SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 練習試合の後も変わらぬ日常は続く。ナギに強豪タマ大へ通う双子の妹がいようともそれは同じことだ。
 地方予選を控えるリコたちの前に、意外な難題が降りかかるのであった。


地方予選が危ない!

「「「「「てっかにんにんにんにんにん!!」」」」」

 

 7月7日、月曜日。

 学園中の木々にしのびポケモンテッカニンが張り付き、夏を知らせる調べを奏でる中、ほのお校舎のバトル部部室は沈痛な空気に包まれていた。

 世間一般では七夕とされ、ねがいごとポケモンジラーチの伝承になぞらえた催しごとが全国各地で行われているが、そんなことは今現在のリコたちの中からはすっ飛んでいる。

 

「アン。ドット。ロイ。ボクが何を言いたいか、分かるな?」

 

「「「……」」」

 

 ホタルから呼びかけられた3人は血の気の引いた顔を無言で首肯させる。させる以外に選択肢はなかった。

 針のむしろの同期たちに対し、当事者たちより苦い表情をするリコは何も手出し出来なかった。

 部室のテーブルに広げられているのは、期末テストで帰ってきた答案。その内訳はこうだった。

 

リコ 国語91点。社会95点。数学96点。理科97点。語学92点

 

アン 国語69点。社会38点。数学29点。理科31点。語学34点。

 

ドット 国語27点。社会30点。数学92点。理科93点。語学31点。

 

ロイ 国語37点。社会32点。数学29点。理科38点。語学74点。

 

 セキガクで行われる定期テストは100点満点中40点未満で赤点となり、アンとロイは5教科中4つ、ドットは3つという惨憺たる結果であったのだ。

 

「こンの、バッカモーーーーーン!!!」

 

「「「ヒンッ」」」

 

「おわわ!?」

 

 ホタルの怒号が響けば、居眠りしていたフリードはソファから転げ落ち、部室の近くを通りかかっていた生徒らは何事かと歩を止める。

 部室はおろか、ほのお校舎全体が揺れたような錯覚すら赤点組3人はさせられていた。

 

「いったいぜんたいなにがどうなればこんな赤点まみれになるというんだ!? ちゃんとテスト勉強してたのかお前ら!?」

 

「まぁまぁ副部長。あんまりカリカリしないで」

 

「そういうお前はロイのテスト勉強の何を見てたのか!? えぇ!?」

 

「なにぃ〜? 失敬な。俺がロイの勉強見てやってたから語学は70点超えたんだぜ?」

 

「焼け石に水ゥゥゥゥゥッ!!」

 

 激発し放題なホタルがマフィンの首根っこを掴み、ブンブンと揺らしまくる。

 

「まぁー、その、アレだ。来週に追試あるし、そこで帳消しにするしかないよね」

 

「当たり前だ!」

 

 ミコに返すホタルはとりあえずテンションをクールダウンさせる。

 

「キラリ! ボクと2人でアンとドットの追試対策をする! マフィンはロイの追試対策! 練習以外は勉強だからな。覚悟しておけよ?」

 

「「ウ、ウッス」」

 

「……了解」

 

 ひとしきり怒鳴り散らし、大きく深呼吸を何度か重ねることでようやくほんの少しだけ冷静さを取り戻しながらも、厳しい剣幕にアンもドットも首肯しながら自分の答案を回収する。

 

「……昨日、グループラインにもあげたけど、地方予選のトーナメントが決定した。各自改めてチェックしておいて欲しい」

 

 キラリが簡潔に伝達を行う。さりげなく話題の転換を図った。

 全国大会へ駒を進めるカントー代表の座を争う組み合わせは以下の通りだ。

 

タマムシ大学附属中学校

ヨヨヨ第8中学校

 

ジョウチャン女学園

クチバ海上技術学校

 

ヤマブキ超能力学園

ララミーレース塾

 

ホリウッド芸能学園

チャバ農業大学第1高校中等部

 

ーーーーーーーーーー

 

トキワ台中学校

セキチク忍者学校

 

オトメガサキ学園

グレン島学院

 

ポケモンゼミナール

ロータ学習院中等科

 

セキエイ学園

グンジョウ工業学校

 

「今年もグン工と1回戦で当たるんだね」

 

「試合したことあるんですか?」

 

「去年の話ね。ま、普通に負けたんだけど」

 

「そんなに強いんだ……」

 

 リコからすればマフィンたち上級生はまだまだ雲の上の存在で、そんな彼らが勝てなかったいう事実に戦慄を覚えた。

 生唾を呑むリコにミコはアハハと笑う。

 

「去年はオーダーされてたのマフィンだけ。シングル2でマフィンは勝ったんだけどダブルとシングル1で先輩たちが負けちゃったんだ」

 

「ぶいぶい」

 

