ジルとコニアを蹴散らしたリコは、念願のアメジオとの対決を迎えるのであった。
「ソウブレイズ」
「ぶるぇいッ」
リコと対峙するアメジオが繰り出すはソウブレイズ。リコにとってのニャローテ同様一心同体の相棒だ。
「にゃろう!」
「うんッ、イケる!」
アメジオより渡されたオボンのみを食べたことでニャローテはジルとコニアを相手取って消耗した体力を回復。気力に関しては因縁の相手、元よりリコともどもじゅうぶんに漲っていた。
「あっ、アメジオ様! 残るぎんいろのはねは彼女が持ってる1枚のみ! 他の3枚はもう回収されちまってます!!」
「そうか」
スマホロトムからの通知を確認したジルからの報告に、アメジオはリコと視線を交わしたまま短く返す。
この場の1枚が最後の1枚だ。
「次会う時は全国の舞台でやり合う時と言ったが……随分とタイミングが早まってしまったな」
「そうだね」
互いにクスリと笑みを向け合う。ごく短い談笑から、リコもアメジオも意識を戦闘モードに切り替えた。
「いざ、尋常に勝負!!」
「ニャローテ、ふいうち!!」
「にゃあろッ!!」
ニャローテが食べ散らかしたオボンのみを放り投げれば、ソウブレイズはひのけんしポケモンという分類の所以である両腕の剣を構え、素早く払い除ける。
「ぶッふ!?」
そのワンテンポの合間にニャローテは既にソウブレイズの背後に回り込んでいた。
「ぬうッ!!」
背後からの気配に即応。ソウブレイズは振り向きざまで右腕を横一文字に斬り払う。
「にゃッ!!」
ニャローテは斬撃に対して素早く頭を下げてかわし、左足の蹴りをソウブレイズの右脇腹へ突き刺した。
「ソウブレイズがファーストアタックを取られた!?」
コニアの声色は信じられないものを見たというものだ。勇猛果敢なアメジオのファイトを前に、リコが1歩も引かない姿勢を見せたのに驚いていた。
アメジオが先手を許すこと自体そうそう考えにくい話なのだ。エク学メンバーからしてみては。
『流石にニャオハの時とは別次元だな』
5月に戦った練習試合でのリコ相手の経験はもはや無用の長物とアメジオは忘却をする。
『ニャローテに進化してパワーもスピードも桁違いに上がっている。それになにより、トレーナーからのファイティングスピリットがよくノッている!』
ポケモンバトルとはポケモンのレベルやタイプ、技構成という表面的なスペックだけでは決まらない。細かいところでモノを言うのはトレーナーの闘志をポケモンが表現できているかである。
日々の鍛錬によって育まれるトレーナーとポケモンの信頼関係こそが肝であるとは、アメジオはフリードから聞かされていた。
リコとニャローテが練習試合の頃から見違えたのは分かった。だがそれがアメジオの引き下がる理由になるかと言われれば、そんなことは決してない。
敵が強ければ強いほど燃える。一見クールながら、アメジオの本質とは『燃える男』なのだ。
「ゴーストダイブ!」
蹴飛ばされたソウブレイズがすぐに体勢を立て直し、影の中へと身を溶かしてゆく……
「つるで捕まえて!」
「にゃろぉあッ!」
リコの判断は速かった。
ソウブレイズが影に隠れるアクションは、マフィンのゲンガーのそれに比べれば遅く見えた。この辺りもセキガクバトル部として養ってきた眼力が光る。
「ぶれぁ…!?」
「なにッ!?」
ニャローテの手首から放ったつるがソウブレイズの左手に絡まり、ゴーストダイブの流れを中断させる。
「引っ張り上げて!!
「にゃあああッ!!」
力一杯にニャローテがつるを引き上げれば、ソウブレイズのボディが影から離され空中へ投げ出されてしまう。
「攻防一体のゴーストダイブ、アメジオ様のソウブレイズの起点となる技をあんな風に破ってくるとは……!」
ジルもコニアも驚愕を隠せない。ガラル予選において、エク学が勝ち上がる道筋は決して平坦ではなかった。
苦境の中で活路を切り開いたのは、いつだってアメジオの燃え上がるファイトだ。
アメジオが後手に回されている……この戦況そのものがジルとコニアには軽くショックであった。
「これならどうだ! ソウブレイズ! むねんのつるぎを構えて錐揉み回転!!」
「ぶれぁれぁれぁれぁれぁ!!」
「にゃろぁ!?」
影から引っ張り上げられたソウブレイズは両腕を頭の上に掲げて全身を使った錐揉み回転。そのままニャローテ目掛けて突っ込んでゆく。
「おおっ! あれなるはまさしくポケモンバトル高等戦術『回転殺法』の1つ!!」
「基礎ステータスはもちろんのこと、ポケモンに確かな三半規管が求められるカウンターシールドと並ぶ大技!!」
「スクリュー・ドライバー!!」
強烈な錐揉み回転は、ふいうちによるカットを封じていた。下手に触れれば触れた方が弾き飛ばされるのは明らかだったからだ。
「満開に輝いて、勝利の花よ!!」
リコはテラスタルオーブを投げ込んだ。下手にかわす選択肢は取れなかった。
すぐ近くに滝壺へ繋がる水場があり、ほのおタイプであるソウブレイズの追撃を避けるにはよさげだが肝心のニャローテが水に濡れるのをあまり好まないのだ。
となれば真正面より防ぐ以外に術はなし……!
