チャバ農バトル部からの歓迎でお茶菓子を楽しみ、心を落ち着けてから試合を始めていくのであった。
「ぬぅ……小兵なれどぶんまわすはあくタイプ技。むざむざ受ける意味はなし!」
「ならばオリベ!」
「うむ!」
「「散ッ!!」」
あくタイプエネルギーをマイクに纏わせ振り回してくるカヌチャンに対し、オリベとエンシュウはすぐに意見を一致させた。
「「ほうッ!!」」
ジュナイパーを高くジャンプさせ、カヌチャンのマイクが届かぬ上空を取った。
「クッソ!」
ドットは舌打ちをする。
攻撃の間合いより逃れられこそしたが、カヌチャン側に打つ手がないではない。ただそれはあくまで『奥の手』であり、今手札から切るには早すぎると判断した。
「任せて! ミミッキュ、でんじは!」
「きゅみみみみぃ〜ん!!」
「「ぬうッ!?」」
ミコが1年生の時、他地方交流にてナッペ山の廃墟でゲットしたことから付き合いが始まったのがこのミミッキュである。
『今の、ピカチュウの真似? いいじゃん! もっと見せてよ』
見た目、というよりは被ったボロ布で模したオリジナルのピカチュウと同じようにミミッキュというポケモンはでんき技をいくらか扱うことが出来た。無論、本場のでんきタイプとパワー比べに持ち込まれたら厳しくはなるが、野生時代のミミッキュはでんじはの技を外敵対策に用いていた。
去年、テラスタル試験のためナッペ山を訪れていた1年生の時のミコと出会ったのだ。
「うほぅ…!?」
「オリベ!!」
「うぬぅ、なんたること……!」
ミミッキュのでんじはがジュナイパーの片方を捉えた。
チャバ農一タッグの狼狽から察するにまひして技が出にくくなったのはオリベのジュナイパーなのだろう。
「今だッ! カヌチャン、奥の手使うぞ!!」
一糸乱れぬ連携のジュナイパーコンビ、その片割れがまひ状態となったならばすかさずドットは狙いを定めた。
「かや〜……!」
体が痺れたことにより上空への退避が遅れ、自由落下に入るジュナイパーへカヌチャンは、
「やぁッ!!」
得物のマイクをぶん投げたのだ。
「カヌチャンがマイクを投げた!」
「それだけじゃあないぞ」
「えっ?」
カヌチャンが自慢の得物を飛び道具としたことにロイがビックリするのにホタルは付け加える。
キラリが若干顎をしゃくるようにして注視を促すのでアンもロイもジッと見てみれば、投げつけられたマイクにはあくタイプのエネルギーが凝縮されているではないか。
弱虫で泣き虫なカヌチャンにとって、バトルとなればどうしても得物のマイクが精神的な拠り所になる。
その最大の武器を投擲物として攻撃に利用するというのは、弱虫で泣き虫だからこそ考えづらいだろうとドットは思い付く。
その発想からカヌチャンにマイクを投げ付ける戦い方をカントーに帰ってきてから教えていたのだ。
「そうはさせぬ! ジュナイパー、フェザーダンス!!」
「ほああッ!!」
エンシュウのジュナイパーが両翼を振り抜けば、放たれたおびただしい量の羽が投げつけられたマイク目掛けて放たれ、包み込むようにして勢いを殺して見せる。
「隙ありィッ!!」
「ぬううッ!!」
そこでミミッキュがジャンプし、エンシュウのジュナイパーの上を取っていた。
示し合わせていたわけではない。場の空気に合わせて反射的にミコはミミッキュを動かしていた。
「く、くうッ……!!」
上を取ってきたことで覗けそうになるミミッキュのボロ布の中身を前に、オリベやエンシュウは生態的な知識から、2人のジュナイパーは本能的なところから顔を背けた。
『ミミッキュの中身を見た者は呪われ、謎の病に侵される』という言い伝えからの防御反応だ。
ドットは、いたずらっぽいような笑みに好戦的なニュアンスを含ませるミコを『やり手』だと思った。
ミミッキュの生態を利用してまんまと攻めかかる手腕には見習うところがあるとも。
「シャドークロー!!」
「みゃあくりゃあ!!」
布の底から伸びる影が黒く太い腕より伸びる鋭い爪を現出させてはエンシュウのジュナイパーを捉え、3本爪がボディを大きく切り付ける。
「ぐッふッ……!」
『中身』を見まいと視線を逸らしたことが、ジュナイパーの全身を急所としてしまっていた。
「不覚ッ……!」
「カヌチャン! 今のうちにマイクを」
「かゃッ!」
エンシュウのジュナイパーがフィールドに落着し、目を回している傍に撃ち落とされたマイクをカヌチャンは走って回収する。
「やんやん!」
張り付いた羽を振り払う中、
