SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 カントーNo.1のタマ大附属にNo.2のトキワ台、それにチャバ農が危なげなく1回戦を突破してゆく。
 そしていよいよセキガクの試合が、全国制覇への戦いが始まるのであった。


発進! セキガクバトル部

 グンジョウシティとはタマムシシティとセキチクシティの間にある工業都市である。

 28年前には工場や発電所の拡大が原因として一時期は排気ガスとヘドロにまみれ、退廃の一途を辿っていたが、2010年代に都市部の再開発と見直し計画が軌道に乗ってからは『シティ(都市)』と名乗って問題ない程度には人口が回復し、活気が戻って現在に至っている。

 そこに校舎を置くのがグンジョウ工業学校……略するなら『グン工』だ。

 余談ではあるが、マサラタウンのサトシが旅の道中、パートナーのピカチュウの体調不良をきっかけにこの地を訪れ、騒動の果てに当時発電所に住み着いていたヘドロポケモンベトベトンをゲットしたというのはドットのような熱心なファンの一部が知る話だ。

 

「これよりセキエイ学園vsグンジョウ工業学校の試合を執り行います! 礼ッ!!」

 

「「「「「よろしくお願いしますッ!!」」」」」

 

 試合前の儀礼ののちに両チームのオーダーがスタジアムの大型ビジョンに映し出される。

 互いの編成は以下の通りだ。

 

ダブルバトル

ナギ&キラリvsコイアイ&フジナン

 

シングルバトル2

マフィンvsヒソク

 

シングルバトル1

ミコvsカメノゾキ

 

控え

ホタルvsカチ

 

 

 

「え〜? お姉さん出ないの〜?」

 

「ううむ、なにか作戦があるんじゃあないかな? 秘密兵器、とか」

 

「秘密兵器!?」

 

「ほほほぅ!!」

 

 リコがメンバーに入っていないので頬を膨らませるチャンを宥めるようにシゲルが仮説を出してみれば、たちまちチャンとオドリドリは目を輝かせる。

 この辺りの女の子を含めた女性の扱いなどは、シゲルにとってお手のものであった。

 

 

 

「そのままダブルバトル! セキガク2年ナギ選手&2年キラリ選手vsグンジョウ工業3年コイアイ選手&2年フジナン選手の試合を行います!! 試合方式は2C1D! 切り札システムの使用はどれか1つを1度のみ!!」

 

「そうら、いけッ!!」

 

「しゃうあッ!」

 

「……マフォクシー」

 

「まッふぉ!」

 

「「それいけーッ!!」

 

「べぇとべとぉ〜……」

 

「ピピピピピ……」

 

 

 

「相手タッグはベトベトンとレアコイル……ナギ先輩はシャワーズ、キラリ先輩はマフォクシーを先発だね」

 

 ナギのシャワーズが軽やかに着地し、キラリのマフォクシーは軽快なバトンアクションを枝でして見せる。

 相手のベトベトンが両手を上に広げて威嚇し、レアコイルの電子音にも怯むことはない。

 リコたち1年は、この試合のオーダー理由を去年敗戦した相手校へのリベンジであるとホタルより聞かされていた。

 元より上下関係からオーダーに対して言及する権限などはないし、そこに納得してのベンチ待機をする中で、相手のポケモンタッグに対してはそれほど大きな脅威を覚えることはなかった。

 シンプルにナギとキラリのタッグの方が力は上だと思えたからだ。

 

 

 

「どうだいキラリん。奴さんらの実力の程は?」

 

「……データの範疇。大幅なレベルの成長は見られない」

 

「試合、始めッ!!」

 

「そうかい!」

 

 審判のジャッジを受けてすぐ、シャワーズは軽やかな身のこなしでレアコイルへ接近。飛びかかる形で間合いへと踏み込んでいた。

 

「しゃ、シャワーズなのに速い!?」

 

「かえんほうしゃ!!」

 

「!?!?!?」

 

 揺り動かしたフジナンの意識を平静まで立て直させる気などはナギには毛頭なかった。

 シャワーズの口が開かれ、放たれた灼熱のブレス攻撃が瞬く間にレアコイルを黒焦げに焼き、浮遊していたボディをフィールドに墜落させた。

 

「シャワーズが、ほのお技!?」

 

「くそ! ベトベトン、ヘドロウェーブ!!」

 

 あっさりと相方がやられたコイアイは焦りながらの指示を飛ばす。

 

「べとべとべとぉ〜!!」

 

「……そうはいかない」

 

 レアコイルの妨害とサポートを受けながら戦い、隙を見てはベトベトンのヘドロウェーブで一網打尽にするというグン工タッグの戦略は、キラリの分析によりとうの昔に詳らかになっていたことである。

 

「まふぉ〜らッ!!」

 

 マフォクシーの小枝から発射される実体化されたサイコエネルギーの奔流がベトベトンを捉え、コイアイの左隣を掠めて後方フェンスまで吹っ飛ばされてゆき、そのままフェンスに叩き付けられた。

 

