続くシングル2はリコの出番、相手はエースのミコト。大一番が始まるのであった。
「これよりシングルバトル2、トキワ台2年ミコト選手vsセキガク1年リコ選手の試合を行います!! 試合方式は3C1D!!」
「まさか直接対決になるとは思ってなかったわ」
「私もです」
互いにトレーナーサークルから視線をぶつけ合う。プライベートで親睦を深めた仲であっても試合となれば話は別。それが真剣勝負の舞台における流儀だ。
「両者、ポケモンを!」
「頼むわよ、ゲコ太!」
「げろろばぁ〜!」
キラッ! とミコトのボールから飛び出した瞬間に独特な輝きを放つはしんどうポケモンガマゲロゲ、その色違いだ。
本来ならば青い体に水色のコブが頭、両腕、背中に2つずつだが、ミコトのガマゲロゲは緑色の体にコブはオレンジの配色をしている。
「いくよ、ゴローン!」
「いらっしゃいッ!」
対するリコの先発はゴローンで、ドシリ! 重量感たっぷりの着地を見せる。
「切り札システムはダブル同様各種どれか1つを1度のみ使用可能! それでは、試合始めぇぇぇッ!!」
「ゲコ太、ねっとう攻撃!!」
「ッ!!」
「げろびゅー!!」
機先を制する形のミコトの透き通った声が響く。
ゲコ太は即座に口を開き、湯気が立つほど熱せられた水流のブレスをゴローンへぶつけた。
「らッしゃいッ!」
ねっとうはゴローンの顔面へと命中。もとよりころがる攻撃を活かさなければ素早く動けない純粋なパワーファイターだ。たまらずひっくり返されてしまう。
そんなゴローンのボディより飛び散った石粒が小型で鋭利なデブリとなりフィールド中に浮遊する。
『特性『がんじょう』からのステルスロックか』
「いいよゴローン!」
ミコトに驚愕はなかった。よほど珍しいポケモンでもない限り特性や技といった戦闘面に直結する要素はおおよそ把握してあるのだ。
ゲコ太による速攻は、現状判明しているいしあたまかがんじょう、そして隠れ特性であるすながくれの3択からゴローンの特性を確認するくらいの意図でしかなかった。
それも、先発として出てきた時点で8割方見当はついていた話だが。
「ゴローン、戻って!」
リコがゴローンを戻す流れもミコトからすれば想定内の行動だ。ステルスロックでフィールドを自分の有利な盤面としてからパワーが通用するならばゴローンで押せばよし、ゴローンが無理なら後続に任せればよしという2段構えを看破している。
『ゲコ太に対して当ててくるならば……!』
「お願い、ニャローテ!」
「にゃろお〜!」
「ゲコ太、交代!」
リコの2番手はニャローテ、これもミコトの想定内だった。ゲコ太を素早く引っ込める。
「ぴか?」
『出番だな?』……そう問いかける相棒にミコトは力強く頷く。
「レッツゴー! ピカチュウ!」
「ぴっかぁ!!」
ミコトの肩から、序盤の攻防を見ていた黄色い影がフィールドへ降り立った。
『シングルバトル2は序盤から両選手とも技とポケモンチェンジの応酬による激しい立ち上がりであります!! ミコト選手はガマゲロゲからピカチュウを、リコ選手はゴローンからニャローテにそれぞれ交代!!』
「あのピカチュウ、相棒化されている以上にそこらのミーハーが扱ってる奴とは桁違いだね。かなり強い」
「ぶぶい」
それは、自らもイーブイを相棒化させているミコだからこそ感じ取れる部分であった。
ねずみポケモンピカチュウ……赤いほっぺに黄色のシャツ、ギザギザ模様の電気ネズミは、その愛くるしい外見から女の子のペット用としての需要が主であった。そんな風向きが変わったのは今から28年前のポケモン歴1997年まで遡る。
『ピカチュウ! キミに決めたッ!!』
マサラタウンのサトシ。
カントー地方の片田舎より旅立ちの日を迎え、オーキド研究所より最初のパートナーとして彼とともに旅路をスタートさせたのがピカチュウであった。
その出会いとは目と目が合い、互いに電流が走ったかのような運命的な物であると彼らの半生を辿る再現ドラマでは美談として扱われているが、実際のところはアングラ雑誌にて囁かれている『サトシが寝坊をかましたことにより研究所にいた残り物がたまたまピカチュウだっただけ』というのが真相だ。
