ニドクインとしての初陣でぶつかった強敵ショウコを相手に、ドットは会心の勝利と手応えを掴むのであった。
「いいじゃん。これで2勝目。団体戦はこっちの勝ちだ」
「どうだキラリ?」
「……試合参加メンバーのパフォーマンスは7月時点に比べて約15%から20%の向上が見られる」
「合宿の成果は出ていると見ていいんだな?」
ホタルにキラリは首肯を返す。
「ぶい! ぶい!」
「お疲れ」
「ウッス」
ベンチに戻って来るドットの頭にミコがタオルを被せ、足元をイーブイが走り回る。
ドットの表情は相変わらず澄ましたものだったのが僅かに口角を上げた。会心の勝利に手応えを得たからだ。
「よーし、次は僕の番だ!」
ドットと入れ替わりでトレーナーサークルにロイが入る。
「あとは頼んだわよ、リョウゴ!」
「はい! 任せてください部長!」
ベンチへ引っ込むショウコに肩を掴まれては、クリっとした目つきに愛嬌のある少年が気合いじゅうぶんにトレーナーサークルへと入る。
「ざぐぅ〜」
「そのジグザグマ、もしかして色違い?」
「そうさ! 僕のお気に入りのパートナー!」
通常ならば茶色と灰色の縞模様とボサボサの毛並みが特徴であるまめだぬきポケモンジグザグマだが、リョウゴが足元に引き連れている個体は本来濃い茶色の部分が明るい茶色をしていた。いわゆる色違いの個体だ。
「いい毛並みしてるね!」
「へへへ、どうもありがとう」
相棒のことを問いかけられ、リョウゴは満面の笑みを向ければロイも釣られて笑顔になる。
「コホン! これよりシングルバトル1、セキガク1年ロイ選手とイミテ総合芸能1年リョウゴ選手の試合を行います!!」
朗らかな空気になりかけるのを制するようにセイヨは咳払いをしてからコールをかけた。親睦を深めるためのコミュニケーションは試合が終わってからでも遅くはないのだ。
試合となれば話は別、その辺りの切り替えをロイもリョウゴもしっかりとして見せた。
両者既に先発は頭の中に描き終えている。
「いこう、タイカイデン!!」
「くぁぁ〜!!」
「頼んだよ、ジグザグマ!!」
「ざっぐざぐ!!」
ロイの先発タイカイデンは大きな翼を広げて見せ、リョウゴの先発は足元にいたジグザグマが元気よくフィールドへ躍り出る。
「向こうも1年生、ルーキー勝負か。なにかデータはあるのか?」
「……イミ総1年、アイドル科所属。地方予選からコンスタントに試合出場を重ねている」
「イミ総はウチと違ってまとまった選手層を有しているからな。その上でレギュラーに喰らい付いているということは、それ相応の光るセンスがあるということだな」
キラリからのデータを加味して油断ならない相手であるとホタルは思う。
もとよりどんな相手であろうと油断などはしないし、チームメイトたちがしていれば説教を飛ばすのがホタルの役割ではあるのだが。
「ロイー! 負けたら承知しないよー!」
気持ちよく3連勝で締めようとアンが声を張り上げる。
「よーし!」
アンに発破をかけられた形のロイは、まず相手の出方を窺ってみることにした。無為無策の猪突を抑えられるようになったのも確かな成長だ。
「ジグザグマ、とっしん攻撃だ!」
「ぐぁま〜!」
先手を譲られた形のジグザグマが走り出し、トップスピードでタイカイデンへ迫る。
「でんこうせっか! 翔ぶんだ、タイカイデン!」
「くぅあ!!」
ジグザグマの肉弾突撃に対してタイカイデンは瞬時に飛翔。あっさりと回避して見せた。
「そりゃあ飛ぶよね!」
リョウゴからすれば想定内。ひこうポケモンならば空に逃げる術を活かすは当然のこと。
「上手い! 空へ逃れれば接触技はかわせる!」
「だけどオーダーに入ってるだけはあるぞあいつ。色違いなところを抜きにして、あのジグザグマかなり鍛え込まれてる」
初手こそジグザグマを軽くあしらった形のタイカイデンにリコは喜び、ドットは冷静にリョウゴのジグザグマを推し測っていた。
「……最低でもレベル20以上は確実。本来なら既にマッスグマへ進化できているはずのレベル帯」
