SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 タマ大附属を相手にムラエリたちチャバ農は奮戦虚しく敗れ去ったがリコたちに同情していられる暇などはなかった。
 すぐさまタマ大に次ぐ強豪トキワ台との決戦が始まるのであった。


空間移動の先を突け!

『キックの鬼、サワムラーの蹴り炸裂ーッ!! ニドリーナは完全にパワー負けかーッ!?』

 

「ぐるみんッ!?」

 

「ぐぁ、るぁッ……!」

 

 サワムラーの脚弾で弾かれたぐるみんは空中でどうにか体勢を立て直し、くるりとマフォクシーの右隣に着地する。

 

「むうッ……!」

 

 ホカゼの表情がほんの少し強張る理由は、サワムラーがどく状態となったことだ。

 ぐるみん……ニドリーナの特性『どくのトゲ』は、直接攻撃をして来た相手に一定確率で毒状態を押し付ける。

 ホカゼは、どくどくのキバによる猛毒状態ではないだけマシだと切り替えることにした。サワムラーの体力が厳しくなれば交代すれば済む話なのだ。

 

 

 

「ぐるみんの攻撃が、あんな簡単に弾かれるなんて」

 

 リコからすれば悪い冗談に思えた。ドットのぐるみんに対するイメージは、初めての週末練習で見た時から強力なポケモンであると固まっていたからだ。

 そんなぐるみんを扱うドットであるが故に、リコからすれば部内においては良きライバルだと強く認識していた。

 

「レベル差が厳しいからね。今のサワムラーの蹴りを持ち堪えられたのも、どくタイプにかくとうタイプの技の通りが今ひとつだったからに過ぎない」

 

「ぶいん」

 

 学生バトルの世界において、学年の差は扱うポケモンのレベル差やトレーナー経験の差として大きく出るとミコが話す膝の上で、イーブイは呑気に欠伸をしている。

 したたかなドットが簡単にパワー負けをする環境は、リコたち1年生が共通で抱く戦慄をより色濃いものにしていた。

 自分たちは今、格上の強豪と戦っているのだ。

 

 

 

「クッソ……!」

 

 ドットの精神を掻き乱す戦慄は、直接戦っている分側から見ていたリコたちの抱いたものより大きい。

 ぐるみんの受けたダメージは甚大だ。腕の悪い審判ならばストップをかけられる程度にはギリギリの状態である。

 

「……勝てる」

 

「え?」

 

 キラリは、その辺りのドットの中で渦巻かれた感情を一切無視して呟いた。

 それが却って熱くなっていたドットの精神を冷静に戻した。

 

「事前に集めたデータと実地のアクションに大きな誤差は見られない。相手チームにまだ隠してある戦術パターンがなければ、勝てる」

 

「先輩、ボクの役割は?」

 

 ドットの声音から、悔しさや焦りは消えていた。キラリからの言で精神のクールダウンに成功したからだ。

 

「……ウェルカモに交代を」

 

「ウス……!」

 

 キラリの指示にドットは二つ返事で了承をした。先輩に縋るのではない、ダブルバトルの原則に則り、チームワークで勝利を掴むためだ。

 

「戻れぐるみん!」

 

「……マフォクシー、交代」

 

 ドットとキラリがそれぞれ先発を引っ込める。

 

「しゃい!」

 

 キラリとドットが交代を行う隙にサワムラーはバネ脚を活かし、またパルシェンの側まで近寄った。テレポート戦法に合わせる目的からだ。

 

「……ウェルカモをこの子に乗せて。2体で連携をする」

 

「ウス! ウェルカモ!」

 

 ドットがウェルカモを繰り出し、その足場としてキラリが繰り出したのは、こちらの世界でいうホホジロザメ然とした弾丸の如きフォルムのポケモン……

 

「しゃあめぁぁぁ!!」

 

 きょうぼうポケモンサメハダーの紺色の背に、ウェルカモは飛び乗った。

 

 

 

「キラリ先輩の2体目キタ!」

 

 サメハダーの登場にアンは目を輝かせた。ここまでの練習においてキラリは、一貫してマフォクシーを扱っている姿しか見せて来なかったからだ。

 

「アローラでの試練でゲットした子だな」

 

「あぁ。キャプテン・スイレンからのお墨付きももらってるやつだ」

 

 キラリのサメハダーの初陣にホタルもナギも口角を上げていた。

 リコたち1年生がパルデアで強くなって来たように、2年生組もアローラで掴んだものをこれから存分に発揮してゆくのだ。

 

『ここでセキガク側タッグは両選手ともにポケモンをチェンジ! サメハダーにウェルカモです!!』

 

『この子は攻めが得意な分守りが脆い』

 

 キラリがサメハダーを多用しない傾向に据え置く理由である。秘密主義という意識はないが、データを扱う以上自分自身のデータを有効活用するとなると敵味方問わず自身のことを明かすことに積極的にはなれなかった。

 

「しゃあい……!」

 

