SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 オニキスのキョジオーンがパワーファイトで詰めてくるのに押されていたドットだがリコの声援を受けて奮起。
 クワッスもウェルカモへと進化し、見事な逆転勝利を決めるのであった。


リクライム

『素晴らしい逆転劇でしたドット選手! 進化したばかりのウェルカモともバッチリ息を合わせてキョジオーンを撃破し、セキエイ学園が2勝目です!!』

 

「て、ことは……だ?」

 

「あぁ……」

 

「……団体戦は、こちらの勝ちが決まった」

 

「「やったぁ〜!!」」

 

 キラリの言葉にセキガクベンチの活気が最高潮となる。

 喜びのあまり飛び上がったアンとロイは天井に頭をぶつけ、痛みで悶絶してしまう。

 

「マフィン……」

 

 練習試合とはいえ久しく遠ざかっていた団体戦の勝利が確定した、というにも関わらずマフィンのリアクションが無である理由をホタルはその視線から察した。

 

「さぁてリコちゃんの試合デビュー、どうなりますやら」

 

 マフィンの双眸には、トレーナーサークルへ向かうリコの背中しか見えていなかった。

 

 

 

「まったく……これが練習試合だったからまだよかったものの、本当になんたる醜態」

 

 愚痴をこぼして憚らないスピネルは、ベンチに戻ってきたオニキスへの試合後の反省を促す『監督としてのありがたい訓示』も忘れていた。仮に覚えていたところで、オニキスに関しては無表情で最低限のリアクションしか見せないのでスピネルからすれば面白みもないのだが。

 バトル部での活動などは組織の中でのし上がり、やがて力を手にするためのアピールとしか考えていないスピネルにとって、目の前に広がる光景は所詮学生のお遊びにしか映らない。

 そこで流れる少年少女たちの青春の汗へ思いを馳せることも一切ない。目を向けるとすれば、常に冷笑を携えてのことだ。

 

『こうなればお孫さんのデビュー戦、というところのみをピックアップさせて扱わせるより他にありませんね』

 

 トレーナーサークルへ向かうアメジオと、呼び寄せた記者連中とを流し見ながらスピネルは思案する。

 団体戦の負けを出来る限りうやむやにする方針でメディアに働きかける択を導き出したはいいが、それにもスピネル自身ではどうしようも出来ない問題が横たわっているのを理解していた。

 アメジオが試合で負けてしまっては元も子もないからだ。

 

 

 

「シングルバトル2までが終わり、現時点でセキエイ学園が2勝を挙げ、団体戦の勝敗は決しておりますが練習試合という側面から選手への試合経験を積んでもらう目的で、シングルバトル1もこのまま行います!」

 

 審判員の通達が伸びやかな声量とともにスタジアム中に響く。そこから改めて青年は口を開いた。

 

「これよりシングルバトル1、セキエイ学園1年、リコ選手vsエクシード学園1年、アメジオ選手の試合を行います!!」

 

『い、いよいよ私がするんだ……試合、するんだ……』

 

「にゃおお?」

 

『随分緊張してるな』

 

 あからさまにガチガチになっていたリコを見るアメジオは心配になった。気持ちは分かるが見上げるニャオハの視線にも気付かない有様でまともな試合など出来るのか? と。

 

 

 

「「リコー!! 頑張れー!!」」

 

 

 

「ん、アン……ロイ……」

 

 背後よりの声にリコが振り向けば、エールを送る仲間たちの姿があった。

 

「にゃあおん」

 

「ニャオハ……」

 

 足元のニャオハからの視線にも気付く。

 

『そうだ……私は1人じゃない。ニャオハにイシツブテ、それに、応援してくれるみんながいる!』

 

『大丈夫そうだな』

 

 スカイブルーの瞳に宿る緊張は消えない。しかし、そこからほどよい闘志へと結び付くのを見るアメジオは安堵した。せっかく試合をするというならば、お互いにパフォーマンスを出し切れる状態から正々堂々の力比べに臨むのが気持ちイイからだ。

