進化の輝き、ニャローテとなったはリコと歩み続けてきた成果が結実した形であった。
「クッソー!! 我々も負けてられぬ!! ここで声を張らねば『チーム・カーフ』の名折れなり!!」
「俺たちも合力致しまスター!!」
「ありがとうございまスター!!」
「「「「「カーフ!! カーフ!! カーフ!! カーフ!! カーフ!!」」」」」
リコの戦いぶりに触発されたセキガクコールに対抗して、ビワ率いるチーム・カーフを中心としたエールが上がる。
「「「「「セーキガク!! セーキガク!!」」」」」
「「「「「カーフ!! カーフ!! カーフ!! カーフ!!」」」」」
互いの外野が声を張り上げる応援合戦に包まれながら、ニャローテとオコリザルがそれぞれテラスタルの輝きと共に対峙する。
ニャローテはくさテラス、オコリザルはかくとうテラスだ。
「テラスタルと一緒に進化しちゃうなんて、やっぱりリコちゃんは凄いね」
「ニャオハが……いいえ、ニャローテが頑張ってくれるから、私も頑張れるんです」
「わたしもだよ! ポケモンたちと一緒だから頑張れちゃう!!」
リコとビワは一瞬笑い合い、すぐさま両者の瞳に闘志が燃える。
互いをリスペクトしているからこそ、絶対に退けない勝負がある。それが、今目の前にあるのだ。
「オコリザル! インファイト!!」
「むっきゃあああッ!!」
テラスタルジュエルから供給されるかくとうエネルギーを気合いとして放出しながらオコリザルはニャローテへ襲いかかる。
直線的に走り込む様と、そのスピードは先のクロスチョップよりは下だ。下回っている分は全身より放つ闘志でカバーしている。
「ニャローテ! 切り返して!!」
「にぃやぁろぉッ!!」
猛然と突っ込んでくるオコリザルの眉間にニャローテは左足の蹴りを差し込む。
「む、きゃあッ……!」
苦悶の表情とともにオコリザルの進撃が止まる。
反動を利用してニャローテは空中へと身を踊らせた。
「アレは……アクロバットか?」
「四足歩行のニャオハが二足歩行のニャローテに進化して、全身のバランスが変化したことで身軽かつ強靭になったボディを活かす立ち回りが出来るようになったんだろう」
空中にて全身にひねりを加えながら回転するニャローテのテラスタルジュエルが輝きを増すのをアメジオもフリードも見逃さない。
リコが決め手とするのはやはりテラスタルの力を最大限に活かせるくさ技とどちらも読んだ。
「き、むききッ…!!」
アクロバットはひこうタイプの技、オコリザルには効果抜群だ。
後ろに3歩ほどよろけ、体勢を立て直す怒れる瞳は、空中で回転しながら輝きつつ着地体勢に入るニャローテを捉えていた。
「オコリザル! 真っ向勝負でいくよッ!! 一気に押し込む!!」
「むきぃ〜!!」
顔の前でオコリザルは目力を入れ、両手を×の字にクロスさせる。
オコリザルが着地際を狙ってくるのは、リコから見てすぐに分かった。
「勝負をかけるよニャローテ! テラスタルパワー全開!! 一点集中!!」
「にゃおおお…!!」
首元の蕾を蔓で手元に手繰り寄せ、左手の内に収める。
ピンクの蕾を基点として、多量のくさタイプエネルギーが折り重なる葉のように一体化し、1本の剣を形作った。
「アレってこのは? にしてはなんというか、コントロールが怖いくらいバッチリというか……」
アンの知るニャオハのこのはとは、とにかくフィールド中にエネルギー葉をばら撒き、数の暴力を叩き付けるものであった。
しかし今ニャローテが発動させているエネルギーの葉の数々は、ニャローテの思考により完璧に制御されているのが分かる。
「進化によりこのはもまたパワーアップしたのだろう。技の制御性からしておそらくはマジカルリーフ辺りだと思うが、どうだろうか?」
アメジオに問われたフリードは無言で頷く。
ニャローテが地面に着地する一瞬が勝負どころであり、目が離せなかった。
「テラスタルパワー、全開……!!」
ググ、とオコリザルは両足の踏み込みを強める。
ニャローテが着地をした、その瞬間だった。
「必殺!! 天空×字拳ッ!!!」
「むきあああああッ!!!」
両足を踏み込み、溜め込んだパワーを解放。オコリザルはニャローテめがけ渾身の突撃として踏み込んだ跳躍から地面と並行する形でかっ飛ぶ。
「ニャローテ!! マジカルリーフ・ブレード……『牙突』ッ!!!」
「にゃろあああああッ!!」
着地と同時に深く腰を落とし、刃の切っ先を相手に向ける。その峰に軽く右手を添えた状態からニャローテは一瞬で詰めて突進。
オコリザルと共に互いを間合いに捉えた!
