正真正銘強豪校を相手にセキガクバトル部はどのように立ち向かうのか、その真価を試す時が来たのであった。
「ようこそアサギ塾の方々! 歓迎致しますわ。とーうッ!!」
声がした。
その方角は体育館をセキガクバトル部から見て右手側、アサギ塾メンバーから見て左手側に置き、それら反対方向にある3校舎側だと気付いた頃には一同の頭上を抱え込み宙返りで飛び越える影が跳ぶ。
両陣営の整列するキャプテン同士の中央、センターサークル枠線部へと降り立った。
「始まるね、例のアレ」
「う、うん……」
アンにリコは頷く。セキガクメンバーとしてはこの後の流れはすっかりお馴染み、見飽きた光景と言えた。
「そう! 天下に名高きセキエイ学園教師陣の1番星!! 銀河の果ての、そのまた果てに…光り輝くアンドロメダかとも人は呼ぶ!! しかしてその実態は!!」
美女は、練り込まれた美貌を余すことなく振り撒くようにくるくると回転する。
「セキエイ学園ポケモンバトル実技担当最高責任者!!」
ピタリ、寸分狂いなく制止をする。ノーカラージャケットのセットアップに身を包む完璧なプロポーションとボディバランスがそこにあった。
「優 藤 聖 代 !!」
おぉ〜、とギャラリーからちらほらと拍手が飛ぶ。
セキエイ学園において、ポケモン学における実技授業の一切を取り仕切る役割を受け持っているのがこのセイヨ教諭であった。
現役時代は地方予選を突破し、チャンピオンリーグを主戦場として戦い抜き、地方間の国際試合においてはPNTT(ポケモンナショナルチームトーナメント)でアローラ代表チーム"マナーロ"の初回から第3回大会までのV3に貢献した女傑だというのは、間違いも揺るぎもない彼女の功績だ。
ただ、受け持つ授業のたびに仰々しい口上とパフォーマンスを披露するのに関して、リコたち生徒たちは辟易していたというよりない。
それでも名物教師としてポケモンバトルを通して生徒の成長、進路決定を正しく、そして真摯に後押しできる好人物であるのも確かだった。そうでなくては実技担当最高責任者などという役職など務まるはずもないのだが……。
「今回の練習試合、このセキエイ学園ポケモンバトル実技担当最高責任者たる優藤聖代が厳正かつ公正な判断に基づき、進行と審判を務めさせていただきます。両チームともよろしくて?」
マフィンがセキガクバトル部部長として、引率役であるゴウジがアサギ塾2軍の主将としてセイヨに首肯を返す。
まばゆい美貌が、満面の笑みを振り撒いた。
「では改めて! これよりセキエイ学園vsアサギ塾の練習試合を行います! 両チーム、礼ッ!!」
「「「「「よろしくお願いしまーす!!」」」」」
一同深々と礼をしてからセイヨを通して両チームのオーダーが公開される。
「フッ……訳の分からんキャラをしてる先公ってのはどこにでもいるモンだな」
頭に締めた白い鉢巻をトレードマークとした凛々しい1号生のモモが呟く中、対戦カードは以下の通りとなった。
ダブルバトル
ナギ&キラリvsシンイチロウ&タイオ
シングルバトル2
アンvsモモ
シングルバトル1
ロイvsウルト
「それではダブルバトル参加メンバー以外は下がって待機! このままダブルバトルを始めます!!」
ハキハキと進行をするセイヨ。類い稀なる美貌にフィットするかのような涼やかな声音であった。
「ナギ先輩! キラリ先輩! 頑張ってください!」
「おう! 任せとけ」
ロイにナギは気さくに手を振り上げキラリはコクリと頷く。
「2人とも景気良く頼むぜ」
「任せんしゃい! このアサギ塾が誇る人間コンピューターシンイチロウ様に抜かりはないわい」
「なんだか悪い予感がしてきたのう」
アサギ塾側でも1号生の纏め役であるモモが丸眼鏡をかけたシンイチロウとモガヘアーのタイオを激励する。
アサギ塾のユニフォームは橙色をベースとして黄色をアクセントに加えたデザインで、いわゆるライチュウカラーなのは塾長のデザイン的趣味嗜好から来ている。
「ドンといけよ、ドンと!」
自信満々なこの秀才気取りに付き合ったらば大抵ロクなことがない、そんなことを思いながら不敵に笑うシンイチロウに怯えるタイオの背をウルトはバシリと叩いてからタッグを残して後方ベンチへと下がる。
両タッグ共にトレーナーサークルについたのを認めてからセイヨは改めて宣言をした。
「これより練習試合ダブルバトル、セキエイ学園2年、ナギ選手&キラリ選手vsアサギ塾1号生、シンイチロウ選手&タイオ選手の試合を行います! 試合ルールは2C1D! 各種切り札システムは1人いずれか1つを1度のみ使用可能! それでは両チーム、ポケモンを!」
