SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 スター団との練習試合が始まり、アンとロイがダブルバトルに挑む。
 ロイのホゲータが進化しメロコを追い詰めるもののシュウメイに背後を突かれる形で敗れてしまうのであった。


渇いた叫び

「シュウメイ殿! メロコさん! お疲れ様でスターッ!!」

 

 かがみながら両手を振り、星を描くジェスチャーとともにスター団の外野たちがそれぞれにポケモンを回収し、トレーナーサークルを離れる2人を労っている。

 

「メロコ殿、かえんほうしゃのぶつけ合い……アレは……」

 

「わーってるよ。『もうか』だろ」

 

 表情を暗くしたままメロコはシュウメイの言を遮る。

 同じテラスタルパワーを全開にした上でほのおエネルギーの競り合いに敗れたのは、アチゲータがホゲータ時代より持つ特性『もうか』の分のパワーアップが響いていた。

 

「ダブルじゃあなかったらオレは負けてた……ならやることは1つ。今よりもっと強くなるしかねェ!! そうだろ!?」

 

 眉を八の字に曲げ、右拳を突き上げて見せながらメロコが意気込みを語るのでシュウメイは穏やかな笑みを浮かべて頷く。

 

「それでこそメロコ殿でござる」

 

「ヘヘッ!」

 

 互いの拳を軽くぶつけ合い、メロコの表情は晴れやかになっていた。

 

「ごめんロイ。あたしがもっと考えて動いてたら……」

 

「『考えて動く』なんてアンらしくないよ」

 

 言葉だけならば失礼な物言いにも見える。だが、ロイなりにアンの美点を正しく認識してのひと言だった。

 そこを感じ取ったアンはすぐにいつもの破顔を見せる。

 

「そいつの言う通り。小賢しいのはあいつ1人でじゅうぶん」

 

 入れ替わりでトレーナーサークルに入るドットは流し目でリコを見る。

 ネクストサークルのリコは視線こそ感じたが、ドットの意図には気づけなかった。

 

「次組む時は必ず勝とう! それでいいじゃんか!」

 

 ロイの底抜けに明るい笑みに、アンも八重歯を見せて返す。

 

「いいチームだな。セキガクは」

 

「まぁな」

 

 若干気まずい雰囲気の中、アメジオがフリードに対して口を開けば、フリードも短く返す。

 両者ともに互いを見合うことはなく、この後も試合が続くフィールドをジッと見続けていた。

 

 

 

「これよりシングルバトル2! セキエイ学園1年ドット選手vsオレンジアカデミー2年オルティガ選手の試合を取り行う!!」

 

 思えばセキガク側は1年生のみなのに対し、スター団側はガッツリとボスたちレギュラー陣を惜しげもなくぶつけて来ている。

 来月に地方予選を控えているが故に実戦経験を積ませたいというところであろう相手方の事情がフリードにはありがたかった。

 負けこそしたがダブルバトルでロイが大きな成長を見せたからだ。

 

 

 

『シュウメイが上手いこといなしてたけど、アンってのはフタチマルにホタチを使った効率的な戦い方のバリエーションを付与出来ていた。それにロイとかいう子……あの子と同じくらいの根性と底力をドットやリコとかいう後の2人も持ってるとしたら……』

 

 ベンチからボタンはオルティガへ手話を送る。

 

『年下相手でも油断しないで。本気でかかること』

 

 雑多なジェスチャーではない、本格的な手指動作と非手指動作を絡めた克明なメッセージに、オルティガはコクリと首肯を返す。

 

『OK、マジボス』

 

 オレンジアカデミーポケモンバトル部、通称『スター団』。

 部員を5つのチームに割り振って管理する活動方針を打ち立てたその創始者であり、それぞれのチームを預かる5人のボスから絶大な信頼を得る真の部長兼キャプテン……それこそが、普段はマネージャーとして活動するボタンであった。

 

 

 

「試合方式は『3C1D』!! 切り札システムの扱いはダブルバトルと同様!!」

 

