仲間たちのエールを背に受けて立つはどちらも同じ、ポケモン歴2025年、中学バトル界の頂点を決める戦いが今、始まるのであった。
「ゴローニャ!」
「らっしゃい、どーぞぅ!!」
「サンダース!」
「んさささぁーッ!!」
リコの先発はゴローニャ、ボタンの先発はサンダース。
タイプ相性だけを見るならばリコの出し勝ちと言えるが、ここまで来てそんな表面的な部分だけで盤面の優位をリコが握ったとは誰も思っていない。
「やれるところからやっていくよ! ゴローニャ、ステルスロック!!」
「らっしゃい、どーぞぅ!!」
たとえ同学年であっても実力もネームバリューも上とリコはボタンを見ている。だからこそ先発から初手を一貫させた。
『やはりそうきたか』
一貫させたが故にボタンからしてもゴローニャの動きは想定内のことである。
フィールド中へ散布される石片に、サンダースは煩わしさを隠そうともしない。来るのが分かっていたのはサンダースも同様だが鬱陶しいのは鬱陶しいのだ。
「そりゃあサンダースご自慢のでんき技こそ効かんが、あのゴローニャにでんきタイプへの圧は正直そこまでねェと思うんだがな」
「どういうこと?」
「リコのゴローニャの技構成を思い出してみな」
ナギに言われてロイは指折りしながらリコのゴローニャの技を思い出してみる。
「あっ!」
答えはすぐに出た。
まるくなる……ころがる……ステルスロック……ロックブラスト……。
タイプ相性の優位を活かし、でんきタイプへ攻め入るに必要なじめん技をゴローニャは覚えていないのだ。
「ロックブラスト!」
「どぉぉぉぞぅ!!」
ゴローニャが手近な地面を引っこ抜いて持ち上げた岩弾を放り投げるも、サンダースはすかさず跳躍をする。
「なッ!?」
そのままヒョイと身軽に近くの石片へ飛び乗ってみせた。
『サンダース、ロックブラストをあっさりかわしてステルスロックを足場に逆利用! なんと軽やかな身のこなしーッ!!』
「カルボウだってステルスロックの上に乗って飛び回れるようになるのにたくさん練習したのに……!」
「うちのブイブイならコレくらいはッ!」
「んんさッ!」
サンダースが鋭く尖った毛並みをゴローニャへ向ける。
「めざめるパワー!!」
「く、まるくなるッ!」
そのまま無数にある鋭い毛先よりエネルギー弾が発射されては、ことごとくがゴローニャへ直撃。
着弾より前にゴローニャは頭と手足を引っ込めた防御態勢を見せるも、
「どぉぞぶッ!?」
「ゴローニャ!?」
エネルギー弾の着弾で受けるダメージが想定より大きかった。
リコとしては、パワーとタフさを引き換えに鈍重なゴローニャに敵の攻撃を避けることなど最初から考えていなかった。
「……ッ!」
ゴローニャが大ダメージを受けた、その理由はすぐに分かった。めざめるパワーが着弾したゴローニャの表面に僅かな霜が付着し、周囲に冷気が漂っているのが見えたからだ。
『最終決戦、ファーストアタックはボタン選手が取りました! サンダースのめざめるパワーが命中したゴローニャ、かなり苦しそうです!』
『あのめざめるパワー……こおりタイプだな』
『ぴかぴかちゅちゅ』
めざめるパワーとは、ポケモンが内包するタイプエネルギーとは無関係に、それぞれ個体ごとの性質によって発動の際の技タイプが決定する。
同じ名前の技であったとしても性質による変化の幅は同種ですら千差万別。100匹同じポケモンを見たとしても100匹違う性質のめざめるパワーとなるのが当然であった。
故に手軽にタイプ相性のセオリーをひっくり返せる利点こそあれど、よほど育成に手馴れたプロでもない限り狙った技タイプの習得は難しいとされ、運用そのものが高等テクニックとされている類の技だ。
「……でんきタイプにとってこおりのめざめるパワーは、天敵であるじめんタイプはもちろん、自慢のでんき技を半減するドラゴンタイプ相手にも有効打として機能する優秀なサブウェポン」
「サンダースでのじめん対策は万全だった、というわけか」
キラリの分析にホタルが苦い顔をする。
「しかもステルスロックが綺麗に逆用されちゃってる。アレじゃあせっかくのまるころ戦法も高いところの石片に飛び移ってかわされちゃう」
「ぶぶい?」
ミコが呟くのでイーブイはヤバくね? と首を傾げた。
