SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 シングル2はドットとオルティガが対決。ドットは相棒のぐるみんを出すもオルティガのピンク殺法に大苦戦。
 それでもテラスタルパワーを爆発させて追い上げるが双方共倒れの引き分けに終わるのであった。


ENDLESS CHAIN

「ひ、引き分け……?」

 

「マリルリを前にぐるみんは完全にパワー負けし、押し込まれていたからな。体力が保たなかったのも頷ける。」

 

 大逆転勝利と喜び勇んでいたところに冷や水をぶっかけられたような気分になるロイ。

 アメジオは冷静かつ的確にバトルの結果、その要因を捉えていた。

 

 

 

「ごめん。あんな攻め方があるなんて想定してなかった」

 

 終盤の攻防を除けばほとんどペースを掴んでいたのに、とマリルリを回収したオルティガの表情には分かりやすく悔しさが滲み出ている。プライドの高さからむしろ負けたより堪えたのだ。

 

「お疲れ、オルくん」

 

 そこにスポーツドリンクを差し出すボタンの表情は柔らかい。オルティガが全力で以て相手にぶつかった結果だということは分かっているからだ。

 その上で勝ちを収められなかったという事実は、ボタンに1つの確信を抱かせる。

 ダブルバトルで荒削りながらセンスを見せたアンとロイに加え、オルティガのを見てなのか、元から構想にあったのかは定かでないが、テラスタルのエネルギーを一点集中させる技術を成功させるドットの成長力を目の当たりにしたことで、次に出て来るリコも前の3人と同程度のパフォーマンスはしてくるだろう、と。

 そんな1年生たちの上に上級生たちもいるとなればこう思うよりなかった。

 

『セキエイ学園ポケモンバトル部……厄介な奴らだ。どうやらそう容易くは全国制覇をうちらのものにはできんみたい』

 

 ボタンの口角が吊り上がる。

 強敵出現は、スター団の全国制覇に箔をつけてくれるという好戦的な笑みであった。

 

 

 

「お疲れドット。凄かったよ」

 

「勝てなきゃ意味ない」

 

 枠線際のやり取り、リコに対してドットの返しは無機質なものだった。

 ドットもまた、下手に負けたより悔しいのだ。

 

「おい!」

 

「……?」

 

「結局のところお前が負けたら2敗1分けでボクたちの負けになるんだからな……絶対勝てよ」

 

 すれ違ってから呼び付けてのドットの言い終わりだけが僅かにトーンダウンする。

 勝てたわけではない自分の立場で『勝て』と言うことに負い目を感じたからだ。

 

「うん!」

 

 その辺りを察しながらもリコは言葉短に、爽やかな空気とともに頷いて見せてからトレーナーサークルへ入る。

 

「フン……!」

 

 その背中にドットは、ひと言小さく呟いた。

 

「……気に入らないやつ」

 

 

 

「これよりシングルバトル1! セキエイ学園1年リコ選手vsオレンジアカデミー3年ビワ選手の試合を行う!!」

 

「リコちゃん、勝負よ!」

 

「はいッ!」

 

「両者、ポケモンを!!」

 

「いくわよ、オコリザル!!」

 

「むっきゃー!!」

 

 ビワは薄いピンク色と薄い黄色のコントラストが優しげな印象で、実際ゲットの際にポケモンに対し治癒効果をもたらすヒールボールから、ある意味ボールの仕様にベストフィットしたオコリザルを繰り出す。

 

「やっぱりオコリザルできた……いくよ、ニャオハ!!」

 

「にゃおーん!!」

 

「やっぱりニャオハできたわね」

 

 『次のバトルはニャオハと頑張る』という、基礎テスト後に彼女と交わした約束通りにリコはニャオハを繰り出した。

 

「にゃおーう!」

 

 バトルに投入され、ニャオハはオコリザルに対し四つ足で構えを取る。そこにはゴローンやカルボウという他のリコのポケモンたちへの対抗心が確かにあった。

 