 キハダ先生の明瞭な声音で試合は進行されてゆく。

 

「それでは試合開始! 両者ポケモンを!!」

 

「いけッ! ゴルバット!!」

 

「きききー!!」

 

「プクリン!!」

 

「ぷっくり〜ん!!」

 

 ドットはゴルバットを、オルティガは黒いボディに金色の上品なラインが特徴的なゴージャスボールからふうせんポケモンプクリンを繰り出す。

 

「フェアリー組相手だからってどくタイプってことか?」

 

「ゴルバット、どくどくのキバ!!」

 

 オルティガにドットは答えることなく指示を飛ばす。

 

「きゃあきぃ〜ッ!!」

 

 まんまと先手を取るゴルバットは大きく開いた口の四隅にある牙にどくエネルギーを充満させる。

 プクリンに噛みつき、体内に猛毒となるエキスを流し込む算段だ。

 

「やれッ!」

 

「させるか! プクリン、ジャイロボール!!」

 

「ぷっくぅ〜ッ!!」

 

 噛みつきに飛びかかったところのゴルバットに対し、プクリンは激しく全身を回転させることで弾き返す。

 

「ききッ……!」

 

 あっさりと毒の牙を防がれるゴルバットにドットの判断は早かった。

 

「戻れゴルバット!」

 

 ゴルバットへボールを向けて急ぎで回収する。

 

「頼む、ぐるみん!!」

 

「ぐるぅ〜!!」

 

 

 

「あ、ぐるみん!」

 

 リコからすればぐるみんのバトルを見るのは初めての週末練習以来のことだった。

 

「よく鍛えられているな。あのニドリーナ」

 

「そりゃあドットの最初のポケモンだもの」

 

「なるほど」

 

 アンの補足にアメジオは素直に頷く。

 そのアンやロイに加え、以前手合わせをしたリコに今試合の真っ只中なドットと、セキガク1年生組の成長力はアメジオを感嘆させた。

 

『コレに2年生、3年生も加わるとなると、奴の試算よりよほど完成度の高いチームが出来上がるかもしれないな』

 

 科学的な見地のみを絶対のものとして扱うスピネル監督は、練習試合の団体戦で敗戦したにもかかわらずセキガクに関しては取るに足らない弱小校として認識し、全国の舞台に出てくることはまずないだろうと断言していた。

 だが、アメジオはその断定こそあり得ないと内心切り捨てた。

 応用テスト、さらには予選大会に加え全国までの期間中、セキガクバトル部はまだまだ強くなるという確信を持てたからだ。

 

 

 

「パワーファイトがお望みなら受けて立ってやるよ! 戻れプクリン!!」

 

 ぐるみんの鍛えられたボディを見たオルティガがプクリンを回収し、次なるポケモンを繰り出しにかかる。

 ドットにはそのタイミングこそ1番の攻め時だった。

 

「今だぐるみん! 10まんボルト!!」

 

「ぐぅ〜るぅ〜!! みいいいいいん!!」

 

 全身にでんきエネルギーを溜め、そのまま放出する。

 オルティガが投げ込んだ2番手のポケモンは、ボールから飛び出した瞬間に眩いクリスタルの中へと姿を隠す。

 

「なにッ!?」

 

「ぐるぅ!?」

 

 

 

「モンスターボールに合わせてほとんど同時にテラスタルスフィアを投げ込んだ!」

 

「『ダブルボール』のテクニックか」

 

 元は片手に持ったボールでポケモンを回収しつつ、反対の手で替えのポケモンを素早く繰り出すことで交代の時間差をなくす高等テクニックであり、オルティガが行ったのはその応用としてポケモンの投入とテラスタルを同時に扱うものだ。

 フリードが見抜けばリコが驚き、アメジオも目を丸くする。

 

 

 

「オルティガ殿はスター団きっての天才。バトルの有用テクニックも使いこなせて当然でござる。」

 

 シュウメイが誇らしげに語る中、ハートに天使の羽が生えたようなフォルムをしたフェアリーのテラスタルジュエルを被る姿を表すは、

 

