敗れてなおアサギ塾はラクリボールの脅威をものともせずエクシード学園を粉砕し、全国最強の意地を見せるのであった。
『ウルト選手、メガシンカ発動から見事に快勝!! アサギ塾、3位決定戦を制して強豪としての強さ、層の厚さを見せ付けました!!』
「メガヤミラミ……!」
「お前らだってテラスタルをマスターしてるんだ。あいつらだって切り札の1つ2つ身に付けてるさ」
ナギの理屈は分かる。それ以上にロイからすればドーピング状態のポケモンを相手に真っ向から勝ち抜いて見せるウルトの力がショックであった。
夏休みの合同合宿の頃からかなりの差をつけられている、そう感じた。
「セキエイ学園の皆さん、準備お願いします!」
「よし、行こう!」
「「はい!」」
「ウス」
「は、はいッ!」
ホタルの呼びかけからいつもの返事に、ロイだけ少し遅れてしまうほどにショックは大きかった。
その辺りを把握できないナギではなかったが、特に言及はしなかった。試合は待ってはくれないのだから。それにロイならば必ず自分で持ち直す。そんな信頼もあった。
「3位入賞はアサギ塾に決まり、いよいよ残すは決勝戦のみ! 全国192校の頂点に立つのは果たしてどちらか!? 決勝を戦う両チーム入場です!!」
「おっ! 来た来た!」
「ぴかぁ〜!」
元来解説の仕事はあまり好きではなく、性質的にも向いていないと自覚もあるサトシだが、いざ始まってしばらくすればフィールドを夢中で眺めていた。
俗人的なメディア露出に生理的な嫌悪こそあれども、第2の父と慕うククイ博士の願いが込められたアローラチャンピオンとしての責務を果たすことにやぶさかではないし、なによりポケモンバトルはやるのも見るのも好きだからだ。
『超伝統校が数多の死闘を潜り抜け、準決勝では大金星を挙げての決勝進出! 勢いのままにパルデアに優勝という『宝物』を持ち帰ることが出来るのか!? オレンジアカデミーの入場ゥゥゥゥゥッ!!』
歓声が湧き上がる中、ボタンを中心としてスター団のメンバーが後に続く。
ボタンは今日も黒のパーカーと極薄のチュールスカートではなく、皆と同じアカデミーのロゴが左胸にユニフォームを着用している。
準決勝同様にマネージャーとしてではなく、選手として入場していた。
『絶対に勝つ……! ここまでウチたちを連れて来てくれたビワ姉のためにも!!』
入場する中にビワの姿はなかった。準決勝で披露した伝説の『F・P・P(フラッシュ・ピストン・パンチ)』を再現した後遺症から、到底試合の出来る状況でないからだ。
ボタンの決意は、スター団の全員が共有していた。
『続きましてはポケモン歴82年から84年までの元チャンピオンワタル氏在籍時代のV3以来、全国出場すら遠のいていたこちらもカントーの伝統校セキエイ学園! 地方予選からチーム一丸となり、着実に勝利を積み重ねて決勝戦に登場ですッ!!』
「お姉さんたちだ! おーい!!」
「ほほほ〜う!!」
今日のチャンとシゲル博士は徒歩でスタジアムまで来ていたのですんなりと現地入り出来ていた。車を使っていたならばまた渋滞に巻き込まれていたことだろう……。
「それじゃ博士、また……」
「どうも。やっぱり決勝戦ともなると熱量も雰囲気も違ってくるね」
全国各地より試合を視察に来ていた顔見知りのスカウトの何人かより挨拶を受けるシゲルは、応対しながら呑気にこう呟いていた。
ポケモン社会の発展は人々の進路に枝分かれを生んだ。
一口にバトルと言ってもポケモンリーグを目指してジムを巡るのか、PWCSでランクマッチをこなすのか、はたまたバトルフロンティアに挑むのかと様々だ。そこにコンテストやポケモンレンジャーといったポケモンを扱う業種は増える一方。
結果的にトレーナーとしてバトルの道を選ぶ層が目減りしていくのは自明の理であった。
そんな中でも少しでも有望株をあちこちからピックアップしなければと雇い主にせっつかれ、奔走している彼らの涙ぐましい努力に一定の理解を示しながらも、どうせ声をかけられるならむさい中年親父よりは断然美女の方がいいとシゲルは思っていた。
「リコちゃんたちから聞いた話では大人しいマネージャーでしかなかったらしいけど、まさか『帝王』ジャキをを破るほどのスーパーエースだったとはね」
「ど、どうも。部長さんも今日に合わせて万全ってやつですかね?」
「そうだね。今日はよろしく」
