SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 幸先よくダブルバトルを制したセキガクであったが、続くシングルバトル2ではアンがカウンターにより敗れてしまう。
 団体戦の決着はシングルバトル1に託されるのであった。


Can Do

 カロス地方のみならず、他地方出身者がジョウト地方のアサギ塾に越境の上入塾すること自体はそこまで珍しい話でもない。

 アサギ塾自体がポケモンバトルを通した教育に力を入れており、開業時点より全国から広く塾生を募っていたからだ。

 ただ、このウルトに関しては他とは少し事情が違っていた。

 

 

 

 時は遡る。

 4ヶ月前、全国制覇を成し遂げたアサギ塾メンバーは、その舞台であったカロス地方にて年を越し、3学期までの残り日数を現地での合宿期間に当て込んでいた。

 

「塾生さんたち、気合い入ってますね」

 

「去年の全国で勝てたのが大きいでしょうね。今年も頑張ってくれるはず」

 

「らいらいらい」

 

 和服の男、ナンテの側にはねずみポケモンライチュウが練習に勤しむ塾生たちをサボったりしてないか見張っている。名は『テディ』と言った。

 線の細い金髪の男が丸眼鏡越しに黒髪和服の男を見上げる。160cm程の優しげな青年と180cm越えの和服の男とでは身長差において致し方ない所作だ。

 28年前より変わることなく水色のつなぎを普段着とするシトロンは今もなおカロス地方の中心部、ミアレシティに置かれたミアレジムのジムリーダーだ。

 当時は本当にミアレの中心部にあったプリズムタワーに拠点を構えていたが、現在では引き払い、空いていた土地に新たにジムを建設し運営している。

 年明けの三が日において、挑戦者の入りがよろしくないのを見計らい、ちょうどよしとばかりにアサギ塾の合宿所としてジムを貸し出していた。これには隣り合って練習を見るアサギ塾塾長のナンテが妹ユリーカの恩師であるという縁も大きい。

 

「お待ちなさ〜い!」

 

「誰が待つかよ!」

 

「やみッ! やみッ! やみッ!」

 

 ガシャンガシャン、と機械の擦れる音に振り向けば、黒一色に赤のラインの入ったシャツを着たウルトを、頭部に雷のマークが入ったロボットが追いかけていた。

 

「シトロイド! どうしたんです?」

 

「不法侵入です! 不法侵入!」

 

 シトロイド……シトロンが開発したAI搭載型のロボットで、28年来の家族でもある。

 ポケモン歴2000年にオーバーホールを行い、以後5年毎に近代化改修が施され続け、5度目の改修年を迎える現在は『MK-V』と、正式な機体名としては名前の後に付随している。

 

「コレは元気な挑戦者さんだ」

 

 カラカラとナンテは笑う。笑いながらも駆け込んでくるウルトの身体能力に着目していた。

 

「よっと!」

 

 背後から両腕の伸縮式マジック・アームが伸びるのをウルトは察知し、勢いよく飛び上がればフィールド中央部へと降り立つ。

 

「やいアサギ塾!! 全国大会で優勝して調子乗ってるみてーだが、オレ様がどれほどのものか確かめにきてやったぜ!!」

 

 そうして指差し辺りを指差しながらの宣戦布告にどよめきは……特になかった。

 

「塾長。黙らせて来ます」

 

「いえ、私が応対しましょう。ジャキくんたちは予定通り練習を続けて下さい」

 

「御意」

 

 申し出るは獅子の立て髪を思わせる黒の長髪に顔を飛び出すほどに極太の眉を蓄え、マントをたなびかせるジャキ。全国大会を制覇したチームの主将であることはそれ即ち、中学バトル界において間違いなくトップと呼ぶに相応しい名声と実績に結びつく。

 おおよそ学生とは思えぬ風貌の主将を下がらせ、ナンテはウルトへと歩み寄り相対する。

 

「らいらいちゅ」

 

 悠然と歩むナンテにテディもポテポテと歩き、続いていた。

 ナンテから見るにシトロンは腕利きの発明家、それも全国を見て3本の指に入る凄腕であり、彼が改修を重ねたシトロイドの追跡を掻い潜ってジムの中まで踏み込んで来れる身体能力に興味が湧いた。