 

 

「りるぅ〜!!」

 

 みずうさぎポケモンマリルリだ。

 

「くッ!」

 

 本来ならば効果抜群であったはずの1発を受け止められながらもドットは次の攻め手を思案する。

 その逡巡こそがオルティガには絶好のチャンスだった。

 

「キュートな1発、くらわせてやる! マリルリ、アクアテール!!」

 

「りるりるりるりるりる!!」

 

 お腹にある白い波と水玉模様がチャームポイントな卵型のボディがぐるみん目掛けて走り込み、跳躍。

 空中で体を回転させ、黒い尾の先にある青い玉にみずエネルギーを纏わせながら振り抜く。

 

「迎え撃てぐるみん! ポイズンテール!!」

 

「ぐるぅぅぅッ!!」

 

 アクアテールに合わせてぐるみんも全身の横回転からどくエネルギーを纏わせて尻尾を振り抜いてゆく。

 尻尾同士のぶつけ合いは、鍔迫ることなく結果が浮き彫りとなる。

 

「りぃるぅッ!!」

 

「ぐるなぁ〜ッ!?」

 

 マリルリのアクアテールがぐるみんを吹き飛ばしたのだ。

 

 

 

「そんなぁ! ポイズンテールを合わせにいったタイミングは完璧だったのに!」

 

「おそらくあのマリルリは『ちからもち』……パワーを増強するタイプの特性だろう。故に力比べで優位に立てる。そうだろうフリード?」

 

「あぁ。そうだな」

 

 ロイが嘆くのにアメジオが返す。

 この時のアメジオとフリードに、リコは妙な距離感の近さを感じるがそれもすぐに思考の外へと追いやられてゆく。

 お月見山で助けてくれたぐるみんのピンチだからだ。

 

 

 

「ぐるみんッ!?」

 

「ッ!!」

 

 飛ばされながらもぐるみんはすぐにボディバランスを掴んでドットのすぐ前、ニュートラルポジションで体勢を立て直す。

 マリルリは、すでに追撃に走っていた。

 

「一気にトドメを刺してやる!! テラスタル! ピンク・フル・パワー!!」

 

 フェアリーのテラスタルジュエルが輝きを増し、マリルリの両腕をモリモリと筋骨隆々にパンプアップさせる。

 基礎テストでナンジャモを相手の立ち回りを見届けていたオルティガの速攻は、ドットを相手に戦いを長引かせることの愚を悟らせていた。

 

 

 

「ドット! ぐるみんはまだ戦えるよ!! 頑張って!!」

 

 

 

 背後より聞こえる『気に入らないヤツの声』……ほんの1ヶ月前までは相棒のニャオハ1体ろくに手懐けられていなかったくせに、とドットは舌打ちをする。

 

「お前なんかに言われなくたって分かってる!! 負けてたまるもんか!!」

 

 視線はフィールドへ向けたままリコへと怒鳴るドットは左手で額の汗を拭う。

 そして右手に構えたテラスタルオーブを振りかぶった。

 

「ぐるみん! 燃えて、鍛えて、輝いて!!」

 

 激情のままドットはテラスタルオーブを投げ込めば、ぐるみんをクリスタルが包み込んでゆく。

 

「テラスタルッ!!」

 

「ぐるぅみぃ〜〜〜!!」

 

 どくのテラスタルジュエルを被り、紫光を全身より放つぐるみんへマリルリが桃光の宿る拳で左右より挟み込ませ、ぐるみんの側頭部をネジるように圧迫してゆく。

 

「コレがフェアリータイプの可愛くない強さだ! このまま意識を刈り取ってやる!!」

 

 じゃれつくの攻撃で発するフェアリーエネルギーをテラスタルで増幅させ、両腕に一点集中でグリグリ攻撃。オルティガのフェアリー殺法、肉弾戦仕様の発露であった。

 

 

 

「決まりだね。あのグリグリアタックから逃れるのは至難の業だ」

 

