帰郷に思うところあるリコの前に、野生のカルボウが飛び出すのであった。
「ぼうッ! ぼッぼッ!」
「にゃあ〜お……!」
飛び出してきたカルボウにニャオハは全身の毛を逆立てる勢いで威嚇をする。
周囲に人影がないということで野生のポケモンであろうことをリコは把握した。
思えばこの荒野地帯を選んでのロードワークの中で、他の野生ポケモンの姿をあまり見かけなかったことを思い出す。
同時に、カルボウというポケモンが激しい闘志を持ち、強敵にも臆さず立ち向かう性質であることも頭に浮かんだ。
さしずめこの辺りはカルボウが周囲のポケモンに挑みかかる穴場であり、それを嫌って他のポケモンたちは距離を置いたのだろうと思う。
ともあれリコは、そんなカルボウの闘争心を気に入った。
「あなた、バトルが好きなんだね」
「ぼうッ!」
「いいよ、やろう! でも、1つだけ……私たちが勝ったら、あなたのことゲットするから」
カルボウはファイティングポーズを取り、コクリと頷く。
もし負けたならば大人しくゲットされリコの軍門に下る……その旨を了解したようだった。
「いくよ! ニャオハ、このは!」
「にゃあおおおッ!!」
先制するニャオハが首周りの葉にくさエネルギーを纏わせて無数に発射する。
「ぼうッ……!」
カルボウは……身動き1つ取らない。取るまでもないと構えたままでやり過ごす。
『効果今ひとつ……そうか! カルボウはほのおタイプ!』
ここでリコは自らの悪手に気が付く。同時にカルボウの両手の間に火の玉が作り出されるのを見てはボールを取り出し、
「ニャオハ、戻って!」
ニャオハを引っ込めた。
「お願い、イシツブテ!」
「らっしゃい!」
「ぼーう!」
今度はこちらが、とカルボウの円筒型をした両手より無数の小さな炎弾が発射される。さながらひのこを拡散弾のように撃ち下ろしてきた。
「イシツブテ、まるくなる!」
「らっしゃい〜ッ!」
迫るひのこに対し、イシツブテは体を丸めて堅実にガードする。身軽なニャオハとは対照的にドッシリ構えたバトルスタイルだ。
「ぼう……!」
ひのこのショットガンを効果今ひとつに弾かれるカルボウは、頭の防具に空いた3つの穴から『煙の弾丸』を発射する。
ボワ、と充満した煙が、リコとイシツブテの視界を封じた。
「えんまく……いや、クリアスモッグ! イシツブテ、ころがる攻撃!」
視界の回復は待たないことにした。この戦い慣れたカルボウを相手に猶予を与えたくないと思ったからだ。
「らっしゃい〜!」
まるくなるを使い、全身のフォルムが回転に特化したことによりころがる攻撃のパワーが強化されている。
が、周囲を縦横無尽に爆走するイシツブテの肉弾突撃に手応えは感じない。
「避けた……?」
リコは煙のモヤを手で払いながら辺りを見回す。
「らっしゃい〜!」
その間にイシツブテは炎弾の狙撃を受けていた。
「イシツブテ!」
叫びながらもリコは、おぼろげながらに見えた炎弾の発射コースからカルボウの居場所を割り出す。
「こっちを狙い撃ちするつもりなら…!」
カルボウは、煙に乗じてこちらを最初に捕捉した高台に登っている。主人の視線から、イシツブテも敵の居場所を把握した。
「ぼうッ!」
荒野の高台からカルボウは再度炎弾を発射する。クリアスモッグは自らが撒いた煙だ。移動をしくじることも狙いがブレることもない。
「ぼう……?」
ガカッ! と砕け散る音に命中を確信する。そして、その手応えが良すぎることに不審なものを覚え、再度高台から降りて確認すれば、そこにあったのはイシツブテではなく、同じようなサイズの岩の塊が砕け散っていた後であった。
「ぼうあッ……!!」
『謀られた!』そう思うのと同時に効果抜群のダメージがカルボウを襲った。
がんせきふうじにより生み出したダミーの岩を配置し、撃ち抜かせてからの不意打ちが決まった。イシツブテが本命として投げ込んだ岩が直撃したのだ。
「今ッ! モンスターボールッ!!」
千載一遇のチャンス到来に、リコはすかさずボールを投げ込む。
岩の直撃を受けたカルボウの体がボールの中へ吸い込まれていき、
「……ッ!」
揺れるボールにリコの両手は強く握られる。
3回、規則的な挙動の末に、振動が収まった。
「やった……やった!」
「らっしゃい〜!」
リコの瞳がパアアと輝く。初めて野生のポケモンをバトルによってのゲット……その達成感に思わず飛び跳ねてしまった。
