SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 ダンデvsネモ。チャンピオン同士の死闘は続く。
 マスカーニャとインテレオンが壮絶な相討ちに終わるのは、死闘の熱量をさらに高めてゆくのであった。


スパートシンドローマー

「チャンピオンダンデ、リザードンをボールに戻した! が、ポケモンチェンジではない! ということはーッ!?」

 

「ダンデさん、仕掛けにいったか」

 

「くるぞ〜キョダイマックス!!」

 

 頃合いという読みをシンジはピタリと当てた。放送席に呼ばれた立場ながら、ここまで来ればもうほとんど純粋に試合を楽しんでるだけなサトシは目をキラキラと輝かせる。

 

「ぴっかぁ〜!!」

 

 ピカチュウも主人とリアクションを同じくワクワクしていた。

 

 

 

「リザードンの本気をみせよう! キョダイマックスタイム!!」

 

 ダンデが右手に握り込むリザードンのボールがダイマックスバンドと共鳴し、データグリッド状の『ダイマックスボール』へと変化。

 後方へ放り投げる往年のルーティンの中で愛用の帽子が脱げて吹っ飛ぶ様にもダンデは気付かない。

 強敵との死闘は、変わらず重ねてきた。だが新時代を担うに足りるニューカマーの到来は、この25年近くの中で目の当たりにすることはなかった。

 このバトル文化においてはサトシ世代の台頭を頂点とし、マサトやユリーカらの戴冠こそはあったが、それらはあくまでサトシ世代に付随する延長線上の世代でしかなかった。

 ネモこそは緩やかに衰亡を始めたバトル文化の潮流を再び上向きに押し上げる起爆剤足り得る存在とダンデも認めた。

 それはそれとして、真剣勝負なのだ。

 

「ぐる゛う゛う゛う゛ぼあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!」

 

 ダイマックスボールから姿を現すのはまさしくダンデの象徴。

 炎翼を広げるは『無敵の体現』たるキョダイマックスリザードンの顕現だ。

 

「負けてなるものかよッ!!」

 

 ダンデは吼えた。高揚感と、老い始めた身から端を発する若い才能への対抗心がない交ぜとなった魂の叫びだった。

 

 

 

「デカ過ぎんだろ〜!」

 

 キョダイマックスリザードンが画面を占有するのでたまらずアンは声を上げる。

 

「アレが……ガラル地方の本場のダイマックス」

 

「チャンピオンダンデのはそこからさらに特別製さ。リザードン、キョダイマックスの姿だな」

 

 リコにフリードが補足を入れていた。

 

「あれだけ大きくなったならちょっとやそっとの攻撃ではビクともしなさそうだね!」

 

「逆にデカくなった分いい的にもなるけどね。あとどうしたって機動性や小回りは犠牲になる。」

 

 ロイが話すのにドットはポツリと返す。

 マサラタウンのサトシが最初に目指した『世界の頂点』であったダンデがリザードンのキョダイマックスを切る、その意味をドットは理解していた。

 

『切り札を使わなきゃいけないくらい追い詰められているんだ。チャンピオンダンデは。それほどまでにチャンピオンネモは強いんだ』

 

 

 

「さて、チャンピオンダンデはキョダイマックスを切り、勝負をかけにいきましたが、ダイマックスと言えばド迫力パワーファイトにおいてはチャンピオンサトシすら上回ると評価されているシンジさん! ここから先の展開はどう読んでますでしょうか?」

 

「世間からの評価に興味はないですが、ダイマックスの本質はパワーよりは無限というほどに増強された体力にあります。加えてそれを扱うダンデさんは今も昔も変わらず、最もダイマックスに精通しているトップエキスパート……チャンピオンネモがそこにどう立ち回るか」

 

「ダイマックスを一番よく知ってるならマスタード師匠やポプラさんだろ?」

 

「あの2人は表舞台には出てこないだろうが」

 

 後進育成に精を出すという名目から現在では自らが世間に顔を出すことは稀となったが、齢110を超えてなお両名ともにバリバリ健在。

 それ以上のことはこの場にあまり関係がないので割愛をする。

 現在のバトル業界において、ダイマックスを扱わせたら右に出る者はいないNo. 1の名手はダンデであるというのが依然として支配的なのだ。

 

 

 

「ぱぁぁぁもとぉあああああッ!!」

 

 睥睨をするリザードンにパーモットが雄叫びを返しながらバッテリーとするふわふわの体毛から両拳にでんきエネルギーを蓄積させる。

 

『あぁ……! いい……! やっぱりいいよダンデさん! 絶対にあなたは私が倒す。今日、ここで!!』

 

 ダンデのキョダイマックス発動を目の当たりにしたネモは、自分が今、幾度となく画面の向こうの物として見続けていた強力なトップエキスパートとバトルしているという事実を改めて脳に刻み付ける。

