SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 チャンピオンネモは度量の広さを見せ、リコたちセキガクバトル部全員を相手すると宣言。
 意気揚々と一番槍を務めるアンであったが実力の違いにより一蹴されてしまうのであった。


under star

「かーッ! これがチャンピオンランクの一撃! やっぱ違うんだ!」

 

 瞬殺されながらもアンはネモの圧倒的な強さと、その力を自分とのバトルにぶつけてくれたことに痺れた。

 何もできなかった、その実感に体を震わせながらも倒れたパモをボールへ戻す。

 

「お疲れ様。やっぱりあたしたちの目標はあの人しかないよね、パモ」

 

 パモを労ってから、アンは改めてネモに正対し、

 

「ありがとうございましたーーーッ!!」

 

 お辞儀とともに、腹から威勢よく声を張り上げた挨拶をしてから下がってゆく。

 ネモとしてもこういう手合いは胸がすくというものだ。

 

「よーし! 僕の番だ!」

 

 アンと入れ替わりでトレーナーサークルに入るのはロイだった。

 厳正かつ公平なじゃんけんによる順番決めの結果だ。

 

「僕はロイ! よろしくお願いします!!」

 

「よろしく!!」

 

 ハキハキとしたいかにもな活発少年の醸し出す雰囲気も、これまたネモにとって好印象である。

 

「続きましてチャンピオンネモvsセキエイ学園1年ロイ選手の試合を行います! 両者ポケモンを!!」

 

「よーし! いけ、アチゲータ!!」

 

「あちぇ〜ッ!!」

 

 アチゲータを繰り出すロイの右手には素早くテラスタルオーブが握られている。

 

「出番だよ、ラウドボーン」

 

「ぼあう」

 

 その狙いを理解したネモはパーモットをボールに戻し、入れ替わりにのっしのっしと四つ足でニュートラルポジションへラウドボーンを向かわせる。

 重量感たっぷりである反面としての鈍重さが、ロイの機敏な感性に先手を取らせた。

 

「輝け! 夢の結晶!!」

 

 テラスタルオーブから放たれる結晶に包まれ、アチゲータもまた輝きとほのおのテラスタルオーブを身に纏う。

 

「テラスタルのパワーと、ホゲータから進化したばかりで手にしたパワーで勝負だ! アチゲータ!! フルパワーでかえんほうしゃ!!」

 

「あああ……!!」

 

 テラスタルジュエルがほのおエネルギーを増大させ、アチゲータの開かれた大口に灼熱の炎が宿る。

 

「ちげあああああ!!」

 

 アチゲータがそのまま灼熱の炎をブレス攻撃として吐きかければ、

 

「ラウドボーン!」

 

「どっぼう」

 

 ラウドボーンは頭の上に乗せた『炎の鳥』から小粒の炎弾を放つ。

 

「ちぇげあ!?」

 

 炎弾はブレス攻撃を一方的に突き抜け、アチゲータの顔面にヒットする。

 その被弾が体力を根こそぎ奪い取り、テラスタルジュエルを霧散させれば、アチゲータは仰向けにコテンと倒れ、完全に目を回していた。

 

「アチゲータ、戦闘不能! ラウドボーンの勝ち!! よって勝者、チャンピオンネモ!!」

 

 

 

「予想はついてたにしろ、やはり一方的を超えた一方的な展開でござるな」

 

「やっぱり強すぎるんだよ、ネモは」

 

 シュウメイは気落ちを隠せず、オルティガは握り拳を作る。

 セキガクメンバーとはテラスタル研修の案内役や練習試合を通したことで妙に親近感が湧いており、彼らがやられてしまうのに思うところがあるのは拭えない。

 

「ボタンちゃん連れてきたよ!」

 

 そこにビワとボタンが合流すれば、2人が試合を見れるよう周りのスター団したっぱたちがスペースを作る。

 

