そこでやり合うのは無敵のダンデとパルデアのチャンピオンネモであった。
「おおっと? ここでチャンピオンダンデ、ゴリランダーを引っ込めた! 決定的な場面に見えましたがどういう判断なのでしょうか?」
「確かに決定的な場面でしたね」
「うん。流石はダンデさんだ……あそこで引っ込めなかったらゴリランダーはやられていた」
「ぴかぁちゅ」
コメントを残してから、互いに『分かってるな』と不敵な笑みを浮かべるライバル同士。
そんなサトシとシンジの様子を、ジッキョーはキョトンとしながら見ていた。
「うぇうぇい!」
空中で体勢を立て直し、華麗に着地を決めるウェーニバル。
「戻って!」
リズムを刻み出す背中に向け、ネモもボールの回収光線を当ててウェーニバルを引っ込めた。
「ゴリランダーがあのまま殴りかかっていれば、そのパワーを倍返しのカウンター攻撃で返り討ちにする算段だった……違うか?」
「えへへへ……」
ダンデの指摘にネモはニヘラと笑みを浮かべながら答えない。そのリアクション自体が、問いへの肯定を示していた。
『こいつ、思った以上にやるみたいだな』
『流石は『無敵のダンデ』……あっさり読まれちゃってた』
『『一筋縄ではいきそうにない』』
互いに相手への見る目を上方に改め、相応の強敵として認識を改める。
それぞれ次なるボールを構えれば、同時にフィールドへ放り投げた。
「ゆけッ! エースバーン!!」
「ばぁぁにぁ!!」
「いくよ! ラウドボーン!!」
「ぼおおおあッ!!」
『チャンピオンダンデの次鋒はストライカーポケモンエースバーン! 対するチャンピオンネモはシンガーポケモンラウドボーンを次鋒として投入!! これまたガラルとパルデアの初心者用ポケモン最終系同士、ほのおタイプ同士の対面です!!』
「あっ、ねぇねぇ監督! あのラウドボーンってポケモン、もしかして……?」
「あぁ。お前のアチゲータが進化したらラウドボーンになる」
「そっかぁ〜……!」
「しっかり育ててやらなきゃな」
「うん!」
画面の向こうに映るラウドボーン……手足はそのままに口、胴体、尻尾が長く伸びてサイズアップを果たした逞しい姿にフリードからの解答をもらい、ロイは自身のアチゲータの行く末を重ねて目を輝かせる。
口にこそ出さないが、ドットもロイと気持ちを同じくしていた。
ダンデのゴリランダーを相手に立派に立ち回っていたウェーニバルのように、自分のウェルカモも育て上げて見せると思っていたからだ。
「今度はそちらがパワー自慢のようだが、俺のエースバーンを捉えられるかな?」
「捉えて見せますとも! ラウドボーン! シャドーボール!!」
「ぼぼぉうッ!!」
ラウドボーンが頭に乗せた小鳥のような形状をしたオレンジ色の火球、通称『炎の鳥』からゴーストエネルギーの凝縮された弾丸を連射する。
「エースバーン! つるぎのまいッ!!」
「ばんにッ!!」
対するエースバーンが舞うは、『戦いの踊り』。
自らの両足を剣に見立て、流麗な仕草とともに鋭く振り抜いてゆく。
その舞を前に、シャドーボールはことごとくすり抜けていった。
『あーーーッとエースバーン!! つるぎのまいで攻撃力をぐーんと上げながら先制を譲ったラウドボーンのシャドーボールをやり過ごしてゆくーーーッ!! 素晴らしい身のこなしですッ!!』
「身のこなし……じゃあないッ!」
「御名答ッ!!」
即座に解答に辿り着いたネモの前から、エースバーンの姿が消える。
つるぎのまいでステータスを高めた後ならば、本格的な攻めに転じるのは明らかだった。
「ダンデさんのエースバーンは特性『リベロ』……技のタイプに合わせてエースバーン自身のタイプも変わるんだ。それを利用して、ラウドボーンのシャドーボールを無効化したんだ」
「ぴかぴかちゅう」
「そしてまんまとラウドボーンの攻めをやり過ごしたエースバーンが間合いに飛び込み攻勢に出るとなれば、やはりリベロを活かした一手になる」
サトシの言をシンジが引き継ぐ。
エースバーンが攻め立てるに対してのネモの対応をチャンピオンランクとして相応しいか、というよりは、自分の喉元を食い破りに来るだけの器かどうかを2人とも推し量っていた。
「ラウドボーン、起き上がって!」
「ぼいしょお〜ッ!!」
ネモの指示でラウドボーンは四つ足の姿勢から立ち上がり、頭の上の炎の鳥が離れて変形。
スタンドマイクのように地面に突き刺されば、伸びたパイプに見える部分を右の前足で掴む。
シンガーポケモンという分類通りのマイクを手にしたフォルムを見せる。
「おっと、歌わせるわけにはいかないぜ! エースバーン!!」
「ばにぁッ!!」
「ッ!!」
額に稲妻が走る、イメージでしかないが。ネモの気配察知と、出現は、同時!
