SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 ダブルスから続けて行われるシングル2にてリコはニャビー大好きっ子のムラエリと激突。
 ニャオハ大好きっ子として負けられない戦いを見事制するのであった。


バカ・ゴー・ホーム

 チャバ農一との練習試合を終えたリコたちセキ学バトル部はそこからトレーニングの日々をハードに過ごした。

 6月の3週目に一気に練習の強度を引き上げたのは、4週目に差し掛かってからは期末テストに向けた部活動停止期間に抵触するからだ。

 中間テストにおける準備間の際はアサギ塾との練習試合を控えていたために公然と例外措置の下に部活単位の練習を続けていたが、今回は期末テスト直前の週末に試合の予定は入れてないためバトル部はそれぞれテスト勉強の合間を縫って体を動かすことになっていた。

 

「ねぇリコ〜。あたし分かんないとこあるんだけどさぁ〜?」

 

「どこ?」

 

「なぁんで数学なのにアンノーン文字が出てくるわけ〜?」

 

「あ、あはは……それは私も分かんないかな」

 

 夜間、寮室にてテスト勉強に励む中でアンは普段ならばまず抱かないような呪詛を学習ドリルにぶつけながらリコに疑問を投げかける。

 クラスやバトル部でムードメーカーとして輝くアンであるが、その反面として勉強面の進捗や理解は散々なものであった。教室での授業となればほとんどは寝ているかポケモンのお世話に消えている。

 その中でもより壊滅的なのが理数系で、特に数学の1次方程式が鬼門であった。

 早い話が自業自得の末の、とんだ難癖もいいところな唸り方をするアンに、リコも苦笑いを禁じ得ない。

 7月を迎える直前ということでカントーはすっかり蒸し暑くなり、空調の効いた部屋にも関わらずパンツ一丁にねじり鉢巻を頭に巻いて、どちらかといえば睡魔との戦いに防戦一方となっているアンの様には特にリコは意識を向けない。

 リコ自身も蒸し暑くなってきて、いつしかアンと同じように下着姿を部屋着とするようになっていたからだ。

 

「にゃろにゃろてんてん」

 

 セキガク入学に合わせて父が新調してきたパジャマも、今となってはニャローテの玩具代わりとなっていた。朝、目が覚めれば寝相のついでに脱ぎ捨てたらしいショーツが床に落ちていたのも1度や2度ではない。

 夏本番を迎える前から既に寝苦しさより脱ぎ捨てられた汗びっしょりなリコやアンのショーツが無造作に放置される部屋の床は、すっかりと散らかっていた。

 入寮当初はアンが私物を広げ放題で片付けに疎いところから、互いに最低限の境界線を定めたのだが、いつしかリコもまた私物を床に放置して過ごすことに慣れてしまっていた。

 互いが互いの服を間違って手に取り袖を通してそのまま外を出歩くのも日常茶飯事となっていた。

 そんな2人の部屋の境界線、双方の私物が絡み合うように放置されている片隅には、リコが祖母ダイアナから入寮祝いとしてもらったペンダントがケースごと雑に埋もれていた。元々はリコのベッドの裏に安置されていたのだが、散らかされてゆく中で私物の波に押し出されいた。

 バトル部での日々に魂を燃焼させるようになったリコからすれば、既に記憶の片隅にすらあるかも怪しいような代物となっていたが……。

 

「あ、ドットだ」

 

 1次方程式を前に完全にグロッキーにされ、机に突っ伏しているアンをよそに、リコはドットが夜の寮外へ走り出してゆくのを見つける。

 完全帰寮の門限こそあれど、そこさえ遵守すれば学園の敷地内より出ない限りは行動に制限がないのがセキエイ学園のルールだ。

 おそらくはテスト勉強ばかりで鈍らないように体を動かしに行くのだろう。

 

『私も負けられない』

 

 そう思った時には、既にリコはジャージ姿となり部屋を出ていた。ランニングのためである。

 

「にゃろっ」

 

 リコが部屋を出るのでニャローテも弄んでいたリコのパジャマをポイと床に放り捨ててから後に続いた。

 

「うぇい! うぇい!」

 

 ウェルカモを伴い、夜のロードワークを一心不乱にこなす。そんなドットが汗を流す胸の内はというと、

 

『いとをかしって、なに? なにがおかしいのさ?』

 

 この一念に尽きた。ドットは理数系に強い反面、文系がまるで駄目なのだ。アンにとっての理数系と同レベルなほどに。

 早い話が現実逃避で体を動かしているに過ぎないのである。

 

 

 