出会いの真相はさておきとして、サトシはピカチュウとともに全国各地を転戦し、やがてアローラチャンピオンからワールドチャンピオンへと栄冠を重ねて掴み、一躍バトル界のスーパースターとなった。その輝きは28年経った今も色褪せることはない。
そんなグレートチャンプが絶対的なエースとして信頼を置くピカチュウというポケモンに対しても注目は集まり、人々はこぞってゲットし、育成に励んだ。が、そのいくらかはある程度の大成を見せたものの、ほとんどのトレーナーはライチュウへの進化の道を選ぶか、育成そのものを断念する結果となった。
理由としては至極単純な話である。ピカチュウというポケモンは気性があまりよろしくなく、加えて気位も高くてなかなか人に懐きにくい類の種族であったからだ。
加えて進化途上のポケモンということもあって体力はもちろんパワーやスピードも進化しきった種族を相手に遅れをとることが多く、非常にテクニカルな運用を求められるピーキーなスペックが足を引っ張った。
現在のバトル業界においてピカチュウを使うトレーナーは大別して2つの種類に分けられるといっていい。
1つはピカチュウの運用に適応し、強力な個体の育成に成功した実力者、もう1つは単なるマサラタウンのサトシのファン、といった具合だ。
サトシのピカチュウが強いのはサトシとピカチュウが鍛錬を重ね、限界を超えて成長をし続けた結果であり、別にピカチュウというポケモン自体が特別強く、バトルに向いているわけではないのだ。
『チャンピオンサトシの育成論、戦術論は彼と彼のポケモンたちを勝たせるために確立されたものであり、他人が模倣するにはあまりにも再現性がなさすぎます。彼と同じ努力を重ねる覚悟があるというのなら、その覚悟で以て基礎を固めた方が大成するでしょう』
自らもピカチュウを限界まで育成した上でライチュウへと進化させたというポケモン評論家の立場から発したアサギ塾塾長ナンテのコメントも、ピカチュウブームが終焉していく中で出たものである。
『両選手ポケモンをチェンジ! 初手のガッシリとした対面とは打って変わって小型ポケモン同士の小回りの勝負となりそうです!』
「お姉さんのニャローテだ!」
「ほうほうほほほう!」
憧れのリコのパートナーが姿を見せるのでチャンもオドリドリも一気にテンションが上がる。
「相棒ピカチュウはイーブイほどではないにしろ多彩な技があると聞く。さて、どうなりますやら」
チャンとオドリドリを微笑ましく見ながら、シゲルもまた純粋に試合観戦を楽しんでいた。
「はッ!」
リコが両手を突き出して握り拳を作る。すると、フィールド中の石片が呼応し、一斉にピカチュウへ襲いかかった。
交代先へのステルスロックの急襲だ。
「そう来ると思った!」
ミコトは口角を吊り上げる。
「ピカチュウ、ジャンプ!」
「ぴっか!」
ミコトの指示にピカチュウが上空へ飛ぶ。ステルスロックをまんまとかわしてみせた。
「ならッ!」
ピカチュウの挙動は、リコとしても予測できていた。むしろ、強豪トキワ台のエースともなればそれくらいはやってもらわなくてはむしろ困るまであった。
リコは、自覚こそないに等しいが、内なる闘争本能をポケモンバトルへ振り向け、才覚へと昇華し始めているのだ。
「マジカルリーフ、いっぱい!!」
「にゃろぉはーッ!!」
ステルスロックはあくまでリコの制御によるアクションであり、ニャローテ自体は完全にフリーである。
ニャローテが空中へ逃れたピカチュウめがけ、無数のエネルギー葉を両手を突き出し発射する。
『リコ選手、ステルスロックからのマジカルリーフによる二段構えの攻撃ーッ!!』
「逃げ場なし、ならば!!」
闘争本能を才覚へと昇華させているのはミコトも同じだ。
1年歳上な分、その分量も純度もリコ以上だという自負もある。故に逃げ場の有無など関係なかった。
「ぴっかぁ!」
ピカチュウがニャローテめがけて急降下を開始する。マジカルリーフが襲いかかってくるのもお構いなしだ。
「あのピカチュウ、ただ落ちてるだけじゃあないッ! 自らのエネルギーを行使してニャローテへ向かってる!」
この指摘もまた、ミコが相棒ポケモンの使い手であるが故に養われた感覚からのものである。
「ピカチュウ系列はなかなかに芸達者なポケモンだからな。小技の類は得意だし、なみのりを活かした水上戦も出来る。だからこそ相棒化に適応するポケモンなのかもしれねェ」
