SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 それぞれ紆余曲折あれど無事にテラスタル研修をクリアしたリコたち。
 そこに遠征から帰って来たネモが現れては、リコはチャンピオンへ挑戦状を叩きつけるのであった。


チャンピオンの実力

「ずるいぞリコ! 僕だってチャンピオンとバトルしたい!」

 

「早い者勝ちとかそういう話じゃあないだろ?」

 

「そーだそーだ!」

 

 リコに待ったをかけたのはロイたちだった。

 ドットはともかくとして、アンは2人に乗っかってるきらいも見え隠れしているが。

 

「えー……?」

 

 さりとてリコにしてもせっかくチャンピオンとバトルできるというビッグチャンスを譲るというのはいかに同じ部の仲間であっても難色を示す。

 一方のネモは、自分にバトルを申し出てくれたリコたちを見て感動の渦に包まれていた。

 ネモにとって何より重要なのは、ポケモンバトルを通して血湧き肉躍る死闘を楽しむことだ。事実、ダンデとのランクマッチではそれを思う存分堪能することが出来た。

 バトルを求め続けるネモの在り方は尊敬こそ集めるものの、その狂気的な貪欲さに、いつしか他人は寄り付くのを避けるようになっていた。

 ただただ楽しいバトルをしたいというネモの欲求は、その膨れ上がり続けるトレーナーレベルと同様に無限の肥大を続けており、誰もがそこに追従できるわけではない。その理屈は分かる。

 それはそれとして、チャンピオンランクを手にした頃には塞ぎようのない巨大な虚無感が心を支配したものだった。

 だからこそ現在ではオモダカに誘われ、パルデアの外に遠征を重ねているのだ。

 

「よーし分かった!」

 

 チャンピオンとのバトルを譲りたくないのでリコたちがいがみ合う中、ネモはモンスターボールを4つ、右手の指と指の間へ挟み込む。

 そのままそれらを頭上へ放り投げた。

 

「にゃあま……」

 

「ぼぅあ〜!」

 

「うぇ〜い!」

 

「ぱんもッ」

 

「おぉ! あれなるは、ランクマッチでチャンピオンダンデを相手に戦った会長のポケモンたち!」

 

「是非とも4人全員相手させてもらうよ! 思いっきりバトル楽しもうね!」

 

 ボールより飛び出したマスカーニャがネモの右隣、ラウドボーンは背後、ウェーニバルは左隣でパーモットが足元前方に降り立ち、主人の周りを固めて見せる。

 その威容に、思わず生徒の1人が眼鏡のズレを直しながら早口で語る中、圧倒的なる覇気とともに出てきた4体は、まさしくリコたちがそれぞれに内心浮かべていたリクエストそのものであった。

 

 

 

「ボタンちゃん! 大変大変!!いち大事だよ〜!!」

 

 ビワがアカデミーの生徒寮西側3階奥の部屋へと勢いよく入り込む。

 通信販売で届けられたダンボールがあちこちに無造作に積まれて散らかり、パソコンの光以外は薄暗い部屋のベッドに横たわるボタンはしんかポケモンイーブイの進化系で固めた仲間たちに囲まれていた。

 

「うわッと!? どしたんビワ姉?」

 

 その中でニンフィアのお腹に顔面を埋めていたところをビワの来訪によりびっくりしながら上体を起き上がらせる。

 灰色がかった瞳には、日課である自分のポケモンの匂いを嗅いで楽しむいわゆる『ポケ吸い』を邪魔されたことへの苛立ちが若干見られた。

 ニンフィアをはじめとしたイーブイフレンズ……『ブイブイ』と呼称されるボタンのポケモンたちからすれば、ポケ吸い自体はせっかくした毛繕いが御破算にされてしまうのでいい迷惑ではあるが、主人のメンタル維持にひと役買ってはいる以上無碍にも出来ず、週ごとに持ち回りで甘んじて受け入れていた。

 

「ご、ごめんね? 急におしかけちゃって。でもコレはマジボスであるボタンちゃんに伝えなきゃって思って」

 

「で、なにがあったん?」

 

「それが、わたしもチームの子から聞かされたんだけど、リコちゃんたちセキガクバトル部のみんながネモちゃんとバトルすることになったらしくって……」

 

「なんだって!?」

 

 素っ頓狂な声を上げながらボタンは急ぎ手元に置いておいた眼鏡をかけ、ベッドの反発を利用して立ち上がる。

 

「ふぃあふぃあ!」

 

 反発で体が軽く跳ねるのをニンフィアらは楽しむ中、ボタンは下着姿であったところから大急ぎで普段着である黒のパーカーを着込み、プラスとマイナスの模様が描かれたタイツに足を突っ込んでゆく。

 

「他のチームのボスたちは?」

 

「グラウンドに先に行ってると思う」

 