ドットの分析にキラリが補足を入れる。
「何か仕掛けてきそうだね。こだわりも強そうだ」
マフィンも予感を口にする。
バトルの世界において、特殊な進化方法が定められているわけでもないポケモンが敢えて進化しないまま起用される理由としては、そのほとんどはトレーナーかポケモン自身のこだわりからである。
あのマサラタウンのサトシの相棒ピカチュウもデビューから一貫してライチュウへの進化を拒み続けている。その理由としてはクチバシティにジムを構えるジムリーダーマチスの扱うライチュウを相手に散々に叩きのめされたことをきっかけとしている。
『ライチュウをピカッとやっつけるならこのままじゃなきゃ駄目だ。でなきゃこの悔しさは拭えない』
『あのライチュウは自分1人で倒す。努力なくして勝利なし!』
サトシもそんな相棒の意図を汲んでピカチュウのまま育てて強くする選択を絶えず取っている。
進化を封印して戦うポリシーと、本来ならば得ることの出来た進化によるパワーアップと引き換えのなにかがリョウゴとジグザグマにはあるのだろうというのがマフィンの予感だ。
「空から一方的に攻撃してやるぞ!」
「そう来るだろうと思った!」
空から頭上を取ったロイの攻め気はまさにリョウゴからすればおあつらえ向きであった。
「撃てジグザグマ! れいとうビーム!!」
「うッ!」
「ざぐびびび!」
攻め気で前のめりの気分になっていたのがロイのレスポンスを遅らせた。
「くぁぁッ!!」
ジグザグマの口から放たれたビームがタイカイデンの右翼を捉え、みるみるうちに凍結させ始めたのだ。
「どうだ! ショウコ部長のルナ直伝、こおりエネルギーの1発!」
見事な1発叩き込んだリョウゴにベンチでショウコも満足げに頷く。イミ総のメンバーは、リョウゴが未来のバトル部を引っ張ってゆくリーダーであると確信していた。
リョウゴの持つひたむきさこそが、成長と学習を促す起爆剤だからだ。
「しまったッ!!」
右翼をやられたタイカイデンが落下し高度を下げてゆく。無論、そこはリョウゴからして絶好の追撃チャンスだ。
「着地際を狙え! とっしんだ!!」
「ざぐざぐまぁ!!」
ジグザグマは好奇心が非常に旺盛なポケモンであり、興味の湧いたものへ次々と目移りするためジグザグとした軌道で走る習性がある。
今、リョウゴのジグザグマにあるのはタイカイデンへ攻撃を立て続けに加えることへの興味に他ならない。
「輝け! 夢の結晶!!」
鳥ポケモンにとって翼へのダメージ、状態異常は致命的である。焦りながらもロイの判断は早かった。
「くぇあああ〜!!」
投げ込まれたテラスタルオーブにより眩い輝きがタイカイデンを包み込む。
「ん! 待ったジグザグマ! バックバック!」
「ぐんまッ!?」
テラスタルを前にジグザグマは身を翻すようにバックジャンプ。強烈な電撃を間一髪回避する。
追撃を払ったタイカイデンはでんきジュエルを被り、氷が消失した右翼を合わせた両翼の羽ばたきで健在をアピールして見せた。
「テラスタルにより増量されたでんきエネルギーの熱の力で右翼の氷を溶かしたか。本場のこおりタイプ相手には厳しいだろうが咄嗟にしては上手く考えたな」
ロイの機転にホタルは腕組みしたまま何度も頷く。
危なっかしいところも散見されるが、アン同様にチームのバランサーとして必須な存在になるとホタルはロイを見ていた。
そのためには1年性の頃からある程度は継続的な活躍をしていることがより大きなプラスとなるのだから。
イミテ総合芸能とはあくまで芸人やアイドルを養成するための学院であり、バトル部もその本質的な意味合いは活動を通して芸能界で生きるためのスキルを身に付けることに終始している。当然学院として特化させているのは芸能方面であり、ポケモントレーナーの養成を旨とするセキガクとはカリキュラム自体が違ってくる。
リョウゴにはまだ切り札システムの用意が何1つされていなかった。それらの学習要項は2年生以降に触れるものであったからだ。
