真剣勝負……この一言の元にアメジオも全身全霊で試合に臨む。宿命の対決が幕を開けるのであった。
「カルボウはほのおタイプだから、はがねタイプのアーマーガアに有利だよね?」
「だが2mに75kgのアーマーガアと比べてカルボウはたった0.6mに10kgほどとあまりにもフィジカル差がデカすぎる。体のデカさはそのまんまエネルギー総量にも繋がってくるから、カルボウは一気に体力を持ってかれるリスクを背負いながらの戦いになるわな」
相手の虚を突くペテン殺法の基礎的な部分にはポケモンのパーソナルデータ把握が必須である。
ロイのタイプ相性的な優劣だけでは楽観視出来ないと語るナギは、周りからすれば普段のイメージらしからぬ親切な解説ぶりだった。
この辺りはナギとしてもロイをセキガクへ引き入れた張本人としての思いも発露していた。
「みぃ……」
「食い入るように試合を見てるね、そいつ」
「うん」
リコに託され、アンが腕に抱いたままのミブリムは、見知らぬ相手の腕の中で数多の意識が飛び交うスタジアムにおいてただ一点、フィールドの攻防のみを見ていた。
「きっと早く自分もリコのポケモンとしてバリバリ戦いたいんだよ。ねぇミブリム?」
アンの呼び掛けにミブリムからのリアクションはない。
ドットとしてはそういうものか、と思うよりない話だった。特段否定する材料もないからだ。
「クリアスモッグ!」
「なにッ!?」
リコの指示はアメジオの中に困惑を生んだ。はがねタイプのアーマーガアにどく技であるクリアスモッグは効果がない。
タイプ相性の観点から得意なほのお技で攻めてくるとばかり思っていたアメジオにとって、まずリコの指示そのものが意表を突く。
「ぼうふぁッ!!」
カルボウもリコの指示に疑うことなく両腕の円筒部を構え、
「発射ッ!!」
リコが右の手刀を振り下ろすように指示を続ければ、カルボウの両腕も呼応する。
「ぼうらッ!!」
一瞬アーマーガアへ向けた砲口を素早く足元へ向け直し、多量の煙玉を炸裂させたのだ。
「ぬうッ!」
『なんとカルボウ! 交代早々に目眩しだ!! クリアスモッグを爆裂させたーッ!!』
「しまったッ……!」
アメジオは常識に拘る己の狭量さを呪った。この視野の狭さがリーダーとしての資質のなさの現れではなかろうかとすら思わされた。が、今はそこはいい。
とにかく今の自分に出来ることとは、全力で戦い抜き勝利を掴むべく邁進するのみだ。
「きりばらい!」
「があああ〜ッ!!」
目眩しとして使われたクリアスモッグの煙が瞬く間にアーマーガアの羽ばたきによりフィールドから除去されてゆく。
「がッ!?」
「コレが狙いだったか!」
アーマーガアの足元に、既にカルボウは滑り込んでいた。
『クリアスモッグを応用した目眩しを活かしてカルボウがアーマーガアへ肉薄! リコ選手、コレは見事なお手並みです!!』
『あらかじめアイデアとして温めていたのか、それともゴローニャのステルスロックをきりばらいで除去されてから思い付いたのか、どちらにしても素晴らしい機転だ』
正々堂々真っ直ぐとしたアプローチを貫くアメジオに、機転をきかせるのに長けたリコ。
善きライバルとして正反対のトレーナータイプがぶつかり合う小気味よさをカブは噛み締めていた。これもまた、真剣勝負の味わいである。
「アーマーガアに張り付いて!!」
「ぼうぴょあ!!」
クリアスモッグを放ってからアーマーガアめがけての全力ダッシュにはニトロチャージの瞬発力を使っている。そのスピードアップを活かしたままカルボウはアーマーガアのお腹へ飛び付いた。
「ぬううッ! 飛べアーマーガア! カルボウを振り落とすんだ!!」
「があああ〜ッ!!」
主人の指示を聞くまでもなく敵に張り付かれたアーマーガアとしてはたまったものではない。すぐさまガラルの空の王者と謳われる雄大な翼を広げ飛翔。フィールド上空を縦横無尽に飛び回り始める。
「ぼうぐぅッ……!」
「踏ん張ってカルボウ!」
アーマーガアとのフィジカル差、レベルの差の前には多少のタイプ相性などひっくり返されてしまう……となればリコとカルボウに取れる択は元よりコレしかなかった。
肉薄し、至近距離にて勝機を掴むのだ。
「やきつくす!!」
「ぼぼぼーぼ!!」