 もしそれがポケモンの育成にも反映されているならば、面白いと思えたからだった。

 

「勇敢なファイターさん。貴殿のお名前は?」

 

「オレ様はウルト!! 最強を越えた最強……『メガ最強』になる男さ!!」

 

「ほぉ……最強を越えた最強、ですか。」

 

 それはまた素晴らしい、本心からそう思った。

 ポケモンバトルの競技人口は年々減少の一途を辿り、緩やかな衰退期を迎えたと言わざるを得ない昨今において、これほど分かりやすく野心を燃え滾らせる少年というのはなかなかお目にかかれるものではない。

 

「テレビで全国大会を見て、おめェらがまだカロスにいるって話を聞き付けたのさ!! オレ様の伝説の第一歩として、盛大に暴れさせてもらうぜ!!」

 

「やぁみ! やぁみ!」

 

 ウルトとヤミラミを一瞥するナンテとテディの白い歯を見せる笑みがシンクロをする。

 実力などは後からついてくる。その心意気こそが何より彼らを『逸材』たらしめていた。そう思った。

 

 

 

『それから三が日の間、オレ様はミアレジムへ何回も行き、その度にあの塾長野郎にあしらわれた……そんでジョウトに帰るって時に言いやがったこと、今でも忘れちゃいねェ……!』

 

 時を戻そう。

 思考の中で反芻される情景、そのやりとりこそが『アサギ塾1号生のウルト』を生む直接的なきっかけだ。

 

『待てよ! 勝ち逃げすンのかよ!?』

 

『えぇ。そろそろ3学期も始まりますし。選抜大会への準備もしなければなりませんから』

 

 空港に向かう際のやり取り。ナンテはわざとらしく考えごとの素振りをしてみせる。

 

『どうしても納得出来ないというのなら、貴方も一緒に来たらいい』

 

『オレ様に、おめェたちの軍門に降れってのか!?』

 

『相手の強みを我が物にするのは恥ではありません。それを恥として強くなる手立てを放棄する方が、ポケモントレーナーとしては余程恥ずかしい……私はそう考えます。それに』

 

『それに?』

 

『虎穴に入らずんば虎子を得ず、ということわざもあります』

 

 殺し文句だった。三が日の間に力の差を見せつけた上で『置きに行った』ひとことが、ウルトに決心をさせた。

 

「オレ様は決めたんだ! あの塾長野郎にひと泡吹かせるまで、誰にも負けねェってな!! ヤミラミ!!」

 

「やんみ!!」

 

「ほんげ!?」

 

 ヤミラミが瞬時にホゲータの至近距離へと間合いを詰める。

 

「ねこだましッ!!」

 

「やぁみ!!」

 

 そこからホゲータの目の前で両手を思いきり叩きつけた。

 

「ホゲータ、ひのこ!」

 

 ロイの指示にホゲータは動かない。『動けない』というのが正確であった。

 

「くッ……怯んでしまって動けないのか!」

 

「ぶち込め! ヤミラミ、シャドーボール!!」

 

「やぁぁぁみぃぃぃ!!」

 

 ねこだましで動きが封じられているところのホゲータ、その顔面目掛けてヤミラミは右手にゴーストのタイプエネルギーを凝縮させた塊を叩き込む。

 

「ふげぇあ!!」

 

「ホゲータ!!」

 

 直撃だった。

 エネルギー爆発によりホゲータのボディは大きく吹っ飛び、着地もままならず尻餅をつく。

 

『ねこだましで詰めた距離を活かしてシャドーボールを接射の形で叩き込む……1番ダメージが出る当て方ね。流石は全国常連校、下級生からしてモノが違う』

 

 審判をしながらセイヨの双眸は、粗野な風貌に違わずの内面を隠そうともしないウルトが押し出すには相反する効率的な戦い方の威を評価していた。

 

「ほ、ほげ……!」

 

 ダメージが大きいながらもホゲータは立ち上がる。

 

「いいぞホゲータ! ナイスガッツ!!」

 