イシツブテも両腕でガッツポーズをし、『どんなもんだい』とばかりに喜びを全開にする。
「カルボウ、ゲットです」
ひと通り喜んでからリコはボールを手に取り、中のカルボウを呼び出す。
カルボウは目線を下にし、左ひざを上げた片膝突きの姿勢を取っていた。戦いに臨み、敗れた彼なりの恭順の姿勢であった。
その潔さが、リコには好感だった。
「これからよろしくね。カルボウ」
「ぼうッ!」
カルボウは元気よく返事をする。
パルデアに来て早々、リコは3体目のポケモンをゲットしたのだ。
「あっ、リコお帰り〜! ねぇ聞いてよ! 補習終わりにロイとバトルしたらさぁ〜、ジャ〜ン!!」
「たッちッ!」
「あっ、ミジュマル……進化したんだ!」
「うん! しゅぎょうポケモンフタチマル!!」
テーブルシティに帰り着き、落ち合うアンが背中で隠していたのを見せれば、ミジュマル時代のラッコのイメージをそのままに全身が青系の色で統一され、全体の雰囲気も凛々しさが増した二足歩行のフタチマルがリコに挨拶をする。
胸を張るフタチマルの姿を見せられたリコとしてもこの流れは都合がよかった。自分だけ自慢する形というのはどうにも気が引けたからだ。
「私も、南3番エリアを走ってたらね? ほらッ!」
「ぼう!」
「うっはぁ〜カルボウ! リコも新しいポケモンゲットしてきたんだ!」
ボールから出してお披露目をするカルボウにアンはいいなぁ〜、と目を輝かせた。
「そういえば、ドットとロイは?」
「ドットは補習が終わったら速攻で西門側に走って行っちゃった。ロイはあたしとバトルした後に見かけたカイデンの群れを追っかけて東門側に。すれ違わなかった?」
「すれ違わなかったよ?」
「そっか」
リコが2人を特に気にすることもない。
バトル部としては今のところ、テラスタルの座学以外に授業を受けるつもりはなかった。そこ以外は宝探し、として外に飛び出して自主トレに打ち込む気満々なのだ。
「あっ、ハハ! 鳴っちゃった」
時刻は正午を迎える頃合い。苦手な勉強をしこたま詰め込まれ、アンの腹の虫がグウと鳴るのも無理はなかった。
「ご飯食べたら一緒に外行こ」
「りょ!」
リコとアンはアカデミーの食堂へと向かう。
くさ校舎のマードックが手掛ける愛情たっぷりのご飯と比べてどれほどのものか、ひとつお手並み拝見といったところだ。
他地方交流4日目となり、リコたちはテラスタルの座学を規定の4回受け終わり、実技テストへとステージを進めることになった。
『セキエイ学園よりお越しのリコさん、アンさん、ドットさん、ロイさん。体育館へ来てください』
ちょうど最後の座学が終わったタイミングで校内放送によりバトル部全員名指しでの招集を受け、体育館までやってきて見れば待っていたのは、
「よぉ! 楽しんでるか?」
監督のフリードであった。
「監督!」
「確か今日で座学は終わり。午後から早速実技テストだったか。早速受けに行くんだろ?」
「うん! あ、そうだ。見てよ監督!」
ロイがボールを開けば、中から丸みを帯びた頭に、黒と黄色の2色が映える鳥ポケモンを見せる。
「くぁ〜!」
うみつばめポケモンカイデン。初日に群れを追いかけていった末にゲットしたロイの3体目だ。
「おっ、カイデンをゲットしたのか! やるなロイ!」
「えへへへ……!」
フリードがロイの頭をくしゃくしゃと撫で回す。
褒められるロイも満足げな表情だ。
「で、監督? なんであたしら呼ばれたの?」
「ん、あぁ。一応コレ、他所様の学校行って他所の地方を動き回ることになるだろ? だから……」
「お待たせしてしまって申し訳ない!! セキエイ学園バトル部の諸君!!」
フリードが話すのを遮るように大声と共にやってくるのは、アカデミーの生徒たちを引き連れた美女だった。
ぱっちりした瞳が特徴で、後ろ髪を結んたヘアスタイルの隙間より左目の上から小さな十字傷がチラリと見える。
黒いジャージと金ピカのグローブにスニーカーを合わせ、スポーティーな印象を見る者に与えた。
「押忍ッ! オレンジアカデミーバトル学担当兼ポケモンバトル部監督、熱き血潮のキハダだ!! 年齢は25! 趣味は筋トレ! 好きなタイプは……筋肉たくましいかくとうタイプだな!!」
爽やかに笑うキハダ先生にリコは苦笑いを返すよりなかった。
セキガクのバトル学担当であるセイヨ先生と同じく、自分の世界を強く持っているタイプの強烈な個性を感じずにはいられなかった。
