5人必要だった穴埋めにアメジオが名乗り出ることでセキガク・エク学の連合チームが結成されるのであった。
「そのままダブルバトル! セキエイ学園1年アン選手と1年ロイ選手vsオレンジアカデミー2年シュウメイ選手と1年メロコ選手はトレーナーサークルへ! それ以外は後方待機!!」
「アン、ロイ、頑張って!」
「サンキューリコ! やったるよロイ!」
「うん!! やるぞー!!」
リコに笑みを向けてからアンとロイは互いに気合じゅうぶんの様子を見せる。
「2人とも、一番槍よろしくゥ!」
「心得たりでござる。このシュウメイ、必ずや勝利をスター団に!」
「やることやるだけさ! いくぜ!!」
意気込みの熱量はスター団も負けてはいない。
シュウメイもメロコも試合開始のゴールを今か今かと待ち侘びていた。
「ルールは2C1D! 切り札システムは各種どれか1つを1度のみ使用可能!!」
審判として進行しつつも、この場のメンバーが使える切り札はテラスタルだけだろう、とキハダは思う。
「それでは、試合開始ィィィッ!!」
高らかなコールに合わせ、4つのボールがフィールドへ投げ入れられる。
「いっけーフタチマル!!」
「たぁっち!!」
「頼むぞホゲータ!!」
「ほンげ〜!!」
アンはフタチマル、ロイはホゲータを、
「いざ参る!!」
「べ〜と〜べ〜と〜…!!」
モンスターボールの基本デザインに、黄色と黒の螺旋が刻まれるリピートボールよりシュウメイはヘドロポケモンベトベトンを、
「しゃあッ!!」
「くお〜!!」
水色のボールに黄色のラインがクロスするクイックボールよりメロコはせきたんポケモンコータスをそれぞれ繰り出した。
「くぉう!」
コータスが頑強な甲羅に空く大きな六角形の穴より眩い光を打ち上げる。パワーボールだ。
「はじけて! まざれッ!!」
メロコが空めがけて右手を振り上げ、握り拳を作ればパワーボールはパッと弾けて疑似太陽となり、フィールド下へ本物の太陽とともに日差しを強めた。
コータスの特性『にほんばれ』だ。
「うお、眩し!」
「でもホゲータのほのお技のパワーがさらに強まるぞ!」
「ほげ! ほげ!」
それは特性を発動させたコータス自身にも言えることだがメロコは言及を止めた。
この明るさこそがロイの美点かつ最大の武器であり、下手に応えればペースに乗せられてしまうことを昨日の道中で思い知ったからだ。
「よーし! フタチマル! シェルブレード!!」
「たちまぁ〜!!」
ミジュマルの頃から武器としてある『ホタチ』は両腿部分に収納されている形となり、数も2足歩行に合わせ2つに増加している。
そのホタチを2刀流の形で両手に持ち、水エネルギーの刃を発しさせながらコータスを狙い走り出した。タイプ相性からすれば当然の選択だろう。
「そうはさせぬでござるぞ、アン殿!」
「べ〜とぉ〜!
それ故に攻め手が読まれるのも当然といえた。
フタチマルとコータスの間にベトベトンが液状ボディを割り込ませれば、口からヘドロの塊を発射する。
「叩っ斬っちゃえフタチマル!!」
「ちまぁ!!」
ホタチから伸びる水のエネルギー刃を振るい、両断すればヘドロは即座に爆発。ヘドロばくだんであった。
「まりゅぐぅ……!」
爆風を受けたフタチマルの身体がズザザと後退りさせられる。
「くッ、フタチマル! アクアジェット!!」
アンはすかさず機動戦に移ろうと指示を飛ばすもフタチマルは動かない、いや、動けなかった。
膝がガクガクとするいわば『足が笑う』状態であった。怯み状態だ。
「これぞ拙者のベトベトンによる特性『あくしゅう』! 半端な攻め手では足を止めることになり申す!」
「それならコレはどうだ!! ホゲータ、じだんだ!!」
「ほげーッ!!」
フタチマルが怯んだところへの追撃に対しホゲータは両足で地面を何度も踏み込み、その振動から生まれるじめんエネルギーの衝撃波を放つ。
今度はコータスがのっしのっしとベトベトンの前に出た。
「まもるだ、コータス!!」
「くお〜!!」
迫るじだんだの衝撃波を前にコータスは自身を起点としてバリアを展開。見事防いで見せた。
序盤の攻防もそこそこに、4人ともテラスタルオーブを右手に構え、
「掴むは1つ! 勝利の輝き!!」
「輝け! 夢の結晶!!」
「闇に輝くは忍びの極意……!」
「輝き、それは爆ぜるオレたちの魂!!」
「「「「テラスタル!!」」」」
テラスタル発動。オーブを投げ込むタイミングは完全に同じであった。
「4人同時テラスタル!?」