「頼むぜ、シャワーズ!!」
「しゃうッ!」
「……マフォクシー」
「まぁふぉ!」
ナギはシャワーズ、キラリはマフォクシーを、
「押忍! アサギ塾1号生シンイチロウいざ参る! メタング!」
「めった!!」
「押忍! 同じくタイオも参る! バスラオ〜!」
「ばぁ〜す!」
シンイチロウがてつツメポケモンメタングを、タイオがらんぼうポケモンバスラオを繰り出した。
みずエネルギーによる浮力で浮いているバスラオは青い瞳に、青い線状の模様と刃物のような曲線のヒレが特徴のいわゆる『青筋の姿』だ。
「ナギ先輩、またやる気かな」
「なにを?」
「見てれば分かるよ」
1年生の中で唯一ナギのバトルスタイルを知っているロイは感じ取っていた。彼の瞳の色に奇襲の闘気を。と、なれば場に出ている『シャワーズ』もそういうことではなかろうか? こう思った。
「いくぜ、キラリん!」
「……任せる」
ロイの予測通りナギがいの一番に仕掛ける腹積りで、キラリも短く頷く。
「バスラオ! アクアジェットじゃい!」
「ばぁす!!」
そこへ割り込むようにバスラオが水流を纏って飛び込んで来た。先制技のスピードによく乗っている。
「ふぉぉッ!!」
マフォクシーは右手に持つ枝を構えてガードし、バスラオを受け止める形で防いで見せる。
「……ナギ」
「オーライ!」
ただ防いだだけではない。マフォクシーのガードは、シャワーズの一手にバスラオの介入を防ぐ算段だ。
「シャワーズ、行けッ!!」
「しゅああッ!!」
「ぬうッ!?」
狙いはメタング、飛びかかるシャワーズの挙動は俊敏であった。
「なるほど……そういうことであったか!」
シンイチロウの丸眼鏡が光る。ナギの手の内を読んでみせた不敵な笑みとともに。
「メタングよ! じゅうりょく!!」
「めぇたぁ〜!!」
「なにッ…!?」
メタングを中心にフィールド全体の重力が急激に増大する。
「しゃわあッ!?」
景気良く飛びかかっていたシャワーズはたまらず地面に叩き付けられてしまった。
「シャワーズ!?」
「フッフッフ……このアサギ塾が誇る人間コンピューターシンイチロウ様をペテンにかけようとは笑止千万!!」
「なにィ……!?」
「ズバリ! そのシャワーズはゾロアークが特性『イリュージョン』により化けた姿であろう! 故にそれだけすばしっこいのだ」
「ッ…!?」
「……見抜かれた……!」
「そ、そんなぁ……ナギ先輩の戦法がこんなにあっさり見破られるなんて!」
シンイチロウの指摘にロイは狼狽するよりなかった。ナギの奇襲が完璧に成功するとばかり思っていたからだ。
「2軍とはいえ流石全国最強と謳われるアサギ塾のメンバー……生半可な策では即座に看破されるわけだな」
苦虫を噛み潰す表情で呟くホタルに、リコとアンは不安から互いに顔を見合わせた。
言外に打つ手なし、という雰囲気を感じ取らずにはいられなかったからだ。
「あちゃあ……まずいねー、こりゃあ」
ベンチに内股で座るマフィンもこの雰囲気に乗っかった。口ぶりほどに状況を悲観しているでもなかったが。
「今じゃタイオ! ゾロアークに1発かまして、正体晒したらんかい!」
「おっしゃ! いくぜぃバスラオ!」
「ばぁす!」
マフォクシーの元から急速に方向転換するバスラオは、狙いをシャワーズへと変える。
「まふぉ!?」
跳ねるようなバスラオの動作にマフォクシーはたまらず仰け反ってしまう。アサギ塾タッグがあくまでシャワーズに狙いを定め、2vs1の形に走ったのが命拾いであった。
空を泳ぐ全身は、水流ではなくみずエネルギーそのものを激しい勢いで纏っていた。
「しゃ、しゃわう……!」
「くっそ、シャワーズ頼む! 動け! 動いてくれ〜!!」
「チッチッチ、我がメタングのじゅうりょくは慣れぬ内はそう上手く動けやしないぜぃ」
「ワシのバスラオは毎日のシゴキのおかげでコレくらいの重力なんぞヘッチャラじゃあ!!」
どうにか四つ足を震わせ、立ち上がったところのシャワーズにバスラオが襲いかかる。
「まふぉ!」
「……マフォクシー、ストップ!」
マフォクシーが背を向けるバスラオへ杖を向けるところにキラリが制止を呼びかける。
立ち位置の関係上、マフォクシーから援護をするにはバスラオとシャワーズが一直線上に並んでいるのが不味かった。
「……この角度における同士討ちの確率、82%……!」