 

「いい試合をしよう」

 

「は、はい!」

 

 『敵と馴れ合うべからず』……そんなスピネルの突き刺してくる視線などどうでもいい。

 勝利を目指すのは当然として、ベストを尽くしたいい試合が出来たなら、それが双方共に人間もポケモンも成長の糧となる。

 リスペクトこそが、アメジオの抱くバトルへの根幹であった。

 

 

 

「フリード様。お久しぶりでございます」

 

 客席の目立たぬ片隅にて声をかけてくる老紳士にフリードの肩はピクリと震える。

 ハンベルが隣の席に腰掛け、深く座り込む様子からひとまずの警戒は解くことにした。

 少なくともこの場で今すぐ荒事に持ち込む気はない……立ち振る舞いからそう察したからだ。

 

「組織から俺を連れ戻すなり消すなりして来いって話なんじゃあないのか?」

 

「この場の私はエクスプローラーズとしてではなく、アメジオ様お付きの執事として参上致しました。フリード様にはエクシード社に勤めておられていた間、並行してアメジオ様の家庭教師もしていただき、その感謝をまだ伝えておりませんでしたから」

 

 律儀なことだ、そう思う。ハンベルからの言葉に偽りはないと見抜けぬほどフリードも愚鈍なつもりはない。

 

「フリード様のコーチを受けてから、アメジオ様はそれはもうポケモンバトルにやみつきでして」

 

 視線はやらず、小さく頷いてやることで返事とした。

 

「フリード様が退職されたことはギベオン様もとても悔やんでおられました。得難い人材が手元から離れてしまった、と」

 

「そいつは社会人冥利に尽きるね」

 

 フリードは口元を吊り上げてみせる。

 

「……エクシード社に戻るのに気が進まないと仰るならば、外部雇用という形で学園のバトル部監督になっていただけませんか? アメジオ様も、まだまだフリード様からのご指導を賜りたかったと度々申しておりまして」

 

「そいつもまぁ、光栄な話だが……」

 

 アメジオの側に頼りに出来る実力者を置きたいというハンベルの気持ちは分かる。

 ただ、フリードからすれば、エクシード社系列のどこかしらに身を置くということは、そのままエクスプローラーズからの支配を受けることに他ならないと思えた。それは、何かの拍子に地下へ戻されかねないということ……。

 フリードは、ピンク色のモヤが渦巻くあの地下の研究施設に逆戻りなどというのはまっぴらごめんだった。だからこそ連中と関わっているエク学バトル部の前に顔を出さず、ベンチ入りもしなかったのだ。

 

「……」

 

「そうですか」

 

 フリードの拒絶を込めた沈黙を、ハンベルは受け取った。

 

 

 

「ゆけッ!!」

 

 ボールを投げ、アメジオが繰り出すはスマートな漆黒の剣士然としたポケモンだ。

 胴体は黒色で、細い腕や脚は先へ行くほど暗い青で、頭部は中央に3つの穴が空いた黒色の板状の防具で覆われ、紫色の目をした瞳からは青白い炎が上がっている。顔の縁は青色で、耳は水色で鋭く尖り、後頭部からは青白い炎が噴き出していた。

 

「ぶふぅ……!」

 

 全身を鎧に包むはひのけんしポケモンソウブレイズ。アメジオのパートナーである。

 

「お願い、イシツブテ!」

 

「らっしゃい!」

 

『やるな……!』

 

 アメジオは、リコが足元のニャオハをそのまま繰り出してくるとばかり考えていた。

 

『バトルにおいて初手の攻防はそのまま全体の趨勢に直結する。攻めるにせよ防ぐにせよ手の打ち損ねは厳禁だぜ。慎重に、それでいて大胆に、だ』

 

「分かってるさ、フリード」

 

 ポツリ、過去に受けた教えの反芻にアメジオは呟き、確固たる意思で以て攻め手を打った。

 

「ゴーストダイブ!!」

 