「くう……ジュナイパー、退がれ」
オリベはまひ状態のジュナイパーをボールに戻した。
「エンシュウ選手のジュナイパー、戦闘不能! ミミッキュの勝ち!!」
「やった! 相手の1体を倒した!」
「コレで2vs1だ!」
ネクストサークルでリコが快哉し、ベンチのロイも飛び上がって喜ぶ。
リタイアとなって倒れたジュナイパーをエンシュウがボールへ戻す中、ミミッキュはふわりと軽やかにフィールドに着地をする。
『ここから勝ちを掴むにはアレをやるしか……!』
「オリベ……」
1人残してしまった相棒にエンシュウが視線を向ける中、オリベは額の汗を拭い、チラと自陣ベンチへ視線をやる。
「任せておけ!」
先輩後輩の立場を越え、人生の師と仰ぐリキュウ部長がゆっくりと頷くのを見てはオリベも腹を決めた。
「見事なり! 貴殿らを難敵として遇し、こちらも奥の手を使わん!!」
オリベの右手に置かれたモンスターボールが肥大化してゆく。
バトル開始と共に展開された人工ガラテラ粒子に反応し、オリベのボールはダイマックスボールへと変化したのだ。
「バックキャンセルからの速攻ダイマックスか」
敵もさるもの、とナギは舌を巻く。
ダイマックスは通常、先にポケモンを繰り出した状態からボールに回収するプロセスが一般的である。
その行程をスキップし、直接ダイマックスに踏み切るのは相手に交代の誤認を誘発させることが出来なくなる代わり、素早い攻勢を展開出来るようになるのだ。
「コレはまずいかも……ミミッキュ交代!」
オリベの反攻ムードを肌で感じ取ったミコはミミッキュを回収する。
「ぶい!」
「うん。頼んだよ相棒!! レッツゴー!!」
「ぶーい!!」
ミコの足元に鎮座していたイーブイがフィールドインし、カヌチャンの隣に並び構える。
「茶の道はただ飲むだけに非ず! 甘味と共にご賞味あれ!!」
「頼むぞ、オリベ!」
エンシュウからエールを受けながらオリベはダイマックスボールを上空へ放り投げる。
「いざいざキョダイマックス!! 参るぞマホイップ!!」
「ま゛ぼぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
飛び出すはクリームポケモンマホイップ、キョダイマックスの姿。
抹茶のフレーバーが周囲に香気を振り撒き鼻腔を刺激するその威容は巨大なデコレーションケーキそのものであり、4段重ねの頂点にマホイップ本体が君臨している。
「もうひと押しだよ、やろうドット!」
「ウッス!」
ミコにドットは即応する。
「マホイップ、ダイバーン!!」
「ま゛ぁ゛ぼぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
マホイップがデコレーションケーキの上から強烈な火炎のブレスを吹きかける。狙いはカヌチャン。タイプ相性からの妥当な択だろう。
「ドット任せて! 相棒ッ!!」
「ぶいりゃあッ!!」
迫るブレスを前にイーブイが飛び出してゆく。
「念力パワー! どばどばオーラ!!」
「ぶいんいんいんいん!!」
イーブイの発したサイコパワーの念弾が放たれるも対するはパワー増量されたダイマックス技、とてもではないが相殺は追い付かない。
「ぶりゃがッ!?」
ダイバーンの勢いに弾き飛ばされるイーブイ。
ミコとしては最低限の役割は果たすことに成功した。フィールドにひかりのかべが展開されたからだ。
そんなミコの隣のドットはというと、乾坤一擲の意思のもとにテラスタルオーブを取り出していた。
「カヌチャン! 燃えて、鍛えて、輝いて!!」
「かゃあ!!」
カヌチャンに恐れがないといえば嘘であるのはドットとしてもなんとなく読めていた。
それでも自分と変わらないサイズのイーブイが臆することなくキョダイマホイップに立ち向かう様を見せ付けられては退くに退けぬと踏みとどまれる程度には女の意地という物を持ち合わせているのだろう。
「テラスタルッ!!」
ドットがテラスタルオーブを投入すれば、カヌチャンは結晶の中で眩い輝きのドレスを身に纏い、ティアラを被る。
「オリベよ! いくさの常道は、不利とあらばまずは五分の盤面に戻すが吉なり!」
「応とも!!」
エンシュウに応えるオリベの狙いは変わらない。
「マホイップよ、ダイバーンを撃て! 狙いはカヌチャン!!」
1発目のダイバーンにより上空へ舞い上がったほのおエネルギーが降り注ぐ日差しを強めている。