「セキガク側の4人が1体ずつ持ち寄ってのシングル4連戦でござる。まぁ、そのうち半分がたった今終わり申したが」

 

「マスターしたばかりのテラスタルでパワーを上げても一撃なんて、レベルの差がキツすぎる」

 

 簡潔に状況を伝えてくるシュウメイとオルティガに、ボタンは視線をフィールドへ向けたまま首肯で謝意を示す。

 

「まだ試合が終わってないのが奇跡まであるね」

 

「だけどあいつら……スゲェスッキリした顔してるぜ」

 

 ボタンの呟きに合わせた形でメロコも一言口にする。

 内容はともかくとして、チャンピオン相手に真剣勝負をやり切った充足感を垣間見た。

 

 

 

「全く、パワー勝負なんて押し負けるに決まってるだろ」

 

「どうしてもやってみたかったんだ」

 

 入れ替わりのドットの小言を、アチゲータのボールを腰のホルダーに戻しながらのロイは苦笑と共に右から左へ受け流す。

 ドットとしてもロイやアンの狙いが分からないではなかった。

 

『現状出せる全力の戦い方をチャンピオンにぶつけるんだ。じゃなきゃやる意味がない』

 

 そして、トレーナーサークルに入るドットも気持ちは同じであった。

 

「はい! 続きましてはチャンピオンネモvsセキエイ学園1年ドット選手の試合を行います! 両者ポケモンを!!」

 

『やってやる……!!』

 

 ドットは、右手にモンスターボールを、左手に起動させたテラスタルオーブを構えた。

 

「『ダブルボール』で開幕テラスタル、ね」

 

 ポケモンの交代と交代先の投入のラグを短くするための『ダブルボール』の高等技術。繰り出すポケモンに同時にテラスタルさせる応用策そのものは、25年前より既に考案されている。

 元が高等技術であるものを学生のドットがテクニックとして駆使することが、ネモからして高いセンスを感じさせた。

 ドットとしてはオルティガがやっていたことの真似に過ぎなかったが。

 

「ウェルカモ! 燃えて、鍛えて、輝いて!!」

 

「きゃもぉらぁッ!!」

 

 放り投げられたボールから飛び出し、すぐさまオーブの輝きの中でみずのテラスタルジュエルを被るウェルカモを見れば、

 

「ウェーニバル!」

 

「うぇーい!」

 

 ラウドボーンと入れ替わりでネモはウェーニバルをフィールドに解き放つ。

 

「いざ勝負……ウェルカモ、アクアジェット!!」

 

「きゃんも!!」

 

 テラスタルジュエルがみずのタイプエネルギーを増幅させる。

 アンやロイと流れの違いを見せるのは、ここからだ。

 

「走れッ!!」

 

 ウェルカモはアクアジェットの加速を活かしてフィールド中を駆け巡り、ウェーニバルを翻弄しにかかった。

 

 

 

「テラスタルによって増強されたみず技であるアクアジェットの出力を速度に振り切り、フットワークを活かしたスピード勝負に打って出た、か」

 

「そりゃあ棒立ちのパワー勝負よりはまだ芽があるっちゃあるが……」

 

 相手はネモである以上勝負の性質などは誤差の範囲でしかない、というのがボタンらスター団ボスたちの見解である。

 それでも積極的に挑みかかる姿勢は、セキガクの4人のファイトを見届ける者たちの心の中に『熱』を生み始めていた。

 

 

 

 リコたちからの挑戦を受けたネモは、この一連の試合において、先行を取ることを封印していた。

 それは誰に宣言したでもない、自分がポケモンバトルを楽しむためである。

 ネモという少女には、バトルを楽しむために無意識下で相手の実力帯に自身を合わせる癖がある。

 側から見れば手を抜いている、と見られるものだが、実際この癖を正確に把握しているのはチャンピオンテストで戦ったオモダカと、ネモに近しい実力者くらいのものだろう。

 

