SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 ダブルバトルで先勝を許してしまったセキガクからはナギが、追い込んだタマ大からはカオルが出陣。
 生まれながらの因縁、双子の兄妹対決がスタートするのであった。


柔と剛のカオル

『あーッと! ナギ選手の先発はシャワーズと見せかけてゾロアーク!! カオル選手はそれを読んでいたのか、マジカルシャインでイリュージョンを即座に破ったーッ!!』

 

「ナギ先輩のイリュージョン戦法が見破られた!?」

 

「流石に兄妹ってところかな? いや、ここは普通に様子見だった……?」

 

 ロイが驚く中、ミコはふむ、と指を顎に当てて思案する。

 仲間のポケモンに擬態する能力を持つゾロアークの存在がチラついているならばその弱点技を軽く打ってみるのも手だろう。ましてエーフィはエスパータイプ、あくタイプのゾロアークの攻めを許せばやられてしまいかねない。

 

「……シャワーズにイリュージョンさせたゾロアークでの奇襲はグンジョウ工業戦で1度見せている」

 

「1度晒した手の内の2度打ち……それも妹相手に、か」

 

 タマ大所属のデータマンたちは大会の全試合を逐一チェックしている。当然、チェックした情報は選手にもたらされる。カオルが警戒していないはずはないのだ。

 キラリがタブレットロトムにデータを打ち込みながら口を開けば、ホタルは腕を組んだまま試合を見るよりなかった。

 ナギの鉄板であるペテン殺法が決まらなかったというのがこの先どういう試合運びとなってゆくか検討もつかないからだ。

 

「ナギ先輩、大丈夫だよね?」

 

「うーん……」

 

 アンにリコも唸るよりない。試合開始早々だというのもあるが、お決まりの戦法を透かされた盤面に対して先輩なら大丈夫、と言い切れるだけの材料が決定的に不足していると認識せざるを得ないからだ。

 

 

 

「ゾロアーク! つじぎりだ!!」

 

「きしゃあああッ!!」

 

 体勢を立て直し、ドス黒いあくタイプエネルギーを両手先の赤い爪から延長する形で展開しながらゾロアークは走り出す。

 イリュージョンこそ速攻でバレてしまったが直撃は受けていない。マジカルシャインを受けてのダメージは軽微、となれば目の前にはあくタイプにとって絶好のターゲットであるエスパータイプのエーフィが突っ立っている状況だ。狙いにいくよりない。

 

「エーフィ交代!」

 

 無論、むざむざ効果抜群の一撃を受けてやる道理はカオルにはない。

 

「おッ……!」

 

 獲物として捉え、間合いに入り、つじぎりの爪攻撃が振り下ろされる直前にカオルはエーフィをボールへと戻し、同時に入れ替え先のポケモンを投入した。

 

「ちぃッく!」

 

 ダブルボールのテクニックにより投入早々からゾロアークのつじぎりを抑えて見せたのは全身に殻を纏ったように白いボディにスラッとした体型、お腹周りに浮かぶ赤と青の三角模様が種族全体のアクセントとして共有されているしあわせポケモントゲチックである。

 振り抜きにかかったゾロアークの両腕に対し、トゲチックはガッチリと両手で止めて見せた。

 

『カオル選手、すかさずダブルボールのテクニックでエーフィを交代! あくタイプに対して有利なフェアリータイプのトゲチックを投入だーッ!!』

 

「ダブルウイング!!」

 

「ちくぅッ!!」

 

 交代際のラグを短くし、相手と交わす攻防のやり取りを切らないようにするダブルボールだからこそ出来る素早い反撃だった。

 トゲチックはその場で左向きに回転し、背中の翼をゾロアークへ叩き付ける。

 

「とんぼがえり!」

 

「ぎんるぁ!」

 

 回転の勢いのままに両翼を叩き付けられ、吹っ飛ぶ間際にゾロアークはトゲチックの特徴的なお腹を思い切り蹴る。タイプ相性上、ダメージとしては微々たるものだがそこは目的としていない。

 とんぼがえりによる反動をダブルウイングを受けた分にプラスして大きく吹っ飛べば、そのままナギが構えるボールの回収光線にゾロアークは全身を飛び込ませていった。

 早い話が攻撃と同時にまんまと逃げ帰ったのだ。

 

 

 

『イリュージョンによる奇襲を見破られたゾロアーク、正攻法においてもカオル選手の冷静な対応の前にたまらず後退! 兄妹対決は、まずは妹の側が優勢かーッ!?』

 

「実に良きいくさをしよる。我が剛の技とお主の柔の技……2つのタマ大流を継承したカオルに死角はない、であるなヒカミよ?」

 

