買い出しに行かされたリコとアンは意識の低い連中に絡まれるも、それは新たなライバルとの邂逅、即ち死闘へのプレリュードであった。
「ゆけ! スリーパー!!」
「すぅりぃ〜!」
「エーフィ!!」
「ふぃッ!!」
コズモがさいみんポケモンスリーパーを繰り出すのに対し、カオルはたいようポケモンエーフィを繰り出す。
首回りのふさふさとした襟巻状の毛と、紐でつるした5円玉のような振り子をいつも持ち歩いているのが特徴な人型のスリーパーと、薄紫色のボディに額の赤い玉がキラッと光り、先端で2つに分かれた尻尾はもちろん、その全身からしなやかさが滲み出るエーフィが互いに睨みを効かせている。
どちらも同じエスパータイプながら、放つ雰囲気はまるで違っていた。
「えっ!? あの人、ナギ先輩の妹さんなの!?」
「あぁそうさ。オレに似て美人さんしてるだろう?」
「先輩に似てるかどうかは分かんないけど確かに美人さん!」
「言いやがる!」
ロイのコメントにナギはからからと笑い飛ばしながら頭を撫で回す。
ナギとカオルの兄妹関係そのものはこれでバトル部全員が共有する情報となった。
家族間の細かな事情に関しては依然ロイは知らないままだが、特段ナギとしてその辺りを他人に隠す素振りを過剰には示さない。下手にひた隠しにするよりはある程度オープンにしている方が逆に根掘り葉掘り尋ねられることが少ないからだ。
ロイがそこに興味を示すかはまた別問題だが。
『ナギ先輩の妹さん、どんなバトルをするんだろう?』
絵に描いたようなテクニカルタイプであるナギのトレーナースタイルを思い起こしながら、リコはフィールドを注視した。
『むむ! そうかスリーパー。あのエーフィはみらいよちを使うのだな』
スリーパーからのサイコパワーをキャッチしたコズモはほくそ笑む。特性『よちむ』にて読み取ったカオルの手の内から即座に戦術を予測する。
『エスパー対決でスリーパーを相手に突っ張ってきたままということはあのエーフィ、シャドーボールくらいは覚えていよう。シャドーボールと、もう1つメインウェポンとしてサイコキネシスかサイケこうせん……あとは何か変化技を差し込みつつ、みらいよちを決め手とすると見た!』
この辺りの推察そのものはキチンと読み当てる辺り、コズモが『市長の息子』としてではなく、ポケモントレーナーとしてバトル部を率いる立場の証左と言えよう。
「スリーパー! さいみんじゅつ!!」
「すぅりぃ〜……! すぅりぃ〜……!」
ぷらん、ぷらんと振り子を揺らし、スリーパーがエーフィをねむり状態へと誘う。
『エーフィの特性は『シンクロ』。どく、まひ、やけどの3つを相手にもおっ被せてくる特性だがねむりやこおりには発動はしない!』
やがてエーフィの両の眼が瞼に覆われ、瞑目をすれば、
「今だスリーパー! シャドーボール!!」
「すぅりぃ〜…!!」
振り子を持たない右手からゴーストタイプのエネルギー弾を発射し、エーフィを爆発の中に呑み込ませた。
「やったぞ! タマ大から1勝奪った!! この勢いを活かしてシングル1も勝ち、俺たちがジャイアントキリング!! 全国へ行くのだ〜!!」
『あーッと、コズモ選手とスリーパーどうしたことか? さいみんじゅつを放ってから双方共にその場で意識を朦朧とさせている、立っているのがやっとのようです!!』
「「ぶ、部長〜〜〜!!」」
「見たかお前ら。アレがカオルのエーフィが持つ隠れ特性『マジックミラー』さ」
「常時マジックコートを発動している状態だから、でんじはやそれこそさいみんじゅつみたいな変化技は効かないどころか、逆に跳ね返してしまう……」
ナギの説明にリコは息を呑む。
コズモが現実と認識を共有できていたのは、初手にさいみんじゅつを指示し、エーフィがじっと目を閉じるところまでであった。
振り子を揺らした催眠作用はエーフィの全身をくまなく覆う鏡面化していたサイコパワーによって跳ね返され、スリーパーはもちろんのこと、コズモの意識もまたまどろみの中へ叩き込んでいたのだ。
「奴さんのスリーパーも確かに強力なんだろうさ。あのさいみんじゅつから放たれるサイコパワーを見りゃあ分かる。故にそれをそのまま跳ね返されちゃあどうしようもねェってこった」