『キミたちが気持ちよく戦えるならそれでいいよ……戦(バトル)は舞(ダンス)……! 息を合わせないとね……!』

 

 実力帯に関わらず、ネモにとって対戦相手とは自らの悦楽のために喰らう存在であるのだ。

 

「うぇーーーい!」

 

「かもッ……!」

 

 縦横無尽にフィールドを走り回るウェルカモに、ウェーニバルはあっという間に追いつき、並走をする。

 

「なッ……!?」

 

 スピードはもちろんのこと、方向を転換する切り返しすら完璧にコースごとコピーされているのでドットは目を見開かされる。

 絶句する暇などはなかった。

 

「ウェルカモ! アクアカッターッ!!」

 

「くぁぁぁもぉらッ!!」

 

 アクアジェットのみずエネルギーを両腕に移し替え、斬りかからんとするもそれより早くにウェーニバルの蹴りが腹に突き刺さった。

 ウェルカモはたまらず後方へもんどり打って倒れ、テラスタルジュエルの霧散とともに目を回していた。

 

「ウェルカモ、戦闘不能! ウェーニバルの勝ち!! よって勝者、チャンピオンネモ!!」

 

「く、くっそぉ……!」

 

 ドットにしてもスピード勝負、というだけでネモの上手を取れるとは考えていなかった。

 目まぐるしい展開の中でほんの僅か、ネモ側の動きに綻びを見出すつもりであった。

 結果としてはそれ以前の話だったが。

 

『パワーは駄目、スピードも駄目、か』

 

 ウェルカモを回収し、引き上げてくるドットとすれ違うリコ。言葉はお互い交わさない。

 

『今できる最大のことを見せるしかないんだ』

 

 トレーナーサークルに入りながら、リコは決意の眼差しをネモにぶつけた。

 闘志だけは折れさせてはならぬ、そう思ったからだ。バトルを挑んだのはこちらだからなのもあるのだから。

 

『そんな目で見つめないでよ』

 

 ネモもまた、リコの眼差しの意を汲んでは闘気が全身より漏れ出してしまう。

 

「ッ……!!」

 

『興奮しちゃうじゃないか……♡』

 

 チャンピオンからの圧力に身慄いこそすれど、リコに退却の選択肢は浮かぶことはない。

 声をかけると決めた時点で限りなく無謀寄りの勇気であることは、もとより承知の上だった。

 

「こ、このままチャンピオンネモvsセキエイ学園1年リコ選手の試合を行いまーす!!」

 

 ふと見れば口角が不気味に吊り上がっているネモに恐れをなしながらピーニャが試合の進行をする。

 

「いくよ! ニャローテ!!」

 

「にゃろおッ!!」

 

 それまで待機していたリコの隣で一緒に試合を見ていたニャローテが身軽に宙返りとともにニュートラルポジションへ躍り出る。

 

「最後まで楽しく! マスカーニャ!!」

 

「にやぁん」

 

 フレッシュな雰囲気を放つニャローテとは打って変わって、優雅かつ妖艶な足取りのマスカーニャをネモは回収したウェーニバルと入れ替える。

 リコもまた、最初から出し惜しみはなしだ。

 

「満開に輝いて、勝利の花よ!!」

 

 セキガク4人のトリを飾る形のテラスタル。ニャローテの頭にはくさのテラスタルジュエルが輝いた。

 

「ニャローテ、マジカルリーフいっぱい!!」

 

「にゃあああああ……!!」

 

 両手を天に掲げたニャローテの周りに数多のエネルギー葉が生成されてゆく。

 その量が通常考えられる範囲を超えているのにすぐ気付くのは、ネモにとって初めてのポケモンがリコ同様ニャオハであったからだ。

 

『あの子、普通の子よりくさのタイプエネルギーを多く、強く扱えるんだ』

 