 その事実がもたらす脳内麻薬に打ち震え、乳頭に加え、陰核が痛いほど勃起しているが、そんなことはこの場の誰も理解の及ばないことだし、まともな感性の持ち主であるならばどちらかといえばあまり知りたくない類のことだ。

 ネモ本人も深く深くトリップしており、自分の体の状況などは二の次であった。

 

「パーモット、GO!!」

 

「ぱもとーうッ!!」

 

 垂れそうな唾液を手の甲で拭いながら、ネモは指示を飛ばす。

 パーモットの跳躍、目指すはリザードンの顎下一直線。両の拳に眩い電撃を溜め込み、バチバチと唸らせる。

 

「リザードン! 炎翼で防げ!!」

 

「ぐる゛う゛う゛う゛ッ゛!!」

 

 背の炎翼を前方にてクロスさせ本体への到達を妨害にかかるリザードン。

 パーモットからすればそんなことは全くお構いなしであった。

 

「でんッ!! こうッ!! そうッ!! げきッ!!」

 

「ぱもおおおらあああああッ!!」

 

 体毛バッテリーから全電力をかき集め、突き出した両の拳よりパーモットは電撃を炎翼めがけ叩き付ける。

 

「突き抜けろぉぉぉぉぉッ!!」

 

 主人のシャウトがパーモットの体に力を注ぎ込む。

 

「ぱぁぁぁ……!! もぉらあああああッ!!」

 

 己が体内のでんきエネルギーを全て使い切った双拳の一撃が、

 

「な、なにィッ!?」

 

「ぐ、ぉ゛ッ……!?」

 

 リザードンのほのおエネルギーの源たる炎翼を引き裂いた。

 

 

 

「あーーーッとパーモット!! キョダイマックスリザードンの炎の翼によるガードを前に己がでんきエネルギーを全て注ぎ込み、け、消し飛ばしたーーーッ!!」

 

「ダンデさんのリザードンの翼って消し飛ばせたんだ!!」

 

「キョダイマックスによって強化されたほのおエネルギーを翼のように現出させているのであって、キョダイマックスリザードン自身の本体は翼が消失している。とはいえ、な……」

 

 サトシはこの28年間の中でダンデとも幾度か試合をしているが、キョダイマックスリザードンの翼が直接引き裂かれるというのは見たことがなかった。

 キョダイマックスリザードンの本体のフォルムを把握しているシンジとしても、ネモのように真正面からわざわざ強引な方策を取るというのは全く考えたこともない。

 ネモは、サトシにもシンジにも思いつかぬ一手を押し通したのだ。

 

 

 

 キョダイマックスの姿で肩回りから吹き出し、翼の形となっていたほのおエネルギーはマグマ以上の熱量を誇り、リザードンの放つほのお技の根源といってもよかった。

 それが消し飛ばされてしまえば、体内に残存するエネルギーを駆使するより他にほのお技は使えない。

 

「だがしかし……!」

 

 確かにパーモットのパワーは脅威だ。しかしエネルギー部位であるが故に両翼の消失そのものは元のリザードンのボディにはなんら影響を与えることはないのが幸いだった。

 

「ダイジェット!!」

 

「ぼお゛あ゛びゅ゛う゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 リザードンが大口を開ければ、強烈な突風のブレスを発射。

 

「ぱもあ〜ッ!!」

 

 炎翼を吹き飛ばし、勢いを掴んだところのパーモットを空高く巻き上げ、高所より顔面から突き落とした。

 

「パーモット!!」

 

 

 

『キョダイマックスリザードンの翼を破壊したパーモット、ダイジェットを受け撃墜!!』

 

「でんこうそうげきは体内のでんきエネルギーを全て放出して攻撃に振り向ける技……即ちリザードンの炎翼を破った時点でパーモットはでんきタイプを喪失。残るかくとうタイプの性質からダイジェットは効果抜群で受けちまってる。」

 

 ありゃあ立てないだろうな、とフリードは付け加える。

 

「頑張れパーモット! 頑張れ〜!!」

 

「アン……」

 

 アンが握り拳を震わせながら立ち上がり、画面の向こうにエールを送る。

 つい最近念願のパモをゲットし、その進化系が試合で頑張っている姿に触発されたのだ。

 リコもその気持ちがよく分かった。先程戦い抜いたネモのマスカーニャの頑張りが目に焼き付いていたからだ。

 

 

 

「ぱ、ぱもとぅ……!」

 

「むむッ!?」

 

『あーーーッとパーモット! チャンピオンネモを悲しませまいと持ち堪えたーーーッ!!』

 

 

 

「ぴかぁ! ぴかぴか!! ぴーかっちゅ!!」

 

「ははっ。ピカチュウも大興奮だぜ」

 

 同じ頬に電気袋を持つねずみポケモン同士、シンパシーのままにピカチュウのテンションがぶち上がるのでサトシも笑みを浮かべる。

 

