2人は見事な連携で巨体を攻略し、勝利を飾るのであった。
「よぉしッ!」
勝ち名乗りを受けガッツポーズをミコは作る。
ドットは、名残惜しさを全開に焼け焦げたマイクを見つめるカヌチャンをボールに戻せば、フィールド内に入り、残されたマイクを拾った。
「ッつぅ……!」
ダイバーンの直撃をガードするのに使っていたマイクは未だ熱を持っており、ドットは表情を歪めながらもブンブンと振り回すことでどうにか冷やしてゆく。
損傷も激しく、もはやバトルのための武器として扱うこともかなわないマイクを回収した理由としては、カヌチャンの成長の証として取っておきたいと思ったからだ。
「ドット。戻ろう」
「ウッス」
そんな後輩の不器用なセンチメンタルを察したミコの声色は、優しいものだった。
「ミコ先輩とドット凄い……! 強豪校の鉄板タッグに真正面から勝っちゃうなんて」
ダブルバトルを目に焼き付けたリコは武者震いをした。そして、それだけで済ませてはならないとも思った。
勝ちのムードを作った2人に続いて見せると強く意気込む。
そんなリコの横顔を見るマフィンは満足げに頷く。
マフィンの表情に邪な雰囲気が見られないのでホタルは、今回はギリギリ折檻を見送ることにした。
「「む、無念なり」」
「お疲れ様ッス、先輩がた! あとはあたしに任せといて下さい!!」
「「ムラエリ」」
健闘の末に押し切られたオリベとオリベとエンシュウを元気付けるように、ムラエリが小柄な体より意気込みを放つように明るい声量で言葉を投げかける。
「あたし、なんとしても勝ってリキュウ部長に繋げますから!!」
2人と入れ替わりでムラエリはトレーナーサークルに入る。
同時にリコも準備を整える。両サイドから2人は互いを向き合い、熱く視線を交錯させた。
『ミコ先輩たちの頑張りを無駄にしないためにこの試合……!!』
『強豪・チャバ農一のレギュラーとしてこの試合……!!』
『『絶対に勝つッッッ!!』』
「これよりシングルバトル2! チャバ農一1年ムラエリ選手vsセキエイ学園1年リコ選手の試合を行います!! 試合方式は3C1D! 切り札システムの使用ルールはダブルバトルと同様ッ!!」
「「リコー!! 頑張れー!!」」
アンとロイのエールにリコが、
「「ムラエリ!! チャバ農魂を忘れるな!!」」
オリベとエンシュウのエールにムラエリがそれぞれ頷いて見せる。
「それでは! 試合開始ィィィッ!!」
「いくよ! ニャローテ!!」
「出番だよ! ニャヒート!!」
「「にゃあああああ!!」」
試合開始のコールと共にリコはニャローテを、ムラエリはひねこポケモンニャヒートを側から走り出させれば、飛びかかるニャヒートの両前足をニャローテが掴み、両者がっぷり四つの態勢となった。
「ニャローテ! ほのおのキバッ!!」
「にゃひがあ!!」
「ッ! ニャローテ、蹴飛ばして!」
組み合ったところからニャヒートの口が開き、牙が発火したのを見てのリコは素早くニャローテに指示。
「にゃろあッ!!」
すかさずニャローテは右足をニャヒートのお腹に突き刺せば、仰け反ったところでニュートラルポジションまで飛び退いた。
「流石に簡単にはいかないか! そのニャローテ、なかなかやるじゃあないの!」
「あなたのニャヒートこそ! いきなり危なかった」
「ニャビーの頃から大切に育ててるんだもん! 当然!」
「それなら私だって! ニャオハの頃からニャローテとはずっと一緒!」
蹴りを入れられたニャヒートもまたニュートラルポジションへ飛び退く。身軽な身のこなしから、ダメージは軽微。
序盤の差し合いは、ほんの僅かにリコの側へと傾いた。
「ニャローテ!」
「ニャヒート!」
「「アクロバット!!」」
「「にゃあッ!!」」
シュバアッ!!
