初めて体感するテラスタルのパワーと、イシツブテの進化により見事勝利と合格をゲットするのであった。
「ん〜〜〜!! 美味しい〜〜〜!!」
「ホント! 感激です!!」
基礎テストを終えたリコと付き添いのビワはそのままジムからカエデの経営するパティスリーへと案内され、合格祝いとして出されたケーキをご馳走になっていた。
リコはりんごの果肉がたっぷり詰まったパウンドケーキ、ビワはカラメルソースが特徴のオーソドックスなカスタードプディングに表情を蕩けさせている。
それぞれの注文したケーキに合わせたきのみジュースもおまけでついてきていた。久々に胸をすくバトルをさせてもらった、というカエデからの心付けであった。
何より学生にとってタダで食わせてくれるというのはとても大きい。
「ニャオハ、食べないの?」
「にゃうー……」
ケーキは2人のポケモンたち用のものも作ってもらっていた。が、ニャオハは憮然とした表情のまま一向に食べたがらない。
「もしかして、ゴローンが大活躍したのにヤキモチ妬いちゃってたりするのかしら?」
「ニャオハが、ですか?」
「その娘、リコちゃんにとって最初の相棒ポケモンなんでしょう?」
ビワの言葉にリコも合点がいく。
元来ニャオハとは種族単位で気まぐれかつ甘えん坊で、トレーナーが自分以外のポケモンを可愛がっていると拗ねてしまう性質があることを思い出したのだ。
リコはニャオハを膝の上に乗せ、優しく頭を撫でる。
「ごめんねニャオハ。ニャオハが嫌いになったとかじゃあないんだよ? カエデさんはむしタイプのエキスパート。くさタイプのニャオハより、いわタイプのイシツブテ……今はゴローンか。その方が戦いやすいと思っただけなの」
「いらっしゃい!」
リコが語るのはバトルにおけるタイプ相性の原則、その初歩だった。
それを言って聞かせたくらいでニャオハが納得してくれるとも思ってはいない。
「パルデアに来てカルボウもゲットして私、これからもポケモンをゲットするんだと思う。でも、私にとって最初の相棒はどこまでいってもニャオハだけ。そこは絶対に変わらないから」
「ごろごろごろごろ……」
ニャオハは喉をゴロゴロと鳴らす。納得はしてないなりに撫でてもらってリラックスはしていた。
「ぼうッ」
話題に出たカルボウは自分用のケーキを頬張っている。ゴローンとも特に波風立たせることなく適度にヨイショをして見せていた。
「そうだ! 次にバトルとなったらニャオハも出してあげなよ。そりゃあ、相手の状況もあるだろうけど……」
言ってしまってからビワは軽率な発言を自戒する。他人事の立場での物言いを恥じた。
リコには、その提案こそが天啓にも等しく思えた。
「ニャオハ。次は思いっきりバトルしよう! 私、ニャオハと一緒なら、どんな相手とでもへっちゃらだよ!」
「にゃあおう」
リコの宣言をニャオハは確かに聞き入れた。その証としての鳴き声であった。
そこにピロリン! スマホロトムが着信を通知する。
リコが画面をスワイプして開けば、コミュニケーションアプリ『ポケLINE』にある1年生間のみのグループチャットに1枚の写真とメッセージが貼り付けられていた。
グループチャットとしてはバトル部全員およびフリード監督が入っている全体用と、それぞれの学年ごとに区切られた学年用との2つが連絡や意志伝達ツールとして用いられている。
『基礎テスト、合格したでござるでそーろー⭐︎』
発信元はアンだった。ござる口調は同行していたシュウメイ意識だろうか。
写真はチャンプルジムこと宝食堂のカウンターにて、そのシュウメイとのツーショットの背後に、どこかくたびれた雰囲気のサラリーマン風の男性が一緒に映っていた。
リコが通知を確認しているタイムリーなタイミングで、もう一報が届く。
『基礎テスト合格したよ!』
ボウルタウンに赴いていたロイからだった。
記念撮影に巻き込まれ、まんざらでもなさげな表情のメロコとのツーショットの背後に映る風車の羽根の上に、深紅色のシャツに黒色のスラックス、緑色の革靴を身に着ける痩せぎすの男が異様な雰囲気とともに立っているように見えるが、そこは気にしないことにした。
「あっ、リコちゃん見て見て! ドットちゃん試合してる!」
「えっ?」
ビワが自分のスマホロトムをテーブルに置き、液晶画面の光景を映写機能で立体化させる。