「「いっけぇぇぇッ!!」」
全てを賭けた決死の一撃、先んじて叩き込まれたのは……
「む、むきあ……」
ニャローテの平刺突だった。
くさエネルギーを束ねて生成した剣の切っ先が、オコリザルのクロスチョップがニャローテの首筋を撃ち抜くより速く額へ突き刺さっていた。
「効果抜群の技が命中した箇所へ立て続けにテラスタルの全開パワーを叩き込む……か。ニャローテは、リコは、自分でオコリザルの急所を作り出したんだ」
一連の立ち回りは、リコからすれば必死にやっていたらたまたまそうなっただけのものだろうとフリードは思う。
この立ち回りを意識的に出来るようになれば大きく化けるだろう。リーグを目指してジム巡りを重ねている旅のトレーナーたちであってもなかなか狙ってやれるものではない。
『こりゃあお前らもうかうかしてられんぜ? マフィンたちよ』
他地方交流でカロスにいる3年のマフィン、アローラにいる2年のホタルら3人の上級生たちへフリードは思いを馳せていた。
1年生たちの、特にリコの成長スピードにはそれだけ目を見張るものがあるのだ。
ニャローテが突き刺したくさのエネルギー剣は、ダメージを与える役割を果たしたことで風に舞い散るように消えてゆく。
「む……き……きッ……!」
『すてみタックルの反動に加え、インファイトを仕掛けたことによる防御力低下、そこに効果抜群のアクロバットによりダメージが深く急所となった額めがけ、テラスタルと特性『しんりょく』により増強されたくさエネルギーを立て続けに叩き込まれた……か』
オコリザルのクロスされた両拳がニャローテの首を射抜くことは叶わないとボタンは認めたくはない確信とともに分析をする。
嫌な確信ほどよく当たるもの……ニャローテがバックジャンプでニュートラルポジションまで飛び退く中、オコリザルはその場で体をよろけさせ、仰向けに倒れ込む。
頭のテラスタルジュエルも消失し、完全に目を回していた。
「オコリザル、戦闘不能! ニャローテの勝ち!! よって勝者、セキエイ学園1年リコ選手!!」
「リコちゃーん! おめでとー!!」
「大したやつだぜおめぇはよ〜!」
「はぁ……はぁ……デンサちゃんに、オリくん」
「にゃろん」
勝ち名乗りを受け、どっと疲れが来たリコの精神に潤いをもたらすのは声援をくれたセキガクの仲間たち……それもバトル部のみんなだけではなかった。
クラスメイトとしてまだほんの2ヶ月ほどでしかないが、確かに同じ学び舎で過ごして来た面々からの祝福に、リコは汗を拭うのも忘れ、自然と両手をグッと突き上げていた。
「「「「「オオオオオオオッ!!」」」」」
ニャローテもリコに倣っての勝利パフォーマンスに、拍手喝采が巻き起こる。
死闘を乗り越え、その果てに勝つ……かつてない快感と達成感がリコの全身を駆け巡った。
「ビワ姉、ごめんなさい……うちの指示が短絡的過ぎた」
「ううん。ボタンちゃんは悪くない。セキガクの仲間たちの声援パワーを受けたリコちゃん相手に押し負けたわたしがまだまだなだけ」
オコリザルを回収してベンチに引き上げ、ボタンからの謝罪をビワは制する。
敗れながらも真正面からのファイトを戦い抜いたことでどこかスッキリした面持ちだ。
「声援ならウチだって負けてなかっただろ?」
「うん。そこは絶対そう。それでも駄目だったのはやっぱりわたしの力不足だよ」
オルティガに力なく肩を竦め、頷いて見せる。
ビワは、3年生として声援を受け慣れている自分と受け慣れていないリコで、体から湧き上がるパワーの質に違いが出たのだろうと思う。
どちらも背に受ける声援は同じ、心のどこかで自分は皆のエールを『当たり前のもの』として受け取ってしまっていた……それががむしゃらになりきれたリコを相手に競り負けた要因なのだ。
ビワは、負けるべくして負けたのだと改めて自認した。
「にしてもさ、コレが練習試合でよかったじゃん。足りないところがあるなら本番までに補強すればいい、だろ? ビワ姉」
『DJ悪事』の別名とともにチームのBGM担当として軽い調子で話すがその論点はブレることなく、決して間違ったことは言わない。根がどこまでも真面目な好青年なのだ。
故にピーニャはスター団のまとめ役として機能し、皆から絶大な信頼を集めている。
「うん……」
同学年同士、同じボス同士、ビワとピーニャに余計な言葉は必要なかった。
