SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 リコとアンが自主トレの最中、野生のパモが現れた。
 パルデア地方と言ったらというくらいに憧れのパモを、アンは見事ゲットするのであった。


テレビの向こうのエキスパートたち

 ガラル地方シュートシティ。

 この地でポケモンバトルの道を志すならば誰しもが目指す『夢の終着点』。

 その象徴として在る『シュートスタジアム』は、サトシ世代が台頭する28年前はおろか、チャンピオン世代が産声を上げたポケモン歴1972年より健在で、築年数は80年を越えている。

 ガラルのバトル文化の象徴として定期的な改修工事が重ねられ、現在も変わらず死闘の舞台として利用され続けていた。

 

 

 

『全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様、こんばんは! 本日はPWCS……ポケモンワールドチャンピオンシップス・マスターランクの試合をお送りします! 実況は私はジッキョー! 試合の解説と素敵なゲストとして、こちらシュートスタジアムの放送席にはこのお二方にお越しいただきました!』

 

『こんばんは。カントー地方トキワジムのジムリーダー、シンジです。よろしくお願いします』

 

『こんばんは! 俺、マサラタウンのサトシ! こいつは相棒のピカチュウ! 今日はよろしく』

 

『ぴっ、ぴかちゅう!』

 

「あっ、シンジさんだ!」

 

「チャンピオンサトシ……!」

 

 試合の中継が始まり、顔見知りの相手が出て来たロイと、憧れのスター選手が出て来たドットはそれぞれ目を輝かせる。

 ドットとしては夕飯に誘われていなければ1人、ホテルの自室でこの試合を見る予定ではあった。ホテルのビュッフェとは違うタダ飯に誘われてホイホイやってきたに過ぎない。

 アンは、普段仏頂面がデフォルトになっているドットがあからさまにテンション上げているのがおかしくてツッコミを入れたくて仕方がなかった。が、下手に触れるとろくなことにならないから、とリコの制止を受けていた。

 

 

 

「お二人とも、本日はよろしくお願いします。シンジさんは就任以来、一度たりともバッジの進呈を行なっていない『難攻不落のジムリーダー』として有名ですが……」

 

「挑戦者がぬるい連中というだけです。ぬるい奴らに温情をかけて通したところでリーグの舞台でやっていけるはずがない」

 

「相変わらず厳しいなぁ」

 

「ぴかぁ〜……」

 

 オープニングトークにて、いきなりシンジの毒が吐かれるのでサトシは苦笑い。眉が八の字になる。

 サトシとてシンジの在り方はジムリーダーとして真摯で、真っ当であることは理解している。それにしても言葉のエッジが効きすぎているとは思うが。

 シンジも左隣からのサトシの言葉に特に反応を示すことはない。誰に何を言われようとも思想や方針を変える気はないという強固な意志こそが自身のアイデンティティであり、力の根元であると理解しているからだ。

 サトシとシンジ……バトル界を牽引するトップエキスパート同士のライバル関係を推すファンならば周知である28年間の中でずっと続いている距離感がそこにあった。

 

「チャンピオンサトシは肩書きの通り、ポケモン歴1997年に発足したアローラ地方ポケモンリーグの初代チャンピオンに就任し、現在もタイトルを保持。同年、戴冠後に挑んだPWCSでは1982年から14年間王座を保持して来たチャンピオンダンデより王座を奪取。ブラックナイト事件の影響を受けて3年の自粛期間を経て復活開催された2000年度大会でも再度チャンピオンダンデを下し、そこから20年間王座を保持し続けていました。2020年度大会を最後にPWCSにおいては大会からの完全撤退という形で王座を返還し、現在はアローラチャンピオン1本で活動しております」

 

「悪くない判断だ。惰性でぬるい奴らとやり合い続けていたら精神から堕落していくからな」

 

「そういう言い方はよせよ」

 

「堕落した奴を叩きのめしたところでなんの自慢にもならんからな」

 

 アクセルベタ踏みともいえるトークに対してたまらずサトシが嗜めるも、シンジは変わらず意に介していない。

 歯切れの悪さにシンジの言を否定しきれないところが見て取れるのも、サトシという人物が汚い嘘とは無縁で潔白な人となりをしている証左であった。

 

「さてさて、1997年度デビューのいわゆる『黄金世代』を代表する2大巨頭をお招きしておりますが、お二方は今回の試合を事前段階としてどう見ておりますでしょうか?」

 

「パルデアの新しいチャンピオンランク保持者がガラルの絶対的なグレートチャンプに挑む構図……それ以外に思うところはないですね」

 

「オモダカがわざわざパルデアの外に連れ出して来たくらいなんだ。きっと凄い奴なんだろうなぁってワクワクしてます!」

 

「ぴかぴ!」

 

「おっ、出て来たか!」

 

 客席からの歓声を素早く聞き付けたピカチュウと一緒にサトシは身を乗り出し、窓ガラスに額を擦り付ける形でフィールドを見下ろす。

 

