SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 チャンピオンネモの実力はやはり圧倒的であった。ロイもドットも次々と敗れ去ってゆく。
 最後にリコも挑戦するがこれも実力の差は歴然。あっさりとニャローテは倒されてしまうのであった。


帰還、懐かしき母校へ

「ニャローテ!」

 

 リコはニャローテの元へ駆け出した。

 戦闘不能のダメージを受けたのは言うに及ばず、マジカルリーフの鎧で覆っていなかった顔面にピンポイントで至近距離からの爆風を受けたのが心配だったからだ。

 

「大丈夫。私のマスカーニャ、爆薬の量を調節出来るから」

 

「にゃんま」

 

 倒れたニャローテの身体を介抱するリコにネモも近づいて話しかける。

 ひと仕事終えたマスカーニャは、ひと息ついてから主人の側にピッタリと張り付いていた。

 

「……ホントだ」

 

 ネモの言う通り、ニャローテは確かに戦闘不能状態でこそあるが、その外傷は受けたトリックフラワーによる爆破攻撃の規模を考えれば驚くほどに小さいものだった。

 ポケモンセンターの回復装置からすれば軽傷もいいところで、ほんの十数分あればじゅうぶんすぎるほどに全快する程度の怪我だ。

 チャンピオンのポケモンとはコレほどまでに精密な攻撃が出来るのか、とリコは絶句した。

 遥か雲の上の実力者であるという認識はきちんと持っていたつもりだった。それでも創意工夫を駆使すればワンチャンあるかも、といった淡い期待もあっさり打ち砕かれてしまった。

 

「確かリコさんって言ったっけ。ジムチャレンジ、やってみる気ない?」

 

「えっ?」

 

「あなたならジム巡りの中でもっともーっと実ると思うんだけどな」

 

「実る……」

 

 独特な言い回しだとリコは思った。

 それが無敵のダンデに競り勝ったチャンピオンネモの見立てだと言うならば、素直に喜ぶべきだと笑みを作る。実際に嬉しくもなる。

 

「ありがとうございます。でも、私の始まりは、バトル部でこの子と心を通わせたところなんです」

 

 リコはニャローテを慈しむように見つめてから、ボールへ戻してゆく。

 

「最初はバトルを通して自分のポケモンたちと仲良くなれたらいいな、って考えてました。でもそこから段々と欲が出てきちゃって」

 

「それは、学生バトルじゃあないと叶えられないこと?」

 

「『セキガク全国制覇』……これが、今の私の目標です」

 

「そっか」

 

 首肯と共に見せるリコの眼差しは、穏やかながら確かな強い意志を携えたものだった。

 その瞳に宿る意志に、ネモは編入してきたばかりの『お向かいさん』を重ね合わせていた。

 あの子は今どこでなにをしているのだろうか? ほんの一瞬、思いを巡らせる。

 

『玩具は多い程楽しいじゃない?』

 

 リコに粉をかけていることをネモは内心で『お向かいさん』に弁明する。

 形としてはワンサイドゲームに過ぎないが、バトルそのものは楽しむことが出来たのでそれ以上無理押しする気もなかった。

 

「さっきも言ったけど、また会える時を楽しみにしてるからね」

 

「は、はい! その時は、またバトルしてください!」

 

「もちろん!」

 

 ネモから差し出された右手に応え、リコはガッチリ握手をする。

 

「……!」

 

 アンやロイとともに挨拶のため駆け寄るドットは、ネモからの熱視線を受けるリコがまた自分より前に進んだような気がして歯軋りした。

 同じチームでこそあれど、ドットにとってリコはどこまでいってもいけすかない奴でしかない。

 リコが著名な実力者に見初められるというのは、自然と悔しさと反骨心を生むのだ。

 

『負けるもんか……! ボクだって……!』

 

 そこから正しくハングリー精心を燃やすのが、ドットという少女だ。

 

 

 

「セキエイ学園の皆さん。約2週間の他地方交流お疲れ様でした。このパルデアの地で得たことを糧として、より充実した学生生活を過ごせるようこのクラベル、心より願っております」

 

 ネモとの試合から3日後、セキガクの他地方交流は終了した。

 クラベル校長からの挨拶を受け、ホテルから引き上げては行きと同様にバスでハッコウシティの空港へと向かう。

 

「そういえば、エクシード学園の人たち週明けから見かけなかったね」

 

「あぁそれ。デンサが言うにはあたしたちがチャンピオンとやり合ってる頃にはもう撤収してたんだって」

 

「そうなんだ」

 

「大方、アメジオたち主力が応用テストをクリアして、テラスタルをマスターしたんでそそくさ引き上げたとかなんじゃあない?」

 