「ダブルバトルならではの光景だな」
4つのクリスタルがそれぞれのポケモンたちを包み込んでゆく様にリコは圧倒される。
隣に座るアメジオは淡々と語るも、広がる光景に対して心躍らせているのはその三角のハイライトが入る紫瞳の揺れから明らかだ。
ネクストサークルに入り出番を待つドットからすれば、アメジオの介入は自分たちセキガクやスター団に対する敵情視察以外の何物でもないし、実際のところアメジオ自身にもそういう意識はある。
ただ、どうにもセキガク側に回ってきたこの青年の妙なフィット感にドットは若干困惑していた。
『こいつ馴染みすぎだろ……』
「ちまッ!!」
みずのテラスタルジュエルを被り、頭をブンブンと振るうことで怯み状態から抜け出すフタチマル。
「シュウメイ殿をなんとかしなきゃコータスを攻めるのは無理ってことか」
状況から察するアンは笑みを浮かべ、八重歯が光る。
「フタチマル! 剣道スタイルでいくよ!!」
「たぁッち!!」
フタチマルは2刀流から左手のホタチを収納し、右のホタチを両手で持つ。
両手から力を伝えることでみずのエネルギー刃を増大させた。
「おぉ! その姿、まさしく侍の如し!」
「べぇ〜と〜?」
フタチマルの立ち姿に感銘を受けるシュウメイ。
ベトベトンはいまいちよく分かっておらず呑気に鳴くよりなかった。
「いざ、尋常に勝負! 勝負〜!!」
「たあああッちまぁぁぁ〜!!」
ホタチを構えたフタチマルがベトベトン目掛けて走る。
その足が、ツルリと滑った。
「ちまぁ!?」
「フタチマル!?」
足を滑らせる相棒に、アンはすぐ足元をチェックする。
毒素こそ消え去っていたが、地面に付着するヘドロばくだんの粘液が理由だと分かった。
その視線誘導こそがシュウメイの狙いであり、フタチマルには命取りだった。
「忍びの道は奇天烈卑劣……コレ即ち詭道なり!」
フタチマルが尻餅をついたところへベトベトンが襲い掛かる。
「べ〜と〜べ〜ん!」
液状ボディで両手を広げ、フタチマルに抱き付く。
「メガドレインッ!!」
密着状態のままベトベトンは全身からフタチマルの体力を吸収にかかった。
「フタチマル! アクアジェットで離れて!」
「た、ッちッ…!」
ポケモンの技エネルギーとは体力に直結する。
みずタイプのフタチマルにとって、弱点であるくさタイプ技による吸収攻撃は離脱の術を奪い取っていた。
ベトベトンから離れるのもままならずフタチマルは押し倒され、テラスタルジュエルも霧散してしまう……。
「アン殿の真っ直ぐなる戦いぶり、ジムリーダーアオキ殿を相手にして感服致したが故にその勢いたるや油断大敵! 故に手堅く切って落とさせていただいたでござる……御免ッ!」
「フタチマル、戦闘不能! ベトベトンの勝ち!!」
「コータス! ヒートスタンプ!!」
「くぉ〜ッ!!」
フタチマルがベトベトンに倒される中、甲羅から煙を噴き出すコータスの跳躍にロイとホゲータは呆気に取られてしまう。
「ホゲータ、じだんだ!!」
「遅ェッ!!」
急降下してくるところに効果抜群の一撃を加えんとホゲータが再度両足で地面を踏み鳴らすも、予備動作が遅きに失する要因だった。
「くおうッ!!」
「ほげ〜ッ!?」
80kgの重量を活かしたコータスの急降下が、ホゲータのじだんだより先に決まった。
「そのまま押し潰せッ!!」
「ぐおう〜!!」
強烈なプレス攻撃にコータスの頭のほのおのテラスタルジュエルが爛々と輝く。
「ほ、ほげ〜……!」
おおよそ8倍の体重差では如何ともし難い……そんな空気だった。
「ほ、ほ! ほ、ほ、げ!! ほ、ほ! ほ、ほ、げ!!」
ロイが腹の底から声を張る。ホゲータの鳴き声を真似て歌い始めたのだ。
「ユニークだな」
セキガクの仲間たちからすればロイとホゲータの歌は聴き慣れたものだが、アメジオにとっては初めての光景だ。
そこに侮蔑や嘲笑の意図はない。ただただ珍しいものを見たという好奇心が顔に滲み出ていた。
「ロイはああやってホゲータと仲良くやってるから」
「なるほど」
リコからの補足にもアメジオは素直に頷く。
バトル中でも、だからこそここぞという時の踏ん張りのために動けるロイのひたむきさが、アメジオには好感だった。
「ホゲータホゲータがんばれ〜! ほ、ほ! ほ、ほ、げ!! 負けるなホゲータがんばれ〜!!」
「ほ、ほげぇ……!」
押し潰される形であったホゲータの手がコータスへ向け伸び触れる。
「負けるなホゲータがんばれ〜!!」
