SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 夏休みが終わり、2学期となってもリコたちセキガクバトル部は変わらず練習漬けの日々を送っていた。
 週末に練習試合の予定が入り、フリード監督の熱のこもった指導に皆全国へ向け鍛錬を重ねるのであった。


練習試合 vsイミテ総合芸能学院

 9月14日の日曜日、薄紫色の車体に前側には点の目と口があしらわれた専用車両『メタモンバス』がセキガクの駐車場に停められ、中からぞろぞろとジャージ姿の一団が降りて来る。

 

「来たな……」

 

 イミテ総合芸能学院バトル部のお出ましだ。セキガクバトル部は校門にて出迎えのために並んでいる。

 

「監督のフリードです。今日はよろしくお願いします。まさか学院長直々に来られるとは」

 

「そりゃあポケモンを扱う以上バトルは必須。転じてもちろんポケモンお笑い芸人としてもそこは例外に非ず! ってことで、バトル部監督も兼任させてもらってます。イミテです。試合のお誘い、ありがとうございます」

 

「もんもん!」

 

 監督同士の握手としてフリードに応えるのは生徒たちと同じく薄紫色をした部のジャージに身を包む美女で、イミ総全体を預かる学院長でもあるイミテだ。相棒のメタモンこと『メタちゃん』も連れ歩きの形で一緒である。

 メタモン芸を極め、一世を風靡した彼女もまたサトシ世代の一員であり、いわゆるポケモンコメディアンたちの世界において確かな影響力を持つ人物として知れ渡っている。

 

「おや? そちらのナギくんはいないのかね?」

 

「すみません。ナギは今日外せないバイトがあるということで」

 

「そうか、残念だ。是非とも彼のペテン殺法を体感してみたかったが、それなら仕方ない」

 

 坊主頭のマサヒコに対しホタルが説明をする。ナギの不在はオンライン勢の宿命として受け入れられた。

 

「それではこれよりセキエイ学園vsイミテ総合芸能学院の練習試合を始めます。一同、礼!!」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

 セキガクでの試合ということで、進行及び審判役としてどこからともなく現れ、誰に頼まれるでもなく当然のように買って出るセイヨ先生の号令により、バトルコートのセンターサークルに整列した双方のメンバーが礼をする。

 これから試合をする両チームのオーダーは以下の通りだ。

 

ダブルバトル

ホタル&アンvsマサヒコ&ナガノリ

 

シングルバトル2

ドットvsショウコ

 

シングルバトル1

ロイvsリョウゴ

 

『ドットが相手の部長さんと試合するんだ』

 

 オーダー表を見てリコは羨ましがったが、言葉にはしていない。

 

『1年生中心の編成か』

 

 夏の地方予選でアサギ塾に敗戦しているイミ総側は今日を3年生の引退試合として位置付けていた。ダブルスの3年生に加え、シングルの2人は今後のチーム作りの中心人物としてイミテは据えている。

 対するセキガク側はホタル以外1年生の編成であり、下級生たちに経験値を稼いでもらうためのメンバー構築だ。

 部員数の少ないセキガクの事情としては下級生にも積極的に勝ち星を稼いでもらわなくてはままならない。その辺りの思惑をイミテはオーダーから一瞬で見通していた。

 

「行くぞ、アン」

 

「よーッし!!」

 

「アン、頑張って!」

 

「任せとけーい!」

 

 試合前の挨拶を済ませればそれぞれ引き下がり、ダブルバトルを戦うタッグがトレーナーサークルに入り、残りはベンチまで下がる。

 

「……」

 

 シングル2を戦う予定のドットはネクストサークルに入り、イミ総の部長を引き継いだ2年の少女をジッと見ていた。

 アサギ塾を相手に決勝を戦ったチームのエースと伝え聞けば、どれほどのものか興味は尽きない。

 

「……!」

 

 ショウコはそんなドットの視線に対し、僅かに口角を吊り上げて応えた。

 

「これよりダブルバトル、セキガク2年ホタル選手&1年アン選手vsイミテ総合芸能3年マサヒコ選手&ナガノリ選手の試合を行います! 試合方式はダブルバトル2C1D! シングルバトル3C1D! 切り札システムの使用はどれか1つを1度のみ!!」

 

 明瞭とした声音によるセイヨの試合進行は手慣れたものである。彼女自身がこのような真剣勝負の世界で生きてきたのだから。

 

「ゆくぞ! オクタ〜ン!!」

 

「くたぁ〜!!」

 

「カキフライ!! GO!!」

 

「おんのぁぁぁ!!」

 

 マサヒコは頭に捻りハチマキを巻いたふんしゃポケモンオクタンを、ナガノリは『カキフライ』とニックネームをつけたオノノクスをそれぞれ先発させれば、

 

「いけ、ニンフィア!!」

 

「ふぃッ!!」

 

「いっくよ、サンド!!」

 

「こじょ〜!!」

 