センターサークル上でがっぷり四つに組んでのパワー勝負から、打って変わってのフィールド全体を使った高速戦に移行する。
「にゃろぉ……!!」
「にゃあひ……!!」
目まぐるしく走り、飛び回りながら時に爪を突き立て、時に肉弾をぶつけることで、ニャローテもニャヒートも体中に生傷を作ってゆく。
一進一退の攻防は、トレーナーにもポケモンにも充足感を与えていった。
「ゴローンか、カルボウに変えればいいのに」
そんな衝突の繰り返しを見ていたドットの呟きは正論である。
ゴローンならばいわ、じめんタイプとシンプルに相性から有利であり、カルボウは特性『もらいび』によりニャヒートの得意なほのお技を吸収、無効化できる。少なくともくさタイプのニャローテのまま戦うよりはよほどマシだろうという意図が含まれている一言だ。
無論、ムラエリにだってポケモン交代の権利はあるし、他の手持ちの問題もあるにしても、だ。
それでも現状を転換させるならばやはりニャローテを下げるのがドットとしては丸く思えた。
「あのムラエリって子はニャヒートに対してニャビーの頃から大切に育ててると言い、リコちゃんもニャローテとはニャオハの頃からずっと一緒だと返した。相棒ポケモンへの愛情から来るプライドがぶつかり合ってるんだよ」
「さしずめ『ニャオハ大好きっ子』と『ニャビー大好きっ子』の意地の張り合い、ってとこか。そりゃあそうそう退けねェわな」
マフィンが語るところをネクストサークルからナギが要約する。
分からないでもないと思えるドットだが、その相手がリコだというのは癪だった。
「「にゃあッ!!」」
二足と四足で歩行スタイルが違いながらも軽やかな身のこなしは変わらず、ニャローテもニャヒートもアクロバットによる高速戦から一旦互いのニュートラルポジションへ舞い戻り足が止まる。
受けたダメージ量としては、ニャローテの方が上だった。
『アクロバットはひこう技……! くさタイプのニャローテで撃ち合いをしていたらジリ貧で不利になるのはこっち……』
『あのニャローテ、二足で器用な分くやしいけど単純なスピード勝負では正直ちょっとキツイ……! となればフィジカル勝負を続けるのは不味い!』
ムラエリは額から流れる汗を気にすることなく、互いに直接的な叩き合いの愚を瞬時に悟る。
と、なれば残すところはポケモンが本来持つタイプを活かした応酬のみである。
「ニャヒート! かえんほうしゃ!!」
「にゃひあああ!!」
「ッ……!」
リコは、ニャヒートがかえんほうしゃの技で口から灼熱の炎を吐きかけてくるのに驚いた。
ニャローテが直撃をもらえばひとたまりもないその威力を、先程まで互角にアクロバット勝負で張り合ってきていたニャヒートが叩き込んできたことに、だ。
「……あのニャヒートは、リコのニャローテと渡り合えるスピードと、ロイのアチゲータのパワーを併せ持っている」
「伊達に強豪・チャバ農で1年生の頃からオーダー入りはしていないということか」
キラリの端的な分析から、ホタルはムラエリのトレーナーレベルを評価する。間違いなくスーパールーキーだと思った。
が、スーパールーキーはなにもチャバ農にしかいないわけでは……ない。
「ニャローテ! マジカルリーフいっぱい! 全部前にッ!!」
「にゃろぉあああ!!」
膨大な量のエネルギー葉をニャローテは前面に展開し、擬似的なバリアとする。
炎に弱く、瞬く間に炎上してゆくエネルギー葉だが、確かにブレスを食い止めることには成功した。
「なんて量のくさエネルギー……!!」
ムラエリは、リコのニャローテが同種に比べて扱えるエネルギー量が豊富である優れた個体だと分かった。
それでも勝機を見出したのは、今のマジカルリーフの全開でかえんほうしゃを防ぐのに振り分けた分、連射はままならぬと踏んだからだ。
「満開に輝いて……勝利の花よ!!」
かえんほうしゃ相殺のために使い果たしてしまったところから、再度技としての体裁を保てる威力を賄えるまでにニャローテの体内のくさエネルギーが回復するのを待つのはとても無理な話だった。
かわしてみたところでジリ貧になるだけでこちらが不利になるばかり……そう判断したリコはテラスタルオーブを投げ込む。
「跳んで、ニャローテ!!」
「にゃろおおおッ!!」
結晶の中で輝きと、テラスタルジュエルを纏いながらニャローテは跳躍をする。
「撃ち落としてニャヒート! かえんほうしゃ!!」
「テラスタルパワー全開ッ! マジカルリーフ『シールド』!!」
「「にゃにゃあああああッ!!」」
再度放たれるブレスを前に、テラスタルジュエルが輝くニャローテもまた先程と変わらぬエネルギー葉の盾を展開する。