 前側座るロイの座席の脇から顔を覗かせながらアンが言葉を返す。

 ロイの隣、窓際に座るドットはコダックのアイマスクをかけてスヤスヤと寝息を立てていた。

 応用テストからネモとの試合を経たバトル部はこの3日間、テーブルシティを飛び出して自主トレに明け暮れることで朝から晩までを費やしていた。

 特にドットに関してはネモとの一戦からリコに対するフラストレーションがさらに増大し、その反動で自身の体をいじめ抜くことにより熱心であった。

 その反動で今現在バスに揺られてあっさりと眠りこけているのだ。

 

「次会うとしたら全国大会、か」

 

 アンの隣の窓際席で、外の景色を見つめながらリコはポツリと呟く。

 オレンジアカデミーの建物の象徴であるモンスターボールオブジェが遠ざかってゆく。

 テーブルシティに根ざしている実家が遠のくにつれてリコの気分は軽くなっていった。

 そうして思考が行き着くのはいずれ来るエクシード学園との、アメジオとの再戦に対してであった。

 スター団のピーニャと熱い戦いを繰り広げていたあのアメジオに限って、テラスタル試験をしくじることはまずないだろうと思う。

 そしてテラスタルを手土産にガラルへ帰ったアメジオは、あの一癖も二癖もあるメンバーを率いて必ずや全国の舞台まで出てくるだろうとも。

 

『今よりもっともっと練習しないと、強い人たちには追いつけない。いや、追いつくだけじゃあ駄目なんだ。追いつき、追い越さなきゃ』

 

 窓の外の景色は、やはりリコの視界には入ってはいない。

 帰ってからの練習と、来月に始まる地方予選へ思いを馳せるばかりであった。アメジオと再び相見えるにしても、カントーにてぶつかるまだ見ぬ強敵たちを乗り越えねばなんにもならないからだ。

 こうして、リコたちの他地方交流は終了するのだった。

 

 

 

「うはー! 帰ってきたぞ懐かしのニドリーナ寮! あたしたちは帰ってきたぞ〜!!」

 

 ハッコウシティからクチバシティへ空路を行き、そこからバスで帰り着いた寮に対しずーっと座席に着いているよりなかったアンは下車し、視界に広がる母校に対して大の字に両手両足を広げながら高々と宣言をした。

 周りの視線も帰郷の興奮から目に入ってはいない。

 

「ったく、恥ずかしい奴」

 

「あ、あはは…」

 

 ちょうど時間帯としては夕食どきで、さっさとアンを追い越してからリコもドットも部屋に荷物を雑に置き、寮の食堂へと向かう。

 

「帰ってきたな」

 

「……お帰り」

 

 馴染みの食堂には、馴染みの景色が広がっていた。

 部活に所属している生徒は食堂では専ら同じ部同士で固まっており、バトル部に用意されているスペースには当然ホタル副部長とキラリがいた。

 

「ホタル副部長! キラリ先輩! ただいま帰りました!」

 

「積もる話は食べながらにしよう。今日は唐揚げだからな。モタモタしてるとバレー部と吹奏楽部に根こそぎいかれるぞ」

 

「ウッス」

 

 貸切ホテルでのメニュー様々かつレストランのようにオシャレなビュッフェとはまるで別物である粗野で騒がしいニドリーナ寮の食堂が、アンではないがリコは懐かしさとともに嬉しさを感じさせた。

 やはり住み慣れた場所での食事が1番精神を落ち着けるのだ。

 

 

 

「なるほど。ポケラインで大方話は聞いてたが、そうか。オレンジアカデミーのバトル部と上手くやってたんだな」

 

「……それと、エクシード学園のアメジオとも」

 

 久々の寮での食事、その話題は当然他地方交流での成果報告となった。

 ラーメン用のどんぶりに山盛りの白米と、皿に積み上げられた唐揚げをテーブルに置きながらリコたちは改めて他地方交流中のことを先輩たちに話す。

 彼女たちが『鶏の唐揚げ』と認識しているものは『こちらの世界』でいう大豆の代用肉を用いたものだ。

 『この世界』では豆類の加工技術が進んでおり、肉料理として食卓に並ぶものは全て代用肉だ。

 動物の部位の名前がついているのはフレーバー感覚であり、豆類の生産地がそれぞれ違うというだけである。

 ホタルが啜る豚汁に浮かぶ『豚肉』も無論のことそれらしいフレーバーの代用肉だ。

 本物の動物肉……即ちポケモンの食用肉などは法的に規制されており、非常に鈍感で切られたことに気づく前に尻尾が再生してしまうまぬけポケモンヤドンのような、生態的に問題がないと証明されている一部例外を除いてはダークウェブで取引されるような代物なのだ。

 

「こっちにはアサギ塾の1軍が遠征に来てたよ。ポケモンスクールのバトル部と練習試合をしていた」

 