 今の2年は誰もオーダーすらされてない、とミコは付け加える。

 マフィンを中心として真面目に全国制覇を狙うセキガクバトル部が本格的に始動したのは、去年の地方予選で敗退し、当時の3年生が引退してからのことなのだ。

 去年のセキガクと今年のセキガクは違う……そう語るようにイーブイはミコの膝の上で得意げになっていた。

 

「マフィンの見立てとしては2年の時に集まった私たち4人と自分を加えた5人体制でも試合そのものは出来るし、最悪はそのつもりだった。でもあなたたち1年生が入部して頑張ってくれてるから、より戦略的に悲願達成を目指せる……そうでしょマフィン?」

 

「まぁね」

 

「……?」

 

「……ポケモンバトルにおいて情報アドバンテージは非常に重要だ。必要最低限のメンバーだけでは早いうちから手の内を全て晒すことになる。そうなれば相手に対策されやすくなってしまうだろう? だからオーダーの選択肢は多ければ多いほどいいんだ」

 

 キラリの補足に赤点組の3人はハッとなる。

 ホタルたちが、自分たち1年生も全国制覇のための戦力として等しく勘定に入れていることを認識したのだ。その期待が胸に沁みた。

 

「ホタル副部長……! あたし、絶対追試パスします!!」

 

「ボクも……!!」

 

「僕だって!!」

 

 3人が意気込むのにホタルは何度も頷く。自分が激発した意味を汲んでくれたことに満足していた。

 

「うむ。まぁ、怒鳴るだけ怒鳴ってしまってからこう言うのもなんだが、やってしまったものは仕方ない。それと同じように、全国制覇はバトル部全員が力を合わせねばならぬ。そこさえ分かってくれたならボクからこれ以上言うことはないよ」

 

 と、なれば時間が惜しいとミーティングは切り上げられ、ホタルとキラリがアンとドットを、マフィンがロイを引き連れ部室を出る。そのまま寮に戻り早速追試対策に入るのだ。

 

 

 

「そうか。いよいよ始まるんだね。リコさんたちが夢の舞台へ駆け上がるための戦いが」

 

「はい」

 

 ミーティングを終えたリコは日課のロードワークに出てマサラタウンまで赴き、オーキド博士のポケモン研究所へ2度目の来訪をしていた。

 アンとドットの追試対策を手伝うことも申し出たが、自分のオフを過ごすのも役割であるとホタルに言われて引き下がった形だ。

 シゲルから快く出迎えを受け、案内されればリコのポケモンたちもまた広々とした庭の住人たちと遊んでいる。

 

「あのオニドリルは大丈夫なんですか? 何か分かったんですか?」

 

「タマムシ大学の研究部で元気にしているよ。ただケンジが言うには、あの子が纏っていたピンクのモヤに関しての調査はあまり上手くいっていないらしい」

 

 ケンジとはフリーのポケモンウォッチャーから一時期はマサラタウンのサトシの旅の仲間として共に行動し、初代オーキド博士の助手となった青年だ。

 そのまま初代の研究に従事する中でタマムシ大学の門を叩き、現在では教授としての地位を手にして母校に所属している。

 その気になれば自分の名義でポケモン研究所を持つことも出来る本人の自認する立場としては依然オーキド研究所の博士お付きの助手のままであり、シゲルはそんなケンジを義理堅く、誠実な同志として信頼を寄せている。

 その実直さ故にハナダの美人三姉妹の長女を娶ることにもなったのだろう。

 もっとも、当のケンジは大学に入り浸っていて妻の実家であるハナダシティに顔を出すことは基本なく、年上の妻サクラの方も結婚前と変わらず男遊びに興じていて、当人同士の触れ合いは希薄である。

 それでも夫婦仲としてはそこまで悪くないというところに関しては、未だ身を固めていないシゲルにはよく分からない話だった。

 天性のプレイボーイであると自他共に認めるところのシゲルではあるが、一度心に決めた相手を見つけたならば一途に愛し続ける性質もまた、祖父から色濃く受け継いだ部分である。

 

 

「おねーさーん!」

 

「ぽぉ〜ッ!」

 

「チャンちゃん!」

 

 元気な声と足音が近付く。初めて研究所を訪れる際にオニスズメの群れに襲われていたところを助けた少女と、一緒にいるオドリドリが来ていた。

 

「チャンさんはあの日から時間を見つけては研究所に通い詰めで、ポケモンの勉強やバトルの練習を始めたんだよね」

 

「そうなんだ」

 

「うん! あたし、トレーナー免許が来たらセキエイ学園に行くって決めたんだ! お姉さんと一緒のバトル部に入るの!」

 

 様子のおかしかった暴走オニドリルを前に敢然と立ち向かっていったリコの姿は、チャンの脳裏に憧れを刻み付けていた。

 チャンがキラキラと輝く眼差しを向けてくるのに、リコは嬉しさと気恥ずかしさがないまぜであった。

 

「そっか。じゃあチャンちゃんは未来の私の後輩だね」

 

「うんッ!!」

 

 チャンの眩しい笑顔につられてリコも笑顔になる。

 

「リコさんたちは夏休みに大会なんだって。チャンさんも応援に行ってあげたらどうかな?」

 

「えっ、いつ?」

 

「22日にセキエイスタジアムだよ」

 

「行く行く! 絶対行くよ!!」

 

「ぽぉ、ぽぉ!」

 

 目を輝かせながらチャンが飛び跳ねるのにオドリドリも倣っている。

 よくよく見ればそんなチャンの褐色肌に見え隠れするしなやかな肉付きはアスリート向けではなかろうか?