 クロコは、サワムラーの毒状態による消耗から早期決着を企図した。

 ミサキに媚びへつらうホカゼなどは正直どうでもいいが、あまり時間をかけ過ぎて2vs1に持ち込まれでもしたらたまったものではないからだ。

 

「……あのパルシェンはまたすぐにサワムラーとテレポートで飛ぶ。その前に、潰す」

 

「ウッス」

 

 キラリの指示に、ドットは狙いを把握した。パルシェンとサワムラーを分断して叩くというのだ。

 それにはとにかくパルシェンの空間移動より速くに動かねばならない……。

 

「パルシェン、テレポートを!」

 

「させるか! ウェルカモ!」

 

「……サメハダー」

 

「「アクアジェット」」

 

「るっくあ〜い!!」

 

「しゃあああッく!!」

 

『あーッと!! サメハダーの猛烈なスピードを前にパルシェン、テレポート前を襲われたーッ!!』

 

 サワムラーの手が殻に触れ、再びテレポートを発動するより先にサメハダーの肉弾突撃がパルシェンを捉えた。

 

「しぇああ!?」

 

「くぅッ……!!」

 

 クロコは歯噛みした。テレポート戦法の弱点である始動の隙を突かれたからだ。サメハダーとウェルカモの2体分の馬力による『ダブルアクアジェット』を活かした突撃など、想像だにしていなかった。

 この辺りの予測の甘さが、クロコもまた1年生のルーキーである証左といえよう。

 

「しゃいあ!?」

 

「うぇるぁらぁッ!!」

 

 サメハダーがパルシェンを巻き込み、真っ直ぐ突っ切るのでサワムラーは弾かれ、そこにウェルカモが飛びかかった。

 サワムラーの左脚へウェルカモは組み付いて見せる。キラリの狙い通りトキワ台のタッグを分散に成功した。

 

「このッ、離れてくださいまし! パルシェン、とげキャノン!!」

 

「……あくのはどう」

 

「しゃくあらッ!!」

 

 真っ直ぐ突っ込み、そのまま空中へかっ飛ぶサメハダーに巻き込まれた形のパルシェンが殻のトゲを向けたところだった。

 

「しぇん、ッぬ!」

 

「なんと!?」

 

 サメハダーの口から放たれるあくエネルギーに変換された波導がパルシェンを打ち上げる。

 至近距離からの1発に、パルシェンは怯んでしまって動けなかった。

 

「……好機」

 

 キラリは、懐から取り出したZパワーリングを左手首に装着し、たゆたう水の様を現すゼンリョクポーズを披露した。

 

「データの海より拾いしは勝利への方程式。……Zパワーよ、我が知に解へと導くひと押しをもたらせ」

 

 サメハダーめがけ、キラリの全身より放たれたZパワーが注がれてゆく。

 

「……決める。スーパーアクアトルネード……!!」

 

「しゃあああああくらぁぁぁッ!!」

 

 注ぎ込まれたZパワーを解放し、サメハダーは自らを中心として渦潮を展開。怒涛の激流へとパルシェンを叩き込んだ。

 

「水ならば、パルシェンとてみずタイプ!」

 

「……そうはいかない」

 

「しぇああ!?」

 

 渦潮は、耐え抜くための潜行を許さなかった。泳ぎのルートをキラリによって流れから阻害され、パルシェンは巨大な激流の中で弄ばれていく。

 やがて排出される時には前後不覚のまま目を回していた。

 

「サワムラー、引き剥がして跳躍を!」

 

「しゃあいッ!」

 

 取っ組み合いを解除し、サワムラーは組み付くウェルカモを突き飛ばしてから跳躍。真下に見えるウェルカモめがけ、脚弾の照準をセットした。

 

「ぐるみんが残した毒とダメージ、無駄にしてたまるか!!」

 

 ドットはテラスタルオーブを起動させる。3年生のホカゼを相手にレベル差は歴然。出し惜しみなど出来ようはずがない。

 

「うッ!?」

 

「ウェルカモ!! 燃えて、鍛えて、輝いて!!」

 

「うぇッるるるるるぅあああ!!」

 

 眩いクリスタルの中でウェルカモはみずのテラスタルジュエルを被り、サワムラーを追って跳躍。

 

「サワムラー、メガトンキック発射!」

 

「しゃあいッ!」

 

 驚異のバネ脚が伸長。右脚の弾丸が放たれた。左脚が次弾だ。

 

「ウェルカモ! アクアジェットで回転だ!!」

 

「うぇぇぇるい!!」

 

 サワムラーを追って跳躍したウェルカモはアクアジェットで加速しつつ、全身を使ってスクリュー回転。

 右の脚弾の威力を水流と回転で減殺してみせた。

 

『逸らされた!?』

 

 それでもホカゼからすれば対応は変わらない。右だけで駄目なら、左を放つまでだ。

 

「もう1発!」

 

「しゃしゃあい!」

 