 その根性を褒めるロイの脳裏では、彼との出会いがフラッシュバックしていた。

 

 

 

 こちらも時は遡る。

 5月の2週目に諸々の手続きが済んだロイは転校生としてセキエイ学園の門をくぐった。

 

「僕はロイ! 本島から離れた離島からやってきました。どうぞよろしく!」

 

 リコとアンが所属する1年1組の隣、ドットの所属する1年2組がロイの転校先の教室であった。

 

「コレが新しい仲間の入ったボールかぁ……!」

 

 形はどうあれ、入学者に初心者用ポケモンの配布が行われるのがセキエイ学園の慣習であった。授業においては基本的に配布されたポケモンの育成を絡めて行われるからだ。

 

「ほげ! ほげ!」

 

「よろしく、ホゲータ!」

 

 

 

 あてがわれた机に置かれているボールを開けば、姿を見せちょこんと座るホゲータにロイは笑みを向けた。

 

「ほーげ! ほーげ! ほーげ!」

 

「ホゲータは本当に歌うのが大好きなんだな」

 

「すとらぃ」

 

 ベッドの上で楽しげに歌っているホゲータにロイもストライクも顔を綻ばせる。

 ニドリーノ寮でロイに用意された部屋が、相方のいない1人部屋状態であったのも幸運だった。

 ポケモンを身近に置いての寮生活が念頭に置かれ、設計段階より耐久性はもちろん防音性にも優れた建築上の作りが、新たにゲットすることになったホゲータとロイの距離を急速に縮めさせる助けになったのだ。

 

 

 

『顔にモロに喰らった以上長くは保たない……でも、立ち上がってくれたなら可能性はある!!』

 

 ホゲータのガッツを讃えつつ、ロイの思考は冷静であった。残り少ない体力から逆転の一手を打ち切るためには、不安、迷いこそが大敵だ。

 

「ほげ! ほげッ! ほーげッ!」

 

 傷付いたボディごとホゲータが振り向けば、主人が拳を振りながら自分が普段より口ずさむリズムを取っている。

 

「ほげ! ほげッ! ほーげッ!」

 

 ロイのリズムにホゲータも合わせて歌い始める。

 それは、まさしく勇気のファンファーレだった。

 

 

 

「ロイ、凄い……!」

 

 リコは心の底からそう思った。

 ホゲータとすぐに仲良くなり、窮地に追い込まれてもへこたれずに共に歌ってみせるロイの姿に目を輝かせていた。自分とは大違いだ。

 ポケモンと心を通わせるトレーナーの理想的な在り方がそこにあるのでは?そんな気さえしていた。

 

 

 

「まだそんな余裕があったか!!」

 

 ロイとホゲータのハーモニーにウルトが吼えた。

 ヤミラミが両手にシャドーボールを生成してホゲータへ迫る。

 

「来るぞホゲータ! タイミングが大事だ」

 

「ほんげ!」

 

 走ってくるヤミラミにホゲータは向き直り、闘志を全開にして構えを取る。

 その全身からは灼熱のほのおエネルギーが現出していた。

 

 

 

「ウルトとヤミラミはすばしっこい動きで相手を翻弄しながらウィークポイントへ的確に技をぶち当ててくスタイル。スピードに重きを置く分、ガードはどうしても甘くなる……」

 

「『もうか』を発動させた分のパワー、その当たりどころが悪ければあるいは」

 

 モモ、ゴウジがそれぞれ展望を口走る中、ランドウはただただ試合の様子を眺めていた。

 好試合を経て若い世代が成長していくきっかけを得るこのバトルの舞台が年老いた身に沁みるのだ。

 

 

 

「今度は2つぶつけて終いだ!! ヤミラミ! シャドーボール!!」

 

「やぁぁみッ!!」

 

 立ち上がってきたところでグロッキーなことに変わりはない、そう考えるウルトの指示でヤミラミは両手のシャドーボールを発射する。

 

「今だッ!! ホゲータ!! じだんだジャンプ!!」

 

 舞い込んだベストタイミング、勝利への一縷の望みをロイは掴む。

 

