるならばなお良しと、どちらに転がってもリターンはある。要はどっちでも良いのだ。
「これよりシングルバトル1、エクシード学園1年アメジオ選手vsセキエイ学園1年リコ選手の試合を行います!!」
トレーナーサークルを介してリコとアメジオの視線が交錯する。
善きライバル同士、ついに約束を交わした大舞台で戦う時がやってきたのだ。
「きみたちは、セキガクは本当に素晴らしいチームだな」
「ありがとう。私もそう思う」
リコはアメジオがそう声を掛けてきた中に、暗に自分自身の力量不足を嘆いているのが分かった。
いくらバレないからといって、怪しげなドーピング行為に走るチームメイトたちを正道へ戻すに足りなかった自分の無力に打ちひがれている心が見えた。
確証などはない。ただ、なんとなくそう思えただけだった。
「アメジオ……いざ!」
リコは、努めて凛々しくボールを構えた。
全国という晴れ舞台において、自分は決してアメジオのことを疑いはしていないと示した。
正々堂々と戦ってくれるという確信を貫き通したことを、少しでも伝えたいと思ったからだ。
今、この場においてすべきことはたった一つ、真剣勝負あるのみ!
「リコ……尋常に!」
そんなひたむきな思いは、アメジオにしっかりと届いた。
ライバルとして自分を目標に研鑽し続けてきたリコに対し、チームを率いる立場としての不明から眼を曇らせたままにしておくことこそ愚の骨頂であると思い至る。
今はただ、目の前の真剣勝負に全神経を振り向けるのみだと悟り、瞳に力を宿した。
「「勝負! 勝負〜!!」」
同時に投げ込まれるモンスターボール。
「らっしゃいどーぞぉう!!」
「がぁぁ〜!!」
両者の先発が高らかに雄叫びをあげた。
『アメジオ選手の先発はアーマーガア! リコ選手の先発はゴローニャ! 両者全く違うタイプのポケモンでの対面です!!』
『おっ? あのアーマーガア……』
カブはすぐに先のエク学メンバーが繰り出していたポケモンとの違いを見抜く。
『トレーナーに似ていい顔つきをしているね』
放送席から爽やかな空気を感じ取っていた。
「リコちゃんの言う通りだったね。やっぱりアメジオは甘い誘惑に乗ってドーピングなんかするようなやつじゃあなかった」
「当然だよ部長! アメジオが卑怯な手段なんて使うわけないじゃんか! だいたい、あんないい奴がエクシード学園にいること自体おかしいよ!」
「オレもロイに賛成だ。あの爽やかプリンスが率いるにゃあ、あのチームはお行儀が悪すぎる。選手も監督もどちらもな」
「だがそれもアメジオ自身が決めた道だしな……」
ホタルとしてもロイが声を荒げ、そこに乗っかってゆくナギの気持ちは分かるし、ホタル自身そう思うところはあった。アメジオの部内の境遇を考えれば忸怩たる思いで胸が張り裂けそうになるのも容易に想像がつく。
しかし、ことアメジオには生まれながらの立場というものがあるのもまた事実として認識するよりなかった。
エクシード社の傘下として学園が存在し、アメジオは会社の創業者一族の御曹司ともなれば、そうやすやすと与えられたものを捨て去るわけにもいかないだろう……。
「色々惜しいよね、あの子」
「あぁ。そうだな」
恵まれた身の上であるが故に重荷を背負わされ、ままならぬアメジオの不憫さを端的に呟くミコに、ホタルは相槌を打つよりなかった。
「リコお姉さん! 頑張れ〜〜〜ッ!!」
「ほほほほ〜う!!」
客席では待ちに待ったリコの試合にチャンとオドリドリのテンションも最高潮。力の限り飛び跳ねながらポンポンを振っていた。
「アーマーガア! はがねのつばさ!!」
「がぁぁぁらぁッ!!」
チャンの声援を切り裂くように先手を取るのはアメジオだった。驚きは誰もない。リコのゴローニャは種族上パワーとタフさを併せ持つ反面、スピード勝負に不向きなのは誰が見ても明らかだからだ。