「じゃあここはもうマスカーニャでスピード対決しか!」
「どあほう。くさタイプのマスカーニャにもこおりは弱点だぞ。それにあのボタンってのには後に切り札が控えているんだ。『帝王』ジャキすらやっつけたニンフィアがな。奴を相手取る前に自分のエースを消耗させたら勝てるものも勝てなくなる」
アンに対してドットが即座に交代の愚を語る。マスカーニャへの交代すら悪手な以上、スピードで上回られるカルボウやゲットしたばかりのミブリムなどは問題外と付け加えた。
『さぁて、どうするん?』
ゴローニャがこのまま突っ張るというならばステルスロックを逆用しながら攻撃を避け、めざめるパワーで蜂の巣にしてやれば済む話。交代させるならばそれはそれでオイシイ話だ。
ボタンがリコに押し付ける2択への思惑は、周りが考える以上に深い。
じめんタイプにとってでんきタイプとは自慢の電撃をシャットアウト出来て、なおかつ抜群を取れる絶好の相性だ。
だからこそ、その相性間から優位を活かせずに引き下がるならば、それはボタンがこの場の勢いを掴み、フィールドを支配したことになる。
ポケモンバトルにおいて最も重要なのは『場の空気を如何にして支配するか』というのがボタンの至上命題だった。そのためには、嗜好面以上にイーブイフレンズとは扱いやすいポケモンであった。種族ごとにステータスとしての向き不向きがハッキリしているからだ。
『ゴローニャを下げるにしても……!』
絶好の相性であるところをむざむざ退却させる愚は、リコとて承知していた。スピード負けしているカルボウや実戦経験のないミブリムは論外。マスカーニャも温存しておきたい。
『ロックブラストもかわされる……ん……』
ふと脳裏に過ぎった1つの閃きにリコは全力で乗っかる選択をした。どのみちこのままでは埒が明かない。
仮にうまくいかずに勢いを掴ませるにしてもやるだけのことはやってみてからでも遅くはない、というのがセキガクバトル部としてここまでやってきた中で得た学びだ。
「ゴローニャ! 片手でロックブラストの弾を用意して!」
「らっしゃい!」
リコの指示に即応するゴローニャは、今度は左手で地面を引っこ抜く。
『下手な鉄砲数撃ちゃ当たる作戦か?』
ゴローニャが握り込む岩弾は片手で引っこ抜いた分サイズが小さい。
先程の両手で引っこ抜いたのではかわされておしまいだからと乱れ撃ちの方針に切り替えたようにも見えるが、それならば右手にも同じく岩弾を持たせなければ間髪入れずとはいかない。
「ゴローニャ! 弾丸を思いっきり殴り付けて!!」
「どぉぉぞりゃあいッ!!」
「がさぁッ!?」
ゴローニャが左手に持った岩弾に右拳を叩き付ける形で撃ち出せば、側に浮かぶ石片へ飛び移らんとしたサンダースの右後ろ脚へ命中。フィールドへ墜落させられてしまった。
打ち出される岩弾の勢いに回避が間に合わなかった。
「サンダース!?」
『あーッと! 先程は軽やかにかわしてみせたサンダースでしたが今度は被弾! ゴローニャ、威力ではなく弾速重視のロックブラストで技アリだーッ!!』
『いや、ロックブラストじゃあない!』
実況に即座にサトシが口を開く。
「ゴローニャの全身に漲るパワーをフルに活かした猛烈なパンチで岩弾を撃ち出すとは……あの全身のパワーの使い方を覚えたゴローニャはきっと、ロックブラストのことはポカンと忘れたことだろう」
「じゃああの技はなあに?」
「ほーう?」
『「じゅうまんばりき』」
ジッキョーに問われたサトシと、チャンに問われたシゲルが全く同じタイミングで同じ回答をしたのは、お互い把握してはいない。
「んさぐぅ……ッ!」
「サンダース!!」
直撃ではないにしろ、弱点タイプである10まんばりきはサンダースに効果抜群であった。
どうにか起き上がるも右の後ろ脚を膝から曲げ、宙へ浮かしている。
『しまった……サンダースでの戦術の核である足回りをやられた!』
サンダースはイーブイフレンズきってのスピード自慢だ。
その高い素早さを叩き出すのには体内の発電器官と、そこから発するでんきエネルギーを活かせるしなやかな四肢の2つが肝要であり、右後ろ脚の負傷はその片方が潰されたことを意味していた。
「ゴローニャ、ころがる攻撃!」
「らっしゃいごろろん!」