『あーーーッとエースバーン!!立ち上がったラウドボーンの後ろを取ったーーーッ!!』
炎の鳥のスタンドマイクを握るラウドボーンの目がギョロリと背後を見る時、既にエースバーンは飛び上がり、右足を振り抜くところであった。
「ふいうち攻撃ッ!!」
「ばにッ!!」
『エースバーン渾身のキックがラウドボーンの後頭部に直撃ーーーッ!!』
「よしッ!!」
エースバーンの蹴りにはあくタイプエネルギーが込められている。加えてつるぎのまいにより攻撃力を高めた上での一撃だ。
ダンデは確かな手応えを得ていた。
「ぼうあ……!」
弱点タイプによるキツい一撃にラウドボーンのボディがグラつく。が、
「ほぉー……!」
倒れるまでには至らない、その事実にダンデは目を丸くする。
得意技を放つ直前に攻撃を差し込まれるシチュエーションというのは普通のトレーナーにとっては深刻であり、ここで思考がフリーズしてもおかしくはない。
しかしこのネモは、それしきで止まりはしなかった。
無論、コレしきでフリーズされてもつまらないというのがダンデの思うところではあるが、ネモへの評価をもう1段階アップさせるにはじゅうぶんだった。
それはそれとしてそこはチャンピオンダンデ、すぐさまラウドボーンが持ち堪えた理由そのものにはすぐにたどり着いている。
「ラウドボーン!! 必殺オンステージ!!」
だが、爛々と瞳を輝かせるネモのシャウトと、ラウドボーンの本領発揮の前にはあまり意味のないことであった。
「みわくのボイス!!」
「らうらうらうらうらぁぁぁぁぁ〜〜〜!!」
ゴツいワニのボディとは裏腹に、ラウドボーンの開かれた大口から放たれるは美しいソプラノボイス。
美声をぶつけられ、たまったものではないのがエースバーンだ。
「ばにぁ〜!?」
みわくのボイスによるフェアリーエネルギーの奔流を至近距離から叩き込まれた形となるエースバーンのボディが上空へと打ち上げられてしまう。
「くッ! あんな至近距離じゃあエースバーンにはひとたまりもない……だが!!」
「ばんにッ!」
ダンデが唸るところで打ち上げられたエースバーンも空中で体勢を立て直す。
眼下に見下ろすラウドボーンは、じゅうぶん射程圏内だ。
「打ち下ろせ! かえんボール!!」
いざという時のために忍ばせていた石ころにほのおエネルギーを伝え、発火させる。頭上より脳天を撃ち抜くには絶好のアングルだ。
エースバーンが必殺シュートの体制に入る時には、ラウドボーンは既に『次の一声』の準備を整えていた。
「歌い抜けラウドボーン!! 『絶唱』!! フレアソング!!」
「らうらぁ〜うらぁ〜うらぁ〜うらぁ〜!!」
みわくのボイスの美声とは打って変わっての、成熟した声帯によるパワフルな歌声をラウドボーンは披露する。
その発声に合わせ、炎の鳥から灼熱のエネルギーを纏ったまさしく『火の鳥』が飛び立ち、エースバーンのお腹へ突き刺さってゆく。
「ばんにゃッ……!?」
あとは発火したかえんボールを自慢の右足で振り抜いて蹴り込むだけ、というタイミングを完全に潰されてしまった。
「エースバーン!!」
フレアソングの直撃により発生したエネルギー爆発の黒煙から排出されるようにエースバーンはフィールドへ落着。
仰向けに倒れ込んだまま、完全に目を回していた。
「エースバーン、戦闘不能! ラウドボーンの勝ち!!」
ダンデ、残りポケモン5体。ダウン可能数残り2体。
ネモ、残りポケモン6体。ダウン可能数残り3体。
「ファーストダウンはチャンピオンダンデ! チャンピオンネモ、見事先手を取りました!!」
「あのラウドボーン……『てんねん』だな」
「てんねんとは、特性の方で大丈夫ですか?」
ジッキョーにシンジは首肯をする。
「ダンデさんのエースバーンはつるぎのまいにより攻撃力をぐーんと高めていた。本来ならばアレほど強烈なふいうち攻撃を前にゴーストタイプのラウドボーンが耐えられるはずがない。しかし、それを耐えて見せたということは、事前に発動していたつるぎのまいの攻撃力アップがダメージとして響いていないということ。となればラウドボーンの特性はてんねんだと推察されます」