 ホタルはニンフィア、アンはサンドをそれぞれ先発させる。どちらも意気軒昂だ。

 このオーダーに関して、ホタルは珍しく私情を優先した。地方予選の決勝にてタマ大のタッグに対して敗れた分の名誉挽回をアンと果たして見せようと考えたのだ。

 それに際し、ぶつかりにいく相手としては不足なしといったところだ。

 

 

 

「捻りハチマキ……まさか『オクタンの奇跡』を再現しようってんじゃないよね?」

 

「ぶーい」

 

「オクタンの奇跡?」

 

「なにそれ?」

 

 相棒イーブイを膝に乗せて寛がせるミコが呟くのにリコとロイが首を傾げる。

 

「ポケモン芸人コンビ『TIM』のゴルゴさんの相棒さ。9年前の2016年、テレビの企画でアローラリーグで活躍していた強豪のヒロキ選手と試合することになって、カイリキーのばくれつパンチを気合いで耐え切って逆転で倒したんだ。これ以外にもホウエンでのロケ中に出会したカイオーガのぜったいれいどを気合いで耐え抜いて番組スタッフを守り切ったり、ラティオスやディアルガからの猛攻を凌ぎ切ったこともあるみたい」

 

「それ、どこまでホントなんです?」

 

「少なくともヒロキ選手を相手に逆転勝ちしたのはホントだね」

 

 ミコの言葉尻を繋いで説明するマフィンとしても後半の話に関しては都市伝説の域を出ていないと断りを入れる。

 ともあれハチマキを巻いたオクタンとは、それ即ち真偽はともかくとして伝説を残した『ゴルゴのオクタン』のフォロワーと見るに間違いないというところであろう。

 

 

 

「いけカキフライ! サンドにドラゴンクロー!!」

 

「のぁぁぁい!!」

 

「させるか! ニンフィア!」

 

「ふぃ!!」

 

 オノノクスがサンドに狙いを定めれば、両者の間にニンフィアが挟まる。

 

「ぬぬッ!」

 

 オノノクスの振り下ろさんとしていた腕がピタリ止まる。フェアリータイプにドラゴン技は効果がないのをよく知っているからだ。

 

「先輩!」

 

「うむ!」

 

 アンにホタルが頷き、ニンフィアはオノノクスの硬直を突く。

 

「おのば!?」

 

 リボンで事前にまるくなるを使っていたサンドをキャッチし、オノノクスの頭へ勢いよくぶっつけたのだ。

 

「とりあえずはファーストアタック!」

 

 ここでサンドを守るためニンフィアを滑り込ませながらムーンフォースのエネルギーチャージをさせられないのがトレーナーとしてまだまだ未熟であるとホタルは内心自嘲をする。

 至近距離から弱点を突けば、いかに強力なドラゴンポケモンでもタダでは済まないのは明らかなのだ。

 

「そこだくらえ! オクタンほう発射!」

 

「うッ!?」

 

 丸くなったサンドでオノノクスの頭をどついたところのニンフィアの顔面に墨の砲弾が命中。

 

「ふぃ! ぺっぺっ!」

 

 顔面を真っ黒にされたニンフィアはたまらず目を瞑り、口に入った墨を吐き出す。

 

「ちぃッ!」

 

 ダメージは軽微。問題なのは一時的とはいえニンフィアの視界をやられたことだ。

 

「ナガノリ!」

 

「任せろ! カキフライ、ニンフィアにアイアンヘッド!!」

 

「おのぉりぁあ!!」

 

「ニンフィア正面だ! まっすぐ向いてムーンフォース!!」

 

「ふぃぃ……!!」

 

 オノノクスが頭部をはがねエネルギーで硬質化させ振り下ろす。

 ホタルは視界がやられていることを加味した上で指示を飛ばした。ポケモンの視界が封じられたならば、トレーナーの側から力強く方角を示せば済む。

 石頭ならぬ鉄頭がヒットしながらも、同時に口元で生成されたニンフィアのムーンフォースもオノノクスに着弾。

 

「おのあッ……!」

 

「ふぃぃッ……!」

 

 両者ともにクロスカウンターの様相を見せ、手痛いダメージを受ける中、オクタンの足元の地面が盛り上がってゆく。

 

「な、なんだ!?」

 

「あなをほる、だーッ!!」

 

「こじょおらッ!!」

 

 サンドが地中からの奇襲を決める。オクタンの軟体ボディを突き上げるように全身からぶつかった。

 

「いつの間にッ!?」

 

 元よりカントーで無敵の強さを誇っていたタマ大の神話を打ち破ったセキガクに対して、引退試合に相応しい相手という認識しか持っていなかったのがマサヒコとナガノリのイミ総タッグだった。

 その溢れんばかりのパッションを目の当たりとさせられては負けてはいられないと思った。なにより芸人志望としては、場の勢いで負けてしまうのはよろしくない。

 

「オクタン! サンドを捕まえるのだ」

 

「くたぁ!」

 

 あなをほるを決めた直後のサンドへオクタンが前面にある2本の脚を伸ばして捕獲。瞬く間に全身を包み込むように絡め取る。

 

「サンドッ!?」

 

「いいぞオクタン! そのまま締め上げて……」

 

