SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 セキガクvsタマ大の死闘はシングル1、両チーム共に部長同士が出てきてはどちらも切り札をメガシンカとしてド派手なバトルを展開する。
 サイコ・リンクを駆使するヒカミに対し、マフィンはその上をゆくゴースト・ハックを披露するのであった。


Never Surrender

「もしかしてなんだが、オレらの大将って……オレらが思ってるよりすげェんじゃ?」

 

 シャドーボールの雨あられを四方八方から放ち、メガエルレイドを滅多撃ちにしているメガゲンガー……姿こそ異次元空間の中に潜ませたままながら、タマ大No.1の猛者をマフィンが圧倒している現状に、ナギの口角は吊り上がっていた。

 

「少なくとも私たちが今まで見てきたのがマフィンの実力のごく一部に過ぎないってことは確かね」

 

 ミコもフィールドの光景から目を離せないまま返す。

 セキガクメンバーが目に焼き付ける光景は、まさしく全国制覇を掲げてきたマフィンの気迫が現出している。

 彼が味方であったことの幸運も同時に享受していた。

 

「コレが、セキガクの柱……」

 

 朧げながらにリコもまた、マフィンから継承を促されている『セキガクの柱』の輪郭を見出し始めていた。

 柱たるものチームを支え、戦うとあらば結果が最優先で求められる……それだけではないのだろうが、少なくともそういった表層的な部品はなんとなく掴むことが出来た。

 

 

 

「これぞカルネ流……『魔空包囲弾』!!」

 

「れ、れいッ……!」

 

 逃げ場はなく、腕のブレードでいくら視界内のシャドーボールを迎撃しようとも死角からの被弾がメガエルレイドを襲い続ける。

 そのうちに腕を振るう体力を削り取られ、全身が、背中のマントがボロボロとなったエルレイドは虚ろな表情で天を仰ぐ。

 

「げんげーん!」

 

 異次元空間からニュートラルポジションにその身を浮上させたゲンガーが、膝から崩れ落ちるエルレイドを見下ろす。

 

「無念ッ……!」

 

 ヒカミが呟くと同時にエルレイドのメガシンカが解除される。

 走り込んだ審判のチェックから、大番狂わせのジャッジが確定した。

 

「エルレイド、戦闘不能! ゲンガーの勝ち!! よって勝者、セキガク3年マフィン選手!!」

 

 勝ち名乗りを受けると同時にゲンガーのメガシンカが解除される。

 

「よーし! よし、よし、よーーーし!!」

 

 マフィンは、小さな体なりに力一杯握った両腕を天へ突き上げた。ゲンガーも面白おかしく主人の真似をしている。

 

『決着! 決着です!! 第98回全国中学校ポケモンバトル選手権大会カントー地方予選! 優勝を決め、全国大会へ駒を進めることとなったのはセキエイ学園!! 絶対王者タマ大附属を破り、41年ぶりの地方予選制覇です!!』

 

 マフィンの、セキガクの勝利を祝う拍手の中でヒカミは倒れたエルレイドをボールへと戻す。

 俯きたくなる衝動を抑え込み、ジッと正面を見る。そして瞳に焼き付けた。自らを負かした存在を。

 

「ヒカミ部長……」

 

「カオル。今日を以て私たち3年は引退だ。明日以降からは部長として新体制のもとに活動していくんだ。いいな?」

 

 どれだけ強豪であろうとも地方予選は負ければそこで終わり、3年生には引退するよりないのがポケモンバトル部の宿命である。

 

「今日の敗北は、明日の勝利にて補う……セキガクのマフィン。その名、覚えたぞ」

 

 ポケモントレーナーにとってバトルとは己が全てをぶつけ合う真剣勝負の舞台である。しかしそれは何も一度きりで全てが決するわけではない。故あれば出会いを重ね、その度にボールを構えるのだ。

 カオルは、ヒカミがもう意識を明日へと、未来へと向けているのが分かった。

 来るべき未来での雪辱を真っ直ぐ誓ってみせる、その心の強さこそ見習うべきものであると確信をした。

 

「ヒカミ部長……わたし、来年必ず皆でリベンジします」

 

「あぁ。タマ大を頼んだぞ、新部長」

 

 ヒカミが右手をカオルの肩に乗せ、カオルはハッキリと首肯して見せる。

 試合こそ敗れながらも、タマ大附属の魂はしっかりと伝承されたのだ。

 

 

 

『これより第98回全国中学校ポケモンバトル選手権大会カントー地方予選、表彰式を行います。』

 

 決勝戦が終わって30分後、ロトム入りの清掃ロボットによる整備がなされたフィールドにベスト4まで残った4校が整列していた。

 放送席からはウグイス嬢のアイヴがアナウンスをしている。ハンリュー地方からの留学生だ。

 

『ベスト4進出……チャバ農業大学第1高等学校中等部、トキワ台中学校』

 