「ぶぅふッ!!」

 

 ソウブレイズのボディが忽然と姿を消す。

 

「消えた、ど、どこから……!?」

 

 辺りを見回すも、それで気配を察知できるほどにはまだリコはトレーナーとして成熟してはいない。

 

「らっしゃあ〜い!?」

 

 リコもイシツブテもあちこちを見回す中、岩石ボディを真下からの斬撃が襲った。

 

 

 

『あーーーッとソウブレイズ、リコ選手とイシツブテの目を欺いての奇襲成功ーーーッ!!』

 

「あぁッ! ずるいッ!」

 

 空中へ放り出されるイシツブテにロイが冷や汗をかきながら、ソウブレイズの奇襲攻撃を詰った。

 

「ずるいもんかよ。ゴーストダイブはそういう技だぜ」

 

 ロイを軽く嗜めるナギではあったが、その表情は険しかった。

 ニャオハにしろイシツブテにしろ、相手が繰り出したソウブレイズとはそもそものレベルの差が歴然であったのだ。

 

 

 

「く、イシツブテ、がんせきふうじ!」

 

「らっ、しゃいッ!!」

 

 空中のイシツブテの双眸に力が戻れば、自らのいわエネルギーによりソウブレイズの周囲の地面を隆起させ、

 

「ぬうッ!?」

 

『あーーーッとイシツブテ、あわや一撃でKOかと思いきや持ち直したーーーッ!』

 

 地中の石粒を使役し、無数の石柱をフィールドへ生成してゆく。

 

「ぶぅふ……!」

 

 ソウブレイズはまんまと周囲の足場を封じられる形となった。石柱の煩わしさにほんの少しだけイラッとする。

 

 

 

「いくら丈夫ないわタイプだとしても、イシツブテのレベルからして普通ならあのソウブレイズの一発を耐えるのは不可能。ということは……」

 

「……特性『がんじょう』」

 

 ホタルとキラリが言葉を交わす中、マフィンは瞳を爛々と輝かせていた。遥か格上の相手を前に、自分なりの戦いを遂行出来ているリコの姿が眩しく映ったのだ。

 

「いいよいいよ! その調子だよリコちゃ〜ん!」

 

 

 

「戻ってイシツブテ!」

 

 アメジオとソウブレイズの意識が出来上がる石柱に向く中でリコはボールを向け、イシツブテを回収する。

 

「ニャオハ、お願い!」

 

「にゃあお〜ッ!」

 

 その交代劇をタダで通すアメジオではない。

 

「ソウブレイズ! サイコカッター!」

 

「ぶぉるぁッ!」

 

 左腕の刃より放たれるは『飛ぶ斬撃』……紫色のサイコパワーを宿した一振りが衝撃波として迫る中、

 

「ニャオハ! 石柱を使ってッ!!」

 

「にゃおおッ!!」

 

 ニャオハは石柱同士の間を素早い身のこなしで三角跳び。飛ぶ斬撃を回避して見せた。

 

「なにッ!?」

 

 アメジオは目を見開く。ここにきてイシツブテの役割が単なる攻撃ではなく、後続のニャオハの身のこなしを助け、立ち回りを強化するためのフィールド生成であることに気付かされた。

 

「いくしかない……ニャオハ! かみつく!!」

 

「にゃあ〜ごぁ〜!!」

 

 上を取り、大きく開いた口からギラつく歯を見せながらニャオハが飛びかかる。

 

「踏み込めソウブレイズ! むねんのつるぎ!!」

 

「ぶれいあああッ!!」

 

 空中からの自由落下による勢いを活かしたニャオハだったが、それでもソウブレイズに対してはどうしてもレベルの差が響いた。加えてアメジオには、踏み込む勇気があった。

 

「にゃごぁ〜ッ!」

 

「ニャオハッ!」

 

 ソウブレイズが臆せず振り抜かれた右の刃で捉え、加えられていた落下の勢いを物ともせずにニャオハを撃墜して見せる。

 フィールドに背中から落着するニャオハは、完全に目を回していた。

 