 マサヒコが言い終わるより先にオクタンの脚が光り出す。正確には捕まったサンドが光り始めたのだ。

 

「何の光ィ!?」

 

 

 

「よっしゃあ! コレはナイスタイミングだぜ!!」

 

 セキガク側ベンチよりフリード監督が握り拳を作りながら快哉する。

 

 

 

 驚愕するマサヒコとナガノリ。

 対峙していたオノノクスとニンフィアも何事かとオクタンの押さえ込んでいる光を見る。

 やがてその光が収まれば、

 

「どぅッぱぁぁぁッ!!」

 

 サンドは背面をびっしりとしたトゲで覆ったサンドパンとなり、絡め取るオクタンの脚を力尽くで振り解いた。

 

「うっはぁ〜!! キタキタキタ〜!!」

 

 サンドの進化にアンはたまらずその場で飛び跳ね、喜びを爆発させる。

 

「サンドがサンドパンに進化した……アン!」

 

「ういッス〜!!」

 

 ホタルの呼び掛けに頷き、アンが高らかに指示を飛ばす。

 

「サンドパン、ブレイククロー!!」

 

「ぱぉらぁぁぁッ!!」

 

 進化したことによりステータスが向上。それに伴い、内包しているタイプエネルギーの増大により技もまたバージョンアップしていた。

 サンドパンはノーマルエネルギーを纏った爪でオクタンの頭部へ斬撃を見舞う。

 ひっかくからパワーアップした爪での一撃だ。

 

「くった!?」

 

「手応えアリッ!!」

 

 パワーアップした技の直撃にアンは快哉する。

 が、オクタンは頭を起こし、全身をゆらりとさせながらサンドパンを見下ろした。

 

「オクタ〜ン!」

 

 

 

「た、耐えた!?」

 

「ホントに奇跡起こしちゃったよ……」

 

 サンドパンのブレイククローが直撃して決着だとばかり思っていたセキガクベンチがどよめく。

 まさしく話に聞く『オクタンの奇跡』だった。

 

 

「ニンフィア、ムーンフォース!!」

 

「ふぃぃぃあッ!!」

 

 サンドパンを見下ろしていた左面目掛けてムーンフォースが直撃する。オクタンほうによる墨の目潰しから解放されたニンフィアが横槍を入れたのだ。

 オノノクスは先のクロスカウンターでダウンしている。アイアンヘッドは確かにニンフィアの弱点を突いたが、ニンフィアもまたオノノクスの弱点を突いている。

 同じ効果抜群、両者の差を分けたのはポケモンと技のタイプ一致による相乗作用だった。

 フェアリー技を叩き込んだニンフィアが、オノノクスの体力を刈り取ったのだ。

 

「くたぁぁぁ……!」

 

 痛烈な横槍により全身をよろけさせるオクタンが、一見とぼけたような顔つきの双眸に力をキリッと入れ直せば、全身を8本の脚で持ち堪える。

 

「オクタ〜〜ン!!」

 

 

 

「ま、また耐えた!?」

 

「オクタンの奇跡……再現されちまってるな」

 

 オクタンが見せる脅威の踏ん張りに、フリードも『奇跡』と認めざるを得なかった。

 

 

 

「なら倒れるまでやってやる! サンドパン、じならし!!」

 

「ぱぱぱぱぁ〜!!」

 

「オクタンほう、撃て〜!!」

 

 サンドパンが両足を何度も踏み鳴らすことで地面にエネルギーを伝えていく。

 そこに墨の砲弾が撃ち込まれ、効果抜群となるも、吹っ飛んだサンドパンが地面に伝えたエネルギーが振動波としてオクタンのボディに響く。

 

「く、く……! くったくた〜……!」

 

「ふぃッ……!」

 

 じならしの振動波を叩き込まれ、オクタンがさらに踏ん張ろうとするのでニンフィアは身構える。追撃の構えだ。

 が、奇跡は2度までであった。

 ズン、とオクタンは地面に体の右側面を横たえ、崩れ落ちた。ハチマキはずれ込み、完全に目を回している。

 

「どぅぱ……!」

 

「サンドパン!」

 

 至近距離からの抜群ダメージが直撃し、それでもサンドパンが立ち上がれたのは奇跡とは違う。

 アンを悲しませまいと持ち堪えたのだ。

 

「オノノクス、戦闘不能! ニンフィアの勝ち!! オクタン、戦闘不能! サンドパンの勝ち!! よって勝者、セキガク2年ホタル選手&1年アン選手!!」

 

 セイヨの勝ち名乗りにアンは目を見開きながらホタルを見る。

 

「やったな、アン」

 

 ホタルは柔和な笑みを返した。タッグとしての会心の勝利に2人は熱い気持ちのまま首肯を送り合った。

 




 『イミテ』
 39歳。イミテ総合芸能学院の学院長。
 メタモンを駆使したものまね芸で一世を風靡したコメディアンであり、後進教育に目覚め学校を設立した。
 今でもメタモンたちとのものまね芸は天下一品。レパートリーも増え続ける一方らしいよ。
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