SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 様子のおかしなオニドリルをきっかけとしてリコは2代目オーキド博士ことシゲルと知り合い、オーキド研究所を訪れた。
 新しい人と人との繋がりは、それぞれに生きる道の転機を与えるのであった。


練習試合 セキガクvsチャバ農

 思いがけないところから初めてのポケモン研究所訪問を果たし、本人の預かり知らないうちに未来の新入部員を確保したリコは帰寮し、どうにかこうにかホタル副部長の大目玉はくらわずに済んだ。

 

「わぁ〜! 凄いや! どこまでも茶畑!」

 

「チャバタウン、っていうくらいだしね」

 

 そこからあっという間に週末となり、セキガクバトル部は学園最寄りのバス停から練習試合相手の待つチャバタウンへ向かっていた。

 バスから覗く景色一面に広がる『緑』世界は、産まれ育った離島の自然豊かさとはまた違った色合いをしているのだろう。試合の日は元々高いロイのテンションを一段と上げていた。

 感動の嵐に包まれるロイに言葉を紡ぎながら、リコは隣で寝ているアンを揺り起こしていた。

 

 

 

「ようお前ら! 忘れ物はしてないか?」

 

「それはボクが確認するんだ馬鹿者! みんな大丈夫だな?」

 

「それが……」

 

 現地集合の形でチャバタウンのバス停にて待機していたナギの軽口に怒鳴って返してからホタルが確認を取れば、それぞれ『持ち物の置き忘れ』はないであろうことと、それとはまた別の問題が発生したことを感じ取った。

 

 

 

「ぐー……がー……ごー……」

 

 乗車時よりバスの中で爆睡していたフリード監督を降ろし忘れたのだ。

 

 

 

「誰も起こさなかったのか?」

 

「バスが止まる時に頭揺れてたから起きたのかなー、って思って」

 

 ホタルにロイが不味いな、と思いながら釈明をする。

 

「まぁいいんじゃあないかな」

 

 フリードの降ろし忘れに関しては、マフィン部長のこの一言であっさりと決着がついた。

 試合をするのは自分たち選手で、オーダーも既にホタルが決めている。早い話がぐうたら監督は必ずしも要るわけではないのだ。

 

「部長判断がそうならまぁ、仕方ないか」

 

 置いて降りてしまったフリードのことは忘れ、チャバ農一へ向かうということで話はまとまった。

 ロイは、ホタルの大目玉をくらわずに済んだのでホッとしていた。

 

 

 

「遠路はるばるようこそお越しくださいましたセキエイ学園の皆様」

 

 バス停からしばらく歩いて見えてきた校舎を目指し、辿り着いた校門では百合や紫陽花、雨に波と季節に合わせた柄の和装に身を包んだ一団が恭しく一礼の元に出迎えられた。

 案内を受ければセキガクバトル部はバトルコート……ではなく茶室へと案内されてゆく。

 

「まずは茶でも一杯飲んで心を落ち着けてから、思う存分試合いましょうや。あぁ、座り方はお好きなように」

 

 狭い躙口を潜った先の畳が敷き詰められた空間から独特の雰囲気をリコは感じ取る。

 茶道のなんたるかはイマイチよく分からないものの、茶室の空気に調和するジュコウ監督の正座にこだわらない姿勢は、足の痺れの心配からありがたかった。

 

「時に、あなた方の監督の姿が見えぬようですが、なにかありましたか」

 

「実はその……」

 

 ホタルはばつが悪いのを隠せないままにフリードを置いて来た事情を説明する。

 

「そうでしたか。なんとも彼らしい。いやね? フリードくんとは同じアサギ塾の同期でして。彼はクラスの中心人物で、道理が通らぬと思ったことには先輩や教官相手だろうとくってかかる熱い魂の持ち主でしたよ」

 

 久々に会えるとなれば話をしたかった、と付け加えるジュコウの何にリコたちが驚いたかと言えば、良く言えば熟達している、悪く言えば老けているその見た目に反して、フリードと同じ20代後半に差し掛かる辺りの年代であるというところであった。

 

「ゴホンッ!」

 

 コーチのジョウオウが咳払いをする。

 瞳の軽挙を嗜める意味合いのそれは、チャバ農バトル部の面々が座る末席に座る黒髪に黄色い瞳の少女へと向けられていた。

 

「ん……」

 

 リコは、その少女とふと目が合う。

 居並ぶ他の部員たちと同じく『侘び寂び』を重んじるような薄い水色が控えめな主張をする和装に身を包む彼女を、『猫みたいだな』となんとなく思った。

 

 

 

「ねぇアン。お茶の味とかいうの、分かった?」

 

「ぜんっぜん分かんなかった。でもお饅頭は美味しかった!」

 

 茶室での一服を頂いた後、案内された更衣室でユニフォームに着替えながらリコとアンはやりとりをする。

 中身が透けにくいアイボリーの下着からリコはユニフォームに足を通してゆく。

 