「レアコイル、戦闘不能! シャワーズの勝ち!!」

 

 審判がフィールドに入り、状況を遡ってジャッジを下す。

 レアコイルのダウンを宣告してからすぐにベトベトンの側に駆け寄れば、サイコショックの直撃から自慢の液状ボディでダメージを殺し切れずにダウンしてしまっていた。

 

「ベトベトン、戦闘不能! マフォクシーの勝ち!! よって勝者、セキガク2年ナギ選手&2年キラリ選手!!」

 

「ずろぁぁぁい!!」

 

 勝ち名乗りを受けたシャワーズの姿が皆の視界からブレたかと思えば、ゾロアークの漆黒ボディが正体を露わにする。

 

「そ、そういうことだったのか……!」

 

「ゾロアークのイリュージョン!」

 

 まんまと騙されたフジナンは悔しさを滲ませながらレアコイルをボールに戻す。

 そんなフジナンに来シーズンでのリベンジを託しながら、コイアイはベトベトンを回収していた。

 

 

 

『これは速い! セキエイ学園、あっという間に1勝目を奪いました!! 実に洗練された攻めであります!!』

 

「やった!」

 

「ナギ先輩たちナイス!」

 

 快勝にセキガクベンチが湧き上がる。

 

 

 

「どう見るカオル」

 

 2回戦を控え、通路口で待機するタマ大はレギュラーのみならず、客席からもデータ担当があらゆる角度より試合をチェックしている。

 故にヒカミがカオルに尋ねるのは、データマンに聞けば分かるような表層的な話ではない。

 

「はい。身内ごとも絡んでいてあまり信憑性は保証出来ませんが、セキガクとグン工では全体的なチーム単位として地力に大きな差があるかと。少なくともこの試合はセキガクが勝ち上がると思います」

 

 カオルの抱える兄との確執はヒカミも聞いている。

 その辺りを抜きにしてもフラットな意見を努めて提示できるカオルの実直さをヒカミは評価していた。

 

「私もそう思う」

 

 ヒカミの言を聞き、カオルは安堵した。

 

 

 

「これよりシングルバトル2、セキガク3年マフィン選手vsグンジョウ工業3年ヒソク選手の試合を行います! 試合方式は3C1D!!」

 

「俺を覚えているかマフィン! 俺は去年、この地方予選でお前に負けた男だ」

 

「……?」

 

 突如としての口上にマフィンは首を傾げる。

 

「あの日、俺だけ弱小セキガク相手に負けたとして皆から笑われ、謗りを受けた! それから一年、必死の特訓を重ねた! 今日、この場で去年の雪辱を晴らさせてもらうぞ!!」

 

 話の半分くらいでマフィンはヒソク選手のことを思い出した。確かに去年のグン工との試合で戦った相手なのだ。

 

「いけーッ!!」

 

「かぅるぁ〜!!」

 

 闘志をむき出しに投げ込まれたボールから飛び出すのはこちらの世界で言うフラミンゴがそのまま赤くなったようなシンクロポケモンカラミンゴ。

 片足を軽く折り曲げ、まんまるの目で相手取るマフィン陣営を中心に捉えている。

 

「頼んだよ。相棒」

 

「こがッ!」

 

 

 

「マフィンはゲッコウガか」

 

 ホタルもまた去年のデジャヴを感じていた。

 同じくセキエイスタジアムでの1回戦、シングル2で全く同じ対戦カード、全く同じ対面から始まり、マフィンが勝利を掴んだ。

 だが続くシングル1で部長対決に敗れたセキガクはマフィンらからすれば無念の1回戦敗退、当時の3年生たちとしてはほど良く汗を流す程度のクラブ活動を締め括る『思い出作り』として地方予選を終えていた。

 

『去年、マフィンは2年で、やる気がなかったとはいえ3年生に対して強く発言することは出来ず、1年のボクたちにもどうにも出来なかった。だけど今は違う! ボクたちは、大きな目標を持って大会に挑んでる、そうだろう?』

 

 ホタルの内心に応えるようにマフィンは左サイドの白髪に飾るハートのヘアピンへ左手人差し指と中指を伸ばす。

 動作に呼応するようにヘアピンの装飾部が開けば、そこにはキーストーンが晴れの舞台を待ち侘びるかのようにキラキラと光っていた。

 

「輝け勝利の栄光よ! 驚け世界よ、これが俺たちの、進化を超えた進む先!!」

 

 翳した指に反応してキーストーンは輝きを最高潮とし、その場で軽くジャンプするゲッコウガは虹色の繭へ包まれてゆく。

 

「さぁ、油断せずに行こう! ゲッコウガ、メガシンカ!!」

 

「くぉが!!」

 

 

 

「メガゲッコウガ……マフィンが他地方交流で手にした力か」

 

 カロス地方へ赴き、現地でメガシンカの修行をして来るというのはバトル部に共有されていたマフィンの他地方交流であった。

 帰ってきて以降の練習では1度としてメガシンカを使わなかったマフィンの言い分としては至極真っ当な理屈であった。

 