 タマ大側ベンチ、カオルがペースを掴んだのでタイテンが満足げに頷いている。

 ネクストサークルのヒカミは首肯を小さく返すのみで、タイテンからの呼び掛けに応じなかった。

 意識をフィールドへ向け、注意深く警戒を怠っていない。ただバトルを見ているだけでなく、自分ならどう立ち回るかを双方の立場から絶えず脳内でシュミレートしていた。

 

 

「ちッく! ちッくゥ!」

 

「えらいはりきりボーイがやってきたじゃねェか」

 

 シャドーボクシングをして見せる陽気なトゲチックにナギはからからと笑う。

 

「……」

 

 カオルが言外に次のポケモンを催促するので、ナギは手首のスナップを利かせた。

 

「おーし。頼むぜ相棒!」

 

「しゃうあぁッ!!」

 

『ナギ選手が繰り出す2番手はシャワーズ! 今度は間違いなく本物でしょう!』

 

 審判がジェスチャーで試合再開の指示を飛ばす。

 

「トゲチック、かわらわり!」

 

「ちーッく!」

 

 右手の発光はかくとうエネルギーの具現である。トゲチックとははりたまポケモントゲピーがじゅうぶんに愛情を注がれた上でレベルアップすることにより進化するポケモンだ。故に主人であるカオルのために奮闘し、目の前の相手を叩き伏せにかかることに一切の迷いはない。

 加えて『はりきり』の特性もプラスに作用している。攻め手が前のめりになり空振りしやすくなるのがたまに傷だが、その分攻撃力が高められているのだ。

 

「見えるなシャワーズ!」

 

「シャウッ!」

 

「うッ……!」

 

 そのトゲチックの右拳に対して、シャワーズはすべすべとしたボディを活かして直撃が突き刺さらないようにいなした。

 トゲピー時代と変わらぬ形状をした指のない短い手が届く距離だというのは、反撃をモロに受けやすい距離だということ……!

 

「オーロラビーム!」

 

「しゃうらぁッ!」

 

 こおりエネルギーが変質した7色のオーロラ光線が強烈な冷気とともにシャワーズの口から発射される。

 

「トゲチック、はがねのつばさ!」

 

「ちッ、くわぁ!!」

 

 肉弾戦が成立する至近距離からの反撃でもカオルは落ち着いていた。

 トゲチックはオーロラビームに対し、はがねエネルギーにより硬質化させた右翼をガードに使用。

 

「ちくぅ……!」

 

「しゃわう」

 

 どうだ、と言わんばかりな表情のトゲチックに対して、シャワーズは苦虫を噛み潰した表情をしていた。

 

 

 

『シャワーズのオーロラビームを至近距離から放たれるもトゲチック、はがねのつばさを利用して見事にガード! 本来なら効果抜群、大ダメージは避けられないところを防いで見せました!!』

 

「なかなか技の使い方が上手いもんだね」

 

 ほう、とシゲルが感心するのに対し、席を1つ開けて右隣に座るシンジが口を開くことはない。

 学生レベルにしてはやる方だ……そうサングラスの向こうの厳しい瞳がシゲルの言に内心で意見を同じくするのみだった。

 ポケモンとポケモンの技には18のタイプがあり、それらの複雑な相性関係がバトルに大きく関わってくる。

 先程のオーロラビームはこおりタイプの技であり、ひこうタイプを持つトゲチックの弱点を突くものだが、カオルはこおりタイプの技の効果を今ひとつに抑えるはがねタイプの作用を利用してダメージの減殺を行なったのだ。

 本来攻撃のために使う目的の技を相性補完で受けに用いるのは、相応の育成が要求される高等テクニックである。

 カオルは、間違いなく学生レベルにおいてはトップレベルのテクニシャンなのだ。

 

 

 

「ちッく……!」

 

「ん……」

 

 タマ大ツートップである『剛』の副部長タイテンと『柔』の部長ヒカミ。

 2人から教わった剛と柔の奥義を運用するのに最も問われ、そこを1番に買われたのがカオルの中にある慈しみの精神であった。

 カントーNo.1の強豪校の中でレギュラー争いをしていく過程において、勝負の世界で必須である非情の精神を養ってきた。

 そんな中であっても、カオルは少なくとも自分のポケモンに対する深い愛情を欠かすことはなかった。彼女の愛情を支える要素として、鋭い眼力が備わっている。

 

『直撃こそはがねのつばさのガードが間に合ったけど、オーロラビームを被弾したのは変わらない。急速に体温が低下したところからの攻撃力低下は防ぎ切れてない……』

 

 トゲチックのステータス異常を素早く看破すれば、シャワーズを相手にこのまま突っ張らせるのは不毛に思えた。

 

「トゲチック、交代!」

 

 カオルはトゲチックをボールへと戻す。同時にこの試合を一気に終わらせる作戦を実行へ移すことにした。

 