「……!」

 

 ロッシュベージュのブラが包む胸周りに若干上着が引っかかるアンの様を、ドットは信じられないものを見るような目で凝視する。

 そんなドットの方にポンと手を置くキラリの思惑としては、8割方同情だった。

 

「……そのうち実る」

 

「ウス……」

 

「私は新年度になって初めての試合だからねー。楽しみ楽しみ」

 

「ぶいぶい!」

 

 復帰間もないミコは既に気持ちをフラットにしている。足元では相棒のイーブイが楽しげに飛び跳ねる。

 茶室でいただいたお茶の効果もまんざらではないと思った。

 

「着替え終わったらすぐに始まるからな。気持ちを切り替えていこう」

 

 ホタルが元はバレー部志望だったという話も、よく考えてみればユニフォームに膝と肘のサポーターを合わせているところからその名残りとして頷ける話だった。

 

「いくぞ!!」

 

「「はいッ!!」」

 

「ウッス」

 

 ホタルの号令にリコとアンは元気よく応え、そこにドットも続く。

 ミコとキラリは首肯を返し、セキガクバトル部女子組は更衣室を出た。

 

 

 

 チャバ農一のグラウンドに併設されているバトルコート中央に両陣営が立ち並ぶ。

 

「これよりチャバ農一vsセキエイ学園の練習試合を執り行います。試合の進行と審判はチャバ農一バトル部1年のドンオウが務めます! それでは両チーム、礼ッ!!」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

 チャバ農のメンバーも試合となれば和服から緑茶をイメージしたような濃い緑のユニフォーム姿に着替えていた。

 ユニフォームのスタイルこそセキガク同様のシャツ&パンツスタイルで、学生バトル連盟より提示されている公式ルールに乗っ取ったものだが、一礼に優美さが滲み出ているのは校風の違いからであろうか。

 フリードがいないのでマフィン部長がジュコウ監督とオーダー表を交換し、対戦は以下の通りに決まった。

 

 

 

ダブルバトル

オリベ&エンシュウvsミコ&ドット

 

シングルバトル2

ムラエリvsリコ

 

シングルバトル1

リキュウvsマフィン

 

控え

サンケイvsナギ

 

 

 

「あたしムラエリ! よろしくね!」

 

「私はリコ。こちらこそよろしく」

 

 人懐こい笑みを向けながらリコは『猫みたいな』ムラエリと握手を交わす。

 強豪相手の練習試合、地方予選への試金石となる戦いがいよいよ始まるのだ……!

 

 

 

「これよりダブルバトル、チャバ農一2年オリベ選手と同じく2年エンシュウ選手vsセキ学2年ナギ選手&1年ドット選手の試合を行います! 試合方式は2C1D! 切り札システムの使用はどれか1つを1度のみ!!」

 

 1年生ながら朗々とした調子でドンオウが試合を進行する中、トレーナーサークルにて4人の視線が交錯する。

 

「……!」

 

 今回のオーダーは正直な話、ドットにとって実に業腹な話であった。

 試合メンバーに選ばれたことそのものはいいとして、同じくリコもオーダーされ、シングル2に入っていることが理由であった。

 団体戦の花形はシングルバトルだというのがポケモンバトル黎明期より強く根付いている中で、自分はリコより劣っている扱いなのか? そんな邪推をオーダーを考えたホタルにしてしまう。

 そんな苛立つドットの肩にミコはポンと手を置く。

 

「ミコ先輩」

 

「ドットは1年生、私は病み上がり。お互いここがアピールのしどころだ。逆に言えば、ここでしくじったらオーダーに入れてもらえる確率はガクッと下がるだろうね」

 

 ドットはハッとさせられる。

 形はどうあれ、与えられたチャンスをモノにする以外にチームに貢献し、自身をアピールする術はないのだと、リコへの対抗心を心の中で端へと追い込んだ。

 

「思いっきりやってやろうじゃあないの。どのみち次の試合となったらばもう地方予選なんだ」

 

「ウッス!」

 

 苛立ちから肩に入っていた余計な力が抜け、自然なテンションに立ち戻るドットがボールを構えるのを見てから、

 

「ぶいぶい!」

 

 ミコは足元から見上げてくる相棒イーブイと視線を合わせ、互いに頷いた。

 

 

 

「大した奴だぜミコっちはよ。リコへの対抗心で視野が狭まりかけてたドットを上手いこと平静に立て直させた」

 

 口角を吊り上げながらナギが一連のやり取りを簡潔に見抜く。

 

「結構なことだ」

 

 ホタルは、ミコがミコなりに先輩としての立ち振る舞いが出来ているのを嬉しく思った。

 キラリとともに自分とナギの間に入り込んだところへ自らのポジションを見出していたミコの朗らかさが、この先チームにいい影響をもたらしてくれることだろう。

 それもまた、セキガクの全国制覇に不可欠な要素なのだと信じているからだ。

 ふと視線をやれば、我らが部長のマフィンがネクストサークルにて待機するリコのうなじへいやらしい視線を向けていた。

 