『メガシンカはポケモンへの負担が大きいからね』

 

 マフィンがメガシンカを発動させるのは、リコたちも初めて見る光景であった。

 

 

 

「メガシンカとはな……! だが、それしきのことでたじろぐものかよ!」

 

 ヒソクが吠えるのがマフィンの意識に刻まれることのないのは去年と同様だ。

 個人のリベンジを腐すつもりは毛頭ないが、今も変わらずマフィンの目指すところに対してヒソクの闘志の燃やしようは、あまりにも視野が狭いものとしか映らないのだ。

 

「カラミンゴ! メガトンキックをくらわせてやれ!」

 

「かぅぅぅるぅあああ!!」

 

 カラミンゴが跳躍し、ゲッコウガめがけ飛びかかりながら足を向けてゆく。

 

「かるぁ!?」

 

 ゲッコウガは涼しい顔で水手裏剣をひっくり返し、逆さに張り付いていた本体を上側に持ってゆくことでカラミンゴの蹴りを回避して見せる。

 

「くそぉ! もう一度だカラミンゴ! 手裏剣から叩き落としてやれ!!」

 

「から〜らぁ!!」

 

 標的を捉えることなく着地したカラミンゴはすかさず2度目の跳躍を敢行。水手裏剣上側へ逃れたゲッコウガに今度こそ自慢の蹴りをぶちかましにかかるが……、

 

「からぁ!?」

 

「な、なにィッ!?」

 

 そこには回転し続ける水手裏剣のみが残り、ゲッコウガの姿がなくなっていた。

 

「みずしゅりけん!」

 

 ゲッコウガが姿を消した流れとしては『ただ水手裏剣から垂直にジャンプしただけ』であった。

 左右の腿に装備した小型の水手裏剣を構え、再度襲いかかってきたカラミンゴを眼下に捉える。

 カラミンゴ必殺の間合いは、ゲッコウガにとっても必殺を狙える距離だ。

 構えた手裏剣を投擲、カラミンゴのお腹に2本とも突き刺さり、瞬く間に手裏剣内に滞留させていたみずエネルギーが爆発を起こし、カラミンゴをフィールドへと墜落させる。

 

「げッ……!」

 

 水手裏剣に着地したゲッコウガは再度逆さに張り付き直す。

 その見下ろす先にて、カラミンゴは目を回して倒れていた。

 

「カラミンゴ、戦闘不能! ゲッコウガの勝ち!! よって勝者、セキガク3年マフィン選手!!」

 

 

 

「凄ッ! マフィン部長、あんな簡単に勝っちゃった」

 

「アレがマフィンだ。不埒な奴だがバトルに対しては真摯な男だ。今回のバトルでは、互いが見据えてるものの差がそのまま表面化したと言っていいだろう」

 

 アンがはしゃぐのをそのうち収まると捨て置きながらホタルが語る。

 セキガク全国制覇の夢、その源泉たるマフィンの快勝ぶりは、普段の様子はともかくとして部長の覚悟を推し量るには十分過ぎるほどの熱量をリコは感じていた。

 まばらな拍手の中でマフィンは右手を突き上げた。1年越しのリベンジや、1回戦を突破した喜びではない。

 その握り拳に宿すのは全国制覇の野心……セキガクバトル部の部長として、改めてスタジアムに集まった他チームに対し『勝ち抜くのは俺たちだ』とアピールをして見せたのだ。

 

 

 

「アレがセキガクの部長でキャプテン……メガシンカを使って見せた圧勝は、我々への宣戦布告か」

 

 静かに呟くリキュウの口元が僅か綻んでいるのをムラエリは横目で見る。

 

 

 

「あれほどの部長がいるんなら、そりゃあ1年も啖呵の1つ2つ切れるもんだわね」

 

 抱きついて来ようとするクロコを抑えながら、ミコトは売店コーナーでのリコの言葉に信憑性を得る。

 

 

 

「セキガクバトル部、なかなかにやるようだ。データ斑を増員させるとしよう」

 

 ヒカミもまた、マフィンを全国への障壁足り得ると評価する。

 その傍のカオルは、こちらと目が合いウインクしてくる兄からプイ、と視線を外した。

 

 

 

「リコちゃーん! 俺勝ったからよしよし、ってして〜〜〜! ばぶばぶぅ〜!」

 

「やめんかぁッ!!」

 

「へぶッ!?」

 

 そんなパフォーマンスを決めた直後、試合の締めとなる挨拶もそこそこにリコへ急接近するマフィンの頭をホタルが思い切りチョップをかまし、セクハラを未然に防ぐ。

 

「あ、あははは…」

 

 頭からフィールドへ叩き伏せられる、ある意味いつも通りなマフィンに、リコはいつも通りの苦笑いを浮かべた。

 

 

 




 『ヒカミ』
 12歳。タマムシ大学附属中学校3年生。
 カントー最強の座にあるタマ大附属のバトル部を預かる部長。
 男装の麗人で柔よく剛を制すハイレベルなテクニシャンとのこと。
 想定CVは日笠陽子さん。
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