 

 

「ビワ姉」

 

 ベンチからボタンが手話を使ってビワに指示を送る。

 

 

 

『最初から思い切りいって』

 

『OK、マジボス』

 

 ボタンの意図を察し、ビワは右手にテラスタルオーブを構える。

 

「それでは! 試合開始ッ!!」

 

「対峙したからには全身全霊で…… 倒すよ!」

 

 キハダ先生の試合開始のコールと同時にビワのテラスタルオーブが投げ込まれる。

 

「みんなと笑い合えるこの場所が大好き! オコリザル! わたしたちの輝きを見せよう!!」

 

「むきゃきゃきゃ〜!!」

 

「テラスタルッ!!」

 

 

 

「初手テラスタルで一気に流れを掴むつもりのようだな」

 

「リコ! こっちもテラスタルだー!」

 

「どあほう。それじゃあ向こうの思う壺じゃんか」

 

 アメジオの分析にロイが叫べば、即座にドットはツッコミを入れる。元の戦力差が大きい中で相手に釣られて虎の子の切り札を一緒に切るようではお話にならないのだ。

 

「リコ、どあほうじゃあないみたいよ」

 

「フンッ!」

 

 ビワのテラスタル発動を前にリコは『見』の姿勢を崩さない、アンに言われてドットは無遠慮に鼻息を鳴らした。

 

 

 

「来るよ、ニャオハ!」

 

「にゃおッ!」

 

 切り札のテラスタルはここぞというタイミングで切る……その意識の下構えるニャオハの前に、握り拳が輝くかくとうのテラスタルジュエルを被ったオコリザルが姿を現した。

 

「いくよ、リコちゃん! いざ勝負ッ!!」

 

「むきいいいいあッ!!」

 

 テラスタルジュエルの輝きが両足の踏み込みへと出力され、その場には光の残滓と足跡を中心としたクレーターのみが残される。

 オコリザルは、その全身を空中へ踊らせた。

 

「なんてジャンプ力ッ!!」

 

「テラスタルしたわたしのオコリザルのクロスチョップは特別製!! 必殺!! 『天空×(ペケ)字拳』!!!」

 

「むきゃあああああッ!!!」

 

 上空より両手を交差させながら急降下してくるオコリザル。

 直撃を受ければひとたまりもないというのは明らかだ。

 

「ギリギリまで引き付けるよニャオハ」

 

「にゃあお」

 

 対するリコの手立てとは、回避と相手へのダメージを両立するプランであった。

 

「今ッ! でんこうせっかで下がって!!」

 

 オコリザルが両拳の間合いにニャオハを捉える直前で、ニャオハはでんこうせっかによる瞬発的な加速を活かしたバックステップ。減速しきれずオコリザルは地面に激突……というのがリコの算段であった。

 

「流石リコちゃん……でも甘いッ! オコリザル! そのまますてみタックル!!」

 

「むっきゃあああ!!」

 

「にゃおッ!?」

 

 オコリザルは両手から地面に着地、その反動を活かして飛び退いたニャオハめがけ、自らの全身を弾丸として発射する。

 

「ニャオハ! 今すぐこのはいっぱいッ!!」

 

「にゃうお〜!!」

 

 首元の毛の房より吹き荒れるくさエネルギーの奔流がオコリザルを包み込む。

 オコリザルは、構うことなく突撃をかけた。

 

「にゃお〜ッ!!」

 

「ニャオハ!!」

 

 大量のこのはを突き抜け、オコリザルの突撃を受けたニャオハの小さな体は宙へ投げ出され、オコリザルの背後へと左側面より落着をした。

 

 

 

「がああっ! パ、パワーが違いすぎる!」

 

「そりゃオコリザルとニャオハだしな」

 

「でもあのニャオハ、諦めてないみたいだぜ」

 

 バトルコートに集まる人だかりの中心は、団体戦が始まる当初はスター団のメンバーのみであった。

 が、時間が経つにつれて授業を終えたセキガクの生徒たちがちらほら様子を見に来ていた。

 