「ほげほげ〜!!」

 

 ホゲータはその場で足踏みを繰り返し、蓄えられた跳躍力で垂直にハイジャンプ。シャドーボールをやり過ごす。

 

「な、なにィッ!?」

 

「今だ!! ホゲータ!! パワー全開でやきつくす!!」

 

「ほ〜〜げ〜〜!!」

 

 フィールド全域、とまではいかずとも眼下のフィールド中央部、モンスターボールを模ったデザインのセンターサークルからその周辺にかけて炎を吐きかけることが出来たのも特性『もうか』によるパワーアップの賜物であった。

 

「く、くそッ!! ヤミラミ! 影に隠れて逃げ……ッ……ちくしょうッ!!」

 

 ウルトは指示の途中で己が発想の愚を悟る。焼き尽くすの中心部からブレス攻撃を受けるヤミラミの状態では、影の中へ退避するどころではないのだ。

 

「やみぃ……!」

 

 そんな中でウルトは、ヤミラミの宝石眼が不屈の色を浮かべているのを見た。

 

『このまま終わってたまるか』

 

 この思いで、トレーナーとポケモンの意思が1つとなる。

 ヤミラミは、爆炎の中に呑まれていった。

 

「ほ、げぇ〜……!」

 

 ブレス攻撃を終え、自由落下に身を任すホゲータ。ロイも安堵の表情を浮かべていたところであった。

 

「ほげぇ〜!?」

 

「ホゲータッ!?」

 

 ヤミラミの手先より発射されたシャドーボールが再び突き刺さり、墜落するホゲータは完全に目を回してしまっている。

 

 

 

「そんな……ロイもホゲータもあんなに頑張ってたのに、持ち堪えられるなんて……!」

 

「いや、そうでもないみたいだぜ」

 

 リコが嘆くもフリードが呟くのでフィールドを凝視すれば、モクモクと上がる煙が晴れ、その中でヤミラミもまた仰向けに倒れていた。

 ホゲータへのトドメの一撃を加えたところが、意地の限界点であった。

 

 

 

「ホゲータ、ヤミラミ、共に戦闘不能! よってこの試合、勝者なしの引き分け!!」

 

 ポケモンチェックを済ませたセイヨが本日最後のジャッジを下す。

 練習試合という名目上、2戦目の時点で決着がついても3戦目を行うのと同じように、3戦目で決着がつかずとも勝敗の決定が行われることはない。

 セキエイ学園とアサギ塾の戦いは、文字通り『引き分け』としてスコアブックに刻まれることとなるのだ。

 

 

 

「両チーム整列! 礼!」

 

「「「「「対戦ありがとうございました!!」」」」

 

 セイヨの号令によりセンターラインを境にセキ学メンバーとアサギ塾メンバーは礼をし、対戦相手同士は握手を交わす。

 儀礼が済めばウルトたちはゴウジの指揮のもと、ランドウを乗せた神輿を担いでゆく。

 行きと同様帰りも走りである。

 

「それではの。セキエイ学園の衆」

 

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

 

 2軍とはいえ全国区の学校を相手とした練習試合など弱小校の立場でそうそうありつけるものではない。

 セキガクメンバーは改めてランドウに頭を下げた。

 

「ロイ」

 

「うん?」

 

「次は負けねーからな」

 

 ウルトがロイに一言かけてから、ランドウの神輿は動き出してゆく。

 

「ハハッ!」

 

 一団の姿が離れ、小さくなるところでロイは駆け出し、手を振りながら大声で告げる。

 

「僕も負けない! もっと強くなって今度は勝つからなー!!」

 

 そんなロイの声を背で聞くウルトは口角を吊り上げる。

 ロイとウルト……2人のライバル関係がここに芽生えたのだ。

 

 

 




 『ウルト』
 10歳。アサギ塾1号生。2軍所属。
 跳ねっ返り気質の強い少年で塾長ナンテをギャフンと言わせるためにアサギ塾の校門をくぐった。
 パートナーはヤミラミでその宝石の眼は荒削りながら確かに光るものがあるウルトの才能をよく表している。
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