SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 うずまき島から帰ってきた合宿メンバーたちはいよいよアサギ塾1軍との練習試合を迎える。
 その余興として、塾長ナンテとリコたちの監督のフリードが一戦始めるのであった。


野鼠ナンテ流、乱舞

「カメックスだと?」

 

「何か考えがあンだわな。でなきゃただの馬鹿だ」

 

 ホタルとナギがそれぞれ口走る。でんきタイプのライチュウを相手に弱点を突かれるみずタイプのカメックスを出すなどセオリーからすれば自殺行為に等しいからだ。

 

 

 

「ほーん……」

 

 ナンテは左手で右肘を支え、右手で顎に触れる。

 

『あなをほる、またはじしん……それかミラーコートによる反射狙い……どちらにしてもテディの電撃を起点にする算段、その撒き餌としてのカメックス』

 

 その他いくらかの戦術をナンテは脳内で瞬時にシュミレートする。

 

「テディ」

 

「らいらい」

 

 主人の意を汲んだテディはコッペパンみたいな左手をクイクイ、と動かしカメックスの先攻を促した。

 

『やっぱり引っかからないか』

 

 ライチュウは種族として進化前のピカチュウから大幅にパワーアップしており、特にスピード自慢の速攻に向いたポケモンだ。その長所を無骨に鍛え抜いているのがナンテのテディである。

 そんなテディが先攻を譲るという時点で、フリードはカメックスでの戦術の瓦解を悟った。

 それ以上に肌を泡立たせるのは、テディが放つ空間を歪めかねないほどの闘気だった。

 このまま無理に突っ込めば散々に打ちのめされるのは目に見えている……。

 

「戻れ!」

 

 取るべき手段は1つ、カメックスをボールへと戻すしかなかった。

 僅かな睨み合いの中でナンテがフリードの攻め手を潰したことに辿り着く者はこの場にはいなかった。

 

「頼むぞ!」

 

 次いで投げ込むボールから飛び出すのは、

 

「ばなばぁなぁ〜!!」

 

 フシギバナだった。

 

 

 

「カメックス、フシギバナ、それとリザードン……」

 

「カントーの初心者用ポケモン最終系だね」

 

 リコが呟いたのにロイが反応する。フリードのポケモンのラインナップは、彼が一応はポケモン博士であることをリコたちに思い出させた。

 

「リザードンもひこうタイプだからライチュウのでんきわざには弱い。実質あのフシギバナが唯一対ライチュウとして戦える1体じゃあないかな」

 

「ぶーい」

 

 相棒を抱くミコの見立てはセオリーに忠実なものだった。初手に出されたカメックスの即時退却についてその意図は掴めないが。

 

 

 

「ちう〜」

 

 テディは変わらずニュートラルポジションから動く気配を見せない。不敵な笑みを浮かべたまま腕を組んでいた。

 

『仕掛けるしかないか!』

 

 ナンテ陣営が『後の先』を取る姿勢であるのは明白、睨み合いを続けていても先に精神が参ってしまうのはこちらの方であるとフリードは腹を括った。

 

「フシギバナ! リーフストーム!!」

 

「ばぁぁぁなぁぁぁ!!」

 

 この試合を通して初めて飛び出る攻撃指示。

 フリードに応えたフシギバナの咆哮とともに背負った大輪の花を震わせる。

 震わせた花から散布された花粉が緑色の粒子として膨大な数のくさのエネルギー葉として形成され、一斉に放たれていく。

 リコはフシギバナのエネルギー活用がニャローテのそれより洗練されているように見えた。

 

「テディ!」

 

「ちうちうちうちうちう!!」

 

 襲い来るエネルギー葉の嵐の前にテディは腕組みを解き、目まぐるしく動作させた。

 

 

 

「ウッソでしょォ? あのライチュウ、リーフストームを真正面から全部掴んで止めちゃってるよォ!?」

 

「全部じゃあない。あくまで大きなダメージになりそうなところのエネルギー葉だけ止めてる」

 

「マジ?」

 

