SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 シングル1はリコが応援パワーを受けて競り勝ち、団体戦は1勝1敗1分けとなった。
 全体の決着をつけるべく控え選手が立つ。アメジオの出陣であった。


灼熱! 炎のライバルアメジオ

「ほのお、ゴーストタイプのソウブレイズとあく、はがねタイプのキリキザン……互いに弱点を突き合える形のマッチアップだな」

 

「でもテラスタルを考えたらその辺のタイプ相性も変わってくるんでしょ?」

 

「そうだな」

 

 フリードはアンに頷く。

 アメジオのソウブレイズが、セキガクバトル部との練習試合の時よりまた一段とレベルアップしているのが分かった。

 なにより、整っているアメジオの顔付きが、勝敗のかかった盤面を任されたことでより精悍になっているようにもフリードからは見えた。

 

 

 

「それにしてもマジボ……ボタン殿。エクシード学園の戦力も吟味できるとは僥倖でござるな」

 

「だね。正直嬉しい誤算だよ」

 

 ボタンとしては、テラスタル研修を目的とした合宿に来ているエクシード学園へ練習試合を申し込む選択肢も存在はしていた。

 セキガクとの2択でそれを排除するきっかけとなったのは、エク学の生徒たち……主にサンゴやオニキスはもちろんのこと、彼らを率いる監督のこちらを見下しているようないけすかないツラ構えと態度にあった。

 スター団とは元を正せばいじめられっ子が救いを求めて団結した集団であり、そういった他者からの視線には敏感なのだ。ボスたち5人も満場一致で気持ちは同じだった。

 ボタンたちより振るい落としをされた当のスピネルからしたら『天下のオレンジアカデミーが我らエクシード学園に恐れをなして敬遠をした』と見当違いの自己満足に浸るのみであったが、視界を逸らした時点でスター団の興味はスピネルごときにはもうなかった。

 

『あのアメジオってのは他の連中とは違うみたいだ』

 

 振りまく爽やかな空気だけではない。ひたむきに強さを追い求める芯の強さが、ボタンには好印象だ。

 それだけに『勿体無い』とも思った。

 

「あの子たちといる方が馴染めそうなんだよなー……」

 

「ボタンちゃん?」

 

「ん、なんでもない」

 

 思わず溢れた呟きには、実感がこもっていた。

 

 

 

「コニア、分かるか?」

 

「えぇ……アメジオ様が、燃えている。あんなに活き活きした表情、初めて見るわ」

 

 ジルとコニアは生徒というよりはエクスプローラーズの幹部であるハンベルの命で派遣されたアメジオの世話係だ。その行動指針としてもアメジオの行く道に随行するのが大半である。

 そんな2人が普段見るアメジオの表情は、その悉くが強張った仏頂面だった。

 ほとんどチンピラと変わらないサンゴの蛮行の尻拭いに走らされ、嫌味なスピネルのおべっかを浴びせられる日々のアメジオにとって、ポケモンバトルこそが数少ない至福の時だと知っていた。

 それであるにしても、いざ試合に臨むアメジオの横顔がこうまで晴れやかに見えたのは、世話係として側に張り付いているが故に分かったことだ。

 

 

 

「ソウブレイズ! いけッ!!」

 

「ぶぅれいッ!!」

 

 ソウブレイズが真っ直ぐ走り込み、両腕のほのおとゴースト、自らのタイプであるエネルギー剣を力一杯叩き込む。

 

「ぐうッ……!」

 

 キリキザンは前腕部の刃で受け止めるもピーニャは面食らった。

 

『こいつ、見た目よりずっと情熱的じゃんか!』

 

 

 

「アレが、アメジオの本来の戦い方……?」

 

「あぁ。クールさと熱さを兼ね備えた、ポケモンバトルの妙味に病み付きなファイター……それがアメジオさ」

 