ナギが呟く視線の先には、エーフィの全身より練り上げられたより純度の高いサイコパワーがオーラとして滲み出る。
「ふぃー……!」
ゆっくりとエーフィは瞠目をしてゆく。目を瞑ったのは、めいそうによりパワーアップをしていたからに過ぎなかった。
「エーフィ、シャドーボール!」
「ふぃッ!」
より高められたサイコパワーを変換させた漆黒のエネルギー弾を放ち、その命中を見ることもなくエーフィはスタスタとカオルの下へ戻ってゆく。
シャドーボールが命中し、コズモは依然まどろみの中から意識を戻せないスリーパーの下敷きとしてともにノックアウトさせられてしまった。
「ははは、ぜ、全国ぅ〜……」
「す、スリーパー、戦闘不能! エーフィの勝ち!! よって勝者、タマムシ大附属2年、カオル選手!!」
「い、一撃で……!」
「めいそうでパワーアップしていたとはいえああもスマートにいけるのは元々のレベル差もあったんだろう」
強豪、それも全国常連クラスともなれば育成環境からして違うのだとホタルは言う。
そのまま第2試合を迎え、タマ大の2回戦の相手がクチバ海上技術学校に決まればどんどん大会は進行してゆく。
「ヤルキモノ、戦闘不能! ヤバソチャの勝ち!! よって勝者、チャバ農中等部3年、リキュウ選手!!」
「これも『侘び』と『寂び』の精神が成せる技」
「やばやば」
茶碗の中に入り、茶筅を頭に乗せているまっちゃポケモンヤバソチャが宙にふわふわと浮かびながら緑色のボディは合掌。
人懐こく主人の真似をしていた。
『チャバ農業大学第1高等学校中等部ポケモンバトル部、ホリウッド芸能学園を危なげなく撃破し2回戦進出! ベスト4を賭け、次はララミーレース塾との対戦となります!!』
「チャバ農も危なげなく1回戦突破だな」
「それもきっちりストレート勝ち。リキュウ部長めっちゃ仕上がってるよ。」
「ララミーレース塾って?」
「ポケモン保護区の騎手の学校。昔、マサラタウンのサトシがカントーを旅をしてた時期にレースの代理騎手を請け負って優勝した話から、当時知り合った遊牧民の人が作ったんだよ」
流石にサトシ絡みともなれば詳しい、とリコはドットに対して思う。
引き上げるチャバ農の一団からは、ムラエリの視線がただただひたすらにリコへと向けられていた。
相変わらず猫を思わせる愛嬌さを携えた瞳には、練習試合の時のリベンジを誓う炎がメラメラと燃えているのが分かった。
『さぁタマ大附属にチャバ農業が好スタートを切る中で大会はトーナメント反対側へと突入!! この学校も負けてはいませんトキワ台中学校!! ツカサ選手とミツコ選手のタッグに引き続き、シングルバトル2でも2年生が躍動しております!!』
正午が近くなり、各々試合に合わせて独自に昼食を摂る中でリコたちセキガクがエントリーされているブロックの試合へ移っていく。
「ホント、2年生中心のチームになったね」
「昔は違ったんですか?」
「今オーダーされてるメンバーで去年からハッスルしてたようなのはいなかったよ」
「今シーズンに入って急激に伸びたのか、部活運営の方で何かあったかは皆目見当もつかんが、2年中心ということはむしろ最盛期は来年になるだろう」
同級生ながらトキワ台のオーダーを埋める面子に見覚えはないと首を傾げるミコにホタルは続ける。
考えてみれば、セキ学も2年生が主力なようにもリコは見えた。
「なんだ? あの構え……?」
マフィンが呟く光景としては、それまで小柄であることを活かしてスピードで押していたミコトのピカチュウが不意にセキチク忍者学校の生徒が扱うどくガスポケモンマタドガスから距離を取り、右手を突き出す動作をしていた。
『おっとピカチュウ、猛攻の最中に後退。反撃を嫌ったかー?』
「レッツゴー!! 相棒!!」
「ぴっかぁ〜!!」
ピカチュウの全身より凄まじい量のオーラが放たれ、でんきエネルギーとして変換されてゆく。
「「みゃ、みゃあたどがぁす」」
「な、なんたる気迫……!」
マタドガスと忍装束の生徒は、ただただ圧倒されるばかりだ。
「うん。あのピカチュウ……間違いない。『相棒化』されてる」
「『相棒化?』」
「言葉通り相棒技を使えるようになるために根本からポケモンを鍛え込む技術だよ。私のイーブイもコレを受けてる」
