SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 ダンデが無敵の本領を発揮するならば、ネモもまた本領を発揮する。
 バトルをこよなく愛し、飽くなき探究心がダンデの一切合切を学習、吸収していくのであった。


はるかなるナッペ山

「そうきたか!」

 

 ほのお、ひこうタイプのリザードンを前にくさタイプを持つマスカーニャを出すというのはタイプ相性のセオリーからすれば自殺行為もいいところだ。

 が、ネモの構えるテラスタルオーブがダンデを納得させた。

 

「光れ! 輝け!! 私の最高の『宝物』!!!」

 

 マスカーニャのボールに続けてネモは起動させたテラスタルオーブを放り投げる。

 

「にゃあッくあ〜ッ!!!」

 

 クリスタルに包まれ、眩い輝きを全身から放ちながら姿を現すマスカーニャの頭には、あくのテラスタルジュエルが一際激しく煌めいた。

 

 

 

「そっか! テラスタルであくタイプ単体になったマスカーニャなら、リザードンのほのお技もひこう技も効果抜群じゃあなくなる!!」

 

「だけど相手はチャンピオンダンデのキョダイマックスリザードンだぞ。技が直撃すれば大抵のポケモンはタダじゃあ済まない」

 

 ロイがネモのテラスタルの狙いに膝を打てばすかさずドットが呟く。

 マスカーニャというポケモンは元より素早さに秀でている分打たれ弱く、その上さいきのいのりで復活した状態なため万全な体力でもないというところを考慮していた。

 

「やれやれマスカーニャ!! パーモットの分もやったれ〜!!」

 

「あ、アン。少し声抑えて」

 

 すっかりネモのパーモットのファンとなっていたアンがヒートアップするのをリコが宥める。

 そんなリコとしても佳境を迎えた試合に顔を見せたネモのマスカーニャに対して視線が離せなかった。

 

 

 

「リザードン!! 俺たちもフルパワーでいくぞ!!」

 

「ぐる゛う゛ぼあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!」

 

 リザードンの咆哮がシュートシティ中に響き渡る。

 キョダイマックスのボディからは、煮えたぎるような熱量のほのおエネルギーが湧き上がる。

 

「私のマスカーニャはくさとあく、2つのタイプを併せ持つ。その2つの併せ持ったパワーをテラスタルによりあくタイプエネルギーに一極集中!!」

 

「にゃおおお……!!」

 

 ここまで来ればもうダンデもネモも後のことなどは考えていない。

 キョダイマックスの限界時間に合わせ、互いの最高の1発をお見舞いすることしか頭になかった。

 

 

 

「リザードンはキョダイマックスの際、炎翼の維持の為にもエネルギーを割いている。それが破られたということはエネルギー系に相当なダメージを受けているということだ。本体が健在であるのは見せかけに過ぎぬ」

 

「さいきのいのりも万全の状態で復活させるほどの力はない……ダンデさんもネモも、この一撃で決める気だ!」

 

「ぴかっちう!」

 

 サトシもシンジもこの攻防がそのまま決着に繋がると確信をする。

 顔から流れ出る汗を気にすることもなく、フィールドを瞬きすら惜しく凝視していた。

 

 

 

「リザードン!! キョダイゴクエンだぁーッ!!!」

 

「ぐお゛る゛う゛ぼる゛う゛ぶあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ゛!!!」

 

 リザードンの全身より湧き上がるほのおエネルギーが上空で『火の鳥』を形成する。

 

「があ゛あ゛あ゛ッ゛!!!」

 

 その火の鳥が、リザードンの雄叫びを受けマスカーニャめがけて急降下。

 

「マスカーニャ!! 私たちの本気の輝きをここにッ!!」

 

「にゃうおおお〜!!」

 

 テラスタルジュエルが砕けて見えれば、膨大なあくタイプエネルギーがマスカーニャの右腕へと集約され、そのまま拳を構える。

 

「テラスタルパワー全開!! マスカーニャ!! テラバーストッ!!!」

 

「にゃおおおぅらあああッ!!!」

 

 構えた拳にスクリュー回転をかけながら勢いよく突き出し、マスカーニャは拳圧とともにあくタイプエネルギーの奔流を撃ち出した。

 

「「おおおおおおおッ!!!」」

 

 スタジアム中央地点、センターサークル上空にて火の鳥とあくエネルギーの奔流がぶつかり合う。

 

 

 

「うっは! ヤベェなこりゃあ!」

 

「こんな超! エキサイティン!! なバトルは久々だぜ〜!!」

 

 巨大なエネルギー同士の衝突による不可視の衝撃波が乱反射の形でバリアフィールドを軋ませるので最前列や、その近くの客は手に汗を握る。

 マスターランクといえど所詮はランクマッチの1試合。ポストシーズン程の熱量を放つバトルになるとは正直思っていなかったというのが大きい。

 そんな観客たちからすれば、今日の試合は間違いなく『大当たり』の観戦体験であった。

 