「しゃうう……!」

 

「さぁ、次はなんだ!? ドンドン来いッ!!」

 

 シャワーズは姿勢を低くして身構える。ナギは交代させることなく相棒にこの場を任せることにした。

 

「ゆけッ、ボスゴドラ!!」

 

「ごどぅるあああああい!!」

 

 カオルが繰り出すはボスゴドラ。

 ボールより飛び出し、フィールドに降り立つだけでズシリとした重量感を伝え、雄叫びはスタジアム中の皆の聴覚を刺激する。

 

「来たな。ノリにノッてる大将が」

 

 ナギの軽口にカオルが返すことはない。軽妙なトークの中でこちらの手の内を探っているのが見えるからだ。

 

『カオル選手、ここで準決勝直後にコドラから進化したボスゴドラを投入! みずタイプのシャワーズにいわタイプを持つボスゴドラでは弱点を突かれてしまうがどういった狙いがあるのかーッ!?』

 

『待ちの姿勢か』

 

 ボスゴドラが両足で地面を踏み抜き、ドッシリとした構えを見せる。

 暫しの静寂、だれかが息を呑んだところにナギは仕掛けた。

 

「シャワーズ、ねっとう攻撃だ!!」

 

「しゃわびゅーッ!!」

 

 シャワーズが湯気立つ水流弾を口から吐き、ボスゴドラへ命中させる。

 この場の誰しもが予測していた場面だが、様子が違ってくるのはここからだ。

 

「ごぉ……ッ!!」

 

 お腹に熱々の水流弾を叩き込まれるボスゴドラが踏ん張りをきかせ、全身よりスチールグレーのはがねエネルギーを充填させてゆく。

 たった今受けたダメージを技の破壊力へと変換しているのが見えた。

 

「なにッ!? まさか、メタルバーストだと!?」

 

「今更気付いてももう遅いッ!!」

 

 ナギが見せる狼狽にカオルはすかさず切り返す。

 ボスゴドラが相手の技を反射するメタルバーストの技を覚えることはナギも知っていた。が、そこまでに至るにはあまりにも早すぎるのだ。

 現にカオルのボスゴドラは、つい最近進化したばかりなのだから……。

 

 

 

「これこそが我らタマ大の真骨頂なのだよ」

 

 ネクストサークルより麗人が呟く。ヒカミは、自分の出る幕もなかったか、と思った。

 タマ大附属中はその名の通りカントー随一の名門であるタマムシ大学の系列校であり、地元タマムシシティのみならずカントー全域に強いパイプを持っている。

 当然バトル部もその恩恵にあずかっており、チーム強化の一環として練習の際に各地のジムリーダーを招聘し、直接指導してもらうことも日常茶飯事であった。

 

 

 

『なるほど。兄譲りのセンス、というやつか』

 

 シンジは内心呟いていた。シンジもまたタマ大へ招かれ、幾度かバトル部の指導を行なっていた1人である。

 その中でジムの清掃員としてよく出入りするナギと近しい雰囲気のカオルに対しても幾らかコミュニケーションを通していた。

 カオルはトレーナーとしては真正面から正々堂々と戦う王道スタイルを好む傾向が見られ、その辺りも相手の虚を突く邪道スタイルを仕上げている兄との違いから、こうして直接対決を見るまで2人の繋がりにピンと来てはいなかった。

 元よりポケモントレーナー同士がフィールドで向き合えば、それより先に待つのは勝負のみ。両者を分かつのは勝者と敗者の道しかないのだ。

 シンジは、自分が10代の頃に比べて随分と『ぬるくなった』時代において、血を分けた兄妹である以前に勝負の世界の摂理を優先するナギとカオルが好印象であった。

 サングラスの向こうに隠した瞳の奥にあるその好印象を誰かに悟らせるようなことはないが。

 

 

 

「ココドラ時代からシンジさんの指導を受け、ボスゴドラに進化したことでコツを身に付けた必殺の一撃!」

 

 ボスゴドラの全身がはがねエネルギーに満ち満ちている。

 溢れんばかりのスチールグレーの輝きが放たれるはたった1つ、タマ大勝利のためだけだ。

 

「今こそ叩き込む時! ボスゴドラ!! メタルバースト!!」

 

「ごどぉらあああああッ!!」

 

 ボスゴドラの巨体、その全身より放たれたはがねエネルギーがシャワーズの身を打ち、あっという間にナギの左側後方ベンチへと吹き飛ばす。

 強烈な反射技の威力に、ナギは目を見開くよりなかった。

 

 

 




 『ダブルボール』
 ボールを両手に構え、ポケモンの回収と交代を迅速に行うのに適した高等テクニック。
 天候をはじめとしたフィールドアドバンテージの有利を保ったり相手の攻撃を透かしたりするのに便利だ。
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