にほんばれ状態で強化されたほのお技でなおもカヌチャンを先に仕留める算段だ。
「ま゛ぁ゛ぼぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!」
「カヌチャン!! 自分を信じろ!! ボクもお前を信じる!!」
「かぁやぁ……!!」
再び迫るブレスを前に、カヌチャンはマイクを前方に構えた。
マホイップの放つ強烈なブレスがフィールドを焼き払ってゆく。
「あとはイーブイのみ!」
オリベは相応の手応えに右拳を握った。
「オリベ!!」
「むうッ!?」
「かぁやややややぁ〜!!」
刹那、マホイップの鎮座するデコレーションケーキを飛び上がってくるカヌチャンの姿……
「なんと!? ガードが間に合ったと申すのか!? しかし……!!」
驚愕しながらもオリベはすぐに平静を取り戻す。
「ダイバーンを耐え切ったは見事なり!! しかし、己が獲物を捨てて何が出来ると申すのか!?」
カヌチャンが元いた場所には焼け焦げたマイクが転がっていた。とてもではないが武器としてはもはや使い物になるまい。
「武器ならあるさ!! カヌチャン!! テラスタルパワー全開だ!!」
「かゃあ〜!!」
デコレーションケーキを登り切り、さらに高くジャンプしてマホイップの上を取るカヌチャンのテラスタルジュエルが激しく輝きを増す。
大きな斧を思わせるはがねのテラスタルジュエルそのものが、エネルギーを蓄えみるみるうちに巨大化すれば、オリベもエンシュウもドットの狙いに気がついた。
「「よ、よもやよもや!! テラスタルジュエルそのものを武器と致すか!?」」
「それだけじゃあないッ!! カヌチャンの最大の武器、それは……」
「かぁやぁ〜……!!」
空中でカヌチャンは頭のテラスタルジュエルを縦一文字に振り下ろすように全身を回転させてゆく。
「弱虫で泣き虫なところから這い上がろうとする決意……!! 『勇気』だぁぁぁぁぁッ!!!」
「かゃあああああッ!!!」
「ま゛ッ゛ぼぉ゛ッ゛…!!」
強烈な縦回転の勢いを活かした急降下によりテラスタルジュエルそのものを使ったカヌチャン渾身のメタルクローがマホイップを激しく切り付ける。
キョダイマックスといえども効果は抜群。ミルキィまっちゃの巨体が大きく仰け反った。
「まだよッ!! これしきのことで負けられぬ!! マホイップ、キョダイダンエン!!」
オリベが右手を天に翳す。
キョダイマホイップの切り札であるキョダイダンエンには自己回復の効果がある。
フェアリーエネルギーが凝縮された生クリームの雨を降らせ、相手を攻めつつ体制を立て直す腹積りだ。
「くッ……!」
渾身の一撃を見舞った直後のカヌチャンは自由落下に身を任せるよりなく、完全に無防備であった。
「ナイスガッツドット!! カヌチャン!! あとは私たちでぇぇぇ!!」
「ぶいぶいぶいぶいぶい……!!」
そこに初撃のダイバーンを受けてから持ち直して来たイーブイが走り込む。
「先輩! カヌチャン! 足を上に上げるんだ!」
「かやぁ……!」
残された体力でカヌチャンは両足を空へ向ければ、マホイップめがけてジャンプしたイーブイが、カヌチャンちゃんの足を踏み台にしてさらに加速し、勢いを強めた。
「ホントデキた後輩だ! 決めるよ相棒!!」
「ぶーい!!」
「ぬうう!! こ、これではキョダイダンエンが間に合わぬ……!!」
マホイップを捉え、自らを弾丸に見立てての突撃にイーブイは錐揉み回転を加えてゆく。
「必殺!! ブイブイブレイク!!!」
「ぶいりあああああ!!!」
攻撃体勢のところのマホイップのお腹は、直前にカヌチャンのメタルクローを受けた場所で、そこにイーブイが飛び込んだのは無論狙ってのことだった。
「ま゛、ま゛ぼぉ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……」
強引に作り出された『急所』への立て続けの渾身の一撃が、マホイップをお立ち台より転落させる。
キョダイマックスのエネルギーが霧散し元の0.3mのボディに戻るマホイップは、仰向けに倒れ目を回していた。
「マホイップ、戦闘不能! イーブイの勝ち!! よって勝者、セキエイ学園2年ミコと1年ドット!!」
『エンシュウ』
11歳。チャバ農業大学第1高等学校中等部2年生。
オリベと固定でタッグを組むチャバ農の切り込み隊長その2。
オリベをタッグのリーダーとして1歩身を引いた視野の広さを持つぞ。
想定CVは江口拓也さん。