「じゃあアレはピカチュウのそらをとぶ攻撃?」
「近いが、微妙に違うな」
ナギもまたある程度はポケモンの知識を頭に叩き込んでいる。相手の虚を突き、ペテンにかけるには必要なファクターであるからだ。
ロイからの問いにピカチュウが仕掛ける技の正確な看破までは出来ないのは、彼が相棒ポケモンの知識においては不足していたが故である。
「うぅッ……!」
リコは見た。ピカチュウが全身にうっすらと空色のひこうエネルギーを纏っているのを。
ひこうエネルギーが膜となってマジカルリーフを受け流し、ダメージを最小限のものとしていた。
くさタイプの技は、ひこうタイプには効果今ひとつなのだ。
「これぞ相棒技の真髄! ピカチュウ! ふわふわフォール!!」
「ぴかぁぁぁッちゅ!!」
「ぐにゃあッ!!」
「ニャローテ!!」
ひこうエネルギーを纏ったままの急降下突撃を受けたニャローテはリコの右隣を通り過ぎ、後方まで吹っ飛ばされる。
効果抜群の一撃を入れたピカチュウは、フィールドへ降り立ち、なおも追撃の姿勢だ。
「にゃぐぅッ……!」
吹っ飛ばされたニャローテは体勢を立て直し、フェンス激突だけは避ける。
そこに、ピカチュウは既に距離を詰めていた。
「ぴかぴかぴかぴか!」
「速いッ!?」
「相棒技、ばちばちアクセル!!」
体内に蓄えたでんきのタイプエネルギーを活かし、瞬発力のままにピカチュウは飛びかかる。
「くッ、マジカルリーフ・シールド!!」
「にゃろああッ!!」
ニャローテが両手を突き出せば、ピカチュウとの間に急速にエネルギー葉の塊を円盤状に固めてゆく。
「んッ、ピカチュウ後退!」
「ぴっか!」
展開されたエネルギー葉のシールドを前に、ピカチュウは纏っていたでんきエネルギーを発散することで後方へ飛び退いた。
『あれほどのくさエネルギーの塊、飛び込んでしまったらひとたまりもない!』
ミコトのバトルセンスが警鐘を鳴らした結果であった。同時にリコとニャローテに対して警戒度を引き上げる。
『あのニャローテ、内包しているくさエネルギーが極めて大きいと見た。そして、その活用法を育成でしっかりと身につけている』
ふわふわフォールを喰らわせ、効果抜群の大ダメージを与えたのも、ミコトからすれば見ようによってはまずいことに思えてきた。
ニャローテの特性『しんりょく』により、ただでさえ豊富なくさエネルギーがさらに強化されるからだ。
『このままダラダラ続けることになれば、不利になるのはむしろこちらの方…!』
ミコトは、必殺の一撃による早期決着を腹に決めた。
「にゃろぁ…!」
ニャローテは肩で息をしており、見るからにダメージは甚大であった。そんなことは一連のやり取りを見ていれば誰でも分かることだ。
『しんりょくが発動している以上、ニャローテの体力は長くは保たない…!』
リコが辿り着く答えは、ミコトと同じ早期決着。その表情は、追い詰められているというのに晴れやかなものだ。
強敵の攻め手を前に気持ちが高揚していた。コレがポケモンバトルの妙味だというならば、今のリコにとって好ましいものだった。
「うーん、いい顔してるじゃんリコちゃん。元々可愛いけど」
ネクストサークルからマフィンはリコの試合中の一挙手一挙動を常に見続けている。それは今日だけではなく、リコが入部を決めてから一緒にいる時はずっとだ。
『ありがとうね。コレでリコちゃんの潜在能力がさらに刺激される』
強敵を相手にしてのリコの高揚に、マフィンはミコトへ感謝する。
マフィンはリコを可愛がり、邪な目線こそ向けもするが別段甘やかしはしない。外見的な好みも否定はしないが、一番はやはり『セキガクの柱』となりうる大器を見出してのことである。
本来ホタルはこのシングル2にはナギを置く予定だった。強豪トキワ台を相手にした大一番においては妥当な配置といえよう。
そんなホタルに対してシングル2にリコを置くよう部長権限を振りかざした甲斐があったというものであった。
『相棒化』
トレーナーとの結びつきをより強化し、独自かつ多彩な専用技に対応すべく最適化されたボディを持つポケモンの総称。
専用技に特化したボディバランスの影響から進化の道が閉ざされるのが欠点としてある。