はがねエネルギーにより硬質化されたアーマーガアの翼がゴローニャの岩石ボディを強く打ち付けるのも当然の帰結であった。
「むむッ……!」
はがねのつばさをヒットさせたと同時にゴローニャのボディから飛散する物体、それらは瞬く間にフィールド中へ散布される石片だ。
「がぁ……!」
「らっしゃい、どーぞぉ……!」
たまらずアーマーガアは飛び退き、ゴローニャはニィ、と笑った。イシツブテ時代から散々積み重ねて来たお決まりの流れは、進化を重ねてより全身に強く固着していたのだ。
『ファーストアタックはアーマーガア! しかしゴローニャもただでは転びません! ステルスロックを散布しております!』
『アメジオ選手はなんとも爽やかで、リコ選手はなかなかにしたたかな戦い方をするね。実にこれからが楽しみな若者たちだ』
圧倒的な力を振り回すエク学側に対し、団結とテクニックで立ち向かうセキガクという構図をカブはこの試合の中で見ていた。
その果てが互いに正々堂々、トレーナーもポケモンも全てをぶつけ合うというならば清々しくてよいではないかと思っていた。
真剣勝負の妙味とは、互いをリスペクトし合い、大きな成長が生まれるところにもあるのだから。
「ロックブラスト!!」
「どーぞ、どーぞ、どーぞぅ!!」
ゴローニャは手近の表土を引っこ抜くようにして鷲掴み、そこにいわエネルギーを込めて物質化させた岩石を次々と投擲してゆく。
なんとも原始的な攻撃手法だが、ゴローニャのパワーにより生み出される腕力が見た目ほど笑っていられない威力を生んでいた。
「あッ! がッ!」
はがねとひこうの2タイプを併せ持つアーマーガアからしても洒落にならない。全てが直撃するではないにしろ、黒鉄の外殻を打つ岩弾は煩わしいし、何より普通に痛い。
「どんどんどーぞぅ!!」
「負けるなアーマーガア! 思い切り翼をはためかせろ!」
「があああ〜!!」
アーマーガアは地上スレスレに高度を落としながらもロックブラストの間隙を縫うように翼をはためかせれば、次第に強烈な突風を生んだ。
「なッ……!?」
重さ300kgを誇るメガトンポケモンが如何にガラルの空を支配するアーマーガアの起こすものとはいえ、向かい風1つで技の勢いを殺されることはないしまして尻餅をつくような無様を晒すこともない。
リコの驚愕とは散布した石片が突風によりコントロールを失い、フィールドの四方の端へ吹き飛ばされたところにあった。
『あーッとアーマーガア! ロックブラストを再三受けながらも強烈な突風を起こしステルスロックをフィールドから除外したーッ!!』
『きりばらいだね。相手のフィールドアドバンテージを打ち消す力を持つ技だ』
「ステルスロックはいわタイプの設置技……放置したままではアーマーガアは飛ぶに難儀するし、何よりソウブレイズにも辛くなる」
「くッ……!」
こちらの作戦を明瞭に対策してくるアメジオにリコは内心『流石』と思わされる。
「ゴローニャ、戻って来て!」
ステルスロックによる場作りが封じられ、弱点を突かれるならばこれ以上はどうにもならぬとリコはゴローニャを引っ込める。
「いくよ、カルボウ!!」
「んぼうッ!!」
ならばと繰り出す先はリコからしてカルボウ以外になかった。
アーマーガアとのタイプ相性以上に、ニャローテは最初からソウブレイズを相手するための1体として想定しているからだ。
『ラクリボールの弱点』
ラクリボールに含有されているラクリウムにはポケモンを1回繰り出した分の作用しかもたらすことが出来ない。
つまり交代を強要する類の技を当てられて引っ込めさせられ、再度繰り出すとなるとパワーアップは不可能である。