 

 

「ニャオハ、大丈夫!?」

 

「にゃ、おうッ……!」

 

 オコリザルの素早い切り返しに対してのこのはは、迎え撃つというよりは直撃を避けるためのクッションとしての狙いが大きかった。

 幸いそれが功を奏してニャオハは立ち上がってみせる。ダメージは大きいがまだ戦えるのだ。

 リコとしてはここからが本番、とテラスタルオーブを構えた。

 

 

 

「あのニャオハのこのは、なんて凄まじいくさエネルギーなんだ」

 

「少なくとも研究所からの残りモノってタマじゃあねェだろうな。あれほどポテンシャルがあるなら今頃ジム巡りのルーキーに選ばれてバリバリ戦ってるはずだ」

 

 アメジオは、リコのニャオハが放つこのはの威力をたった今目の当たりにしたので驚嘆を禁じ得ない。

 フリードもニャオハの出所がいわゆる払い下げの個体ではないことを確信していた。

 

「ナイスだよリコ! ニャオハもファイトー!!」

 

「頑張れリコー!!」

 

 冷静に戦況を分析するフリードとアメジオをよそに、アンとロイは腹の底からエールを送る。

 ドットは、ただただ無言のまま力強い視線でフィールドを見つめ続けていた。

 

 

 

「アン……ロイ……」

 

 

 

「おーい! 頑張ってくれよバトル部ー!!」

 

「9回の裏、3アウトまで何が起こるか分からないのが野球だぜー!!」

 

「コレ野球じゃあないけどねー」

 

 アンとロイのエールが呼び水となり、あちこちからリコへのエールが飛び交う。

 その中には同じ1年1組のデンサとオリもいた。リコとアンのそれぞれ1つ前の席に座る気のいいクラスメイトたちだ。

 

「「「「「セーキガク! セーキガク! セーキガク!」」」」」

 

「「「「「セーキガク! セーキガク! セーキガク!」」」」」

 

「にゃおお……?」

 

「こ、コレは……」

 

 やがて思い思いのエールから転じ、セキガク生徒たちによる『セキガクコール』へと発展。

 他地方交流中の浮ついた気分もありながら、同じ1年生同士の連帯感による熱量がバトルコートを包み込んでいった。

 

「「「「「セーキガク!! セーキガク!! セーキガク!!」」」」」

 

「「「「「セーキガク!! セーキガク!! セーキガク!!」」」」」

 

 鳴り止まぬコール、その中心に自分がいる。

 渦巻く熱狂が、リコの心を熱くさせた。

 

 

 

「やれやれ、何をしているのかと思えばこんなところで」

 

 そんな熱狂を心の底から煩わしいものとして外野に交じるスピネル監督は、セキガクベンチに混ざっているアメジオを見つけ眼鏡のズレをクイ、と直す。

 スピネルがエクシード学園のバトル部で監督をやっているのはあくまで学園の母体であるエクシード社、その傘下であるエクスプローラーズの一員としてボスのギベオンに取り入ろうとしてのことでしかなく、ポケモンバトルの競技などにはこれっぽっちの興味もない。

 元よりこのバトルコートを包み込むスポ根じみた空気こそ、科学至上主義を振りかざして他者を見下し、悦にいることを至上の喜びとするスピネルからすれば蛇蝎の如く嫌う性質のものであった。

 

「まぁ、自主トレ期間中に何をやってようと自由ですからね」

 

 ボスの親族に対しゴマスリをしようにも、わざわざこのうざったい声援の中を掻き分けてセキガクベンチまで赴く気にもならずスピネルは踵を返してゆく。

 スピネルにとって血湧き肉躍るバトルの熱狂などは、ただただ不快でしかなかった。

 

 

 

 オレンジアカデミーの数学担当教師であるタイム先生は、元ジムリーダーということを差し引いてもその朗らかな人となりから生徒はもちろん教師陣からも絶大な信頼を寄せられており、他校絡みの案件でも窓口として機能していた。