「なるほど! チャンピオンネモも隠れ特性ポケモンの使い手、というわけですね!」
「おそらくは」
シンジが解説として真面目に仕事をする中、サトシはフィールドのネモへジッと視線をやり続ける。
「ん」
ネモは放送席の方角を向き、褐色に映える白い歯を見せた。
何故だかは分からないが、そうした方がいいと思えた。直感だった。
「……あいつ、『本物』だな」
「ぴかぁ」
ピカチュウの頭を撫でながらサトシは不敵に笑う。
ネモは、サトシの放つ波導をキャッチしたのだ。
『完全にこちらの攻め気を利用された……』
倒れたエースバーンをボールに戻しながらダンデは険しい表情となる。
「らうら、らうら、らうら、らうら、らう! らうら、らうら、らうら、らうら、らう! らうら、らうら、らうら、らうら、らうららう!!」
勝ち名乗りを上げ、テンション高くなにやらハミングしているラウドボーンに、ダンデの表情から険が徐々に和らいでゆく。
数的有利を取られ、強張る心が解されていった。
「いい奴なんだな。お前の主人は」
自然体の闘志を改めて燃やしながら、ダンデは新たなボールを手に取る。
『だが! 俺はまだまだ倒れるわけにも帰るわけにもいかないんだ!!』
ガラル地方のポケモンリーグ史は1982年よりずっとダンデの絶対王者時代が続いている。
その事実は側から見ればダンデの圧倒的な強さを物語るが、当のダンデからしたらいつしか『停滞』という言葉が頭にチラついていた。
ポケモン社会の文化発展による進路の拡充を受け、人々が目指す選択肢を増やしていった、それはいい。
ただ、結果的には社会の発展がポケモンバトルの世界にどっぷり足を踏み入れてくる『逸材』の流入、その母数を減らす形となっていた。
この問題はガラル地方のみならず、全国共通の話だ。
早い話がダンデの君臨しているガラルリーグにあるのは、完全に世代交代に失敗している現状なのだ。
「次はこいつだ! 頼むぜインテレオン!!」
「うぉれぉあ!」
故にダンデは今も戦い続けている。
ガラルの代表としてバトルの魅力を広め、いつの日か目の前に現れる『次世代』の到来を待ちながら。
「よかったよラウドボーン! 交代ッ!!」
「あっと、チャンピオンネモ! エージェントポケモンインテレオンを見てすかさずポケモンをチェンジ! タイプ相性の不利を嫌ったか!?」
「賢明な判断でしょう。せっかく握った数的有利をむざむざ手放すこともない」
「うーん……」
首を傾げながら唸るサトシにジトリとした目つきをシンジは送る。
いくら強さが磨かれようともそれに見合った語彙力が伴っていないのは、他の人から見れば愛嬌にもなろうがシンジからすれば苛立つ悪癖としか映らない。
「なんだ」
「いやさ、このタイミングでタイプ相性を理由に交代するってことは、ネモって娘もインテレオンに有利なポケモンを出すつもりなんだろ? それを読めないダンデさんじゃあないよなって」
絞り出される論理そのものは的を射ているのが及第点ではあるサトシのコメントだ。
『先発にウェーニバル、次鋒にラウドボーンでインテレオン相手にタイプ相性からラウドボーンを下げた、となれば出てくるのは……!』
サトシのコメントはズバリ的中していた。
ダンデのトレーナーIQは、ネモの交代先を予測して見せたのだ。
「お次はこの娘で、いざ勝負ッ!!」
ネモがボールを投げ込み、開かれたボールからポケモンの影が飛び出す刹那だ。
「今だインテレオン!! つららばり発射ぁ!!」
「うッ!?」
「れおおんね!!」
ダンデの指示が飛び、インテレオンは両手の指先に込めたこおりエネルギーを具現化させた氷弾を発射する。
「ぎにゃあああッ!!」
ボールから飛び出し、フィールドに降り立つスタイリッシュな獣人型のポケモンめがけ、つららばりは登場早々突き刺さっていった。
『ネモ』
13歳。オレンジアカデミー1年生。生徒会長。
パルデア地方チャンピオンランク保持者でパルデアNo.1トレーナー。
バトルをこよなく愛しており対戦相手のスキルや育成法をバトルを通して学習し無限に成長進化を繰り返す逸材。