『あの娘の放つ覇気は……!』

 

 そんなサトシの無作法に思うところがないではないが、それよりずっとシンジの目はフィールドに姿を現す人影に向いていた。

 

 

 

 上下黒のパンツスーツに金色のネクタイ、青い手袋に黒い革靴というコーディネートでスラリとした印象を与える金色と青色のメッシュが入った長い黒髪の女性が右側に付き従う少女の肌はやや浅黒く、鼻の辺りにあるそばかすは若さの象徴だろう。

 オレンジアカデミーの夏服に黒いタイツと赤色のスニーカーを合わせ、バッグは斜めがけで後ろに回している。

 オレンジ色の瞳は爛々と輝き続け、ひたすらに一点のみを見つめていた。

 反対側の入場口よりやってくる予定の対戦相手を今か今かと待っているのだ。

 

『今年トレーナーデビューを果たしてから4月のうちにパルデア地方8つのジムを突破し、5月にチャンピオンテストをクリア! すぐさまPWCSにも名乗りを上げてランクマッチを繰り返し、瞬く間に現在ランク7位まで押し上げて来ました! オレンジアカデミーにて生徒会長を立派に務めますは、パルデア地方からやってきた『無限進化(インフィニート・エボルシオン)』!! チャンピオンランクネモ選手、シュートスタジアムに見参です!!』

 

「この人が、オレンジアカデミー本来の生徒会長」

 

 スター団のピーニャが生徒会に出入りしていた理由、その張本人だとリコは頭の中で点と点が繋がっていた。

 学生レベルを優に飛び越え、正真正銘エキスパートたちが集う世界でトップを争う逸材なのだ。

 

 

 

「「「「「ダンデ! ダンデ! ダンデ! ダンデ! ダンデ!」」」」」

 

「来た来た! 来たねトップ!!」

 

「来ましたね」

 

 ネモが傍のオモダカに話しかければ相槌が返される。

 ハイテンションのままに瞳を爛々と輝かせるネモを、オモダカは頼もしく見ていた。

 

『チャンピオン世代筆頭として、齢53を迎えてなお老いることを知らず!! 現在も変わらずガラルリーグの頂に君臨するはグレート・チャンプの佇まい!! 『無敵の男』ガラルチャンピオンダンデ、パルデアからやって来た超新星をホームにて迎え撃ちます!!』

 

 ズボンに書かれる背番号『1』は文字通り頂点の証。

 菫色のロングヘアーに金色の瞳の精悍な顔立ちで、牙のような形に整えた顎髭を生やした男は威風堂々とフィールド上に姿を現せば、

 

「「「「「ワオオオオオオオッ!!」」」」」

 

 両足を軽く開き、左手の親指、人差し指、中指を立てながら腕をまっすぐ上に伸ばすお馴染みの『リザードンポーズ』を披露するので客席からの歓声を独占して見せた。

 

「これよりPWCSランクマッチ、ガラルチャンピオンダンデvsパルデアチャンピオンネモの試合を行います! 試合方式は6C3D! 各種切り札システムはどれか1つを1度のみ使用可能!!」

 

「よろしくお願いします!」

 

「おう! よろしく頼むぜ」

 

 握手とともに挨拶を交わす。

 礼儀正しく一礼するネモにダンデは笑みを向け、鷹揚に返して見せてからそれぞれトレーナーサークルへ入ってゆく。

 

『ネモ……彼女こそまさしく次代のパルデアを牽引する希望の星。こんなに早くにチャンピオンダンデほどの相手とマッチングが成立するとはまさに僥倖』

 

 ネモ側のベンチに入るオモダカだが、特段アドバイスの類を送るようなことはしない。

 自分より実力上位の相手にそんなものは必要ないからだ。

 

『バリアフィールド展開ののち、人工ガラテラ粒子を散布します』

 

 フィールド上空を飛び回るドローンロトムからの通達通りに天井から客席最前列のフェンスへと不可視のバリアが張り巡らされ、フィールド内にこれまた不可視の粒子がばら撒かれてゆく。

 地域によって縛られている一部切り札の使用制限を解放するために発明されたのが人工ガラテラ粒子で、2000年の導入から25年経った現在でも公式戦において使用され続けている。

 

 

 

「無敵のダンデか、無限進化のネモとかいう娘、か……」

 

 覇気としては今のところダンデが大きく上回る。とシンジは見て判断する。

 しかしこれはポケモンバトル、トレーナーが強靭な心身を作り上げるのは必須ではあるが、あくまで実際に戦うのはポケモンなのだ。

 

 

 

「ゆけッ!!」

 

「うほーッ!! ほッほッほーッ!!」

 

「いくよ、ウェーニバル!!」

 

「うぇーーーい!!」

 

 

 

『チャンピオンダンデの先発はドラマーポケモンゴリランダー! チャンピオンネモの先発はダンサーポケモンウェーニバルです!!』

 

「互いにガラル、パルデアの初心者ポケモン最終系を繰り出してきたか」

 