「しかし起き上がってきたところでパーモットにもはや打つ手はない。体内のでんきエネルギーは既に枯渇し、引っ込めたところで回復する電力はたかが知れてる」

 

 首の皮一枚繋がった状態に過ぎない、シンジの分析は冷徹であった。

 

 

 

「パーモット……ナイスッ!!」

 

 ネモはサムズアップ。この場がプライベートならばガッツ溢れる姿にパーモットを抱き締めてやりたくなるほどの思いであった。

 

「ぱぁもぉ……!」

 

 全身ボロボロになりながらパーモットは両手を突き上げる。

 初めてネモにゲットされ、マスカーニャの次に仲間入りをしたNo.2の意地を見せる時だ。

 

『降参じゃあないだろうがな』

 

 そんなパーモットの様子を見るダンデは内心で分析をする。

 

『パーモットはでんき、かくとうタイプ。でんきタイプはでんこうそうげきでなくなり今はかくとうタイプ、となれば残す武器はあの両拳!!』

 

 攻めのプランを構築する。この流れは周りからすれば1秒も経ってはいない。

 

「コレならどうだ! リザードン! ダイドラグーン!!」

 

「ぐぉ゛る゛ぐぅ゛ぅ゛ぅ゛ん゛!!」

 

 今度は竜の頭を模した気の塊をリザードンは口から発射する。

 ガラル粒子を大量に取り込んだドラゴンエネルギーの奔流にはポケモンの攻撃力を低下させる作用がある。

 

『でんきエネルギーの喪失に加え、自慢の攻撃力を封じられてはどうしようもあるまい!』

 

 熱狂と冷徹な判断の両立もまた、『無敵のダンデ』を形成する要素なのだ。

 

「ぱもとあああああッ!!」

 

 迫るドラゴンエネルギーの奔流を前にパーモットは突き上げた両手から上空へエネルギーを放出し、そのままダイドラグーンの1発に呑み込まれていった。

 

『パーモット……ありがとうッ……!』

 

 ネモが内心で呟く。

 エネルギー爆発のモヤが晴れれば、大の字で仰向けに倒れるパーモットの姿があった。完全に目を回している。

 

「パーモット、戦闘不能! リザードンの勝ち!!」

 

 

 

ダンデ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

ネモ、残りポケモン4体。ダウン可能数残り1体。

 

 

 

「「「「「オー! オー! オー! オ、オ、オ、オオー! オオオー!」」」」」

 

「「「「「オ、オ、オ、オー! オー! オー! オオオ、オオー! オ、オ、オー!」」」」」

 

「お聞きくださいこの声援! ガラル名物の大エールのもと、勝利の女神が微笑むのは果たしてどちらか!? 互いにダウン可能数残り1体! 試合はいよいよ佳境であります!!」

 

「アレは……?」

 

「パーモットが打ち出したエネルギーが上空で滞留している……?」

 

 2ダウン同士の対面となり盛り上がるスタジアム中において、上空のエネルギーに目を向けられたのはサトシとシンジ、それと一部のバトルマニアくらいのものであろう。

 そして、シュートスタジアム上空の雲がセンターラインを境に綺麗に両断され、『天が割れている』のをサトシもシンジもハッキリと見た。

 

 

 

「お疲れ様! 戻って」

 

 ネモはパーモットをボールに戻し、代えのボールを空高く掲げれば、

 

「降り注げ! 再起のエネルギー!!」

 

 上空のエネルギーが一気に降下し、ネモの掲げるボールへと溶け込んでゆく。

 

『あーーーッとチャンピオンネモが天にかざしたボールめがけ、何やら優しげなエネルギーが降り注いでいるぞーーーッ!?』

 

「ぬうッ!? ま、まさかッ!!」

 

 ダンデに戦慄が走った。

 パーモットの奥の手は、しっかり決まっていたことに気付いたからだ。

 

 

 

「間違いない……パーモットがやられ際に放った技は、さいきのいのり! 戦闘不能ポケモンを回復させる技!」

 

「この試合の中で戦闘不能になったネモのポケモンといえば……!」

 

「ぴかかぁかあ!!」

 

 

 

 極上の相手を前に、この楽しい時間が終わってしまうことに一抹の寂しさがないではないが、悦楽とは終わりがあるからこそだというのもネモは理解していた。

 今は、我ながら最高だと思えるこのシチュエーションを堪能するのみだ。

 

「いくよ。相棒!」

 

 ネモはボールを強く握り締め、勢いよく放り投げる。

 

「マスカーニャァァァッ!!」

 

「くぁ〜にゃあ!!」

 

 一度倒れたはずのマスカーニャの再登場に客席はどよめく。

 そんなノイズをよそにネモは、続けてテラスタルオーブを構えていた。

 




 『サトシ』
 38歳。アローラリーグチャンピオン。
 ポケモンマスターを目指す永遠の旅人。その旅は今もまだ終わってはいない。
 パートナーのピカチュウはあの日と変わらず彼と共にある。
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