 リコたちが暮らすニドリーナ寮が女子寮であり、対となるニドリーノ寮は無論のこと男子寮である。

 日中、夜間問わず互いの寮の間で異性の生徒の往来は禁止されており、このルールを破れば1発で退学も視野に入る。

 そんな思春期男子の溜まり場となっているニドリーノ寮において、ある意味においてマフィンの存在は劇薬であった。

 

「イッシュ語だとガラル語と違ってこっちを先に書くんだよ」

 

「そうなんだ〜! こうかな?」

 

「ん。オッケー。次はこの例文訳してみよっか」

 

 テスト勉強でロイに助け舟を出すマフィンは薄紫色のネグリジェ姿で、いくら食べても一向に筋肉のつかない細いボディラインが透けて見えている。

 元より小柄で普段から女子用の衣服を身に纏うマフィンが、押し込められた寮の中で情欲を拗らせた同輩から性の対象にされているのは本人とて空気で察している。それでもここまで実際『事件』にまで至っていないのは、マフィンのポケモンたちによるガードあってのことだ。

 そんなマフィンの女装癖のきっかけは彼がセキガクに入学してからのことまで遡る。

 始まりとしては至極単純な話、バトル部の先輩からの無茶振りだった。

 当時より女子と変わらぬ線の細さと真っ白い肌から面白半分に女物の洋服を押し付けられたのだ。

 

『耐え難きを耐え、忍び難きを忍ぶ……にしたっていくらなんでも度が過ぎてる!! 大して部活も真面目にやってないくせに後輩イジリばっかり!!』

 

 共に全国制覇を誓った友がマフィンへの先輩たちのやりように憤慨する様も今は昔のこと。

 ボブショートの銀髪に、垂れ目ながら気の強さから来る激発を隠すことのない整った顔立ちのマヤは、夏休みを終えた1年生の2学期にはもう転校していき、セキガクからいなくなっていた。

 弱小のセキガクバトル部という『置かれた場所で咲く』ことより、レベルの高い場所での切磋琢磨を意識の高い彼女は求めたのだろう。

 セキガクに残って足場を固める選択をしたマフィンとどちらが正しかったのかは、来月の地方予選から始まる全国大会を目指す戦いの中でハッキリすることだ。

 

「部長、ここコレでいいの?」

 

「んー? どれどれ……」

 

 少し呆けたところからマフィンは現実に意識を引き戻し、ロイの拙いながらに熱心な回答をチェックに入った。

 2人のポケモンたちの意識はとうの昔に夢の中である。

 

 

 

「オックパ! オックパ! みんなでオックパ!」

 

「楽しみだね、オクタン焼きパーティー!」

 

 テスト期間中でなくとも部活の身内同士で集まり夜食を食べるのはセキガクでは日常茶飯事のこと。

 週末、リコたち1年女子3人は、ホタルの言い付けでトキワシティまでオクタン焼きパーティーのための具材を買いに出掛けていた。

 費用はフリード監督から出させたとのことだ。ホタル曰く『こういうところでくらい役に立たせてやらねば監督としての面子に関わるだろう』と。

 それを聞かされたリコたちはつい破顔してしまった。

 

「にゃろぉん」

 

「ん? どうしたのニャローテ?」

 

 リコの隣を歩くニャローテが何かに気付き、指差すのはファミレスの窓際テーブル席だった。

 見知った顔が、見知らぬ異性と顔を突き合わせていた。

 

「あれっ、ナギ先輩じゃん。一緒にいるの誰だろ? 彼女……はまぁないとして」

 

 リコに続いてアンがナギに気付く。

 

「あの制服……まさか」

 

 ドットがナギと一緒の女子の制服に着目したのでリコが問おうとしたところだった。

 若干タレ目のショートボブでサイドの髪が少し長い女子がテーブルをダン! と両手で叩くようにして勢いよく立ち上がってから出ていってしまった。

 

「あっ……」

 

 窓から外を向くナギとリコたちの視線が合ってしまう。

 『まずいところを見られてしまった』というような苦笑いをナギは浮かべていた。

 

 

 

「妹さん?」

 

「あぁ。オレに似てなかなか整った顔立ちしてたろ?」

 

「先輩に似てるかは知りませんけど美人さんスよね!」

 

「言いやがる!」

 

 見られてしまってはしょうがない、とばかりに手招きしてくるナギにリコたちは応じてファミレスに入った。

 口止め、と言うわけではないがスイーツの1つでも奢るとのことなのでありがたく先輩にゴチになる形だ。

 

「あの制服……タマ大附属ッスよね」

 

「あぁ。あいつめちゃくちゃ頑張ってたからな。お受験」

 