「1軍、ってことはあたしたちが試合したのとは別の人たちッスね」

 

「あぁ。ポケモンスクールのバトル部も名将であるカキ監督によりよくまとめ上げられているアローラの強豪だが、流石に去年の全国覇者を相手にしては分が悪かった」

 

「……どちらのチームからもある程度データは収集出来た。来週のミーティングで資料を回すから頭に叩き込んでおいて」

 

「はい!」

 

 キラリの表情がどこかホクホクと満足げなのは、やはり彼女がバトル部きってのデータマンであるからだろう。

 

「まぁ、なにより驚かされたのはアサギ塾の1軍連中、ジョウトからアローラまでを泳いで往復してたことかな。ボクたちの帰りの船とも途中まで並んで泳いでたよ」

 

「異次元過ぎないスか、体力」

 

「ボクたちも負けてられないと思ったな」

 

「そ、そうスね」

 

 若干引き気味であったが、ホタルにドットは首肯を返す。

 全国制覇を標榜する以上、優勝校にも気後れしてはいられないのだ。

 

「3年生はカロス地方に行ってたんですよね? マフィン部長はどうだったんでしょうか?」

 

「あいつに限ってサボッてはいないとは思うが……」

 

 

 

「わぁ〜!! どうしたのマフィン部長!?」

 

「リコちゃん成分が不足しちゃってさぁ〜……」

 

 件のマフィンはというと、ニドリーノ寮の食堂でテーブルに突っ伏し、さながらメタモンやベトベターのような液状ボディをしたポケモンのように全身をとろけさせていた。

 せっかくの鶏唐げを台無しにされてはたまらない、とロイは慌てて皿を待避させる。

 

『本当にリコのことが大好きなんだなぁ……』

 

 マフィンとリコの間にある『セキガクの柱』を通したやり取りは、当人同士のことでしかない。

 故にマフィンの執着の意図をロイは知る由もなかった。

 マフィンの様子を呑気に受け流しながら、ロイは唐揚げに塩と胡椒をふりかけ、ご飯の上を経由して口の中に放り込む。

 唐揚げの肉汁が白米に染み込むのもまた乙なモノなのだ。

 

 

 

 そんなニドリーノ寮での男子組の様子などはつゆ知らずで、女子組は久々の寮での食事を終え、そのまま大浴場へと向かう。

 

「おっ、ホタルおっつー! バトル部もこれから風呂?」

 

「あぁ。女バレもこれからか」

 

 脱衣場で同性同士、同じ寮で暮らす間柄において今更何を気にするということもない。

 パッパとバスケットに衣服を脱いで放り込み、浴場へと入ってゆく。

 

「副部長、女バレの人たちと仲良いスね」

 

「そうか? 普通だと思うが」

 

「……ホタルは元々バレー部志望」

 

「そういうキラリはマフィンに捕まらなかったならコンピューター部志望だったろう」

 

 ホタルの背中をドットが、キラリの背中をアンがそれぞれ流す中、ホタルの左隣でリコがシャカシャカとシャンプーで頭を洗っている。

 同じ部同士での入浴においては上級生の背中を流す文化があり、何故かドットはホタルの背中を譲ろうとせず、仕方なしに自然と残るキラリの背中をリコとアンが日ごと交代で流している形だ。

 

「なんで部長はお二人をスカウトしたんですかね?」

 

「さぁな。なんで誘ったのがボクたち4人だったのか……そこはマフィンにしか分からないことさ」

 

「噂の先輩は、明日帰ってきて来るんでしたよね?」

 

「あぁ。明日の練習はその復帰祝いも兼ねてるから気合い入れて頼むぞ」

 

 セキ学バトル部の2年生はホタル、ナギ、キラリに加えてもう1人いて、計4人であるというのはバトル部において周知の事実である。

 連絡用のポケラインのグループにメンバーとして存在し、連絡事項に対しても普通に返信をしているのでリコたちも事情は聞いてあることだった。

 

「ウス」

 

 背中を洗い終え、シャワーで泡になったボディソープを流してからホタルにシャワーを手渡すドットは自分の身体を洗うためにリコの隣に座る。

 

「……チッ!」

 

 着実な実りを見せているリコの乳房を前に、依然として真っ平らなままの自分の胸をチラと見てのドットの舌打ちは、大浴場の賑やかな中でかき消えて誰の耳に入ることもない。

 

『キッサキシティのミコ先輩、いったいどんな人なんだろう?』

 

左腕を頭の後ろに回し、腋周りを念入りに洗いながらリコはまだ見ぬ先輩の実像に想いを馳せていた。

 

 

 




 『デンサ』
 10歳。セキエイ学園1年1組所属。
 リコとアンのクラスメイトで事情通な女の子。席はアンの前。
 パートナーとして配布された相棒ポケモンはゼニガメだ。
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