 

 

『キョダイゴクエンがジリジリとテラバーストを押し返す!! これはリザードンが競り勝ったかーーーッ!?』

 

「下から上へ突き上げる力より上から下へ降りる力の方が強いは物の道理よ!! この勝負、もらったぜ!!!」

 

「まだまだァァァッ!!! マスカーニャ!! 私たちはイケる!! イクんだ!! 輝きのその先へ!!!」

 

「にやがあああああッ!!!」

 

 ネモに応えるマスカーニャの瞳がキラリと輝き、全身より残るエネルギーの全てをテラバーストへと注ぎ込む。

 

 

 

「なんというやつだ……キョダイマックスわざと互角にぶつけ合わせた上で、さらに上のギアがあるとは」

 

「いっけぇぇぇぇぇッ!!」

 

「ぴかぴか〜ッ!!」

 

 表情こそ変わらぬもののシンジの分析を紡ぐ声音には驚愕の色が映り、サトシはピカチュウとテンションのままに声を張り上げる。

 どちらもここでこの試合の結果を確信した。

 

 

 

「テラバースト奥義!!! ブラッディースクライドォォォォォ!!!!」

 

「にゃあがあああああ!!!!」

 

 放たれた拳圧と、あくタイプエネルギーが増大し、押された分の勢いをみるみる取り戻してゆく。

 この試合で人々は知ることになる。パルデアより輝く『超新星』の存在を。

 

『きょ、キョダイゴクエンの火の鳥を……!! テラバーストが突き破ったァァァッ!!』

 

「ぐお゛ぶう゛ッ゛!?」

 

「リザードンッ!!」

 

「ぐお゛お゛お゛……!!」

 

 火の鳥を突き抜けたテラバーストがリザードンの首元にヒットすればその巨体を遥か上空へと打ち上げてゆく。

 エネルギーの奔流そのものがマスカーニャのコークスクリューブローに合わせて激しくスクリュー回転しているので、巻き込まれたリザードンの巨体もまたなす術なく回転に呑まれ、この日1番のエネルギー爆発がシュートスタジアム上空で起こった。

 試合を知らぬ住人のいくらかは、スタジアムの方で花火でも打ち上げたか? と誤認をしながら振り向いた。

 

「にゃぐ!」

 

「よかったよマスカーニャ。紛れもない、私たち最高の一撃だった」

 

 元々戦闘不能となったところからの復活で全身のエネルギーを使い果たしたマスカーニャはたまらず右膝を突いてしまう。

 相棒を労いながらもネモはボールを構えていた。

 これでリザードンが健在であったなら、すぐさまマスカーニャを引っ込めてサイクルを回す必要があるからだ。

 渾身の一撃を叩き込む際には後先のことは考えず、撃った後に考えるのを再開する辺りがチャンピオンランクたる鍛え抜かれた所作だった。

 

「ぐぉるぶ!」

 

 ズドン! 上空のモヤからオレンジのボディが落下してくる。ダンデのリザードンだ。

 既にキョダイマックスは解除され、背中からフィールドに落着しては仰向けのままピクリとも動かない。

 ポケモンチェックに駆け寄る審判は、決着のジャッジを下した。

 

「リザードン、戦闘不能! マスカーニャの勝ち!! よって勝者、パルデアチャンピオンネモ!!」

 

 

 

『ウオオオオオオオッ!! ネモッ!! ネモッ!! ネモッ!!』

 

『スタジアム中を覆い尽くすネモコール!! 若くフレッシュな戦いぶりに魅せられ、地元のグレートチャンプを堂々打ち破った若きパルデアチャンピオンに向けられております!! チャンピオンネモ、天晴れなる大勝利ですッ!!』

 

「凄いなぁー……あっ! もしかして監督、僕たちがパルデアの初心者ポケモンを持ってて、チャンピオンネモもその進化系を使うからこの試合を見せたくてご飯に呼んでくれたの?」

 

「アンがパモをゲットしてたのまでは知らなかったがな」

 

 試合が終わり、ロイの問いにフリードは首肯する。

 

「よーし決めた! あたしもこの子をチャンピオンネモみたいにめちゃくちゃ強くて凄いパーモットに育て上げるんだ!」

 

「ぱんも?」

 

 食事を終え、主人の足元に擦り寄るパモを膝の上に乗せながらアンは決意を口にする。

 ドットはそこにリアクションこそ挟まず黙々と食べ進めてゆく。テレビの向こうの血湧き肉躍る死闘にすっかり魅入られ、食事の手がパッタリ止まっていたからだ。

 

『ボクも行くんだ、あの舞台へ!』

 

 

 ダンデとネモの死闘は、まさしく魂と魂のぶつかり合いだった。その熱に触発され、ドットは体中の熱を発散せずにいられなかった。夜の自主トレは、なによりちょうどいい発散どころだった。

 

『凄い……本当に凄いものを見た』

 