 オルティガの指摘にピーニャが改めてフィールドを見れば言われた通りであった。

 エネルギー葉を掴んで止めているという時点で驚愕なのは変わらないのだが……。

 

「タイプエネルギー理論の提唱者なら出来ないことでもないんだろう」

 

 ボタンがポツリと呟いた。

 ポケモンは種族ごとに体内に様々なタイプのエネルギーを保有しており、その配分により扱える技の数や精度が変わってくる。このことを論文として世に出したのがナンテだった。

 

『みずタイプのポケモンの多くはこおり技のれいとうビームを習得出来ます。コレはタイプ上天敵となるくさタイプや、捕食者となり襲いかかってくるひこうタイプへの対抗策として、ポケモンたちが意図せずして扱っている本来のタイプとは別のエネルギーを引き出していると言えましょう。そして今出したのはほんの一例に過ぎません』

 

 タイプエネルギーの流動活用とは、ナンテがポケモンバトルを学問の観点から切り込むために扱ったテーマである。バトルフロンティアを完全制覇してからしばらく旅を続けた後にポケモン評論家となるまでの間、学歴を積み重ねタマムシ大学の携帯獣学部体育学科で纏め上げたことがアサギ塾での教育内容につながっているのだ。

 

 

 

「パワーウィップ!!」

 

 リーフストームが通用するかどうかはフリードからしてさほど重要なことではなかった。効いてくれたらラッキーといった程度の話だ。

 

「ちう!?」

 

 エネルギー葉のことごとくを止め、受け流して得意げになっていたところのテディの両手にフシギバナのつるが巻き付かれた。

 

「ほー……」

 

 コレが狙いだったか、とナンテは目を丸くする。

 リーフストームは威力が強力な反面、発動すればポケモンの特殊攻撃力ががくっと下がってしまう。そんな大技を初手から撃ってくるならばなにかしらの狙いはあると踏んでいたが、その内容までは出たとこ勝負としていた。

 

「物理技ならば特殊攻撃力のパワーダウンも関係ない、と」

 

「フシギバナはちょうど100kg! 俺のポケモンたちの中で1番の体格さ!! このままつるで振り回してやれ!!」

 

「ばなぁぁぁぁぁ!!」

 

 上手く恩師に一手を通せたという高揚がフリードに叫ばせる。

 フシギバナが雄叫びとともにつるで捕まえたテディを振り上げようとした。

 

「テディ」

 

「らいッちゅッ!!」

 

「な、なにッ……!?」

 

 フリードは驚愕を隠せなかった。テディが若干姿勢を低くし、グン、と全身に力を入れる……たったそれだけのアクションでフシギバナのつるから伝わるパワーに対抗して見せたのだ。

 

 

 

「ビワ姉」

 

「うん。分かるよボタンちゃん。あのライチュウ、すごくいいボディバランスしてる」

 

 ボタンに頷くビワはかくとうポケモンを好んで扱うところから、ポケモンの身体機能についてもよく勉強を重ねていた。

 自分の3倍以上の体格のポケモンに捕まってなお体の自由を奪われない体幹は、本場のかくとうポケモン顔負けだと思った。

 

 

 

「振り回してやる、とか言ってましたな」

 

「くッ……!」

 

「テディ!」

 

「らあいちう!!」

 

 つるを通してライチュウが両手を振り上げれば、フシギバナの巨体が宙に舞う。

 

「ばなぁ!? ぶッ!?」

 

 目をぱちくりさせるフシギバナはテディの後方、ナンテの左後方へ墜落し顔面から地面に激しくぶつけてしまう。

 

「それ、もう一丁!」

 

「らいら〜い!」

 

「ぶぁな!?」

 

 テディが両手を振り、今度はニュートラルポジションへフシギバナを盛大に尻餅させる。

 

「そらそらそら!」

 

「らいらいちゅう!!」

 

 そこからはテディが両手を頭上へ向けグルングルンと振り回せば、フシギバナもまた空中で激しく揺さぶられるよりなかった。

 

「ば、ばぁなぁ〜……!」

 