そこには確かに現在進行形で試合の真っ最中なドットの姿があった。
「ハッコウジムのジムリーダーナンジャモさんはジムでのバトルをよく生配信してるんだよ」
なんで? なんで? というリコの浮かんだ問いにビワは先回りで答える。
公認ジムリーダーにはそのジム運営に対し、リーグよりある程度の裁量権が与えられている。その特色がパルデア地方ではよりバリエーション豊かであった。
『エレキトリカル☆ストリーマー』というキャッチコピーとともにジムリーダーと動画配信者を両立しているナンジャモにとって、ジムで行われるバトルを配信するのは自身の配信者活動と、ポケモンバトルの啓発という面から一石二鳥の策であった。
配信者としてはトレーナーデビューしてすぐの時期から動画投稿を始めており、20代の頃は無茶な体当たり企画で体を張るのも珍しくはなかった。
それはそれとして地に足付けた人生設計から受けたジムリーダー試験に合格し、地元であるハッコウシティの後任として任命された当初はこれらを別々の物として扱っていたのだが、大先輩の『ヒカリン氏』からのアドバイスを受け合一に踏み切った。
その結果が現在の人気と、多数の案件動画による安定的な収益化に繋がっている。
「さぁさぁ皆の衆! キラッキラのテラスタルバトル、まだまだ盛り上げていくよーッ!!」
「ぶぁり〜!!」
オーバーサイズな黄色いコートを羽織り、完全に両手が隠れた萌え袖を振り回しながら叫べばそれに相棒のでんきがえるポケモンハラバリーが応える。
青緑色のボディの頭上には稲妻模様のでんきのテラスタルジュエルが輝き、フィールド全域へと強烈な電撃を放った。
「ズバット! 無理にかわそうとしなくていい! 翼でガードだ!!」
「きーッ!!」
「ドットはズバットを出してるんだ」
ナンジャモのハラバリーを相手に頭上を飛び回るドットのズバットが放たれるほうでん攻撃に対し両翼でしっかりガードしている様子をリコは観戦する。
ズバットの頭にある、さながら海賊旗の髑髏マークが強気なガードの理由だと分かった。
「テラスタルでズバットはどくタイプ単体に切り替わってる。だから本来弱点なはずのでんき技が効果抜群にならないのよね」
テラスタルを用いたポケモンバトルの妙味とは能動的なバトルポケモンのタイプ変更にあると話すビワにリコは頷く。
頷きながらもその視線は液晶越しのライバルの戦いぶりを注視していた。
『なんてタフなんだあのハラバリー……この人、見た目とは違って堅実的な戦い方をする』
「ぶぁりぶぁり」
ここまでの戦いを通しての所感をドットは頭の中で浮かべる。とはいえ、このくらいのことは元より承知の上、最初から長期戦を想定して戦術を構築して臨んでいた。
でんきタイプはタイプの特質からして素早いポケモンが多く、その分体力に難が残る種が多いとリサーチしていたからだ。
どくどくのキバでハラバリーを猛毒状態にし、テラスタルでどく単タイプとなりきゅうけつ攻撃と絡めて毒ダメージまたは体力の吸収勝ちを狙ったはいいものの、なまけるによる体力回復を挟まれ続けてダウンまで持ち込めていなかった。
それでもハラバリーを蝕む猛毒のダメージがなまける技での回復量を上回って来たのも確かだ。
勝ち目がまるでないとも言い切れない塩梅が神経をすり減らす。それこそが、ナンジャモ流の演出であった。
「ゲゲッ! ちょっぴりピンチかも!? 皆の者〜! ボクへの応援してしてー!」
バトルの合間に配信を見ているであろうリスナーへのアピールを欠かさないのも、ナンジャモが人気配信者である証左だろう。
スマホロトムからコメント欄を流し見すれば、試合の状況だったり、ただただガチ恋勢の応援だったりな文字の羅列の中に特段配信の空気を乱す類のものは見られないのでスルーをする。
同時に、基礎テストを受けlにやってきたドットへの評価も大まかに済ませていた。
『普通空を飛ぶタイプのポケモンは無理にでも回避重視の戦い方を選ぶものだけど、このドット氏はいわゆる『かわせ!』に頼らない戦い方がこの年で出来てる』
バトルに対する真摯さと、熱心さが伝わってきた。
同時にどこか『ボタンのかけ違え』があったならば、案外自分のように配信者として活動していたのかもしれないと思った。いや、これからでも遅くはないのだが。
それほどに顔がいいのだ。ドットは。
「きー……! きー……!」
