SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 アサギ塾との練習試合が始まり、ダブルバトルに出たのはキラリとナギ。
 イリュージョンによる撹乱をちらつかせたナギの妙手が突き刺さり、見事勝利を飾るのであった。


汚れつちまつた悲しみに…

「何がゾロアークじゃい。思い切り違っとったじゃあねェか」

 

「ううむ、俺の人間コンピューターもまだまだ改良の余地があるようだわい」

 

「2人とも。攻め口は悪くなかったぞ。各々試合で見せておったあの形をもっともっと突き詰めてみよ」

 

「「押忍ッ! ランドウ監督!」」

 

 ベンチに戻るシンイチロウとタイオに、ランドウは監督としてアドバイスを送る。

 

「モモ」

 

 ネクストサークルより出るモモを、2号生のゴウジが呼び止めた。

 銀髪に険しさを全面に押し出した鋭い視線が射抜いてこようとも、ハチマキ頭の涼やかな顔立ちは変わらない。

 

「こいつは所詮練習試合、などと舐めてかかるなよ。練習でふざけてる野郎ってのは大抵本場でもやらかす」

 

「押忍! ごっつぁんです。先輩」

 

 先輩からの訓示にモモは礼儀よく頭を下げ、トレーナーサークルへと入ってゆく。

 

『シンイチロウもタイオもアレで心底から舐めていたわけでも、ふざけていたわけでもなかった。それでも弾き返されたってことは……少なくともセキエイの連中は、俺たち2軍レベルとなら真正面からやり合えるだけの力を持ってやがるってことだ』

 

 ドカリとベンチに座り込みながら険しい表情を向ける。ゴウジの抱く戦慄として、アサギ塾の2軍相手に安定して勝てるチームが全国にどれだけあるか、そこに尽きた。

 それ即ち、成長を重ねれば脅威となりかねないということ。この時点でゴウジは、セキガクバトル部をカントーより出て来るかもしれない相応の強敵として認識すべし、と帰り着いたならばチームを取り纏める首脳陣へ真っ先に報告する旨を固めていた。

 

 

 

「これよりシングルバトル2、セキエイ学園1年、アン選手vsアサギ塾1号生、モモ選手の試合を行います! 試合ルールは3C1D!」

 

「よーーーッし! やるぞぉーーーッ!」

 

 

 

「アン、元気いっぱいだな!」

 

「うん。今日に向けて凄く張り切ってたから」

 

「騒がしいのは元からだけど、また一段とだね」

 

 試合となり大声を上げ気合いじゅうぶんなアンにネクストサークルのロイとリコは笑みを浮かべ、ドットは顔をしかめながらも口元がわずかに緩んでいる。

 ドットとしてもアンから底抜けの明るさと騒がしさを抜いたら何も残らないとは思っているため、あのテンションの高さもむべなるかなというところだ。

 

「あの目……間違いなくエース候補だな。」

 

「みたいだね」

 

 普段だらけ切っている名ばかり監督扱いのフリードだが、腐ってもポケモン博士の資格を得るまでに至るその眼力は、普段呼び捨てにしているマフィンからしてじゅうぶん信用に足りるものであった。

 キリリとした面構えに巻かれた鉢巻の合間から覗く太い眉毛、その下の熱さと涼やかさを併せ持つ瞳の色が、アサギ塾の次代を担うであろう1人だというならば間違いはないのだろう。

 

『でも、それはこっちにだっているさ』

 

 マフィンはリコをチラと見る。

 

「頑張って! アン!」

 

 あの日の返答はまだ聞いていない。リコからしてめくるめく日々を前に圧倒され、それどころでないというところだろう。

 今はそれで構わない。そう思ったマフィンは己が胸に抱いた期待を、確信を覆す気はなかった。

 

『強くなりたいという意思に、周りの声を受けて奮起できる人間こそが誰よりも先に立ち、道行きを支える『柱』足り得るんだ』

 

 リコはそう遠くないうちに今を乗り越え、扉を開くだろう。その中で自分の弱さを知り、成長進化と共に克服してゆくだろう。

 そうした積み重ねの果てに、リコが『セキ学の柱』となり、自分と同じ役割を背負う存在へ至るのをマフィンは望んでいた。

 

 

 

「いくよ! ミジュマル!!」

 

「みじゅう!」

 

「頼むぜ! 相棒!!」

 

「りょうッ!!」

 

 アンがミジュマルを繰り出せば、モモのボールより飛び出すは青と黒のツートンカラーで全体的に幼さが目立つも、確かな強さへの階段を登っている真っ最中であろう信念の瞳が煌めく。

 はもんポケモンリオル、モモの相棒だ。

 

「先手必勝! ミジュマル! アクアジェット!!」

 

「みッじゅ!!」

 

 バスラオ同様に水流を纏いミジュマルが一気に距離を詰める。

 

「ならばこちらも! でんこうせっか!」

 

「りょ!」

 

 リオル側も瞬間的な加速により真っ直ぐ走り出していた。

 