 リコもまた、ガッツリと食事に意識を戻す。

 食べないことには体を動かせない。体を動かせなければトレーニングもままならない。

 チャンピオン対決の熱狂は、リコの体の内もまた灼いていた。

 

『いい感じの刺激になったみたいだな』

 

 エクシード社を飛び出し、飯の種感覚がまず先に来る部活顧問だが、雇われた以上は生徒たちの成長を促さんとする気持ちもフリードにはそれなりにある。

 リコたちを発奮させられたのならば多少の奢りの出費など安いものだと思えた。

 

 

 

「おはようリコちゃん!」

 

「おはようございます」

 

 フリードに誘われた土曜の夕食から日曜日をそれぞれ自主トレして過ごしたリコは、週明けのテーブルシティの大通りでビワと合流していた。

 基礎テストの時同様、スター団の面々がセキガクバトル部の水先案内人を務めてくれるのだ。

 早朝トレーニングに熱を入れすぎたせいでリコだけ出発が遅れ、アンたち3人は既に現地へ向け出発している。

 

「いよいよ応用テストだね。コレをクリアすれば自分だけのオーブが支給されて、いつでもどこでもテラスタル出来るようになるよ! 頑張ってね!」

 

「はいっ!」

 

「にゃろう」

 

「むっきゃっきゃ」

 

 金曜日の試合から、週末を挟んでリコの気力が充実しているのはビワからもハッキリ伝わった。

 2人の後ろをついて歩くニャローテとオコリザルもバトルを通じてすっかり仲良くなっていた。

 

「早速だけど、リコちゃんの応用テスト先のジムのジムリーダーとタイプはね……」

 

「おぉ! セキエイ学園の!」

 

「あなたたちもこれから応用テスト?」

 

 応用テストに向けて訪問先のジムの話を始めようとしたビワを遮る形で声をかけてきたのはエクシード学園のジルとコニアだった。

 気さくな2人が声をかけるので気付いたアメジオも近づいて来る。

 

「は、はい。あなたたちも、ってことは……」

 

「あぁ。アメジオ様もこれから応用テストに出発するんだ。セルクルタウンに行く予定になっている」

 

「セルクルタウンってことは、奇遇だね! カエデさんはリコちゃんの基礎テストの相手だったから」

 

 ジルが話すのにビワも言葉を返す。

 

「あなたたちはこれからどこのジムに行くの?」

 

「えっと、ナッペ山のジムに」

 

「あー……」

 

 コニアの問いにリコが返事をすれば、あからさまにエク学の3人の表情が強張るのが分かった。

 

「あの……?」

 

「ナッペ山のジムリーダーグルーシャは強いぞ。なにせパルデア地方No.1ジムリーダーとの呼び声高い男だ。俺は基礎テストで戦ったが、とてつもなく凄まじい相手だった」

 

「エク学期待の1年生部長相手にも容赦なし、ってことね。流石はグルーシャさん。ウチのチームの子たちもジムチャレンジなり研修なりで何人もやられてるわ」

 

 アメジオの吹かせる爽やかな風にビワも嘘はないと唸る。その証言もまた、ついさっき伝えようとしていた内容と一致していた。

 

「あの人の強さの源泉は厳しさと、勝負への冷徹さにあると俺は思っている。まさかきみたちセキガクバトル部に限ってこんな発想をしているはずないと思うが、『たとえ負けても頑張った部分を認めて合格にしてくれるかもしれない』などといった甘い考えはたちどころに見抜かれてしまうだろう。少なくとも俺が見たジムリーダーグルーシャとはそう見えた」

 

「つまり、真剣勝負で勝つしかない……」

 

「そうだ。俺もジムリーダーカエデを相手に全力でぶつかり、必ずや合格を勝ち取ってみせる。厳しい戦いになるのは避けられんと思うが頑張ってくれ」

 

 言い終えてからアメジオは右手をリコに差し出す。

 

「お互い、応用テストをクリアしてまた会おう」

 

「は、はい!」

 

 差し出される手にやましい思いが皆無であるのは、アメジオとともにある爽やかな風から肌を通して伝わってきた。

 リコは握手に応じる。色素の薄い肌をしている中、確かに燃え滾るような血液の脈動を感じ取った。

 アメジオの闘志が、リコには痛快だった。

 

「よし、行こう」

 

「「はい! アメジオ様!!」」

 

 手を離し、颯爽と西門へ向かうアメジオの背にジルとコニアが追従をする。

 

「わたしたちもいこっか」

 

「はい!」

 

 そんなアメジオたちを見送ることは特にしなかった。

 リコたちのこれからの行く手には、遥か彼方に見える雪山の如くそびえ立つ試練が待っているからだ。

 

 

 




 『ジル』
 20歳。エクスプローラーズ構成員。
 アメジオのお付きとしてエクシード学園に通う立場の青年。コニアとコンビを組んでいる。
 サイドンによるパワー戦法はアメジオからの期待も厚い。
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