苦虫を噛み潰し……てはいるのだが、普段より無表情なのでキラリの顔色の変化をキャッチできるのはこの場ではホタルくらいのものだろう。
「くらいやがれ! バスラオのアクアブレイクじゃあ〜!!」
「ばぁぁ〜すぅぅ〜!!」
回避行動はおろか、強められた重力下でまともに歩くことすらままならぬシャワーズの左横っ腹へとバスラオの突撃が突き刺さる。
完全な無防備状態での直撃だ。ゾロアークに戻ったとしてもダメージは大きく、この後の行動に支障が出るのは間違い無いだろう。
そんな致命的な状況で一番先に笑ったのは……。
「へへッ! へへへ…!!」
ナギだった。
「何笑ってんだあいつ? 自分のポケモンがやられたってのに……」
「……ッ!? 不味いぞタイオ!! バスラオをシャワーズから引き離すんだ!!」
ウルトが首を傾げる中、敵の柵に勘付き、血相を変えるのはモモだった。
「……!」
ランドウもまた、垂れた白眉の向こうから、ナギの手練手管に舌を巻いていた。
「ば、ばすぅ……!!」
「こ、これはどうしたことじゃ! バスラオが、シャワーズのボディに囚われておるーッ!?」
「ば、バカな……!!」
シャワーズは、生態として水の分子に酷似した体細胞を持っている。即ち、自らのボディコントロールにより全身を液状化させるのも容易いことであった。
「確かにオレはゾロアークを持ってるし、『イリュージョン』を使ったペテンは大得意だ。だがな……『あえて手札を切らないことで引っかけにいくペテン』もあるんだぜ」
「「ぬ、ぬうう…!!」」
「今、このフィールドにいるのは正真正銘! セキガクに来てイーブイの頃から鍛えに鍛えた本物の相棒シャワーズさ!! そしてコレで分かった! 2軍とはいえ、天下のアサギ塾のメンバー相手に使えるってこたぁ、オレのペテンも捨てたモンじゃあないってなぁ!!」
「な、なんと!? ならさっきのシャワーズの猪突は!?」
「シンプルに全力疾走しただけだよ!」
ナギが高らかに叫び、シンイチロウに応酬するのは、そのままアサギ塾タッグの視線誘導が目的であった。
「まっふぉ!」
走り込むことで射線を変え、マフォクシーが強力なかえんほうしゃを口から発射。
主人の視線をナギへと奪われ、さらには重力空間の発生源であったメタングは直撃を受ける。
効果は抜群だ。ひとたまりもなかった。
「ばすぅ!?」
メタングがかえんほうしゃに焼かれる中でバスラオは驚愕をする。
自分を完璧に閉じ込めていたはずのシャワーズがあっさりとボディの分子を変換させ、溶けて水溜りのような形となりそそくさ離れていったのだから。
その理由をタイオが考察する猶予はなかったが。
「あぁ! バスラオが!!」
不可視の重圧攻撃によりバスラオは地面へと思い切り叩きつけられ、力無くバウンドする。
「……計算通り」
ナギがゾロアークによるペテンを見抜かれたように振る舞っていたのに対し、キラリもまたリアクションを合わせていた。もっとも、表情としてはずっと無表情にしか見えないままだったが。
バスラオを拘束するタイミングに合わせてマフォクシーはアクアジェットに対するガードを固めつつ、みらいよちによるサイコパワーを『置きにいった』のだ。
生真面目なホタルほどではないにしろ、キラリにとってもナギの軽薄なノリはあまり好きではないし、異性としても『ない』。
それでも戦力として掛け値なしに重用すべき存在であるというのは、頭数の問題ではなく実力として認識をしていた。
「メタング、バスラオ、戦闘不能! マフォクシーの勝ち! よって勝者、セキエイ学園2年、ナギ選手&キラリ選手!!」
スコア上は2体にフィニッシュを決めたことになるマフォクシーへとコールを下し、ダブルバトル決着のジャッジをセイヨは宣言する。
「やった! 勝った!」
「ナギ先輩もキラリ先輩も凄いや! あのシャワーズ、てっきりゾロアークだとばかり!」
「いやぁ〜、なんのなんの!」
目を輝かせながら出迎えるリコとロイ、可愛い後輩に気をよくしながらナギはキラリの肩に腕を回そうとする。
「おろ!?」
それをサッ、とキラリが避ければ、バランスを崩したナギが盛大にすっ転んだのでマフィンは指を指して大笑い。
「お疲れ」
「…ありがと」
そんなナギ周りを無視し、ホタルはキラリに汗拭きタオルを手渡していた。
『ナギ』
11歳。セキエイ学園2年2組所属。
普段はリモートで通話越しに授業を受け、日中アルバイトに精を出す苦学生。
パートナーのシャワーズに化けさせたゾロアークによる奇襲戦法が得意技だ。
想定CVは大原祟さん。