部長同士としてマフィンとボタンは言葉を交わしていく。
互いにチーム事情をほんの少しだけチクリと刺し合った形だ。Zワザを使った疲労は完全に抜けて、マフィンは万全だった。
「あの、ビワさんは大丈夫なんですか?」
「あぁ。今日の試合は無理だがちゃんと完治するってさ」
「F・P・Pが選手生命を断ち切る伝説にして禁断の技とされていたのは医療技術の発展がまだまだ途上であった1950年代故。これも70年近くの進歩のおかげでござるな」
「それでも卒業までずっとギプス生活みたいだけどな」
リコにメロコが答えれば、シュウメイとオルティガも続ける。
「よかった……」
心からリコは胸を撫で下ろした。テラスタル研修の時に面倒を見てもらった友人であるために思い入れの強い相手だからだ。
「ビワがいないのは確かに痛い。だがそれをバネにして我らはかつてなく団結している! 今日は頂くぞフリード!」
「そいつは認めるがこいつらだって今日まで必死こいてやって来たのを俺は見てるんだ。はいそうですね、と言うわけにはいかんぜ」
両チーム、センターサークル内で整列をする。
マイクの調子を念入りにチェックしてから、審判は高らかに告げた。
「これより決勝戦、オレンジアカデミーvsセキエイ学園の試合を始めます! 両チーム、礼!!」
「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」
儀礼の挨拶から監督同士でオーダー表を交換する。
「きたぞ!」
電光掲示板に表示される運命のオーダーは以下の通りとなった。
ダブルバトル
ピーニャ&オルティガvsホタル&ミコ
シングルバトル2
メロコvsマフィン
シングルバトル1
ボタンvsリコ
控え
シュウメイvsナギ
「ピーちゃんとビワ姉は卒業だから、このメンバーで試合出来るのは泣いても笑っても、今日が最後。だからこそ思いっきり……!」
センターサークルよりベンチに戻ってからボタンは口を開く。
皆に語りかけるボタンの悔いとは、やはり円陣を組むにビワが不在であることだった。
スター団のメンバーで、気心の知れたボスたちとで試合をするのに全員でない寂しさは如何ともし難い……。
「みんなー!!」
「「「「ビワ姉!」」」」
そんな円陣を組むスター団を最寄りの客席最前列、フェンスより身を乗り出すように姿を見せたのが、そのビワだった。
右腕にはギプスが巻かれていて、左手で手を振っているところにボタンたちが駆け寄り見上げる。
「来ても大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫! 腕以外は至って健康だもの!」
ピーニャにビワは答え、皆に普段と変わらぬ優しい笑顔を見せる。元が美人なので笑うと整った顔立ちがより際立つのだ。
「なんだかんだで全員集合だな。ボタン」
「うん……」
客席から見てるだけであってもビワの心も確かに1つ。ボタンたちと共にある。
スター団は、ここに完全な姿を取り戻していた。
「みんな……」
改めてボタンは口を開く。その双眸に悔いなどは微塵もなかった。
「みんなでスター団を作って、いじめっ子たちと戦って……スターダスト大作戦でみんなを止める側になって。あの時から今、こうしてみんなで同じ目標のために頑張って来れたこと、マジボスとして凄く嬉しいし、うちはみんなのことを誇りに思っている。だからこそ! 最後はみんなで笑って締め括ろう!!」
「「「応ッ!!」」」
「そのために必ず勝ぁつ!!」
「「「「「やってやりまスター!!」」」」」
円陣から皆で五角形の星を作る。スター団にとってこれもまた、ボスたちオリジナルメンバーでは最後のやり取りなのだ。
キハダは敢えて言葉を紡がなかった。スター団のみの結びつきを優先し、監督としての我を通すことによる愚を避けて来たからこその躍進であると信じていたからだ。
「お前ら。本当によくここまでやってきたよな。ずっとぐうたらしてた俺が今更何か言うようなことはねェし、そんな権利があるとも思わん。いつも通りに決めてくれ」
円陣前、セキガク側ベンチでのフリードの監督としての言葉は簡素なものだった。『大舞台だからこそ普段と変わらぬようにやることが大事』という程度のことだ。
「ボクたちはとうとうここまで来た。だがこれからがボクたちの正念場だ。『全国に出ること』ではなく、『全国で勝つこと』を目標としてきたその集大成を見せていこう」