 タイツを履き終えたボタンはチュールスカートをさらに履き、既に外へ向かうのに歩き出していた。

 

「全く、とんでもない無茶をやる連中だよ!」

 

 先週のランクマッチなどよりずっと前から、ボタンはネモの強さをよく知っていた。というかアカデミーの生徒ならば彼女が怪物であることなどは一般常識として共有している。

 どういう経緯かは分からないしさほど興味もないが、チャンピオンランクを相手に敢然と立ち向かう選択をしたセキガクバトル部の戦いようは見物だと思った。

 何より、そういう無茶をする性質の持ち主自体、ボタンも決して嫌いではなかった。

 

「ん? あっ……ボタンちゃ〜〜〜ん!! ホットパンツ履き忘れてるよ〜〜〜!!」

 

「うわわわわ!?」

 

 現場に急ぐのに夢中になり、イーブイがプリントされたショーツを丸出しで部屋を出たところにビワが慌ててホットパンツを差し出すので、ボタンは赤面するよりなかった。

 

 

 

「これより、チャンピオンネモvsセキエイ学園バトル部4人衆のバトルを始めます! 審判はこのボク、スター団あく組『チーム・セギン』のボスであるピーニャが厳正に務めさせてもらうからよろしくゥ!!」

 

 

 

「ボタンは?」

 

「ビワ姉が呼びに行ってるでござる」

 

 ピーニャが審判に名乗り出る中、バトルコートを囲む野次馬に紛れてオルティガとシュウメイが言葉を交わす。

 

「ネモ……あの野郎は正真正銘の化け物だ。オレらとは根本的にモノが違う。なんせチャンピオン世代やサトシ世代と互角に張り合えるんだからな」

 

 メロコの呟きは、スター団の総意であった。

 今でこそオレンジアカデミーのポケモンバトル部という形を取っているスター団だが、その始まりは2年前にある。

 周囲にはその存在を秘匿してこそいるが、現部長でありマジボスことボタンを筆頭として、各チームのボスたちは当時アカデミーにて悪質ないじめを受けており、同じ身の上同士で結集し、対抗するための存在であった。

 そんな彼らの一大反攻作戦としていじめっ子たちとの全面対決を計画した『スター大作戦』を決行に移した。が、程なくしていじめっ子たちはあっさりと全面降伏をしてきた。

 全面対決に際し、バトルの腕を磨き上げ、決意の証としてボスたちがそれぞれのチーム色に合わせた改造制服を身に纏うのでいじめっ子集団は恐れをなし、逃げるようにアカデミーから去っていった。

 事態が大きくなり過ぎたことを悔やんだボタンは自らが全責任を負うとしてマジボスの地位においてスター団の解散を宣言し、故郷のガラル地方へと里帰りをしてしまう。

 しかし、スター団という組織において実際には上下関係からなる命令権というものは存在していなかった。これは、いじめを受けた同士の集まりであるが故の皆が対等であるという共有された希望からの取り決めだった。

 故に5人のボスはマジボスの帰還を信じ、スター団をそのままにしていたが、その間のチームメンバーによる強引な勧誘活動などが原因でいつしか悪印象を植え付けられ、ただの不良集団に成り下がってしまっていた。

 組織の肥大化により当初の理念が置き去りにされるというのは、古今東西枚挙に暇がないこと、スター団もその例外とはなれなかった。

 何故この一連の事態が公になっていないのかと言えば、当時の教頭が責任逃れとしてスター大作戦に関するデータ、要するにいじめの実情を抹消、隠蔽したことに当時の校長イヌガヤは憤慨。

 いじめを防ぐことのできなかった責任として当時の教師陣を自分含めて総辞職の形でアカデミーの『血の入れ替え』を断行した。

 これにより現在のクラベル校長を中心とした清廉潔白な教師陣へと生まれ変わり、アカデミーからいじめの空気は一掃された。だが肝心のスター団に関する情報伝達が現在の教師陣に全くされておらず、あわや退学一歩手前という状況が動いたのは今年の4月のことである。

 仲間たちの近況を知ったボタンはパルデアに戻り、『とある協力者』を得てスター団の取り決めに則った形でボスたちを止め、最終的には自らも敗れたことで改めて全ての責任を負う覚悟であった。

 が、それと同時期に自ら内偵を行ない、事情を全て把握したクラベル校長の公正かつ人情味のある裁定により、スター団の生徒全員には定期的な奉仕活動への参加を義務付ける代わりに一連の事態による不登校期間を特殊な休学状態として扱い、彼らをそのままアカデミーのポケモンバトル部として認可される運びとなった。

 スター団が不良集団からポケモンバトル部となったのは、4月の終わり頃のことである。

 

「あのネモに勝てる奴なんて各地方のチャンピオンか、『あの野郎』くらいのもんだろうが」

 

「『あの者』もまた、生徒会長殿と同じく無限に成長できる素養を持っていると見た。世界に羽ばたく才能というのは、ああいう存在なのであろうな」

 