 フリードが語るのに、やはり手合わせをした時の自分はろくに実力を引き出せてはいなかったのだとリコは思った。

 両腕のエネルギー剣をガンガン打ち付ける押しの戦法は、シックなソウブレイズのフォルムとは裏腹にとても晴れやかであった。

 

 

 

 キリキザンを押しまくるソウブレイズ、アメジオの気分は高揚していた。

 エク学のチームメイトたち相手には湧き上がることのないセキガクメンバーたちが共有する熱い思いにアテられていた、と言っていい。

 

『彼らの中には、俺たちエク学の間には到底生まれやしない力が芽生え始めている。それは……』

 

「いつまでも好きにはさせないよ! キリキザン! いちゃもんつけちゃって!」

 

「ききき! りぃりぃりぃ〜!!」

 

 互いに両腕の刃を打ち付け合う中、キリキザンがなにやら捲し立てるのでソウブレイズの太刀筋が止まってしまう。

 

「剣の連撃を封じられた……!?」

 

 セキガクメンバーの熱さにのぼせ上がっていたことを理由にはしたくなかった。アメジオにとって、彼らのムードは好ましいものであるからだ。

 

「今がチャンス!」

 

 ソウブレイズの攻め手が緩んだところでキリキザンはバックステップ。

 ピーニャはテラスタルオーブを構え、振りかぶる。

 

「テラスタルスタンバイ! 一気にチルアウトさせてやるよ!!」

 

「くッ……!」

 

 ピーニャが投げ込む姿勢に入ったタイミングでアメジオもテラスタルオーブを取り出す。

 

「我が道を貫け! ソウブレイズ!!」

 

「遅いねッ!!」

 

 釣られた形の後追いテラスタルに、ピーニャは勝ちを確信した。

 

 

 

「マズイよ! あれじゃあ先にテラスタルを完了させたキリキザンに先手を取られちゃう!」

 

 ロイの言はピーニャの確信の根幹を突いていた。

 

 

 

『おかしい、あまりにも場当たり的すぎる』

 

 ボタンの第6感、勝負師としての直感が告げていた。

 そしてすぐにその狙いに辿り着いたが、その時にはもういかにもワルという形相の紋様を浮かべるあくテラスタルを発動させたキリキザンがソウブレイズめがけ走り込んでいた。

 

「ピーちゃんッ!!」

 

 

 

『見ててよマジボス、こいつでフィニッシュだ!!』

 

 テラスタルジュエルが輝きを増せば、キリキザンの両腕の刃に真っ黒なあくタイプエネルギーが纏われてゆく。

 もとより自慢の高い攻撃力とタイプ相性を活かして一気に勝負を決めにかかった。

 

「テラスタルパワー、全・開! 怒涛のレクイエムをプレゼント!! キリキザン、つじぎり!!」

 

「きりぁぁぁッ!!」

 

 跳躍からの急降下で勢いをつけながらキリキザンは両腕を振り下ろす。

 ゴーストタイプはあくタイプに弱い。テラスタルによりあくタイプエネルギーが強まったキリキザンの斬撃をソウブレイズが受け止めるのは無理な話であった。

 ゴーストタイプで、あったなら……。

 

「ぶれいずあッ!!」

 

「な、なにィッ!?」

 

 仮に剣でガードをしたところでタイプ相性の観点からガードごとキリキザンの太刀筋の前に沈む、というのがピーニャの予測だった。

 が、ソウブレイズはキリキザンの両腕の刃をしっかりと受け止めている……!