『どっちも加速状態か!』

 

 アクアジェットの勢いのままに攻めるアンの戦術は即座に対応された形だ。

 センターサークル内で両者はぶつかり合い、すぐに弾かれ睨み合いに戻る。

 

「シェルブレード!!」

 

「みぃッじゅ!!」

 

「メタルクローだ!」

 

 ミジュマルがお腹のホタチを抜刀し、みずエネルギーの刃を形成して振り下ろすところにリオルは硬質化させた両腕でガードを合わせる。

 そのまま再度センターサークルへと互いに踏み込めば、ホタチと拳をぶつけることで鍔迫り合いとなった。

 

「そのまま振り抜いちゃえ!!」

 

「みじゅまぁ!!」

 

「りううッ!」

 

 受け止められたのを構わずミジュマルがホタチを振り抜くことでリオルを弾き飛ばす。パワーはミジュマルの方が上なのだろう。

 

「ぬうッ!」

 

 リオルがセンターサークルより押し出されたところでアンの瞳がピッカリと輝いた。押せ押せムードの攻め時を感じた。

 

「チャンス! ミジュマル! 『アクアジェット・ラッシュ』!!」

 

「みッじゅッまぁ!!」

 

 弾き飛ばしたリオルへの追撃としてミジュマルは再度水流突撃を敢行。今度は命中し、リオルを仰け反らせた。

 

「まだまだッ!」

 

 通り抜けたミジュマルがホタチを地面に突き刺してブレーキをかけ、さながらポールダンサーのように方向転換をすれば、今度は後ろからアクアジェットを発動。

 

「ぬ、ぬうッ……!」

 

 リオルが視線をやるより早くに連続で叩く…まさしくアクアジェットのラッシュであった。

 

 

 

「こ、こりゃいかん! モモの奴押されておる!」

 

「頑張れモモー!! 気張るんじゃー!!」

 

 ミジュマルにラッシュ態勢へと入られ、防戦一方となったリオルの様子にシンイチロウとタイオはエールを送る。

 

「どうだウルト? 分かるか、モモの狙いが」

 

 そんな中、試合の様子を眺めるゴウジはネクストサークルのウルトへ訊ねる。

 

「さぁ? ただ、このままやられる奴じゃあねェでしょ? モモは」

 

 フィールドから目を離さぬまま首肯と共に答えるウルトに、ゴウジはフッ、と笑みを浮かべた。どちらもモモがむざむざと敗れるとはこれっぽっちも考えてはいない。

 

 

 

「アン、いつの間に……!」

 

 あんなに凄い技を、とリコは舌を巻く。

 思えばアンとミジュマルはすぐに意気投合し、クラスメイトとも休み時間によくバトルをしていた。加えて派手好きなのもあるし、必殺技の1つ2つ考え付くというのも分かる話だった。

 

「いいじゃんいいじゃん! 対戦相手も困ってる!」

 

 リオルへアクアジェットを何度もぶつけるミジュマルの勇姿にロイもガッツポーズを作っていた。完全に押せ押せムードだ。

 

「あのリオル……明らかに『打たせてる』ね」

 

 ポツリとマフィンが呟く。

 開幕ででんこうせっかを合わせ、先制技を活かしたステップ技術はミジュマルと同程度の物を見せていたリオルが一方的にやられ続けている理由として導き出される答えは1つだった。

 

『カウンターでの一発狙い、か』

 

 『痛くなければ覚えない』とはよく言ったもの、とマフィンは思う。これが練習試合で本当によかったとも。

 決してリコ以外眼中にないなどということはないが、相手の狙いを外野から伝えるための口を敢えて噤む。これもまたバトル部全体の成長のためなのだ。

 

 

 

「よーし! いい感じいい感じ!」

 

 思い浮かべていた通りにアクアジェットの連打を決めているアンは完全に興奮していた。浮き足立っていた、と言い換えてもいい。

 

 

 

「ふむ……」

 

 突飛なパフォーマンスに命を賭ける妙な癖があるとはいえ、セイヨもエキスパートたちの戦う舞台で真剣勝負を積み重ねてきたトレーナーだ。学生レベルの駆け引きを看破出来ないはずはなかった。

 それでも盤面としては相手にラッシュを加え、攻勢側に自分がいる状況で気を昂らせるなというのは、リーグで戦うレベルのトレーナーでも難しい話だろうと思っていた。

 

 

 

「そろそろトドメ! いくよミジュマルッ!!」

 

「みぃじゅう!!」

 

 ホタチを使ってのターンを決め、幾度目かの背後からの急襲……その突入コースは、モモからリオルへとリアルタイムでインプットされていた。

 

『来たな……』

 

 パワーで負けている以上はスピード勝負を仕掛けてもジリ貧になるのはこちらである、と早々に耐え忍んでのカウンターに望みを繋いだモモは、ミジュマルの攻めの呼吸を逐一『氣』……即ち『波導』を通して伝え続けた。

 

「こうぅ……!」

 

 背後からの水流が迫る音にリオルはよろけながらも体に力を入れ直す。

 

「アクアジェットー!!」

 

 乱発され続けてきたものと何ら変わらぬ威力とタイミングに、リオルは素早く振り向き……!