「にゃあああろぁ!!」
「テラスタルパワー! マジカルリーフ・ビッグシールド!!」
迫るソウブレイズを前に、くさのテラスタルジュエルを被ったニャローテは両手でくさエネルギーで盾を形成して構える。地方予選準決勝でミコトのピカチュウが放つ『超電磁砲』相手に使用した大楯だ。
「完全に防げなくても勢いを殺しさえ出来れば……!」
「いけ! ソウブレイズ!!」
「ぶれぁらぁぁぁッ!!」
スクリュー・ドライバーとマジカルリーフの大楯が衝突、その結果はすぐに出た。
「ん……?」
ぎんいろのはねを奪い合うサバイバルから戻ってきた生徒たちを迎え入れるオサムは、奥地から発せられる違和感をキャッチした。
オサムは生まれた時からずっと沖島にて暮らしており、うずまき島の領域外から出たことはないしこの先出る気もない。
そんな郷土愛溢れた青年の幼少期の1ページを彩ったのは、レプリカ品とは比べ物にならないほどの荘厳さの中に海のような深い慈愛を持った母と、母の愛を一身に受けて育つ子……ルギアの母子との関わりであった。
オサムは子に『シルバー』と名付けて友となり、海を遊び場として暮らした。
ルギアの母子を狙い来襲した悪人どもと、母子を護らんと立ち向かった勇気あるトレーナーたちの戦いを、母子との別れを……しばらくして立派に成長した友の門出をその目で見届けてきた。
発達した五感は、強大なサイコパワーを有するルギアと距離を近く過ごしたことによる副産物ではないかと塾長に言われたことがある。
オサムは、それを友と過ごした繋がりの証として嬉しく思い受け止めていた。
「まぁ大丈夫か」
いつの間にか備わった神通力じみた予感が発する危惧はまた別の気配によってすぐに鎮静化する。
気にするほどのことでもない……洞窟内に潜む気配に対してオサムはこう結論付けた。
「にゃ、ろぉッ……!」
スクリュー・ドライバーで錐揉み回転を加えたソウブレイズの両腕の刃は、マジカルリーフの大楯を突き破りニャローテの喉元へヒットした。
超電磁砲を防ぎ切った大楯があっさり破られた理由としては至極単純な話であった。くさタイプはほのおタイプの技に弱い……初歩的なタイプ相性の相関は、タイプエネルギーにおいても有効なのだ。
錐揉み回転から両足を地面に降り立たせ、バックジャンプで主人の元へ戻るソウブレイズと同時にニャローテは背中を大地に付けた。テラスタルジュエルも霧散し、完全に目を回している。
「ニャローテ、お疲れ様」
リコは倒れたニャローテをボールへと戻す。
「……対戦ありがとう、アメジオ。私の負けだね」
「今日のところはな。本番は12月だ」
勝つには勝った。だがアメジオとしては手放しで喜べる内容ではなかった。序盤は押されてしまい、実戦レベルで使えるのかまだ微妙であった高等戦術を引き摺り出された形だっからだ。
アメジオは、リコの実力が確かに自分の背中に向かって迫り、追いつかんとしているのを実感していた。
「じゃあ、コレ……」
「あぁ。ありがたくいただこう」
リコがぎんいろのはねを差し出し、アメジオは受け取る。
ジルとコニアは、自然と2人に拍手を送っていた。アメジオだけではなく、リコの奮闘も賞賛したのだ。
滝壺に隠れたところから、互いの健闘を讃える握手をするリコとアメジオを覗く男の口元は下卑た笑みで吊り上がっていた。
「ちょろいもんだぜ」
男は体の右側にドラゴンポケモンキングドラを抱え、その突き出た口を銃口としてアメジオへ向ける。
スピネルがジョウトへ派遣し、アメジオの始末を目的として雇い入れたポケモンスナイパーであった。
「死ね御曹司……」
エクシード社から支給された試作品のモンスターボールに入れ替えたキングドラは、男がそれまで把握していたものより遥かにスペックが増し、最大射程距離が10キロにまで伸びていた。これはメガシンカしたカメックスが背負ったハイドロキャノンの射程と同等である。
「そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!」
スナイパーはお決まりの宣言と同時にキングドラのお腹を左手でなぞる直前だった。チョンチョン、と左肩をつつかれたのは。
「うるさいな」
男は左手で背後を払い除けるも再度チョンチョン、とつつかれてしまう。
「なんだよ人が仕事しようとしてる時に! って……」
しつこくちょっかいをかけて来るのはせいぜい野生のポケモンだろうとタカを括ってスナイパーが振り向けば、そこには釣り竿を持った小さな老人がいた。
「くッ! 何奴!?」
「ほほ、老い先短い老いぼれよ」
たまらず距離を取るスナイパーにランドウは調子を崩すことなく答える。
アサギ塾の教官としてナンテに迎えられたランドウは2軍チームの1つの監督を任せられ、このような突発的なイベントを介した鍛錬の際には塾生たちの安全確保のために動いていた。
右肩にかけた釣り竿は暇潰しを兼ねて洞窟内の水場で趣味の釣りを楽しむためのものだ。
「しかしそのキングドラ、何やら面妖な力が宿っておるようだが如何したのかね?」
狙撃のチャンスを潰され狼狽していたスナイパーは、その問いかけで平静を取り戻した。対峙するひ弱そのものな老人相手に何を恐れるというのか。
「老いぼれに応える義理はねェな!」
「それは確かに」
凄んで見せるスナイパーに涼しい表情で返すランドウだが、長く垂れ下がった白髪から覗く左目からは鋭い眼光を放っていた。
ピンク色のモヤがかったエネルギーを絶えず体から噴出しているキングドラの姿は異常というよりないと思えた。
「ポケモンスナイパーとして仕事の現場を見られちゃ生かして帰すわけにはいかねェんだ。悪く思うなよ爺さん」
「ぐぅ〜……!」
ピンクのモヤが漏れ出ているキングドラの口をランドウへと向けるスナイパーの口元は既に勝ち誇っていた。
「ふむ……よかろう、ならばよく狙うことだ。その一射がおぬしの稼業における最後の引き金となるのだからな」
「ッ! 後悔しやがれ!!」
スナイパーは引いた。キングドラの引き金を。
キングドラは、口から強烈な水流弾をランドウ目掛けて発射した。ハイドロポンプだ。
「見たか! 脳天直撃だぜ!!」
キングドラのハイドロポンプが命中し、派手な水飛沫が辺りに飛び散る。
「ぬおー?」
その中心にランドウはいなかった。
「な、なにィッ!?」
大量の水を浴びてご満悦なヌオーがスナイパーの視線に首を傾げるのみであった。
「いかに強力なポケモンの技であってもそれを無効にして吸収する特性の前にはひと工夫必要ということよな」
スナイパーの背筋が凍る。背後にまた、ランドウがいた。
キングドラの攻撃をヌオーで受け、その間に回り込んだ。ヌオーの特性『ちょすい』により防いだのだ。
「ぬうううううん!!」
ランドウが全身に力を込めれば、そこにいるのは小さくひ弱な老人ではなかった。
筋骨隆々、筋肉モリモリな鋼の肉体を持つ雄々しさの塊がそこにあった。
「な、なぁなぁなぁ……!」
一方的に狩る側だと自らを定義していたスナイパーの思考が極限まで鍛え抜かれた筋肉美の前にショートする。
「ふんぬ! 必殺のマイティ・チョーク!!」
そんなスナイパーの喉元を丸太のように太い腕が締め上げた。
強烈な裸絞めを前に、瞬く間にスナイパーの意識は消失した。
「ぐぐ!?」
キングドラは意識を失った主人のホルダーにあるボールの中へと逃げ帰る。
ヌオーが主人の、筋肉の塊の側までぽてぽてと歩み寄れば、
「マイティ〜〜〜G!!」
誰も見ていない中で決めポーズが光る。
海のヒーローマイティG……それがランドウのもう1つの顔だった。
『マイティG』
ランドウのもう1つの姿で、世界の海を守る正義のヒーロー。
寄る年波からこの筋骨隆々な形態を維持するのはしんどく、フルパワーともなると3分でガス欠してしまう。