 

 

 

「ピーちゃん! 一旦キリキザンを下げて! 体制を立て直すんだ!」

 

 ベンチから声を張り上げるボタンだったが、そこを逃がすアメジオではない。

 

 

 

「きりあ〜ッ!!」

 

「キリキザン!?」

 

 キリキザンの両腕の刃が突如発火するのでようやくピーニャはアメジオ側の狙いを把握した。

 ソウブレイズの頭に被るテラスタルジュエルは……

 

 

 

「「ほのおテラスだーッ!!」」

 

 アンとロイが同時に叫ぶ。

 

「あのピーニャって3年生、ソウブレイズのテラスタイプをゴーストだって読んでたんだろうな」

 

 ドットがピーニャの想定を正確に言語化して見せる。

 テラスタルによりソウブレイズはほのおのみの単タイプとなり、キリキザンのあくタイプ技を効果抜群で受けなくなったのだ。

 

「言ったろ。あいつはクールさと熱さを兼ね備えてる、って」

 

 アメジオの『後の先』を突く見事な立ち回りにリコは圧倒された。

 同時に、自身の目標が明確に見えた気がした。

 

『私は、あの人に……勝ちたい!』

 

 

 

 灼熱のほのおテラスが輝きを増す。

 ここで決めにかかるという意思は、アメジオもまた同様であった。

 

「ソウブレイズ! 今こそ勝利を掴む輝きを放てッ!!」

 

「そぶるぅぅぅぅぅあ……!!」

 

「く、くそう、まだまだ……!」

 

 マジボスの指示は聞こえていたピーニャが仕切り直しとしてキリキザンを引っ込めようとボールを構えた時だった。

 ソウブレイズのテラスタルジュエルが砕け、真っ赤な粒子がエネルギー剣へと収束していけば、

 

「テラスタル・フルパワー!! ソウブレイズ!! テラバーストォォォォォ!!!」

 

「ぶぅれぃずあああああッ!!!」

 

「き、ききりぃ!?」

 

 ソウブレイズは力の限り両腕を振り下ろす。

 エネルギー剣より放たれた灼熱の『飛ぶ斬撃』は、ピーニャの構えたボールが回収光線を放つより先にキリキザンを呑み込んだ。

 テラバーストの一撃がフリード直伝のものであるのは、フリードとアメジオのみが共有している話だった。

 

「ざっはぁぁぁ〜ッ!!」

 

「キリキザーン!!」

 

 テラバーストが直撃し、エネルギー爆発を受けたキリキザンのボディはピーニャはもちろんのこと、スター団のベンチの背後の外野が群がり、事実上応援席と化していたエリアまで吹っ飛び、背中から地面に墜落をする。

 

「みんな離れる! 触らないように!」

 

 審判としてキハダ先生はすぐさま走り、周囲の生徒たちに呼びかけながらキリキザンのもとへ駆け寄る。

 

「き……り……きぶりぁッ!!」

 

 キハダのポケモンチェックが入る中、キリキザンは両腕で体を起こそうとするも力が入り切らず、テラスタルジュエルが霧散。そのままぐったりと倒れ込み、目を回した。

 

「キリキザン、戦闘不能! ソウブレイズの勝ち!! よって勝者、エクシード学園1年アメジオ選手!!」

 

「「「「「オオオオオオオッ!!!」」」」」

 

 キハダが最後のジャッジを下せば、セキガク生徒たちはこの日1番の大歓声をあげた。

 

 

 

 控え戦が終われば両チーム共に選手がフィールド中央に整列をする。

 たとえどんなにちっぽけなコートだろうと、たとえどれだけ弱小だろうと、試合をする前とした後にはやらねばならぬことがある。

 

「公式ルールに則った実戦形式の練習試合は控え戦含めて2勝1敗1分けでセキエイ学園&エクシード学園連合チームの勝ちとする! 両チーム整列……礼ッ!!」

 

「「「「「ありがとうございました!!」」」」」

 

「「「「「ありがとうございました!!……からの、お疲れ様でスター!!」」」」」

 

 両チームの礼に合わせて外野は惜しみない拍手を送る。

 スポーツマンシップに則り、正々堂々全力を尽くした選手たちをチームの境なく讃えていた。

 

「負けたよ。完敗だ。こりゃあ1から鍛え直しだね」

 