 

『もしかしたらこの子、練習重ねたら強くなるかもしれない』

 

 そんなことをリコは思った。

 

 

 

 7月18日。セキエイ学園の1学期は無事修了した。

 

「た、助かった〜ッ……」

 

「よかったねアン」

 

 修了式の2日前に実施された追試の結果も発表され、アンはすんでのところで夏休み中の補習を免れた。補習となれば原則として部活動は禁止であるからだ。

 入学からお決まりである右隣の席でぐったりするアンにリコは微笑む。

 朝1番の終業式の後にホームルームで手渡される通知表、その内訳はこうだった。

 

リコ

国語 4 体育 5

社会 5 音楽 5

数学 5 美術 5

理科 5 家庭科 5

語学 4 ポケモン 4

 

アン

国語 3 体育 5

社会 2 音楽 5

数学 2 美術 2

理科 2 家庭科 2

語学 2 ポケモン 5

 

ドット

国語 2 体育 4

社会 2 音楽 2

数学 4 美術 2

理科 4 家庭科 2

語学 2 ポケモン 5

 

ロイ

国語 2 体育 5

社会 2 音楽 5

数学 2 美術 2

理科 2 家庭科 2

語学 3 ポケモン 5

 

 通知表に記載される1番最後の項目にあるのは『ポケモン学』の授業成績であり、ポケモンに関する生態知識や相棒ポケモンの育成状況を発表し合うのが主な授業だ。

 生物学の座学とポケモンバトルの実技が組み合わさった形であり、理科や体育とは独立して扱われている。

 1年1組において最も相棒ポケモンをよく育成出来ていたとポケモン学の実技授業担当であるセイヨ先生より評価を受けたのは、アンとリコでワンツーフィニッシュだった。

 バトル部で鍛えられてきた分ダントツの結果といえた。

 

「んっ」

 

 スマホロトムがスカートのポケットで振動し、ポケラインを開いて見れば、1年2組のドットとロイからの追試クリアの報告がバトル部全体のルームに画像付きで送られていた。

 

 

 

「ふぅ……ひとまずは安心、といったところか」

 

 ポケラインの追試報告を受けたホタルは独りごちる。

 赤点まみれの答案が返ってきて怒鳴りこそしたが、今回のことは1年生の勉強に関して、少なくとも同じ寮であるリコたち女子組に対しては自主性を尊重した結果であり、その結果として出たのがコレだった。

 マフィンの方が事前にロイのテスト勉強に協力していた分マシだったと思う。

 

「……ホタル」

 

 話しかけてくるキラリがスッ、と右の握り拳を差し出してくる。

 追試対策をアンとドットに叩き込んだ、その甲斐もあったものだとホタルは同じく握り拳を合わせた。

 

 

 

『……いよいよ始まるよ。マヤ。俺の、いや、俺たちの挑戦が』

 

 3年1組の教室にて、生来からの体質から伸びることを知らない短身で、窓際の1番前が事実上の指定席となっているマフィンは、1学期最後のホームルームとして話をしている担任の言葉に耳を傾けることなく窓の向こうへ視線をやっている。

 このどこまでも広がる青い空の向こうで、全国制覇を誓い合った同志もまた、己のチームとともに共有した熱き思いを、同じ野望を果たすべく地方予選に臨むことだろうと思う。

 正直なところ、2年生の4人さえいれば試合そのものは出来る。最悪ホタルたちだけを引き連れての地方予選も普通に想定してはいた。

 そこから今年になって有望な1年が4人も入ってきたことに関しては嬉しい誤算であった。

 仮に自分の挑戦が実らなくとも……とは考えない。最高の結果を叩き出して次世代に繋ぐ。マフィンはエフィカシーを高めていた。

 

 

 

 過ぎゆく春を惜しみながらも、若者たちの幕が上がる夏。

 追試というある意味何よりもとんでもない危機を乗り越えたリコたちセキガクバトル部の熱狂は、この夏休みから始まるのだ。

 

 

 




 『ケンジ』
 43歳。オーキド研究所助手兼タマムシ大学教授。
 ポケモンウォッチャーから初代オーキド博士の助手となり、そのまま研究所所属として活動している。
 ハナダの美人三姉妹の長女をお嫁さんにしていて尻に敷かれてるんだって。
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