 

「2校合同レクリエーションの話、無事通ってよかったですわね、ルッカ先生」

 

「これもタイム先生がクラベル校長にお口添えしていただいたおかげです。本当にありがとうございます」

 

「いえいえ! 私は同じパルデアの学校同士、もっと連携し合って生徒さんたちに実りのある学びを提供したいというルッカ先生の考えに賛同しただけですもの! 全てあなたのお手柄よ」

 

 アカデミーへ学校の垣根を越えたレクリエーションの機会を作るべくハッコウスクールからやってきたルッカのことをタイムは気に入っていた。

 教師という職業にやりがいを見出し、生徒たちのためにストイックに働く姿に共感したからだ。

 

「「「「「セーキガク!! セーキガク!! セーキガク!!」」」」」

 

「セキガク?」

 

「あぁ。今は他地方交流の時期で、セキエイ学園から1年生の生徒さんたちが来てくれてるの。そういえば、ルッカ先生はセキエイ学園の卒業生でしたっけ?」

 

「はい。夫ともそこで出会って、卒業後に結婚……を……ッ……!」

 

 穏やかに会話しながら通りかかるバトルコートを覗いてみれば、ルッカの瞳から先ほどまでクラベル校長に熱弁していた情熱は一瞬の驚愕による強張りののちに消え失せ、氷のように冷たくなっていった。

 

「タイム先生、私、学校に戻って片付けなければならない仕事がありまして、これで」

 

「あら? せっかくの母校の後輩ちゃんたちの試合見ていかないの?」

 

「ごめんなさい、失礼します」

 

 一礼し、そそくさと立ち去るルッカがフィールドに立っているリコと母娘であると知り、その冷え切った家族関係をタイム先生がある程度察するのはこの日の残業中、ふとセキガク側の生徒情報を調べてみてのことだった。

 

 

 

「ニャオハ、コレ……みんな私たちのためにやってくれてるんだよ」

 

 ニャオハからの答えはない。ただ、体をブルルと震わせるのが見えた。武者震いだと思った。

 

「ドットにも言ったけど、それ以上に私は、私自身の意思として勝ちたい!! もちろんニャオハ、あなたと一緒に!!」

 

 改めてテラスタルオーブをリコは構える。

 

「満開に輝いて……勝利の花よ!!」

 

 ダイナミックなオーバースローの構えを取り、大きく右腕を振りかぶり、

 

「おりあああああッ!!」

 

 力の限り放り投げる。

 リコはシャウトしていた。熱狂の只中にある高揚に、腹の底から声が出ていた。

 

「にいやあああああおおおおおッ!!!」

 

 リコの魂に共鳴したニャオハもまた咆哮。オーブが放つクリスタルの輝きに包まれながら、自らの内なる白い光と重ね合わせていった。

 

 

 

「あいつ……!!」

 

 ポツリ、ドットは呟く。

 つくづく気に入らないやつ、改めてリコをそう思った。

 

 

 

「テラスタル……だけじゃあない!」

 

 セキガクコールから発奮したリコのテラスタルより姿を見せるのは、黄色い花弁が眩しい大輪の花を咲かせたくさのテラスタルジュエルを被るニャオハ、ではなかった。

 二足歩行となり、首元にピンク色の蕾をマウントしたそのキリリとした瞳は闘志に溢れ、スタイリッシュな印象を見るものに与える。

 

「ニャオハが……進化した……!?」

 

 くさねこポケモンニャローテ、リコの新たな力の発現であった。

 

 

 




 『ビワ』
 17歳。オレンジアカデミー3年生。スター団かくとう組『チーム・カーフ』ボス。
 チームの戦闘指南役を務める肉体も精神も恵まれた美少女。温厚で優しく、献身的な性格。
 バトルとなれば鍛え上げた肉体から教え込んだ技術で戦うかくとうポケモンたちとともに勇ましく戦うぞ。
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