 ドットにナギはこともなげに首肯を返す。

 タマムシ大学附属中学校……全国大会の常連で、目下地方予選15連覇中なカントーNo.1である強豪校。リコたちセキガクからすれば、全国へ行くには最大の強敵となることは間違いないチームだ。

 そこにナギの双子の妹のカオルは所属しているというのだ。

 

「それって、マフィン部長たちは知ってるんですか?」

 

「そりゃ知ってるさ。自慢の妹だもの。地方予選となりゃあどこかでやり合うことにはなるだろうよ」

 

 オーキド・ユキナリやニシノモリ教授にポケモンアナリストのソネザキ・マサキと、カントー圏の著名な人物が多く在籍していた名門校であるタマムシ大学、その系列にある学校ともなれば最高の環境が整えられているのは当然の話。

 最高の環境には、それ相応の代償がつくのも世の理だ。タマ大附属は、受験はもちろん学費もまたカントーでトップクラスである。

 一般家庭に過ぎないナギの家でカオルの学費を捻出するには、両親の稼ぎではとても追い付かなかった。

 そんな事情からナギは奨学金制度を使ってセキガクに入り、自らの学費を作る選択肢を取ったのだ。

 

「オレはさ。いつかはどこかしら適当な公認ジムで拾ってもらってジムトレーナーにでもなって、気楽にバトルしながら食ってける分の稼ぎがありさえすりゃあそれでいいのさ。だがあいつはオレとはモノが違う。最高の環境で目一杯頑張るべきなんだ」

 

 遠い目をしながらナギはコップの中の氷を口の中に放り込む。

 リコは、窓越しに見ただけだが立ち去るカオルの横顔には悔しさと申し訳なさがない混ぜになっていたように思えた。きっと、自分と違って苦学生をやっている兄の姿が不憫でならないのだろう。実際その予想は当たっている。

 が、当のナギが自分の身の振り方に関してなんら後悔するところを見せないので彼女としてもどうやって、どこに感情をぶつけたらいいか分からないのだろう。

 複雑な兄妹の事情が解消されることを願ってみるにしても、今のリコたちに出来ることは1つしかなかった。

 家族間の恥ずかしいところを見られてしまったのを帳消しにしたがっているナギからスイーツをゴチになり、オクタン焼きパーティーの具材とともに寮に帰ることのみであった。

 なにより期末テストが待ち受けてるのだ。

 

 

 ついに7月を迎え、初週に待ち受けていた期末テストを、セキガクの生徒たちは結果はさておきとして潜り抜けていった。

 内容は中間の時と同じく『国語』『社会』『数学』『理科』『語学』の5科目を100点満点の答案に挑む形であった。

 テスト期間明けの週末を迎えるバトル部は、勉強続きのフラストレーションを発散させるべく練習でハッスルしていた。

 

「ニャローテ! アクロバット!」

 

「にゃろおッ!!」

 

「ウェルカモ、けたぐりで迎え撃て!!」

 

「うぇるぁッ!!」

 

 セキガクのバトルコートA面ではリコとドットのバトル。ニャローテとウェルカモが互いの右足を振るっての鍔迫り合いを演じれば、

 

「アチゲータ! じならし!! フタチマルを近付けちゃ駄目だ!!」

 

「あンげン!!」

 

「たぁちゃッ!?」

 

「くぅ〜! 流石ロイ! 簡単に攻めさせてくれない!」

 

 同じくB面ではロイとアンがやり合い、アチゲータのじならしでフタチマルが若干モタつかされている。

 

「気合い入ってるな。1年坊主ども」

 

「……地方予選はもう今月だから」

 

 ナギにキラリが簡潔に返す。

 そりゃあそうか、といった笑みをナギは口元に浮かべる。

 

「リコちゃーん! いけいけ〜!」

 

「踏ん張れドット! 下がるな! よしッ!」

 

 1年生の仕上がりを確かめながらマフィンもホタルも声を張り上げている。

 大会を直前に控え、気力じゅうぶんであるのは上級生も同様だった。

 

「ぶーい、ぶい!」

 

「そうだね相棒。このチームなら、きっとイケる」

 

 左肩に飛び乗るイーブイの頭を撫でてやりながらミコは笑みを浮かべる。

 回復装置を持参したフリード監督はやはりベンチで寝ており、流れ弾が直撃でもしない限り起きることはないだろう。

 そんな意気軒昂なセキガクバトル部のテンションに思い切り水を差されることになろうとは、この時のリコたちの誰も思ってはいなかった。

 

 

 




 『カオル』
 11歳。タマムシ大学附属中学校2年生。
 ナギとは双子の妹で身も心もエリートコース真っ只中な女の子。
 チームでも将来を嘱望されているエース候補だ。
 想定CVは井上麻里奈さん。
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