ホタルの安定した指揮のもとにアンが躍動。サンドもサンドパンへと進化し、ダブルバトルを快勝するのであった。
「ありゃりゃ。まぁまぁ。でもよかった! ナイスファイトナイスファイト!」
「もんもん!」
イミテは戻ってきた三年生タッグを拍手とともに出迎えた。
イミテ総合芸能学院とはアサギ塾と全国行きの切符を奪い合うジョウトの強豪校、と聞こえはいいがその実態としては結局のところ、ジョウトの学生バトル界とはアサギ塾とそれ以外、と表現するよりないのが現状であった。アサギ塾だけが抜きん出て強すぎるのだ。
勝負である以上、当然勝つに越したことはない。しかしそれだけを求めるわけでもないのがイミ総のスタイルだった。
ポケモンバトルを通して己が芸の道の糧としていく。あくまで方針はその一点にある。
精一杯戦い抜いたならば勝ち負けに関わらず何かは残る。それを芸の肥やしとしてくれればイミテとしては万々歳だ。
「お疲れ様です先輩方!」
「いやはや、盛大にやられちまったわい!」
「ありゃあ確かにタマ大が一泡吹かされるだけあるぞ」
「うはー! 楽しくなってきた!」
マサヒコとナガノリを労ってから茶髪の少女がテンションを高めつつトレーナーサークルへ入る。
アサギ塾以外十把一絡げにされるジョウトの学生バトル界において、イミ総がNo.2として名を上げることに成功したきっかけがこの新部長ショウコであった。
「……ショウコ・タン。イミ総2年、アイドル科所属。地方予選後に3年マサヒコ氏より部長職を引き継ぎ済み。地方予選決勝ではアサギ塾3号生ラセツを相手に引き分けとなり、彼女がジョウトの地方予選において唯一アサギ塾の全勝を阻んでいる」
「ラセツって確か、合宿の時にアメジオと引き分けた人だよね?」
「ということはあの人、少なくともアメジオと同じくらいはあるつわものってことですか?」
リコにキラリは肯定の意とともに首肯を返す。
「ドットー! 頑張れー!」
ロイのエールにトレーナーサークルへ入ったドットはリアクションを示さない。ただジッと右手に握るボールを見つめていた。
「これよりシングルバトル2、セキガク1年ドット選手vsイミテ総合芸能2年ショウコ選手の試合を行います!」
「よろしくッ!」
「……ウス」
ショウコにドットは最低限の返事をし、両者ボールを構える。
「ドットの奴、今までとは気合いの乗り具合が違うな」
ホタルが感じ取るのはほんの些細な変化。ドットが握るボールへの熱量、それもなんとなくのものだ。
「いくよ、ルナ!!」
「にゃおおう!!」
『いくぞ、相棒……!』
ショウコの先発はマニューラ。『ルナ』とニックネームが付けられている。
「コレが新たなスタートだ、いけ! ぐるみん!!」
ドットがボールを投げ込む。先発はパートナーのぐるみん、そこまではこれまでと変わらない。
「くぃーん!!」
「な、なんだって!?」
「ほう……!」
分かりやすくロイは驚愕し、ホタルは声を上げた。『そういうことだったか』と得心をする。
夏休みの合宿半ばから、ドットはぐるみんを練習の中で繰り出すことが減っていた。その分、久々の登場から進化した姿は、大きな衝撃としてセキガクメンバーに伝わった。
「ドットのぐるみん……進化させたんだ」
ニドリーナが進化してのドリルポケモンニドクイン……二足で強靭なボディを大地に立たせるその姿こそ、ドットのパートナーぐるみんの新たな姿であった。
時は遡る。
アサギ塾での合宿中、ぐるみんはより強さを求めるドットの飽くなき求道心に寄り添うことを決めた。
「ぐるみん」
自らの意思で、砂浜に置かれたつきのいしへ触れる。認めた主人とこれからも共に在るために。
月夜の下で、進化の光に包まれ、ぐるみんは新たな姿と力を得る。
「くいーーーん!!」
ドットとぐるみんだけの進化劇は、それぞれの思い出の中だけにしまわれた。
「ありがとう……ぐるみん」
「進化したのはめでたいけど、マニューラ相手にはニドリーナのままの方がタイプ相性的にはよかったかもね」
「あ、そっか。ニドクインに進化したらじめんタイプが追加されるからマニューラのこおり技が刺さっちゃうんだ」
マフィンの呟きの意図をリコはすぐ理解する。
「だがニドリーナのままだと弱点は突かれ辛くなるかもしれんがマニューラとはステータスの差が響いたかもしれん。ここはニドクインになったぐるみんとドット次第だな」