『そうやって歌うことで基礎テストも色々ひっくり返してたけどよ……!』
ジムリーダーコルサのまねポケモンウソッキーを相手にも追い詰められたところでもロイはホゲータのピンチを前に歌い出し、気力を取り戻して逆転勝利を掴んだのをメロコは見ていた。
「そう何度も上手くいくモンかよッ!!」
「とぉあすうううッ!!」
メロコのシャウトに応え、コータスは本格的に全体重をかけてゆく。
「負けるなホゲータ〜〜〜ッ!!」
「ほぉげぇぇぇぇぇッ!!」
刹那、テラスタルとは別の白い光がホゲータを包み込む。
光の中でホゲータの体が形を変え、ボディには強靭さが宿る。
「あンげぇぇぇぇぇッ!!」
ホゲータ時代と変わらぬずんぐりボディだが全体的にサイズアップ。
頭に集まった火の玉はソンブレロを思わせ、コータスを押し返し始めた。
「アレって、進化!?」
「ホゲータがアチゲータに進化したんだ」
リコとドットが口々に呟く中、分類変わらずほのおワニポケモンアチゲータはコータスをひっくり返して見せていた。
「たっすぉ!?」
「コータス!?」
甲羅を地面につけた逆さまの状態から噴煙の勢いですぐさまコータスは体勢を立て直す。
そこにアチゲータのほのおジュエルが輝いた。反撃の狼煙だ。
『進化してパワーアップした今ならば出来るかもしれない……!』
ロイの脳裏に浮かぶのは、寮の共同スペースにあるテレビを齧り付くように見ながら目を輝かせるホゲータの姿。
テレビからは雄々しくフィールドに仁王立ちをしながら豪快な火炎を吐くリザードンが映っている。
同じほのおポケモン、同じ初心者用ポケモンとしての憧れとシンパシーがそこにあった。
「アチゲータ! かえんほうしゃ!!」
「あちゃあああ〜……! げあああああッ!!」
やきつくすの技が進化によりパワーアップした、強力な炎のブレスをアチゲータが確かに口から吐いた。
憧れのリザードンに1歩近づいたのだ。
「コータス! こっちもかえんほうしゃ!!」
「たぁすぼおおおおおッ!!」
アチゲータとコータス、両者のブレスがぶつかり合う。
「負けるな〜! アチゲータ〜〜〜!!」
ロイの叫びにアチゲータの双眸がキラリと輝く。それは、魂の呼応か。
互角であったかえんほうしゃの激突は、やがてアチゲータの側が押し込み、
「こたぁ!?」
ついにはコータスを再びひっくり返した。
「メロコがほのおポケモン対決で競り負けた!?」
「……!」
スター団側ベンチでは思いがけない事態だ、とオルティガが声を上げる。
ボタンもまた目を見開いている。
ほのお組『チーム・シェダル』のリーダーであるメロコが同タイプ同士の競り合いで遅れを取るとは考えられなかったからだ。
「くぉ! くぉ! くぉ!」
再び逆さにひっくり返されたコータスが四つ足をバタつかせる。
発火器官を有する甲羅に絶えず補給し続けなければならない石炭のエネルギーが、最初にひっくり返されたのとかえんほうしゃにより立て続けに瞬間的な火力増大を求められ枯渇してしまったのだ。
「ク、クッソォ……!!」
「今だアチゲータ! じだんだ!!」
生態上どうにもならない事態にメロコは歯噛みする。
千載一遇のチャンス到来、ロイはアチゲータに追撃の指示を飛ばす。
「ロイ! 後ろ!!」
「えっ?」
そこにアンの声が響く。
コータスへ意識を集中させていたロイは、アチゲータの背後に迫る液状ボディへの対応を全く考えていなかった。
「見事にござる、ロイ殿にアチゲータ……シングルバトルならば見事な逆転勝利となったでござろう。しかしコレはダブルバトル!!」
ベトベトンが右の拳を振りかぶる。
「許されよ! 非情なる勝負の世界の習い故、御免ッ!!」
「べぇ〜とぉ〜ッ!!」
シュウメイは右手で印を結ぶ。コレ自体はただの手癖であり、忍者趣味の発露に過ぎない。
「あ、あちぇッ…!」
「アチゲータ!!」
背中に突き刺さるベトベトンのどくづき攻撃にアチゲータの足踏みが止まる。
液状な右手が引き抜かれればアチゲータはその場で力なく回転し、パタリと倒れ込む。
テラスタルジュエルも消失したのをキハダは認め、高らかに宣言した。
「アチゲータ、戦闘不能! ベトベトンの勝ち!! よって勝者、オレンジアカデミー2年、シュウメイ選手と1年、メロコ選手!!」
『シュウメイ』
16歳。オレンジアカデミー2年生。スター団どく組『チーム・シー』ボス。
忍者に憧れの強いオタク気質の美少年。手先が器用で服飾方面が得意分野。
どく組を預かるボスらしくテクニカルな戦い方を心得ているぞ。