 いわゆる戦闘向けとして『当たり』の個体であるとネモはニャローテを見定めた。

 自分のマスカーニャのニャローテ時代には制御できなかった規模のマジカルリーフであるからだ。

 

「むむッ!?」

 

 あとは放たれてくるであろうエネルギー葉の嵐を掻い潜って一撃を叩き込むだけ、そう思っていたネモの目が見開かれる。

 

 

 

「リ、リコちゃんはなにを!?」

 

 ビワとしても理解が追いつかなかった。

 マジカルリーフとして生成された多量のエネルギー葉が、ニャローテの全身をカバーするように張り付き出したのだ。

 

「自分自身にマジカルリーフをぶつけて、特性しんりょく状態も加えて勝負するっていうのか!?」

 

「いや……違う!」

 

 メロコの言にボタンが異を唱える。

 

「アレは『鎧』だ……! マジカルリーフを全身に纏った鎧なんだ!」

 

 ボタンの推察にビワたちは驚愕を隠せない。

 攻撃技を制御して防御手段とするとしてもせいぜい相手の技に合わせて相殺を狙うくらいが席の山であるのだ。

 自らの体に張り付けるというのは、発想からしてまず考えることすらなかった。

 それだけリコのアイデア力とは凄まじいものであると思い知らされていた。

 

 

 

 リコのアイデアに驚かされるのはスター団の面々ばかりではない。

 

「リコ、また新しいのが浮かんだんだ!」

 

「あいつ……!」

 

 アンがアハハと笑い、ドットは目を見開く。

 同じセキガクの仲間たちにしても舌を巻かされるのは同様だった。

 

「凄いじゃん! いけー! リコー!!」

 

 エールを送るロイは変わらず素直であった。

 

 

 

「マジカルリーフ・アーマー……ニャローテ! 突撃ーッ!!」

 

「にゃあああろぁぁぁッ!!」

 

 テラスタルの輝きに重ねるようにマジカルリーフの鎧を身に纏ったニャローテの足取りは軽やかなままであった。

 あくまでマジカルリーフは実態を持たぬエネルギー、重量を伝えてスピードを殺す愚には繋がらない。

 

「コレは流石に……!」

 

「にゃま」

 

 『技を使わずにあしらうのは無理』、とネモはマスカーニャと気持ちを1つにした。

 マスカーニャが両手の間にパッ、と花束を取り出す。爆薬のたっぷり詰まったトリックフラワーだ。

 

「こういうバトルもたまにはいいね」

 

 穏やかな、それでいて確実な決着を見据えながらの覇気を言葉に乗せながらネモは話す。

 チャンピオン同士の死闘もバトルなら、実力差の開いた相手への蹂躙もまた、ネモにとってはバトルなのだ。

 

「マジカルリーフ・アーマーアタック!! いっけぇぇぇぇぇッ!!」

 

「にゃッろあああああッ!!」

 

「今度会う時を楽しみにしてるね」

 

 刹那、マスカーニャの手元の花束がニャローテの顔面間近に現れる。

 

「「ッ……!!」」

 

 リコもニャローテも、爆弾の転移に気付くのと同時であった。

 フィールド全体にモヤを撒き散らす爆発が起こり、視界が晴れれば仰向けに倒れたニャローテが目を回していた。

 テラスタルなどはとっくに解除されている。

 

「にゃ、ニャローテ、戦闘不能! マスカーニャの勝ち!! よって勝者、チャンピオンネモ!!」

 

「んッん〜! いい運動になった〜!!」

 

 勝ち名乗りを受けながらネモはぐいー、と伸びをする。

 マスカーニャは、倒れたニャローテを一瞥することもなく主人の傍へ歩み戻っていった。

 




 『スターダスト大作戦』
 本来の目的を達成し、組織として行き場をなくしたスター団を終わらせるために行われた計画。
 発案者は当時立場をひた隠しにしていたボタンで、実行者はアカデミーに編入して来た『とある1年生』だというが詳細は不明。
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