フリードの見解も一理あるとリコは思った。
ニドクインのパワーが通るか、マニューラのスピードが圧倒するか、この2択がバトルの鍵を握ると皆考えついていた。
『いい目してくるじゃない』
ショウコはネクストサークルに入っていた頃からドットの挑戦的な視線をずっと受け流し続けていた。
『ならば!』
ドットの闘志を前にショウコは普段のペースを崩さぬよう努めた。トレーナーの精神が変調すれば、戦うポケモンにも少なからず影響は出るからだ。
「ルナ! トップスピードでGO!」
「まにゃあ!!」
主人に応え、ルナは駆ける。
「速いッ……!」
「にゃあッ!!」
あっという間にぐるみんの懐へ飛び込み、パァン! と両掌をぐるみんの顔面の前で叩いた。
「ぐぅるッ!?」
ねこだましの1発に重量級のボディが怯んだところへとルナの追撃が続く。
「れいとうパンチ!」
ルナが冷気を纏った鉤爪をぐるみんのお腹へ突き立てる。技としてはれいとうパンチだが実際は爪を使った刺突だった。
「あちゃあ、効果抜群だ!」
アンが嘆く。弱点のこおり技を叩き込まれるのはぐるみんにとってマズイ展開でしかない。
「キラリ。どうなんだ?」
「……見た感じではあのれいとうパンチによるこおりエネルギーの約7割から8割は攻撃に際してのマニューラの爪の保護と打撃力強化に割かれている。相手ポケモンに与える凍結効果は警戒するほどではない」
キラリが分析するのはポケモンの技のエネルギー伝達の部分である。
ポケモンが放つ技というのはポケモンの中にあるタイプエネルギーを変換、流動させて運用がなされるものであるとは2000年代に入ってからアローラ地方のポケモン博士であるククイ博士が打ち出した理論だ。
同じポケモンで同じ技を放った場合でも個体ごとのタイプエネルギーの総量やエネルギー変換効率次第で全く違う運用方法を開拓できる、と博士の理論では語られている。
「打撃力を強化してダメージ狙いなら効果抜群な分、受けた側は痛い思いするだけで済む、ってところかな。来ると分かっていれば受ける側も気の持ちようである程度は耐えられる」
マフィンの要約にキラリは静かに首肯する。
先輩たちの話も聞いてはいたリコだが、それ以上にぐるみんはやられはしないという確信があった。
『ドットがこれくらいで終わるはずない』
それは好敵手に対しての信頼と同義であった。同時にアメジオと同じくらいの実力であるとされる相手だろうがドットはむざむざ負けはしないと思っていた。
リコは、ドットのバトルを見れることにワクワクしていた。
『パワー……スピード……技のキレ……どれをとっても確かに強い』
ショウコが強者であるのはドットからして分かっていたことだった。それでも負けるかも、というような予感の類がよぎることはない。
今の自分のポテンシャルを出し切れば届く! そんな自信を固めた。
「掴めぐるみん!」
「みんッ!」
「にゃにゃ!?」
ショウコとてニドクインの全身の鱗からなる高い防御力は把握している。いかにルナの自慢のこおり技で弱点を突いたとして、たった1発で沈めることができると考えるほどの楽観はしていなかった。
だが、効果抜群のダメージを受けてすぐのレスポンスは想定の範囲外であった。
「ルナ!?」
「真上に投げるんだ!!」
「ぐるぅみんッ!!」
ぐるみんはルナの突き立ててきた右腕を掴んでから砲丸投げの要領でぐるぐるとその場で回転。勢いのまま頭上へ放り投げる。
「にゃあがッ……!」
ルナが空中で体勢を整える中、ぐるみんは全身に眩いでんきエネルギーのスパークを纏っていく。
当然、ニドリーナ時代よりも増強されている。
「撃ち落とせぐるみん! 10まんボルト!!」
「ぐ〜! る〜! みぃぃぃぃぃん!!」
そのままぐるみんはルナめがけて全身から強烈な電撃を打ち上げた。
「まだまだ! ルナ! 連続でつじぎり!!」
「にゃにゃにゃにゃにゃあ〜ッ!!」
「10まんボルトを切り裂いてる!」
上空を見上げるロイが指差しながら叫んだ。
マニューラの爪が撃ち上げられるぐるみんの10まんボルトを捌けるロジックとしては単純なものである。
「タイプ一致による威力上昇を活かして切り払いを成立させているわけだな」
ホタルにキラリは首肯する。