 左の脚弾、メガトンキック2発目が発射される。

 ホカゼがサワムラーの自慢の蹴りに全幅の信頼を置くが故にやはり蹴りに拘る部分も、ウェルカモを正確に狙う軌道も、ドットにはありがたかった。

 

「テラスタルパワーにアクアジェットの加速力、そして特性『げきりゅう』をフルに活かせば、形だけでも再現できるはずなんだ!!」

 

「うぇぇぇあ……!!」

 

 ウェルカモは両手に強化されたみずエネルギーを纏わせてゆく。

 

「必殺のジェットカッター!! 突き抜けろーッ!!」

 

「くぁあああああッ!!」

 

 左の脚弾めがけ、ウェルカモは両腕を叩きつける。

 右の1発目を弾いた時点でウェルカモの体力を大半削り、あとはトドメのみとホカゼは内心勝利を確信していた。

 

「なッ……!?」

 

 だがどうだ? ウェルカモは勢いを殺すことなく脚弾を押し戻し、サワムラーめがけ突き上げてくるではないか。

 逸らされた右脚の回収は、とても間に合いそうもない……!

 

「しゃ、しゃあいッ…!?」

 

 サワムラーというポケモンは、『キックの鬼』と異名を取るポケモンだ。故にそのスペックの要である両脚にこそ攻防力の大半が集中している。

 脚と同じ仕組みで両手も伸縮は出来、ホカゼのサワムラーもウェルカモを止めるため緊急的に両手を発射するが、その精度は両脚のそれとは比べるまでもなかった。

 むしろ、押し留めるために両腕を発射してしまったがために、顔と胴体が一体化し、のっぺりとした印象のあるサワムラーの本体へウェルカモによるアクアジェットとアクアカッターの合わせ技を直撃で受ける形となってしまった。

 

 

 

「なかなかに懐かしいものを見せてくれるね」

 

 客席からシゲルはポツリと呟く。

 アクアジェットとアクアカッターの合わせ技は、我が永遠のライバルが同じくクワッスの系列を用いて編み出した必殺の一撃だ。

 そのこと自体に関して、シゲルとしては懐かしいという以外の感情を抱くことはない。

 『マサラタウンのサトシ』に憧れ、そのポケモンや戦術を模倣するファンのトレーナーなどはこの世の中掃いて捨てるほどいるからだ。

 

 

 

「うぇぶッ!!」

 

 必殺のジェットカッターは、ウェルカモとしても捨て身の一撃であった。サワムラーと交錯したままフィールドへ落着すれば、その衝撃で戦闘不能となるは避けられないだろう。

 

「しゃああく!!」

 

 そこにサメハダーが飛び込み、ウェルカモを背で受け止める。

 サワムラーが落着し、フィールドの攻防がひと段落したところで審判が駆ければ、パルシェンとサワムラーのダウンを確認した。

 

「パルシェン、戦闘不能! サメハダーの勝ち!! サワムラー、戦闘不能!! ウェルカモの勝ち!! よって勝者、セキガク2年キラリ選手&1年ドット選手!!」

 

『セキガク側タッグ、アクアジェットのダブル馬力を活かして連携を分断してから切り札システムを使って鮮やかに勝利を決めました!! お見事です!!』

 

 審判からの勝ち名乗りとともに、キラリはほんの僅かに吐息を漏らす。

 

「ッしッ!!」

 

 ドットは、両手を腹の横で握り震わせながら一声発する。会心の勝利というよりなかった。

 

 

 

「お疲れクロコ。残念だったわね。先輩も」

 

「申し訳ありませんお姉様、このクロコ不覚を取りました……」

 

 それぞれポケモンを回収し、ホカゼとクロコがベンチへ引き上げれば、ミコトはなんだかんだと可愛い後輩の頭を撫でてやる。同時にミサキへ鋭い眼光で牽制をかけた。

 力一杯戦って力及ばずの仲間への追い討ちを嫌う清廉潔白な眼差しを前に、ミサキはミコトの顔を立てることにした。

 

「さてと……」

 

 形はどうあれ先に後がなくなったのはトキワ台。この上は自分とミサキで連勝するより他にないと、ミコトはネクストサークルより歩み出た。

 トキワ台には『エース』と『クイーン』がこの先控えている。

 

 

 

「よしッ……!」

 

 リコもまた、ネクストサークルより歩き出そうとする。

 

「リコちゃん」

 

 歩き出した背にかける声の主は、すでにネクストサークルへ入っていた。

 

「部長」

 

 リコは振り返り、マフィンと視線を合わせる。そこには普段の変質者の眼差しはなかった。

 

「思いっきり戦っておいで。そうすれば、必ずその先に開かれる道はある」

 

 穏やかながら力強い言葉だった。

 

「はいッ!」

 

 リコはマフィンに大きな首肯を返し、トレーナーサークルへ走り出した。

 

 

 




 『ホカゼ』
 12歳。トキワ台中学校3年生。
 最上級生ながらミサキに絶対の信頼と忠誠を誓っている。
 サワムラーの両手足を活かしたパワーとトリッキーさを両立させた戦いが得意だ。
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