「『あいつ』……今どこで何してんだろうな」

 

 メロコも、シュウメイも、オルティガも、呼び方こそ違えど思い浮かべるは同じ顔……。

 自分たちを、マジボスを救ってくれた『恩人』の顔である。

 

 

 

「へッくしゅんッ!!」

 

「あんぎゃあ?」

 

「おいおい、風邪引きちゃんかぁ?」

 

 スカーレットカラーのトカゲ型ポケモンに跨る2人はロースト砂漠を颯爽と駆け抜けてゆく。

 

「この先にいる『土震のヌシ』が持ってる秘伝スパイスで作ったサンドウィッチなら、風邪なんてイチコロちゃんだろうぜ!」

 

 メッシュの入ったブロンドの長髪がトカゲ型ポケモンの爆走により風に揺れ、普段ならば前髪に隠れている右目が覗けば、その青い瞳には深い憂いが浮かんでいた。

 

「お前も、絶対元気にしてやるからな……」

 

 ホルダーにあるボールへかけた青年の呟きをトカゲ型ポケモンの手綱を握る子は聞いていたが、そこにリアクションを挟むことはしなかった。

 

「ッ!!」

 

「プワアウゴオオオオオッ!!!」

 

 彼らの眼前に立ちはだかるように、いや、待ち構えるように『イダイナキバ』がその威容を顕したからだ。

 

 

 

「試合方式はシングルバトル! チャンピオンネモがセキガクの皆さんと使用ポケモン1体のバトルを4連続ってことでOK?」

 

「オッケー!」

 

「「「はい!」」」

 

 ネモも、リコたちもそれぞれピーニャに返事をする。

 ドットは首肯で以て同意の意を示した。

 

「それではセキガクさんの方はまず1人目のお出ましを!」

 

「おっしゃあーッ!! やったるぞーッ!!」

 

「アン! 頑張って!」

 

 リコにアンはサムズアップと白い歯を見せてからトレーナーサークルへ躍り出る。

 

「あは! 元気一杯だね」

 

「それだけがあたしの取り柄なんで! よろしくお願いしまーす!」

 

「それではチャンピオンネモvsセキエイ学園1年アン選手の試合に入ります! 両者、ポケモンを!」

 

「そりゃあ〜ッ!!」

 

「ぱも〜ッ!!」

 

 高いテンションのままにアンが投げ入れるボールからはパモが飛び出す。

 主人であるアンのテンションがいい具合にパモのコンディションに影響を与えているのが見て取れてネモも笑みを浮かべた。

 

「パモか! 懐かしいなぁ……いくよ、パーモット!!」

 

「ぱもッとぃ!!」

 

 アンのパモに対し、ネモはパーモットを繰り出す。

 なんとなくではあるが、ネモもリコたちの企図するところを感じ取っており、それを叶えてやりたいと応じることにしていた。

 チャンピオンという孤高の立場において、バトルに誘われること自体が何より貴重であるからだ。

 

「最初から飛ばしていくよ!!」

 

 アンはつい先ほど自分の物となったテラスタルオーブを構える。

 

「掴むは1つ! 勝利の輝き!!」

 

 構えたオーブを放り投げれば、クリスタルに包まれたパモは全身が光り輝き、稲妻模様のでんきのテラスタルジュエルを頭にかぶる。

 

「ぱぁも〜〜!!」

 

「テラスタルも使えるんだね!!」

 

「テラスタルでパワーを増大させて〜……パモ!! でんきショック!!」

 

「ぱぁ〜!! もぉ〜ッ!!」

 

 テラスタルジュエルの輝きがでんきエネルギーに還元され、パモは両手の肉球で頬を擦りまくって渾身の電撃を放つ。

 

『キチンと愛情込めて育ててる途中、ってところかな』

 

 パモの育ち具合からアンに好感を持ちながらも、勝負となればやることは1つ。楽しみながら勝利を目指すのみだった。

 

「ぱんも」

 

 パーモットが右手をサッと突き出し、拳の先から発電。放たれたか細い電撃の帯が迫るでんきショックをあっさりと突き破り、

 

「ぱもがッ!?」

 

「えっ……?」

 

 パモのボディを射抜いた。

 たった一撃、その先端のみの被弾が頭のテラスタルジュエルを霧散させ、パモの意識を刈り取る。

 

「ぱ、パモ、戦闘不能! パーモットの勝ち!! よって勝者、チャンピオンネモ!!」

 

 結果自体は予想をつけていた通りであったが、その圧倒ぶりにはピーニャも思わず言葉が詰まってしまった。

 




 『イヌガヤ』
 オレンジアカデミー先代校長であり、現在はオルティガの執事を務める。
 本人は善良な人物であったのだが、校内に蔓延っていたいじめの空気を察知することはできなかった。
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