「テラスタルで増大するタイプエネルギーも使って防御してくると、はッ……!?」
マジカルリーフを焼き払った先の光景にムラエリは目を見開く。
直前まで盾を構えていたはずのニャローテがそこにいないのだ。
「どこに……ううッ!!」
視界を動かせば、ニャローテ自体はすぐに見つかった。
しかし、テラスタルの輝き以上に、ニャローテがバックに置く逆光がムラエリの視界とレスポンスに僅かな隙をもたらした。
「今だよニャローテ! ふいうち攻撃ッ!!」
「にゃあろあああッ!!」
日差しを背後に、ニャローテは全身を縦回転させながらニャヒートめがけ落下してゆく。
回転の勢いをプラスした右の踵落としを、
「にゃ、ひッが……!?」
ニャヒートの脳天へ叩き込んだ。
「クッソ、ニャヒート……! かえんほうしゃをッ……!!」
「にゃひぁッ……!!」
脳天を踵で射抜かれ、視界がチカチカしながらもニャヒートは口を開き、口内にほのおエネルギーをチャージしてゆく。
「ニャローテ! ツタでニャヒートを引き寄せて!!」
ふいうちを決めたニャローテがバク宙してから左手よりピンク色の蕾をフック代わりにツタを放ち、ニャヒートの右前足に巻きつける。
そこからグイッとニャヒートを引き寄せるのは、ムラエリにとっても好都合な話だった。
「至近距離からくらわせるんだ!! 間に合えーッ!!」
「それより先に打ち込むッ!! ニャローテ!! アクロバット!!」
「にゃろあああッ!!」
引き寄せられながらも顔をニャローテに向けたままニャヒートはかえんほうしゃを放つ。
ニャローテは、限界まで体を反らすことでブレスをやり過ごし、唸りを上げる右の膝で今度は顎を撃ち抜いた。
「にゃ、ろぁがッ……!」
ニャヒートの顔面が跳ね上がってはかえんほうしゃの残滓が上空へ放たれ、そのままうつ伏せに崩れ落ちてゆく。
背中からフィールドに落着しながらツタを手元に回収するニャローテのお腹周りの体毛が焼け焦げ、目を回すニャヒートを見下ろしていた。
「ニャヒート、戦闘不能! ニャローテの勝ち!! よって勝者、セキエイ学園1年、リコ選手!!」
「にゃろあああ!!」
「勝った……! よしッ!!」
勝ち名乗りを受け、咆哮するニャローテを見ながらリコは安堵する。同時に、ニャローテもニャローテで同じ猫型ポケモンとしてニャヒートに対抗心を宿していたのが分かった。
ニャローテでの勝負にこだわって正解だった、と勝ち負け云々からではなく思う。
せっかくここまで築いてきたトレーナーとポケモン間の信頼関係を崩す愚は犯したくはないからだ。
「ニャヒート、お疲れ様……」
倒れたニャヒートを回収するムラエリは分かりやすく意気消沈していた。
今回の練習試合は公式戦のルールがそのまま採用されている。
3戦2勝で勝ち抜けが決まる以上、リコの勝利で団体戦そのものが終了となり、シングル1に控えていたリキュウ部長まで回せなくなったからだ。
「負けこそ大いなる勝ちを得るための糧となろう」
そんなムラエリの右肩にそっと手を置くリキュウの声色は優しく、それでいて彼女の再起を確信していた。
「セキエイ学園……見事なチームよ。地方予選では脅威となろう」
「……それでも、チャバ農は絶対負けません。あたし、もっと強くなりますから!!」
僅かに声を震わせながらムラエリは決意を口にする。
「うむ」
言葉は返さず、リキュウはただゆっくりと頷いた。穏やかな性情で、ムラエリのさらなる飛躍への期待を抱いた。
「練習試合は公式戦ルールを参照し、2戦2勝により、セキエイ学園の勝利とします!! 一堂、礼ッ!!」
「「「「「ありがとうございましたッ!!」」」」」
両チームセンターラインを中心に整列し、儀礼を済ませる。
試合を終えた同士、リコとムラエリはガッチリ握手を交わした。
「今日のところはあたしの負けだけど、地方予選じゃこうはいかないから! ニャヒートも今よりパワー、スピードに加えて、いくらやられてもへこたれないタフさを身につけるんだから!」
「私だって負けない! ニャローテもまだまだ強くなれるもの。ニャローテだけじゃあない、私だってもっと強くなる!」
チャバ農一のムラエリが新たなリコのライバルとして名乗りを挙げたのは、マフィンにとっても僥倖だった。
『いいよリコちゃん。そうやって、たくさんのライバルと切磋琢磨し合うんだ。その繰り返しの果てに、立派なセキガクの柱になってくれ』
『ムラエリ』
10歳。チャバ農業大学第1高等学校中等部1年生。
チャバ農期待のルーキーで活発な女の子。先輩たちの背を追うように日々練習でレベルアップを重ねている。
パートナーはニャヒートで、この系列をこよなく愛するまさしく『ニャビー大好きっ子』だ。