「じゃあストライクやアチゲータも相棒化したらミコ先輩のイーブイみたいに多彩な技を使えるようになるのかな?」
「理論上は可能だけどあまりおすすめはしないかな。相棒化のリスクとして、相棒技への適応力にポケモンの可能性を最大限振り分けなきゃならなくって、その代償として進化が出来なくなるから」
「ぶいぶい」
ミコの説明に相棒のイーブイはえっへん、と得意げな顔をする。
相棒ポケモンへの道筋とそのリスクをミコがロイに説明する中、リスクを承知の上で相棒化の選択をしたであろうミコトのピカチュウが何をするのかは、リコの視線を釘付けにしていた。
「『ピカピカサンダー』……コレが私たちの『必殺技(フェイバリット)』!!」
「ぴぃぃぃかぁぁぁ!!」
ピカチュウが親指で虚空を弾く、その空振りにより圧縮された空気が膨大なでんきエネルギーを纏うことで強力な弾丸の発射が成立する。
「でんじほう……いや、『超電磁砲(レールガン)』、か」
マフィンが呟けば電撃の弾丸の前にマタドガスはなす術なく直撃を受け、浮遊していたボディは勢いに押され、たまらず吹き飛んでいく。
「マタドガス!! く、無念なり」
吹き飛ばされたマタドガスは後方フェンスへ叩き付けられて顔面から落下。二股の顔どちらも目を回していた。KOされている。
「マタドガス、戦闘不能! ピカチュウの勝ち!! よって勝者、トキワ台中2年ミコト選手!!」
「よしッ!」
「お姉様〜〜〜ん!!」
勝ち名乗りを受けるミコトのすぐ近くへツインテールの少女がテレポート。そのままダイブを敢行するのをミコトは容赦なくアイアンクローをかまして迎撃した。
ツインテール少女の背中にはねんりきポケモンケーシィが張り付いており、この子の力を借りてベンチから転移したのだろう。
「なんて凄い大技……」
「リコちゃんの宣戦布告に触発されてるみたいだね」
えっ、とマフィンに向くより先に感じる視線。
ミコトは、ツインテールの1年生クロコを抑えながら確かに客席のリコへ不敵な笑みと共にVサインを見せた。
それは、まさしくリコからの宣戦布告への返答……『全国に行くのは私たちだ』という明確なアピールであった。
そんなやり取りの裏で、トキワ台と2回戦でぶつかるのはグレン島学院と決まっていた。
ロータ学習院はオルドラン城を預かる皇族が代々勉学のために通う学校だ。無論、皇族が通うわけだからいわゆる『御学友』ともなる周りの生徒の選抜も厳しく、学業のレベルも高い。
そんなロータ学習院とポケモンゼミナール中等部との試合においては、リコたちとしては正直なところ学習院側の勝ち抜けを期待していた。
その理由としては……、
「学んだことを力と変えて! 今こそガッツよポケモンゼミ〜〜〜!!」
リコたちの待機スペースである客席から対面側の最前列よりフェンスから身を乗り出し、ひたすら声を張り上げる美貌の人にあった。
「そういえばポケモンゼミって、セイヨさんの母校だったものね……」
入場口から待機するセキガクバトル部の一団でアンがポツリと呟く。
現役トレーナーとしてのキャリアののち、教育者として転身したセイヨは最初は母校へ赴任され、そこで実績を積み重ねた結果セキガクにポケモンバトル実技における最高責任者として招かれた経緯があった。
今でこそセキガクの教師だが、やはり母校にエールを送りたい気持ちは大きかったのだろう。
プライベートから、こちらに顔を見せに来ないので一応の気遣いはしてくれているようだった。
それでも一定の『やりにくさ』は否めないのだが……。
「そりゃまぁ、身近な人の母校とやるよりはどこか知らない町の『ご学友』さんたちとやり合う方が気は楽ってもんだわな」
言葉にはしないもののホタルもナギと気持ちを1つにする。
そんな中で試合の結果としてはリコたちの内心で一致した思惑通りにロータ学習院側が1回戦を突破。
『続きまして1回戦最後の試合、セキエイ学園vsグンジョウ工業学校の試合となります』
ウグイス嬢のアナウンスが入る。
いよいよリコたちの、セキガクバトル部の全国制覇を目指す第1歩が始まるのだ。
『ミコト』
11歳。トキワ台中学校2年生。
チームにおいて『エース』を張る勝ち気さと心優しさを併せ持つ女の子。
パートナーのピカチュウはレッツゴーの合言葉と共に鍛え上げられた相棒個体だ。