「も、戻れフシギバナ!!」

 

 元より重さが3桁の大台に乗る巨体のフシギバナだ。相手を振り回すことはあっても自分が振り回される側になるのは想定外であったろう。

 完全になすがまま、危ういタイミングでフリードはボールへと回収した。

 

 

 

「カメックスは言うに及ばず、フシギバナでも駄目ときたか」

 

「相変わらず化け物だぜ塾長は」

 

 決着こそまだだが、テディが圧倒していることは誰の目にも明らかであった。

 メロコの隣でウルトは唸る。元々このアサギ塾にはナンテを打倒するために入ったのだ。

 数少ない機会のたびに勝負を挑み、挑んだ回数だけ軽くあしらわれ続けていた。

 

「残るはリザードン、ですか?」

 

「そうだね。普通に考えればカメックスと同じで不利だけど」

 

 アメジオとしてもカメックスから続けてフシギバナと来たので連続性から3番手の予測は容易だった。

 マフィンはアメジオの予測を正解とし、事実上のラス1に置く以上はなにか奥の手があるのだろうとフリードの一手に対して踏んでいた。

 

 

 

「やっぱこいつしかねェか」

 

 フリードはジッと握ったボールを見つめる。

 カメックスもフシギバナも手塩にかけて育てた自慢の1体だが、こうなってしまってはやはり相棒に託すしかなくなった。

 

「頼むぜ、リザードン!!」

 

「ぐるうううぉぉぉ!!」

 

 この場の大体がしていた予想通りの3体目として繰り出されるリザードンがフィールドに降り立ち、咆哮とともに天へ火炎を吐く。

 勝負をかける気合いとともに、フリードはジャケットのポケットから取り出すは……

 

 

 

「「「テラスタルオーブ!!」」」

 

 リコ、アン、ロイの3人の声が重なる。

 ドットからすればアサギ塾で鳴らした実力者ならば持っていても不思議ではないと思えることだった。

 

 

 

「リザードン! 可能性を超えろ!!」

 

 放り投げられるテラスタルオーブ、眩い輝きにナンテもテディも表情はそのまま変わらず自然体の『無』である。

 

「あくテラス、か」

 

「ぐるおおおおおッ!!」

 

 悪そうな顔が映った黒い吹き出しのテラスタルジュエルを見て即座にナンテはテラスタイプを把握する。

 

 

 

「テラスタルでタイプを変えればライチュウのでんき技も効果抜群じゃなくなる!」

 

「確かにそうだけど」

 

 ムラエリがリザードンのあくテラスを技アリと認める中、カオルはここまでのテディの立ち回りからしてある1つの解答が浮かびかかっていた。

 

『『あのライチュウ、最初からでんき技を使う気ないのでは……?』』

 

 このバトルにおけるナンテのスタンスに気付くナギとカオルのタイミングは、全く同時であった。

 

 

 

「いくぞリザードン!! あとのことは考えなくていい!! テラスタルパワー、全開ッ!!」

 

「ぐぉぉぉぉぉ……!!」

 

 

 

「な、なんてパワーだ!」

 

「フリード監督、凄い……!」

 

 眩い輝きとともに強烈なエネルギーの奔流がリザードンの周囲を渦巻く様は学生たちを驚愕させた。とてもではないが自分たちの知るバトル環境で発せられるものではないと思えたからだ。

 決死の一撃に臨むフリードの横顔には、普段のぐうたらな色は微塵も見られなかった。

 この情熱を普段から出してくれたらいいのに、とリコは思った。

 

 

 

「ふむ……」

 

 正直なところで言うならばリザードンのエネルギーチャージを待つ道理などナンテにはない。もっと言えば本来の戦い方をテディにさせればとうの昔に決着はついていることだろう。

 それでもフリードにあの手この手と打たせるのを許したのは、バトルを通して彼の奥底にあるものを感じ取りたかったからだ。

 

「なるほど」

 

 テラスタルの輝きからナンテは朧げながらフリードの抱えているものを捉えることが出来た。全容こそ把握するには遠いが、確かな収穫とするにはじゅうぶんであった。

 