アーマーガアのお腹に大の字で張り付いたままのカルボウが全身から発火。
「ぼーぼぼぅ〜!!」
「ががぁぁぁッ!?」
あっという間にアーマーガアも火だるまにされていった。
「あーッとカルボウ! アーマーガアに肉薄した状態からやきつくす攻撃!! 自分そのものを着火させたーッ!!」
「カルボウは元々焼けた木炭に命が宿って生まれたポケモンだと言われている。燃える闘志に違わぬガッツ溢れる戦いぶりだね!」
カルボウの側の解説につい熱が入るのはカブがほのおタイプ専門のジムリーダーであり、そのパーソナルな部分含めてほのおタイプの扱いに関してはガラルで指折りのエキスパートだという自負を持っているからだ。
「だが、アメジオ選手もこれしきで終わるはずはないだろう」
ほのおポケモンの放つ技同様に、トレーナーが秘める熱さも好むのがカブである。
アメジオの中に秘められた熱いトレーナー魂を感じ取っているが故の確信だった。
「不味いな……!」
なおも張り付いたままで発火し続けるカルボウを放置していてはタイプ相性上、どう考えても先にアーマーガアがダウンしてしまう。
『このまま焼き尽くされるよりは…!』
動くにしてもダメージ覚悟、どうあってもこちらも痛みを伴うが、アメジオには即決即断するしかなかった。
「アーマーガア! 最大戦速で急降下!!」
「があッ!!」
アメジオの指示にアーマーガアは目力を入れ直す。
上空より黒鉄の巨影が持てる限りの力を振り絞り地上へ降下していった。
「ねぇ博士。あんなスピードで落ちていったんじゃ……」
「アーマーガア自身もまともな着地は出来ないね」
カルボウを引き剥がすにはコレしかないと辿り着くアメジオのインテリジェンスと、その指示が出来るメンタルをシゲルは評価した。
『アーマーガア、凄まじい勢いで急降下! しかしコレはーッ!?』
着地を考えないアーマーガアの全速降下は、それ即ち黒鉄のボディをフィールドへ叩き付ける自傷行為に他ならない。
「ぼあッ!」
「カルボウ!!」
それだけの勢いであるからこそ、死に物狂いで張り付いていたカルボウを引き剥がすことに成功した。
巨体の落着により吹っ飛ばされたカルボウは着地もままならずに尻餅をついてしまう。
「ぼ、ぼうッ……!」
立ち上がるカルボウの調子としてはどうにか、といったところであった。
本来円筒型の腕を通して技の制御を行うのを強引な全身発火のために内包するほのおエネルギーを扱った分、体力もろとも枯渇が早まってしまったのだ。
「が、がぁぁ……!」
アーマーガアのダメージはカルボウよりも深刻であった。
元よりゴローニャのロックブラストのダメージも小さくはなく、やきつくすが効果抜群なのに加え、半ば自傷気味の不時着により体力は残り僅か。
「戻って、カルボウ!」
「戻れアーマーガア!」
リコもアメジオもそれぞれフィールドに出ているポケモンを退却させるよりなかった。
『双方共にここでポケモンをチェンジだ!! アメジオ選手の2体目はなにか!? リコ選手は再びゴローニャを繰り出すか、それとも3体目か!?』
『ううむ……なんというか、ここまでの流れとはこれからの攻防のための準備運動に過ぎない。そんなような気がするね』
端的に話すカブは、自身のボキャブラリーのなさを内心恥じた。元よりウィットに富んだトークなどを求められているキャラではないのだが、そこを恥じるところを含めて彼の人間的魅力なのだ。
『どうにか……どうにかアーマーガアを引っ込めさせられた』
リコの中では、アメジオがソウブレイズとアーマーガア以外のポケモンをゲットしていると考える発想自体がなかった。
持っていたとしても全力でぶつかるのみである。
『ゴローニャとカルボウの頑張り、絶対に無駄にはしない!!』
故にここに至るまでのリコのアメジオ対策とは、まだ見ぬ3体目を放り込まれた瞬間瓦解する程度の脆弱なものであったが、その根拠のない自信が精神に対して無尽蔵な補強に繋がっていた。
『強くなっている……合宿の時からさらに!』
アーマーガアが危うくやられるところであったとアメジオはリコの威を素直に認める。そもそも他者の強さを否定したがるような性分でもなかったが。
『だからこそ面白い!!』
「いくよ、ニャローテ!!」
「ソウブレイズ!!」