 地方予選では3位決定戦は行われず、準決勝敗退の2校はまとめて扱われる。

 チャバ農からはリキュウが、トキワ台からはミサキが部長として代表で表彰状の授与をされていた。

 

『準優勝……タマムシ大学附属中学校』

 

 ヒカミは戦い疲れや敗北のショックなどを微塵も見せることなく、堂々とした歩みで以て代表として授与をされる。

 対外的にはタマ大バトル部の部長として最後の姿であり、その責務を全うしてみせた。

 

『優勝……セキエイ学園』

 

「そういえば監督どこ行っちゃったんだろ?」

 

「いつの間にかいなくなってたね」

 

 マフィンが表彰状を授与されている中、アンがポツリと呟いたのにロイが反応する。

 フリード監督は試合中ずっとベンチで居眠りしており、試合が終わると忽然と姿を消していたのだ。

 まぁリコたちからすればフリードの役目といえば練習試合のセッティングや、バトル練習に用いる回復装置の用意が主であり、試合本番となってしまえばほとんど用なしの存在ではあるのだが。

 軽く言葉を交わしていたアンとロイは前列からの殺気に反応して固く口を閉じる。『私語は慎め』というホタルからのプレッシャーを感知したからだ。

 

『続きまして、今大会最優秀選手賞のセキエイ学園3年マフィン選手より受賞の挨拶です』

 

 表彰状の授与から引き続いて登壇するマフィンが前に置かれたマイクスタンドの高さを調整する。

 受賞の決め手としては優勝チームを率いる部長であるのもさることながら、1回戦に見せたメガゲッコウガ、決勝に見せたメガゲンガーでの戦いぶりが鮮烈な印象を大会運営側に植え付けたとのことだ。

 

「あっ」

 

 調整の最中、電源が入ったままのマイクがスタンドから外れてその場に落ちれば、台座に落下して発せられる強烈な衝撃音にたまらず皆表情を歪める。

 

「いやぁ〜ごめんなさいね」

 

 謝りながらマフィンは拾ったマイクをスタンドに直す。

 体を屈ませながら、居並ぶ生徒たちにだけ見えるように舌をペロリと出して見せた。

 

『あの野郎……』

 

 堅苦しい空気を解すためにわざとやったのが皆分かった。食えない野郎だ、とも。

 

「この度は、栄誉ある賞を賜り誠にありがとうございます。大変光栄に思っています」

 

 それでいていざ挨拶となれば至極真っ当に切り出すのがセキガクメンバーからすればマフィンらしいと思えた。

 

「自分1人では、この栄光を手にすることはできませんでした。日頃からご指導いただいているフリード監督、チームメイトに心から感謝申し上げます。この賞を励みに、来たる全国大会での活躍を目指し、今後も練習に励んでいきたいと考えております」

 

 いかにもありきたりな文章を読み上げる声音に変化はない。ただ、その瞳が微かに潤んでいたのがリコには分かった。

 念願であった全国大会出場を決め、秘めていた思いが溢れ出ぬようマフィンは必死なのだ。

 

「今後とも、変わらぬご声援をいただけますよう、心からお願い申し上げます。本日は、本当にありがとうございました」

 

 定型文を読み上げては深々と礼をし、拍手の中でマフィンはセキガクの列へ戻っていった。

 込み上げる思いは瞳の中に収まり、ギリギリ漏れ出ることはなかった。

 

 

 

 表彰式からそのまま地方予選は閉会を迎え、リコたちセキガクバトル部は行きと変わらず帰りも全員ランニングで学園まで帰る。

 

「はひ、はひ、はひ」

 

 地方予選MVPとなったマフィンはやはり集団から遥か後方にポツンと1人置いてかれていた。

 

「あっ!? 見て、アレ!!」

 

 慣れ親しんだ校舎が見えて来てはロイがいの1番に指差す先には、

 

『祝 全国大会出場ポケモンバトル部』

 

 こうド派手に書かれた垂れ幕が屋上より設置されていた。

 

「よぉお前ら! お疲れさん」

 

 帰り着いたリコたちをフリードが出迎える。

 

「監督! アレ、監督がやったの?」

 

「まぁな。こいつも手伝ってくれてさ」

 

「ぐるぅ〜」

 

 フリードの背には主人には似つかわしくないほどに精悍な顔つきのリザードンが控えていた。

 

「おーバトル部! フリードから聞いたぞ。ついにやったんだな! おめでとう!!」

 

「マードック」

 

 学生寮の厨房で働くマードックはフリードと知己であった。

 

「ドットも頑張ってたみたいだな〜! 叔父ちゃん鼻が高いぞ〜!」

 

「止めろよ持ち上げるなよ!」

 

 姿を見るなり駆け寄って高い高いと抱え上げるのでドットはたまらずマードックの腕の中でバタバタともがく。

 普段クールな分、姪っ子としてマードックから愛され放題でタジタジとなるドットが同期たちからすれば新鮮であった。

 