「「「はいッ!」」」
「ウス」
セキガクにとっても最後のやり取り。円陣を仕切るホタルは思い切り息を吸い、腹の底から声を張り上げる。
「セキガクゥゥゥーーーッ!!」
「「「「「ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!!」」」」」
「YEAHーーーーー!!」
円陣を締め括るマフィンは、万感の思いのままに腹の底から叫んでいた。
入学してからずっと夢見てきた全国制覇まであと1つ。そのための戦いはこれから始まるのだから。
『さぁ両チームともに円陣を組み気合いを入れてからダブルバトルを戦うタッグがそれぞれトレーナーサークルへ入ります!!』
「分かってるなミコ」
「了解。速攻でしょ?」
ミコにホタルは首肯する。
セキガクの弱点である定番タッグの不在……今日に至るまでホタルは、この点を解決させることが出来なかった。
タッグの片方にこそキラリに白羽の矢が立ったものの、その相方の選定が間に合わなかったのだ。ミコとのタッグで自分が出た理由としては、全国初戦で勝つことが出来たからという以外に具体的なものはない。
ダブルスの穴に関しては今後も引き続き検討を重ねる必要がある。そうホタルは考えていた。
『マフィンの奴の我儘も聞けばこうもなる』
ホタルとしては当初シングル1の大将枠にマフィンを置き、シングル2にはナギを構えて純然たる上級生編成での勝負を考えていた。単純に戦力重視の発想からである。
そこにマフィンが準決勝の時同様に物言いをつけて来たのだ。
『まったく、最後の最後まで振り回してくれるものだよ、我らが部長は』
そんなマフィンがオーダーにリコをねじ込んで来た言い分としては以下の通りであった。
『ニャローテがマスカーニャへと進化したことでリコちゃんのインスピレーションも限界の壁を越え、より独創的なファイトが出来るようになったはず。そこから転じてリコちゃんが持つ潜在能力にさらなる覚醒が見られるかもしれない』
これに対するホタルの捻り出した軟着陸こそが、マフィンをシングル2に置いての2戦先勝策だった。
シングル1にボタンが入っていたのは完全に結果論であり、相手のあることでしかない。
「ピーちゃん、オルくん。頼んだよ」
「オッケーマジボス! 今日のためにとびっきりのコラボナンバー、考えといたからね」
「ま、ドーンと構えといてよマジボス。可愛く吹っ飛ばして来てやるからさ」
ピーニャとオルティガの表情に気負いはない。ビワが来てくれたことでスター団全員の結束を確認できたからだ。
スター団のタッグもトレーナーサークルへ入れば、審判のアイコンタクトに両タッグ首肯を返した。
「これよりダブルバトル、オレンジアカデミー3年ピーニャ選手&2年オルティガ選手vsセキエイ学園2年ホタル選手&ミコ選手の試合を始めます!!」
『さぁーダブルバトルから勢いを掴むのははたしてどちらか!? 注目の先発投入です!!』
「いくよー、ドンカラス!!」
「くぁ〜!!」
「頼むぞブリムオン!」
「ぶぅりぃッ!」
ピーニャはおおボスポケモンドンカラスを、オルティガはせいじゃくポケモンブリムオンを繰り出す。
「ブリムオンって、ミブリムの最終進化系だよね?」
「うん。ちょうどいいって感じかな」
自分のゲットしたポケモンの進化先ならば戦い方は大いに参考になるとリコはアンに返す。
「みぃ〜」
リコの膝の上にはそのミブリムが乗っていた。
「いくぞ! ニンフィア!」
「ふぃふぃ〜!」
「レッツゴー! イーブイ!!」
「ぶい〜!!」
ホタルはニンフィアを繰り出し、ミコは足元にいたイーブイをフィールドへ踊り出させる。どちらも相棒、イーブイ系列同士だ。
『イーブイやその進化系は俺の仲間の中にもゲットしているのが結構いて、そのどれもが全然違う育ちや戦い方をしてるんだよな』
『ぴかぴか』
かつて旅を共にした仲間たちの中からいわゆるイーブイ系列のトレーナーをサトシは思い出す。
客席にいる永遠のライバルから、少しはまともなコメントが出来るようになったことを苦笑ながらに思われているのは、なんとなくだが波導で掴んでいた。
『ワタル』
元ジョウトリーグチャンピオン兼セキエイリーグ四天王。
アイリスが台頭するまではドラゴンチャンピオンの代名詞は彼だった。
セキガクのOBであり、圧倒的な強さで学生バトル界を荒らし回った傑物。