「リコ! マジナイス〜!!」
「アン!」
ベンチに引っ込んだリコは、飛び込んできたアンとハグをする。
互いにユニフォームへ染みついた汗の匂いなどは、試合を終えたことによる高揚感の前には取るに足らないことだ。
「凄かったよリコ!」
「ありがとうロイ!」
ロイとも笑みを交わす。
「ニャオハが上手いこと進化してくれたおかげで相手の目測がいい感じにズレた……偶然だろ」
「にゃろぉ……」
「それ言ったらドットはエク学戦も似たようなモンだったじゃーん」
「ぐッ……!」
ドットの尖った口からはまぐれ勝ちだろうが、という毒が吐かれる。
ニャローテが『なんだ? やんのか?』と睨むが、アンがケラケラ笑いながら痛いところを突くのでそっぽを向くよりなかったドットの有様に溜飲を下げた。
「ニャローテが頑張ってくれたのはその通りだし、それに、みんなの応援があったから勝てたんだよ」
偶然だ、というドットにリコは肯定をする。
試合中の進化に、仲間や外野からの声援……どれが欠けていても試合に勝つことは出来なかったと素直に認めた。
「ふん……!」
自らをまだまだだと認識できる謙虚さもまた、ドットからしてリコが気に入らない理由の1つだった。
「おーい! そろそろ控え戦始めるぞー!」
「あっ……」
審判サークルよりキハダ先生が呼びかけるのでリコたちは我に帰る。
団体戦としてここまで1勝1敗1分け、しかも公式戦方式というので控え同士による勝敗決定戦があるということ……。
ベンチから立ち上がり、歩を進める漆黒のユニフォームに事情をよく知らないセキガク生徒の外野がどよめく。
「なんだあいつ? あんなやつウチにいたか?」
「なんでもこっちは人数足りないからって、エクシード学園から補充で来たんだとよ」
「男前だわぁ〜!」
オリが周りに事情を説明するのをデンサはほとんど聞いていない。ただただアメジオの顔面に魅入られていた。
ともあれリコたちの側で試合をするならば味方として扱うのが筋であると早々に収まるのは、アメジオの放つ空気の爽やかさがよからぬ企みとは無縁であるように見えたからだ。
「アメジオ……」
「分かっている。数合わせとはいえ同じチームとして加わり、試合とあらばライバル校でいずれ争うからという話などは関係ない。それに……」
「それに?」
「胸のすくいいバトルを特等席からたくさん見せてもらったのだ。その返礼として、今の俺の持てる全力で以てきみたちに勝利を届けたい。心の底からそう思っている」
若干色素の薄い肌をどこか紅潮させ、口元を釣り上げて見せてからアメジオはトレーナーサークルへと向かう。
「頑張れ! アメジオ!!」
ロイのエールに、アメジオはフィールドを向いたまま右腕で力こぶを作って見せた。
「任せてくれ!
なんとも清々しい気持ちでベンチを出た。こんな経験は初めてだった。
少なくとも、エク学では味わったことのない高揚に、アメジオの胸は高鳴った。
「両チームともに1勝1敗1分けのため、公式ルールに則って控えメンバーによる勝敗決定戦を執り行う!!」
「お互い負けられない同士……思いっきりやり合おうじゃん!」
「無論! もちろん!! とことんまでに!!!」
「これより控え戦! エクシード学園1年アメジオ選手vsオレンジアカデミー3年ピーニャ選手の試合を行う!! ルールはシングルバトルと同様!!」
キハダの進行に合わせ、ピーニャは時計をイメージしたデザインが特徴のタイマーボールを構える。
「会長がいないんで生徒会のあれこれに追われて部に来れなかった分、たくさん暴れさせてもらうよ! キリキザン!!」
「きぃりぃッ!!」
「ゆけッ、ソウブレイズ!!」
「ぅぶれいッ!!」
「それではッ!! 試合開始ィィィッ!!」
ピーニャが繰り出すのはとうじんポケモンキリキザン。対するアメジオはソウブレイズ。
両者がニュートラルポジションにて睨み合えば外野のボルテージがまたぞろぶち上がる。
団体戦の勝敗を分ける最終戦が、今始まった……!
『ピーニャ』
18歳。オレンジアカデミー3年生。スター団あく組『チーム・セギン』ボス。
副部長としてチーム全体のまとめ役を担当する。いい感じのBGMでみんなを盛り上げたりもする。
真面目な勉強家でもありあくタイプの扱いも勤勉の賜物だ。