 注文したメニューが届けられる中で受け取りながらフリードが呟く。

 

『うほうほうほほーーーッ!!』

 

 画面の向こうではダンデの脱ぎ捨てたマントが宙に舞い、風に流されて彼方へ飛んでゆく。

 ゴリランダーが早速スティックで前方足元に置いた切り株ドラムを叩けば、フィールド中が瞬く間に緑溢れる空間へと様変わり。

 

「あのゴリランダー、なにをしたの!?」

 

 バトルが始まる前の出来事にロイがドライカレー用のスプーンを落としかける。

 リコたちに運ばれてきたのはそれぞれドライカレーにシーザーサラダ、ハンバーグ&ミックスフライで全て特大サイズだ。

 外食といえど食事トレーニングはせねばならない。ポケモントレーナーは体が資本なのだ。

 

「おそらくはグラスメイカー……登場してすぐにグラスフィールドを展開する特性が発動したんだろう」

 

「ゴリランダーの特性って、しんりょくじゃあないの?」

 

「隠れ特性ってやつだろ」

 

 フリードが答えるのでアンが問いを投げ掛ければドットが呟く。バトルに関することはそれなりに知識を頭に入れてあった。

 

「ドットの言う通りだ。ポケモンたちの中には、本来とは違う特性を持つ個体も存在する。特性が違うってことはバトルにおける立ち回りも変わる。特性の違い次第じゃ、ほとんど別のポケモンを相手するようなもんだろうな」

 

 隠れ特性のポケモンは同種の中でも警戒心が強くなりがちでそう簡単に見つかることもないが、とフリードは付け加える。

 リコは、こうして真剣なポケモンバトルの中継を見ること自体が初めてのことだった。

 両親はバトルに関心がなく、試合中継を見ながら食卓を囲むなどもルッカが家を空けたままでありそれまで経験してこなかった。

 バトルの内容よりも、気心知れた仲間たちと食卓を囲みながら試合を見る体験の方がよほど心躍るほどだった。

 

 

 

「それでは! 試合開始ィィィッ!!」

 

「先手必勝! ゴリランダー! グラススライダー!!」

 

「うっほぉーい!!」

 

 

 

「ゴリランダー先攻! グラスフィールド下で巨体を滑らせるヘッドスライディングだーッ!!」

 

「グラスフィールド状態でのグラススライダーは先制技となり、パワーファイターであるゴリランダーが持つ弱点のスピード面をカバー出来る」

 

「セオリー通り、だからこそ強力なコンボってやつだな」

 

「ぴかぴか」

 

 試合が始まってしまえば互いのライバル心は一旦引っ込め、実況解説の中で会話を交わしてゆく。

 サトシにしろシンジにしろ、この辺りのスキルもお互い38歳になるまでに身に付けたことだ。

 

 

 

「ウェーニバル! アイススピナー!!」

 

「うぇうぇうぇうぇ、うぇーーーい!!」

 

 右の片足と上半身を水平に保ったまま、Tの字のような姿勢で回転する『キャメルスピン』により、設置している左足からフィールド中に走るこおりタイプエネルギーが瞬く間にグラスフィールドを凍結させてゆく。

 

「うほぁ!?」

 

 ヘッドスライディングでウェーニバルに突撃をかけていたゴリランダーは腹這いのままギョッと地面を見る。

 

『あーッと! ウェーニバルのスケート回転によりフィールドが凍結! グラスフィールドが打ち消されてしまったーッ!!』

 

「ならばッ! ゴリランダー!!」

 

「ウェーニバル!!」

 

「「跳べ! アクロバット!!」」

 

 両者指示が一致すればゴリランダーは腹這いから両腕の勢いを使い、ウェーニバルは回転の勢いのまま跳躍。

 

「うっほほぉーーい!!」

 

「うぇうぇ〜〜い!!」

 

 フィールド中央の空中にて互いの右足を振るい、激しい鍔迫り合いを発生させた。

 

『両者空中激突ーッ!! 効果抜群同士の技のぶつけ合い、競り勝つのはどちらかーッ!?」

 

「うぇッ、うぇいッ……!」

 

 互いの右足をぶつけ合う形から、先に体勢を崩し落下を始めるのはウェーニバル。

 千載一遇のチャンス、見逃すゴリランダーでもダンデでもない。

 

「ゴリランダー! ウッドハンマーを叩き……い、いや……!」

 

 刹那、ダンデが感じ取るは紛れもなく、殺気!

 

「戻れッ! ゴリランダー!!」

 

 攻めの指示を飛ばす間一髪の所で自身の攻め気を翻し、ダンデはゴリランダーをボールで回収するのだった。

 

 

 




 『ダンデ』
 53歳。ガラルリーグチャンピオン。
 人呼んで『無敵のダンデ』。押しも押されもせぬグレートチャンプで様々なバトル大会を成功させる名プロモーターの側面も持つ。
 パートナーのリザードンとともに現在も絶大な人気に翳りなしのスーパースター。
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