ぐるみんの10まんボルトを成立させるでんきエネルギーとは、あくまで技の習得に際して後天的に備わったものである。もともとどくタイプであるぐるみんにとってはポケモンと技の相性が良かった以上の理屈は存在すない。
対してルナのつじぎりにて両手の鉤爪に纏われるあくエネルギーは元々マニューラとしてもつあくタイプのエネルギーをそのまま持ち出している分技の純度に差が出てくる。
故にポケモンには持つタイプに合わせた技を運用させ、タイプ外の技はあくまでアクセントとして仕込む程度に留めるのがセオリーであった。もっとも、このあたりの技の純度も互いのレベル差やフィールドの状況、そしてトレーナーのアイデア1つであっさり覆される範囲ではあるのだが。
ともあれタイプ一致のつじぎり攻撃でぐるみんの電撃を防いで見せるルナがよく育てられていて、ショウコの指示も冴えていたのは間違いない。
「見ろ! ショコたん本気だ! 命懸けだぞ!」
「相手の娘もタイミングおんなじだ! 炎と燃えておる!」
マサヒコとナガノリがそれぞれ叫ぶ。
「ムーン・テラスタルパワー! メイクアップ!!」
「ぐるみん! 燃えて、鍛えて、輝いて!!」
ドットもショウコも同時にテラスタルオーブをフィールドへ投げ込む。
「まにゃおらぁ〜ッ!!」
ルナは雪片のこおりジュエルを、
「ぐるぐるみぃぃぃん!!」
ぐるみんは髑髏のどくジュエルをそれぞれ頭に被る。
自由落下の勢いのままに襲いかかるルナをぐるみんが迎え撃つ形となった。
「れいとうパンチ!!」
「どくづき!!」
それぞれ右拳にルナはこおりエネルギーを、ぐるみんはどくエネルギーを込めて突き出す。
「にゃああおらあああッ!!」
「ぐるみゃらあああッ!!」
テラスタルにより増強されたタイプエネルギーが互いの右拳を通してスパークし、エネルギーの反発により後方へ吹っ飛ぶルナは空中でくるくると回転しながらバランスを保ち、ニュートラルポジション付近へ着地する。
「そこだぁッ!!」
「まにゃにッ!?」
「うッ!?」
「ぐるるる!!」
そこをめがけてぐるみんは既に走り込んでいた。
マニューラという素早いポケモンへ確実な一撃を叩き込むには着地際を狙うよりないとドットは最初から考えていた。頭上へ放り投げた段階からここまでのシュミレートは出来ていたのだ。
「いけぐるみん! ばかぢからだ!!」
「みみみみみぃん!!」
ぐるみんが全身の筋肉をパンプアップさせショルダータックルの構えを取る。
「くぅ! ルナ、けたぐりを!」
「にゃろばッ!」
ただで受けてやる気などはさらさらなく、一か八かの択を迷いなく取れるのもショウコの強さだった。
ルナは迫るぐるみんの足元に蹴りを見舞う。少しでも突撃の勢いを殺すためだ。
が、着地してすぐのアクションに体感のバランスが乗り切らず、蹴りこそヒットするもタックルの勢いは何ら変わることはなかった。
「ぎにゃあ〜ッ!!」
「ルナ〜ッ!!」
タックルを受け、思い切りはね飛ばされるルナ。
ショウコは、次点として浮かんでいた控えのニンフィアへの交代が頭によぎったがすぐさま意識を改め却下する。
仮に交代でばかぢからをやり過ごしたとしてもタックルで間合いを詰めている以上、ニドクインのどくづきの餌食になるビジョンが浮かんだが故にルナでの対応を選択したのだ。ここで悔やんではルナに対して申し訳が立たなくなる。
ぐるみんのタックルを叩き込まれ、放物線を描いてから後方に落着するルナ。
すぐさまセイヨが駆け寄っていく。
テラスタルが解除され、目を回している様子を確認すれば透き通った声音でジャッジを下した。
「マニューラ、戦闘不能! ニドクインの勝ち!! よって勝者、セキガク1年ドット選手!!」
「ぐるぅみぃ〜ん!!」
勝ち名乗りを受けるぐるみんは雄叫びとともに両腕を空高く突き上げる。会心の勝利に満面の笑顔を見せる。
ドットは、そんな相棒の姿と受けた勝ち名乗りに、声こそ上げないが小さくガッツポーズを作った。
進化させた相棒とバッチリ勝利を掴み取れた喜びを静かに噛み締めていた。
『ショウコ』
11歳。イミテ総合芸能学院アイドル科2年生。
フルネームはショウコ・タンでトレーナーとしてもアイドルとしても将来を嘱望されている。
マニューラのルナのスペックをフル活用して輝く勝利を狙うのだ。