「あ痛!」

 

 ホタルは、そんなマフィンの頭を思いっきりドツいた。

 

 

 

「「いざいざ!!」」

 

「「ほほーう!!」」

 

 オリベとエンシュウが繰り出すのは草の外套を被った狩人を思わせるフォルムをしたやばねポケモンジュナイパー。

 2体のジュナイパーは互いに背中合わせになりながら、翼の中に仕込んだ『矢羽』を構えて見せる。

 

「いくよ! ミミッキュ!」

 

「きッきー……!」

 

「いけ、カヌチャン!!」

 

「かゃーい!」

 

 ミコが繰り出すのはピカチュウを模した黄色っぽいボロ布を被った姿のばけのかわポケモンミミッキュ。

 ドットが繰り出すはパルデアでの収穫の一部であるカヌチャンだ。

 

「シアイカイシニトモナイ、バリアフィールドテンカイ。ソノゴ、バリアフィールドナイニジンコウガラテラリュウシヲサンプ」

 

 チャバ農側がセンターサークル上空に飛ばしたドローンロトムが公式戦と同じように試合前の措置をする。

 味気ない電子音は、ナビゲート機能のアップデートを二の次にしての結果だ。

 

「バトル開始ィィィッ!」

 

「「ジュナイパー、かげぬい!!」」

 

「「ほぅあッ!!」」

 

 2人同時の指示に、ジュナイパー2体も即応して矢羽を発射する。

 

「かゃーッ!?」

 

「ミミッキュ!」

 

「きーッ!」

 

 放たれた矢羽の狙いはどちらもカヌチャン。

 集中砲火に分かりやすくビビッてしまうカヌチャンの前にミミッキュが飛び出した。

 

「「ぬぅ……!」」

 

 唸るのも息を合わせるオリベとエンシュウ。

 かげぬいによる同時射撃がバッチリである故に『1発分』としてミミッキュに受け止められてしまったのだ。

 同じポケモン同士の抜群のチームワークが仇となった形だ。

 

「きゅみぃ……!」

 

「そう簡単に可愛い後輩をやらせはしないもんね!」

 

 ピカチュウを模したボロ布の『首』がペキリと折れてあらぬ方向に曲がる。

 特性『ばけのかわ』による『ばけたすがた』から『ばれたすがた』へとミミッキュのフォルムが変化したのだ。

 

「いけカヌチャン! ぶんまわす攻撃だ、突っ込め!」

 

「かぁ……!」

 

 ミミッキュが庇い、攻め手が収まったタイミングにドットがジュナイパー2体を指差す。

 

「かぁや〜!!」

 

 意を決したカヌチャンは勇気を振り絞り、得物のマイクをブンブンと振り回しながらジュナイパーたちめがけ走り出した。

 

「そうだ。それでいいんだ」

 

 ドットは一言呟きながらホッと胸を撫で下ろす。

 弱虫と泣き虫のダブルパンチであるカヌチャンが戦うためのテンションに移り変われたことへの安堵だった。

 

 

 

「どうしてチャバ農のペアはどっちも同じポケモンなんだろう?」

 

「あっ、それあたしも気になってた!」

 

 ふと呟いたロイにアンも同調をする。

 

「……同ポケモンによるタッグの利点はポケモンごとの長所を倍増させられること」

 

「へー!」

 

「……事実、この方針に切り替えた15年前からのチャバ農一の勝率はそれまでに比べて30%増になっている」

 

「マジスか!?」

 

「団体戦は3戦2勝ルールだからな。初戦のダブルに勝てればそれだけ団体戦自体の勝率も上がってくる。立ち振る舞いこそ穏やかだが流石は名将ジュコウ監督。チャバ農を強豪に押し上げただけのことはある」

 

 ロイの疑問にキラリが答え、戦術を持ち込んだジュコウ監督の手腕をホタルは高く評価する。

 それはとりもなおさず、チャバ農側がしっかりと地方予選を見据えての実戦的なオーダーをぶつけてきたことになるのだ。

 ホタルは、同じアサギ塾出身だというならばウチの監督にも爪の垢を煎じて飲んでもらいたいと思った。

 

 

 

「ぶえっくしゅん!! あれ……? ここどこだ? てかあいつらは!?」

 

 そんなフリードは依然としてバスの中で揺られており、目覚めとともにようやく自分が置いて行かれたことに気付くのだった。

 

『次は終点、セキチクシティ前〜。お忘れ物のないようお気を付けてくださ〜い』

 

 

 




 『オリベ』
 11歳。チャバ農業大学第1高等学校中等部2年生。
 エンシュウと固定でタッグを組むチャバ農の切り込み隊長その1。
 リキュウ部長に対して強い敬意を抱いているんだ。
 想定CVは山下誠一郎さん。
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