 あく組のボスとして部全体を表向き統括するピーニャからすれば扱うポケモンのタイプ相性的にオルティガはまさに鬼門。そのパワーも破格に見えていた。

 

「ピーちゃん」

 

 ボタンの声に宿るほんの少しの圧にピーニャは気付き、バツが悪そうにしながら首肯した。

 『油断大敵』という短いメッセージを受け取ったからだ。

 

 

 

「ぐるぅ〜〜〜……!!」

 

「りるりるりるりるぅ〜!!」

 

 なおもマリルリはぐるみんの両側頭部からグリグリと拳をねじ込み続けている。意識が飛ぶまで離す気などはないと分かる。

 

「この距離なら、反撃されても防ぎようはないよな」

 

「10まんボルトは効かないぞ。今のマリルリはテラスタルでフェアリー単タイプになっていて、でんき技は効果抜群にはならない!」

 

 オルティガの一言が、ドットに『一か八か』を決断させた。

 

「ぐるみん! テラスタルパワー全開!! 一点集中だ!!」

 

「なにッ!?」

 

「ぐるぅぅぅみぃぃぃん!!」

 

 お前も出来るのか、というニュアンスのオルティガを他所にぐるみんは咆哮。頭のテラスタルジュエルが輝けば、

 

「り、ッる!?」

 

マリルリの表情が苦悶で歪む。そのお腹には、ぐるみんの額から伸びて突き刺さる『どくエネルギーの角』があった。

 

 

 

「ニドリーナの体には群れで暮らす都合上、相手を傷つけないように体中の角やトゲを引っ込める機能がある。それで普段は引っ込めたままの額の角を突き刺したのか!」

 

「ニドリーナはニドラン♀とニドクインの過渡期の形態で、唯一額の角が退化している。それを突き刺すまでに伸ばしているのは、テラスタルエネルギーか!」

 

 腐ってもポケモン博士、フリードはニドリーナの生態を絡めたドットの反撃に舌を巻く。

 アメジオは、ぐるみんがテラスタルパワーの一点集中により額の角へどくのエネルギーを集約させているところに着目した。

 

「ニドリーナ……ぐるみんのどくばり攻撃は一点集中のテラスタルパワーにより通常の5倍、いや10倍の威力になっているだろう!」

 

 

 

「り、るぅッ……!」

 

『拳の圧が弱まった!』

 

 テラスタルパワーで強化されたぐるみんの額の角から流し込まれる毒素もまた強烈であった。

 マリルリの両拳がぐるみんの側頭部よりたまらず離れる。

 ドットの『一か八か』は、ここからが本命だった。

 

「今だぐるみん! 必殺『螺・旋・槍・殺(スパイラルシェイバー)』!!」

 

「ぐるぐるぐるぐるみぃぃぃぃぃ!!」

 

 すかさずぐるみんはマリルリへどくばりを突き刺したまま全身をその場でスクリュー回転し、その回転エネルギーを叩き付けながら吹き飛ばす。

 

「マ、マリルリッ……!!」

 

 オルティガの左斜め後ろへと背中から落着し、卵型のボディをどうにか起き上がらせようとするも、頭のテラスタルジュエルが力を失い霧散。

 マリルリはそのまま倒れ、目を回してしまった。

 

「マリルリ、戦闘不能! ニドリーナの……」

 

「ぐるッふぅッ!」

 

 キハダがジャッジを下す最中だった。

 ぐるみんのテラスタルジュエルもまた霧散し、力無く倒れ込む。

 それを認め、改めてのジャッジが下された。

 

「ニドリーナ、マリルリ、共に戦闘不能! よってこの試合、勝者なしの引き分け!!」

 

 

 




 『オルティガ』
 13歳。オレンジアカデミー2年生。スター団フェアリー組『チーム・ルクバー』ボス。
 高飛車なお坊ちゃんだが執事さん曰く根は優しい。機械に強く、トレーニング機材の扱いはお手のもの。
 キュートなフェアリータイプの使い手であり実にピンクな戦い方をするみたいだねぇ。
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