「リザードン!! テラバースト!!」

 

「ぼぅッッッァァァァァッッッ!!」

 

 テラスタルジュエルが砕け、膨大なあくタイプエネルギーが赤黒い炎となり、口元から紫色の光の粒子を纏わせ光線として発射する。

 

「ちう」

 

 『流石にコレを生身で受けるのは嫌だぞ』と、テディは首だけ主人に向いて目線で訴えた。

 その瞳には仮に直撃したとてやられるというような危機感は微塵もなかったが。単に痛そうだから、というだけの話に過ぎない。

 

「まぁ、根掘り葉掘り問い詰めるのだけは勘弁しておいてあげますか」

 

 ナンテ視点、フリードが鈍りに鈍り切っているのはひと目で分かっていた。そんな中で勝負を仕掛けてきたのでコンディションを整えさせるために猶予をくれてやったに過ぎない。たかが2週間ほどで戻せる実力のほどといえば『まぁこんなもの』と思えた。

 

「野鼠ナンテ流……『止攻防盾嵐』」

 

「らいらい!」

 

 テディは背中を地面につけ、モチモチしたボディとは裏腹に軽妙なブレイクダンスを披露。

 

「ちゅうううううッ!!」

 

 同時に頬の電気袋から放電。瞬く間に発生した電撃の嵐がテラバーストを弾き飛ばした。

 

 

 

「ドット、アレって!!」

 

「カウンターシールド……!」

 

 ロイが思わず身を乗り出し、ドットは唸る。

 同時にナンテの経歴から彼もまたサトシを知る人間である以上、同じような技を使えるのも宜なるかなと思った。

 

 

 

「翔べ!! リザードン!!」

 

「ぐぉうるぁぁぁ!!」

 

 テラバーストはあくまで囮としてテディに肉薄するのがフリードの狙いであった。

 カウンターシールドはまさしく狙い通りの展開、リザードンは『台風の目』へと飛翔した。

 カウンターシールドとはポケモンを中心にして回転しながら技のパワーで以て攻防一体を実現する戦術だ。

 一見隙がないように見えるものの、回転しながら技を放ち続けるために長時間の発動には向かず、バランス感覚を鍛えていないポケモンは目を回してしまう。加えて前後左右をカバーするのに長けている分上下が無防備という弱点があった。

 この点に関して発案者であるマサラタウンのサトシは『台風の目』の部分に別の技を設置するという方策を考案、運用しているのだが、そもそもカウンターシールドの展開そのものが応用戦術であるために難易度が高く、再現性としては発案者ならではという域を出ていない。

 そんなカウンターシールドを発動したテディへ向かう『台風の目』もまた、中心部まで一直線に無防備であった。

 

「勝負ッ!! 野鼠ナンテ流『×の字斬り』〜!!」

 

「ぐるぁぁぁッ!!」

 

 リザードンは両手の爪からエメラルドグリーンのドラゴンエネルギーを展開させ一直線にテディ目掛けて急降下。

 

「らいちゅ」

 

 リザードンの来襲に際してのテディの反応は速かった。

 背中から跳ね、即座に両足を地面につけ着地しながら、右手に力を込めている……

 

「これぞばくれつパンチの応用、野鼠ナンテ流『千歩氣功拳』」

 

「らあああいちゅあ!!」

 

 テディが右手を突き出せば拳から強烈なかくとうエネルギーが放たれ、

 

「ぐるおあああ……!!」

 

「リザードンッ!?」

 

 リザードンのボディを打ち抜いた。テディが素早く体勢を立て直したのでリザードンとしては周囲を電撃の嵐に囲まれ、逃げ場がなかった。

 ナンテのカウンターシールドへの補強とは単純明快、拳で捻り潰すのみであった。

 




 『野鼠ナンテ流』
 ナンテが自らのトレーナースキルを体系化し、1つの流派としてまとめ上げたもの。
 勘違いのないように言っておくが、別にアサギ塾の塾生=この流派の門下生、というわけではない。
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