「ボクたち、やったんだな」

 

「……まだ道半ば。でもまずは1つ成し遂げた」

 

 垂れ幕を見上げるホタルとキラリは感無量であった。

 そんな2人の後ろでミコは穏やかに微笑む。バトル部の舵取りを担って来た2人に対して、負傷離脱していたことへの負い目から言葉はかけれなかった。

 ナギに至っては明日仕事だから、とランニングの途中で別れている。

 

 

 

「ぜぇ〜……! ぜぇ〜……!」

 

 マフィンは相も変わらず一団から盛大に遅れ、未だ校舎が見える距離にすら辿り着いてはいない有様であった。

 

 

 

「よし。ミーティングを始める!」

 

 翌日7月25日。

 公式戦の翌日ということで完全休養日の制度上トレーニングは行えず、今後の方針確認のために、リコたちは朝食もそこそこにほのお校舎のバトル部部室へ集まっていた。

 普段のものと変わらずホタルがミーティングの進行を務めている。

 

「ボクたちは予選大会を突破して全国大会出場を決めた。だがそれはあくまで全国制覇という大目標の前の小さな目標をクリアしたに過ぎない! マフィンが表彰式の挨拶で言っていたように、来たる12月の全国大会へ向けて、今後もトレーニングは重ねていくから各員そのつもりでいるように!」

 

「「「はいッ!」」」

 

「ウス」

 

 リコ、アン、ロイが元気よく、遅れてドットもボソリと返事をする。この1年生たちのリアクションも定番化したものである。

 

「キラリ」

 

 リコたちの返事に頷いて見せてからホタルが呼び掛ければ、キラリはタブレットロトムと接続してあるプロジェクターを起動させホワイトボードに投影を始めた。

 

「……昨日、カントー以外でもいくつかの地方で予選大会の決勝が行われ、全国出場校が決定した。まずガラルではマフィンが言ってたようにエクシード学園」

 

 キラリがタブレットを操作して全国大会の公式サイトを開く。

 ガラル予選を勝ち抜いたのがエクシード学園であると記載されていた。

 

「アメジオ、出てくるね」

 

「うん……」

 

 昨日は試合の最中で聞き付け、コレをきっかけに勝ちを掴んだ。

 リコは、改めてアメジオとの再戦を切に願った。今度は自分が勝って見せる、と。

 

「アローラからはメレメレ島のポケモンスクールが予選突破か。名将カキ監督率いる強豪チーム……ぶつかるとなれば厄介な相手だな」

 

「……サトシ世代の中でも指折りの実力者が指導している。間違いなく強い」

 

 2年生からすれば他地方交流で拠点としていた学校のバトル部がそのまま出てきた形であった。

 ホタルは独りごちりながら唸り、キラリは変わらない調子で重ねる。

 

「あれ、カロスはミアレ芸大じゃあないんだ」

 

 皆が机を置いて席に座る中、マフィンだけはソファに腰掛けながら今回初めて発言をする。

 

「……そうらしい」

 

「ジャスティスの会、ってなに?」

 

「ミアレシティ内に存在する野生ポケモン居住区『ワイルドゾーン』で心身を鍛えてる私塾だってさ。かなり若い塾長さんが熱心な指導をしてるって、他地方交流で下宿先のおじさんが言ってた」

 

 直接関わってはいないから詳しいことは知らない、とマフィンが話すのでロイとしては納得するよりない。

 ともあれ、それまでカロス予選を突破する第1候補として扱われていたミアレ芸術大学附属中を破った事実から警戒はすべきだろうと皆認識をした。

 

「ジョウトやパルデアは今日ベスト4から決勝か。ジョウトはまぁ、アサギ塾?」

 

「……アサギ塾は準決勝まで2軍メンバーに試合させて経験を積ませ、ベスト4からは1軍が試合をする。アサギ塾の予選突破確率…98.76%」

 

「つまりほぼほぼ確定ってことね。ちなみにだけど、私たちが予選突破できる確率はどのくらいだったの?」

 

「……21.4%」

 

「思ったより高かったんだね」

 

「ぶい」

 

 キラリの弾き出したデータにキラリは軽い調子でコメントを返す。

 これより先、全国大会ともなれば最低でもタマ大が比較対象に挙げられるレベルの強豪チームが出揃うことは想像に難くない。

 セキガクバトル部全国制覇の夢は、まだまだ道半ばだ。

 

 

 




 『マードック』
 25歳。セキエイ学園の食堂スタッフ。
 生徒たちに評判の腕利きな『学食のおっちゃん』で、日中の学食とニドリーノ寮の食事スタッフも兼ねている。
 ドットの叔父であり、姪のドットを果てしなく可愛がっている。当の本人にはウザがられているが。
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