『ズバットはもう限界が近い……おそらくきゅうけつによる体力の吸収分でも次の1発は耐えきれない。と、するならば勝ち筋はたった1つ!』
額の汗を拭い、最後の攻防の択を決めるドットの紫瞳が決意の色を携える。
「さぁーッ!! ラストスパートいってみよーッ!!」
同様にこの攻防で勝負が決まると確信しているナンジャモも声を張り上げた。周囲の観客とコメント欄のムードを高めていった。
「ズバット!! いけーッ!!」
「きぃーーーッ!!」
空中を飛ぶ軌道でフェイントを織り交ぜながらズバットが迫る。
でんきのテラスタルジュエルの輝きに加え、内なるエネルギーがハラバリーの全身から迸る。
先に受けていたきゅうけつ攻撃で噛み付かれた衝撃が電撃に変換されていた。ハラバリーの特性『でんきにかえる』の効果だ。
「ばりばりばり〜!」
「コレがフィナーレ! ハラバリー、ほうでん攻撃だ〜!!」
「させるかぁッ!! ズバット、ちょうおんぱ!!」
「ッ!!」
「ききききききぃ〜ッ!!」
ハラバリーが迎撃体制に入る直前にズバットが懐へ飛び込めば、ここにきての初の一手、それも変化技にナンジャモの目が見開かれる。
「どうだッ……!」
ちょうおんぱを決めるまではあくまで第1段階に過ぎない。混乱状態となったハラバリーが正気を手繰り寄せ、主人の指示通りほうでん攻撃をしてくればズバットに耐える術はない。
「ばり、ばりり……」
頭の両サイド側面には目玉のような形状と模様があるがコレはデコイのコブ。内側にある鼻に見える黄色い部分がハラバリーの本来の両目だ。
そのコブを擬態に使っている両目の焦点に力が入り直され、ズバットを捉えたところまでが限界であった。
「きき……!」
「駄目かッ……!?」
「ばりぐふ」
混乱こそは振り切られてしまった。しかし、全身に回った猛毒のダメージによって青緑のずんぐりボディは昏倒し、頭のテラスタルジュエルも霧散する。
本来の目がぐるぐると回っているのを確認し、審判役のジムトレーナーヒロユキはコールをした。
「ハラバリー、戦闘不能! ズバットの勝ち!! よって勝者、ドット選手!!」
「きききききききぃぃぃ〜ッ!!」
勝ち名乗りを受け、バトル終了となりテラスタルが解除されたズバットが鳴き声の金切り音を上げれば、その全身が真っ白に光り出す。
「な、なんだ!?」
ここまで名目上ドットの付き添いとしてセコンドについていたオルティガが目を丸くする。
2人のバトルを真剣に見届けていたために終始無言であった。
「おーッと!! 皆の衆注目ちゅうもーく!! 戦い終えたドット氏のズバットの、奇跡の瞬間だーッ!!」
トレーナーとしてもそれなりに経験を積んできたナンジャモだ。ズバットの異変が何かはすぐに見当がついた。
光の中でズバットの姿は形を変え、
「ききゃーッ!!」
胴体のほとんどを占める大きな口を開き、羽は大型化。退化していた眼が発達し、針金状の脚も足が形成された。
「ズバットが……ゴルバットに進化した……!」
「おンめでと〜ドット氏〜!!」
「うわうわ!?」
ドットの首周りをナンジャモの長い袖が絡め取るように体へと寄せてゆく。
ブカブカなコートで分かりづらいが、案外熟れた肉付きをしている……ドットはそう思った。
「まったく、ヒヤヒヤさせやがって」
ドットに拍手を送る雑踏の中で、付き添いをしていたオルティガもそれに倣っていた。
「悔しいけどボクの負け! 皆の者、応援ありがとだぞー!……と、いうわけで! バズりまくりのこのボクナンジャモに勝利したドット氏には〜? テラスタル研修基礎テスト合格を伝えちゃうぞー!!」
「あ、あざッス……!」
「おーん? どうしたドット氏? もしかしてナンジャモお姉さんのピチピチボディにメロメロかなぁ〜?」
『ピチピチというよりはムチムチ』……口には出さなかったのがドットは命拾いであった。
ナンジャモも顔にそう書いてあることは読めたが、口に出さなかったことに免じて不問とした。
ナンジャモ今年30歳、年の功で手にした経験則から来る読心と寛容さであった。
『ナンジャモ』
30歳。ハッコウジムのジムリーダー。キャッチコピーは『エレキトリカル⭐︎ストリーマー』。
配信者としても有名で沢山の登録者を抱えた大人気ポケチューバー。
でんきタイプのエキスパートでありジム戦の様子を配信しているんだ。