サンダースの負傷は、ゴローニャからすれば千載一遇のチャンスである。迷うことなくリコは追撃の指示をした。
真剣勝負であるからこそ、相手に見えた弱みを徹底的に突くことこそがリスペクトの精神なのだ。
「サンダース、交代!」
リコが手を緩めないのは、ボタンにとってはむしろ小気味のいいものだった。真剣勝負の妙味を分かっている相手だと嬉しく思えすらした。
「ナイス交代! ボタンちゃん!」
『ビワ姉が気に入ったのも分かる気がするわ』
サンダースを引っ込めたボタンはビワの声援を背で受け止める。
他地方交流でセキガクがアカデミーにやって来てから、ビワがしきりにリコの話題を持って来ていたのを思い出す。
元々ビワが誰にでも優しく、他人の悪口を言うような性格ではないのは知っていたが、それ故に特定の誰かの話題に集中することもそれまでなかった。
『面白いじゃん!』
ビワが敬服してやまないリコに対して、ここまでの攻防からボタンも興味の度合いを引き上げた。
『おっと、ゴローニャ追撃のころがるが迫る前にたまらずサンダース交代! ボタン選手、次なるポケモンは何でしょうか!?』
「頼んだーッ!」
「しゃあああうッ!!」
交代先として出てくるのは青くすべすべとしたボディのシャワーズ。
「動いて!」
シャワーズへ右腕を突き出し、リコが一声かけることでフィールド中の石片が反応。一斉に襲いかかる。
「しゃうう……」
シャワーズとはイーブイフレンズの中でもタフさに定評のあるポケモンだ。
石片がぶつかってくるステルスロックの効果1つでその自慢の体力がどうこうなることなどはない。
「くッ」
ボタンは、ステルスロックの起動中にちゃっかりゴローニャを引っ込めるリコの巧妙さに用意周到な一面を見た。虫も殺さないような顔をしておいて抜け目のないやつ、と思った。
『おっとリコ選手、交代で出て来たシャワーズにステルスロックをぶつけながらゴローニャを引っ込めた! 両選手ともに先発を退却させた形です!!』
『ぴかちう』
『あぁ。あの娘……試合の中で技をパワーアップさせてたな』
ロックブラストを10まんばりきへと昇華させたリコの閃きをサトシは見逃さなかった。
サトシ自身、タイプ相性のセオリーを覆し、瞬間的な閃きを武器とするタイプである。この手の閃きをトレーナーとしての生命線にしている分、そういったものには敏感だった。
『シャワーズなら!』
サンダースを退却させられたのはゴローニャがじめん技を習得し、状況が変わったからに過ぎないとリコは己を律する。
「お願いッ!!」
「にゃああああま!!」
引き続きタイプ相性の有利で以て攻め続けるのみ。そう思いながら繰り出すのは、マスカーニャをおいて他にない。
「キタキタ! お姉さんのマスカーニャ!!」
「ほうほ〜う!」
リコのエース登場にチャンとオドリドリが飛び跳ねる。一昨日の活躍を思い出したのは言うまでもない。
『リコ選手、ここでマスカーニャを投入! 準決勝ではニャローテから進化を果たし、強敵アメジオ選手のソウブレイズを破りセキガク決勝進出を決めた立役者! 決勝ではどのような活躍を見せるのか!?』
「来たな、奇跡のマスカーニャ」
エク学のアメジオは、ボタンとしても強敵であると認識しマークしていた相手だった。ジャキやマフィン同様、もし団体戦が成立するならば自分が出向くよりないと考えるほどに。
『ん? ならこのオーダーも別に悪くはなかったわけか』
ボタンは元々、セキガクの2勝狙いを食い止める目的で自分自身をシングル2に置いていた。そこをメロコの直訴により譲ってシングル1に回ったのだ。
結果としては予想通りセキガクは上級生中心の連勝狙いであったわけだが、シングル1にも警戒対象であるアメジオを破ったリコが配置されていた。ならば自分が出向くに相応しい相手ではないかと思い至ったのだ。
「いくよ、シャワーズ! 突撃!!」
「しゃうわぁ〜ッ!!」
改めてボタンはリコを強敵と認める。その威を最大限に評価しながら、シャワーズを走らせた。
『めざめるパワー』
ポケモンの内包する潜在エネルギーには保有タイプの垣根なく様々な色があり、めざめるパワーはその『エネルギーの色』に反応して技タイプが決定される。
戦術面での活かし方は、もっぱら技範囲的にカバー不可能な弱点タイプに対する対面補強がベターだろう。