 

「今だッ!! カウンターッ!!」

 

「おるうううぁッ!!」

 

 渾身の蹴りをミジュマルの顔面へと叩き込んだ。狙い通りの展開に、リオルの双眸は爛々と輝いていた。

 

「み、じゅま…ッ! …ぐふッ!!」

 

「へっ? ミジュマルッ!?」

 

 アンからすれば何が起きたのか理解に時間を要した。何せここまでいいように攻め続けていたところに一転して返しの一撃を叩き込まれたのだ。

 例えるならば、熱くなっていたところに冷や水をいきなりかけられたものであろうか。

 

「ポケモンチェックに入ります!」

 

 リオルからの蹴りでうつ伏せのままのミジュマルの様子をフィールドインしてセイヨが見る。

 

『アクアジェットの乱打を受けてきた分のダメージも丸ごとカウンターで返したわけね』

 

 ピクリとも動かないミジュマルをそっと手慣れた動きで仰向けにしてみれば、その両目は完全に目を回していた。

 

「ミジュマル、戦闘不能! リオルの勝ち!! よって勝者、アサギ塾1号生、モモ選手!!」

 

「押忍ッ!!」

 

「おるッ!!」

 

 セイヨからの勝ち名乗りにモモとリオルの一礼がシンクロする。

 

「あ、あちゃー……」

 

 ここでようやくアンは、自身の攻め手が単調で、なおかつ迂闊であったことを悟った。

 

「ミジュマル、ごめんね。あたし舞い上がっちゃってさ」

 

 

 

「アン……」

 

 倒れたミジュマルをボールへ戻すアン。その悔しさがリコには痛いほどよく分かった。一生懸命やって勝利に届かないことの辛さは、リコ自身も先週味わったのだから。

 

「でもでも! 次は必ず勝ーーーつッ!!」

 

 そこでアンが違ったのは、悔しさを敢えてシャウトして見せる底抜けの明るさをなおも保って見せたところだった。

 

「……? フッ」

 

 右肩に相棒を乗せ、ベンチへ戻るモモは振り返ればアンのそれを『スイッチング・ウィンバック』と見て笑みを浮かべた。実際のところそんな意識はアンにないのだが、モモはそう思った。

 そして直感したのだ。セキ学バトル部はこの先大きな強敵になる、と。

 それは、2号生筆頭として同期をまとめ上げるゴウジ同様、1号生筆頭の勘であった。

 

「シングル1、始めるわよ! 両チーム、選手はトレーナーサークルに!」

 

 

 

「よぉし!! いくぞ!!」

 

「ロイ、頑張って!」

 

「まかせてよ!」

 

 ネクストサークルから歩き出すロイはリコに白い歯と爽やかな笑みを見せ、

 

「「うぇーい!!」」

 

 枠線上で試合を終えたアンと入れ替わり際にハイタッチをする。

 

 

 

「よっしゃあ! オレ様の出番だ! この場の奴ら全員のド肝抜いてやる!!」

 

「頼むぞウルト〜!」

 

「アサギ塾魂じゃ〜!」

 

「応ッ!!」

 

 アサギ塾側のネクストサークルからもウルトが同級生からのエールに拳を握って見せ、

 

「「ウルくんファイト〜!」」

 

「お、応……」

 

 ダブルバトルを戦ったメタングとバスラオの応急手当てをしている女子生徒たちからのエールでは顔を真っ赤に俯かせてしまう。

 

「おいおい、試合より先にマネージャーに追い詰められてちゃ世話ないぜ?」

 

「う、うるせェ!!」

 

 フィールドを後にするモモの一言でウルトは元の調子を取り戻した。

 アサギ塾の塾生は全学年で90人。うち30人は女子の塾生であり、その中でも選手とマネージャーとで細分化されているが、どちらにしてもウルトが免疫を持たないのは同じことだ。

 

「気を引き締めてかかった方がいい。あいつらかなりやるぞ」

 

「みてーだな」

 

 試合となるところの相手への評価は外していないところでモモは安堵し、拳を向ける。

 ウルトも拳を合わせればグータッチ。入れ替わりでトレーナーサークルへと入る。

 

「これよりシングルバトル1、セキエイ学園1年、ロイ選手vsアサギ塾1号生、ウルト選手の試合を行います!!」

 

 セイヨの明瞭なるコールの下、2人は先発を繰り出した。

 

「いくよ! ホゲータ!!」

 

「ほンげ〜!!」

 

「やるぞ! ヤミラミ!!」

 

「やみやみィ〜!!」

 




 『ランドウ』
 70歳。アサギ塾教官。2軍監督。
 若い頃は役者として生計を立てており、現役時代の体調コントロール術を買われて雇われている。
 何やら裏の顔がある謎に包まれたおじいさんだ。
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