互いに繰り出すは、最も信頼を置くパートナー。
「にゃろぉーッ!!」
「ぶふぅッ!!」
主人の意気に応えるように、ニャローテもソウブレイズも構えを取った。
最初は4月の練習試合、2回目はアサギ塾での合同合宿……。
今回の対面でポケモンたちからしても互いに3度目の激突、ニャローテは『3度目の正直』、ソウブレイズは『2度あることは3度ある』をそれぞれ決意の背景としていた。
「いけソウブレイズ!! むねんのつるぎ!!」
「ふぉうぶッ!!」
『あっと、ソウブレイズ速攻! 真っ直ぐニャローテめがけて猛ダッシュ!!』
『この試合で思い知らされた。俺は難しく考えてみても仕方ないタチなんだと。ならば真っ向勝負あるのみ!!』
青白く燃える炎剣を水平に構えソウブレイズが迫る中、リコは冷静であった。何度この絵面を脳裏に浮かべ、悔しくて仕方ないと唇を噛み締めたことか。
『アメジオ……あなたとソウブレイズに対抗していくには最初からコレしかない!』
ユニフォームのズボンポケットよりテラスタルオーブを取り出す。
「ニャローテ! 満開に輝いて!!」
初手からテラスタル……リコもまた、真っ向勝負にてアメジオに挑み、打ち勝つための一手であった。
「ぶふぅッ!?」
斬りかかる寸前の距離まで迫るソウブレイズだがリコが投げ込んだオーブによりニャローテを包み込む結晶が視界を奪い、
「にゃろあああッ!!」
「マジカルリーフ・ブレード!!」
くさのテラスタルジュエルを被ったニャローテはソウブレイズに倣って両手にエネルギー葉の集合体を剣へ見立てて纏い、斬りかかる。
「ぶぅおッ!!」
テラスタルの発動により足を止められたソウブレイズがニャローテの葉剣を炎剣で受け止め、双剣同士の鍔迫り合いが発生した。
「にゃろぁらぁッ!!」
まんまと出鼻を挫いた形のニャローテが勢いのままに両腕の葉剣を振り回し、受けるソウブレイズはじりじりと後退させられてゆく。
剣戟においてソウブレイズが後手に回らされるのは、ニャローテの無軌道な剣捌きとテラスタルによる増量されたパワーの賜物であった。
『リコ選手、ニャローテの投入から即テラスタルを発動!! ソウブレイズを相手に剣の勝負で押しています!!』
「いいじゃんいいじゃん! イケるよリコ!!」
「いや、『押してる』程度じゃ駄目だ」
攻勢に水を差すドットの物言いだが、声色から単にリコへの対抗心を拗らせてのものでもないというのは仮入部からの付き合いであるアンだから分かることだった。
「そっか、テラスタルはアメジオも使えるから……!」
「タイプエネルギー由来のパワー勝負じゃ勝ち目はないぞ」
「でもリコなら絶対勝つよ! だってそうだろ? リコはエク学との練習試合の後からずっと、色んな選手を相手に勝ってきたんだ!! 今日この時のために……いや!!」
アンとドットに割って入る形で力説するロイの脳裏にはビワやムラエリ、ミコトといった強敵たちと渡り合うリコの姿が浮かぶ。
「全国制覇のためにさ!!」
握り拳を震わせながら叫ぶロイに、マフィンは口こそ開かなかった。
リコが『セキガクの柱』として、皆の拠って立つに相応しい大器へ至りつつあるのを喜んでいた。
「ニャローテ! そこでキック!」
「にゃろけり!」
葉剣の振り払い際に続けて放つ蹴りがお腹にヒットすることでニュートラルポジションまで下がらされてしまうソウブレイズ。
ニャローテの息をつかせぬ猛攻には、鍛錬と死闘の積み重ねがありありと見て取れた。
『タイプエネルギーの制御と軽やかな体術を両立させ続けるポケモンのポテンシャル……トレーナーとして磨きあげてきたフィジカルとメンタル……』
アメジオにとって何が嬉しいかと言えば、これだけの戦いを繰り広げる相手が自分をライバルだと認めてくれていることに尽きた。
「リコ! お前が強くなればなるほど俺も燃える!! ライバルよ!!」
爽やかな風を吹かせながらアメジオもまたテラスタルオーブを取り出し、
「我が道を貫け! ソウブレイズ!!」
勢いよく放り投げた。
『ファーストポケモン』
ポケモントレーナーにとって最初の1体とは特別な意味を持つ。
『相棒』……『親友』……数多表現はあれど、バトルとなればトレーナーとポケモンが目指すはただ1つ、『勝利』の2文字だけだ。