セイヨ先生と同じ類の人種ならばまぁ悪い人ではないのだろうが、その暑苦しさからあまり近寄りたくはない……こう思ったドットはあからさまにげんなりとした表情になる。
「「押忍ッ!!」」
「うむ! 元気いっぱいで結構結構!」
アンとロイが調子よく合わせてきたのでキハダは上機嫌になった。
「キハダ……先生はアサギ塾時代の同期でな。せっかくの他地方交流ってことで、お前らがこれから動き回る基礎テストのための水先案内人となる生徒たちを見繕ってくれたらしい。」
「うむ! では紹介しよう!! 我らがオレンジアカデミーポケモンバトル部……通称『スター団』の精鋭たちを!!」
『スター団?』
首を傾げるリコたちを他所にキハダが脇にハケ、背後に連れてきていた生徒たちに視線を向けさせる。
「スター団は5つのチームに分かれ、その中で実力と人間性を認められた子が『ボス』として公式戦での試合と、チームの統率を委ねられる! その5つのチームのうち4つのチームを預かるボスの1人はかくとう組の『チーム・カーフ』を束ねる3年生のビワ!!」
「よろしくね。セキエイ学園のみなさん」
黒髪ロングのストレートヘアにどこか優しそうな目付きで大和撫子然とした長身の美少女が目付きのままに優しい笑みを向ける。
荒々しいイメージが強いかくとうタイプとの親和性は、若干日焼け気味の肌と確かに盛り上がっている四肢の筋肉を通して感じさせてきた。
「どく組『チーム・シー』のボス、2年生のシュウメイ!!」
「お初にお目にかかるでござるセキエイ学園の方々、それにしても流石はカントーの名門の生徒さんがた、見目麗しく眼福に候〜!」
銀髪碧眼の美男子が爽やかな笑みと共にござる口調でロイを除くセキガク女子メンバーのことをまじまじと見回している。
その視線の色に若干いやらしさを感じないでもなかったが、シュウメイの顔面偏差値の高さから許容範囲内だとリコは思えた。
なお、この中で純然たるカントー娘はアンしかいないのだが、わざわざ口にする理由もなかった。
「フェアリー組『チーム・ルクバー』のボス、2年生のオルティガ!!」
「フーン……まぁまぁやるみたいじゃん。上級生頼りって訳でもなさそうだな」
全体が薄いピンク色で、頭頂部などが亜麻色のショートヘアのあどけない顔立ちで、可愛らしい印象とは裏腹に勝ち気な言動が飛び出す。
若干上から目線ながら、第一印象だけの評価としてはどうやら上々らしい。
品定めされること自体をよしとしないドットは、無言の抗議としてキツい視線を向けていた。
「そしてほのお組『チーム・シェダル』のボス、1年生のメロコ!!」
「へー……1年生でもボスになれるんだ!」
「ウチにはくだらねェ『年功序列』なんざねェからな。で? ピーニャの野郎はまた生徒会か?」
炎のような髪色をストレートボブに下ろすそばかす顔の美少女がロイに答えれば、隣にいるたれ目に長いまつ毛が印象的な女の子に尋ねる。
「生徒会長が遠征に出たままだからね。業務代行」
メロコに答えるのはアカデミーの制服と違い、黒のパーカーに中のホットパンツが見えるほど薄いチュールスカートを合わせ、プラスとマイナスの模様が描かれたタイツを着用している女の子だ。
前髪から後ろ髪にかけての一部が赤、それ以外の部分が水色という特徴的な色のショートヘアに、かけた丸眼鏡越しの視線の先にはタブレットロトムの液晶があり、手慣れた操作でアプリを起動して皆が見えるように映写機能を使う。
そこには無料のルーレットアプリが立ち上げられていた。
「セキエイ学園の皆さんの基礎テストに同行するこちらからの水先案内人は、今からコレ使って決めることにします。あ、うちはボタン。チームではマネージャーやってます。以後よろしく」
淡々とした調子でボタンがアプリを操作すれば、瞬く間にルーレットは集められた4人ずつで組み合わせを決定してゆく。
基礎テストへ赴く組み合わせは、以下の通りとなった。
セルクルジム行き リコ&ビワ
チャンプルジム行き アン&シュウメイ
ハッコウジム行き ドット&オルティガ
ボウルジム行き ロイ&メロコ
『キハダ』
25歳。オレンジアカデミーバトル学担当教師。趣味は筋トレ。
どこまでも明るく快活な美女であり、生徒からの人気も信頼も厚い。
フリードとは同期の桜、かつてアサギ塾で共に戦った戦友だ。