「ニャオハ、戦闘不能! ソウブレイズの勝ち!! よって勝者、エクシード学園1年、アメジオ選手!!」

 

「やったぜー!!」

 

 ようやく自分たちのバトル部が勝利を挙げたことで客席の応援団が喝采をする。

 団体戦としては既に負けが決まっているものの、部長であるアメジオが意地を見せた形で盛り上がることにしていた。

 

 

 

「リコ……」

 

 ロイは眉を八の字にする。仲間の気持ちを考え、我がことのように一喜一憂できる優しさこそが自身の把握していない美点であった。

 

「これでよかったのか? マフィン」

 

「うん。そりゃあ、勝ってくれたなら言うことなしだけど」

 

 ホタルにマフィンは満足げに頷いて見せる。

 シングル1というエース格が出て来やすいポジションにリコを置くようホタルに部長命令を突き付けたのは、大きな経験のために少しでも強敵とぶつかる可能性を求めてのこと。マフィンにとってアメジオとは、そんな思惑にズバリ合致した対戦相手であった。

 可愛らしい容姿にゾッコンでありながら、リコを甘やかすようなことも、楽が出来る道を用意することも決してしないマフィンの在り方に、ホタルはこの時確信をした。

 マフィンは、リコにポケモンバトル部の行く末を切り開く希望を見出しているのだ、と。

 

 

 

「ご苦労だった。ソウブレイズ」

 

「うぶぅ」

 

 頷き合う相棒にさしたるダメージは見られない。相手のポケモンとのレベルの差からして当然の結果ではあった。

 

『強くなるぞ、彼女は』

 

 それでも僅かな勝ち筋を頼りに手を打ってきたリコのガッツがアメジオには好感であった。

 

「にゃなおお……」

 

「ありがとう、ニャオハ」

 

 倒れたニャオハをボールへと戻す。その背中に重みを感じて振り向けば、そこには見慣れたは底抜けに明るい笑顔があった。

 

「おつかれリコ!」

 

「アン」

 

「ナイスファイト! 次は勝てるよ!」

 

 言葉は短くとも確かな励まし、ハグを通した暖かさは、大雑把なところが目立つも相手を気遣えるアンのよさだとリコは首肯を返す。

 

「イシツブテの『がんじょう』で耐えてから盤面を整え、後続に地の利を活かさせる……いいセンスだ」

 

「でしょ〜?」

 

 アメジオの賞賛に、リコではなくハグをしたままのアンが八重歯を見せながら応えるのでリコは苦笑いをする。

 そんなリコとアンの距離感もまたアメジオには好感だった。少なくとも今のエク学には見られない結束の発露であったからだ。

 

「いいセンスを育むにはいいチームが必要。勉強させてもらったよ」

 

 対戦相手をリスペクトする……そんなアメジオのポリシーが、爽やかな風としてスタジアムを吹き抜けていた。

 

 

 

「「「「「対戦ありがとうございました!!」」」」」

 

 そうして試合をした両陣営のメンバーがフィールドのセンターサークルに集まり、試合終了の挨拶をする。

 所詮は練習試合、客席には双方の関係者くらいしかいないので起きる拍手はまばらなものだった。

 

『やれるだけやってみたけど……』

 

 初めての試合を終え、リコの中に芽生えるは、纏めておいた自分なりの戦い方をしてみてなお力の差の前に押し切られた悔しさ……

 

『もっと強くならなきゃ。ニャオハたちと一緒に』

 

 今のままではいけない、と飛躍を決意した左拳をリコは胸の前にて握る。

 その様をマフィンは微笑ましく見つめていた。リコが確かな前進をしたのが分かったからだ。

 

 

 




 『ハンベル』
 62歳。エクスプローラーズの構成員。
 物腰穏やかな老紳士で年季に見合った確かな実力を持つ。
 現在はアメジオお付きの執事として最前線から身を引いた立場らしい。
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