「チーム・セギンのあく技の冴え、見事でした」

 

 ピーニャからの握手の申し出にアメジオは快く応じる。

 チームメンバーもピーニャが完敗と明言する以上、生徒会の助っ人に出向いていたことによる練習不足を口に出すのは逆にボスの面子を潰すことになると押し黙っていた。

 

「おい、ロイ。お前ら絶対全国まで来いよ。その時こそはオレたち、負けねェからな」

 

「次に勝つのは僕たちさ! 今よりもっともっと強くなるんだ!」

 

「それは厄介なことにござるな」

 

「厄介なことになるよ〜?」

 

 ロイとメロコが意気込みをぶつけ合う中、アンとシュウメイも再戦の舞台へと思いを馳せる。

 

「次にやる時こそオレたちも白黒つけるぞ」

 

「言われなくてもそのつもりだよ、お坊ちゃん」

 

 引き分けとなったドットとオルティガも気持ちは同じ。『次は勝つ!』としかない。

 

「みんなバチバチしてていい感じ!」

 

「そうですね」

 

「じゃあわたしも一緒に言っとくよ。リコちゃん」

 

「は、はい!」

 

「今度はわたしが勝つからね」

 

 ビワが右の拳を突き出してくる。

 かくとうタイプ使いらしいコミュニケーションだと思いながら、

 

「私も、負けません!」

 

 コツンと拳を合わせた。

 

「では、俺はこれで」

 

「エク学も頑張ってよね! 全国でまた勝負だ!」

 

 アメジオがピーニャへ軽く一礼し、制服を回収済みで待つジルとコニアのもとへ戻ってゆく。

 

「あの、アメジオ!」

 

 その背中に正体するよう飛び出し、リコは呼び止めた。

 

「どうした?」

 

「私……絶対みんなと全国大会まで勝ち進みます」

 

 心臓がバクバクと激しく鼓動する。

 左胸をギュ、と掴みながら、乾いた唇をリコは動かし切った。

 

「全国で、私はあなたに勝ちます! そして……全国制覇は、私たちセキガクがします!!」

 

 それは、紛れもない宣戦布告。

 リコからの挑戦にアメジオは軽やかに振り向いた。

 挑みかかる相手には全力で以て応対するべしと父母より教えられ、自分自身の意思からその教えに納得し、実践しているからだ。

 

「その言葉、しかと聞き届けた。俺たちが次会う時は、全国の舞台でやり合う時だ!!」

 

 爽やかな笑みに、ビュワリ! 爽やかな風が待ってましたと吹き抜ける。

 

「その時を楽しみに待っているぞ、リコよ……そしてセキエイ学園の勇士たちよ」

 

 真正面からリコの挑戦を受け、再び背を向け歩き出す。

 

「次の全体練習からはチームワークの強化を重点的に行う。ジルもコニアも手を貸して欲しい」

 

「「はい! キャプテン!!」」

 

 年下の主将なれどジルとコニアの2つ返事に迷いはない。主命である以上に2人はアメジオという青年に惹かれているからだ。

 ジルから受け取ったジャケットを肩にかけ、袖を風になびかせ歩くその表情は晴れやかで、口角を吊り上げる様が爽やかであった。

 エクシード学園の面々を見送るリコの右の肩にアンがそっと手を置く。

 

『よく言った!』

 

 口が語らずとも瞳で伝わるのは、ルームメイトだからこそであった。

 

「全国制覇は私たち……か」

 

 リコの宣戦布告は、スター団の闘志にも火を付ける。

 

「うちらもやる時はやるしかない、そうだよね、ブイブイたち」

 

 ボタンは、そっとボールホルダーにセットしたボールを撫でた。

 

 

 




 『ボタン』
 13歳。オレンジアカデミー1年生。
 アカデミーのバトル部ことスター団のマネージャーを務める女の子。
 チームの皆が絶大な信頼を寄せるのには何か理由があるみたい…?
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