「戻って来てジグザグマ!」
リョウゴはジグザグマを引っ込める。相手がテラスタルを切り、パワーを高めてきたならばこちらもパワーが求められてくる。
そんな場面においてはより適任がいるからだ。
「いくよ、ラビフット!!」
「らびぃッ!!」
うさぎポケモンラビフットがボールから飛び出すと同時に体を回転させながら上昇する。
「なにか仕掛けてくる! タイカイデン! 一気に行くぞ!!」
「くぇいあ〜!!」
テラスタルによりジグザグマを退けさせた勢いに乗じ、ロイは再び攻め気を見せた。
「ラビフット自慢のひのこ! ファイアトルネードをくらえ!!」
「らぁびあああ!!」
空中で回転を加え増幅された左脚を振り抜いて蹴り出すは、ラビフットが事前に持っていたリフティング用の木の実だ。
木の実は左脚での必殺シュートのパワーと空気中の摩擦により炎の弾丸と化す。
「テラスタルパワー全開!! スパークで突っ切れーッ!!」
「くぅわぃあーーーッ!!」
でんきジュエルの輝きがタイカイデンにエネルギーを与え、全身から強烈な電気を放ちラビフット目掛けて一直線。
「「いっけぇーッ!!」」
ひのことスパークのぶつかり合い、その結果はすぐに出た。
「くぅわ!!」
タイカイデンが木の実を粉砕し、そのままラビフットのお腹へ全身から突っ込む。
「らびあああッ!!」
「あぁッ、ラビフット〜!!」
強烈な肉弾突撃からの電撃というダブルパンチを前にラビフットはひとたまりもなかった。
タイカイデンは会心の一撃に手応えをロイと共有しながらニュートラルポジションへ舞い戻る。
背中からフィールドへ落着するラビフットをセイヨがチェックに入れば、完全に目を回していた。
「ラビフット、戦闘不能! タイカイデンの勝ち!! よって勝者、セキガク1年ロイ選手!!」
「やったぁ!!」
勝ち名乗りにロイが全身を使って飛び跳ねればタイカイデンも両翼を広げて得意げにアピールをする。
これでセキガクの3連勝、イミ総をホームに迎えての練習試合は完全勝利となった。
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
シングル1が終われば双方共にセンターサークルへと集まり、挨拶と共に一礼をする。
「なかなか調子良さそうじゃんかバトル部!」
「全国もその調子で頼むぜ!」
試合を見届けた両監督はもちろんのこと、いつの間にやら観戦に集まっていたセキガクの生徒たちも拍手を送っていた。
「いやーメタメタにやられてしまったがいい勝負をさせてもらった! 我々3年にはいい引退の思い出になったし、2年と1年にはいい刺激になったよ!」
「こちらこそ。有意義な時間をありがとう」
部長こそ譲り渡した後だがチームの大黒柱として爽やかな幕切れを喜ぶマサヒコにマフィンは応える。
「頑張ってね全国大会。来年こそは私たちもアサギ塾を破ってみせるから」
「健闘を祈るよ」
ドットから流れるようにホタルとも握手を交わすショウコは熱い意気込みを語る。
「凄いパワーだった。完全に押されちゃったね」
「そっちにもテラスタルがあったら分からなかったかも」
「今日この場においては負けは負けさ。でも負けっぱなしじゃあない。もっと強くなって見せるさ。なぁみんな?」
「「「「「おう!!」」」」」
リョウゴの呼び掛けにチームメイト全員が威勢よく返す。
イミテは今日の練習試合を通して、チームがより団結力を増したのを感じ取った。芸能界で生き残ってゆくには厳しい現実を目の当たりにしてもへこたれず明るく歩み続ける情熱と根性が要る。チーム全体でその2つを養い、共有するのにポケモンバトルは最適なのだ。
「よーし! 帰ったら早速試合の反省点を洗い出して特訓だ〜!!」
「「「「「お〜!!」」」」」
マサヒコの号令にも一致団結して応えるイミ総のメンバーらは最後まで元気よく立ち去って行った。
「なんだか、負けてられないね」
「うん! あたしたちもこのままガンガン練習だ!!」
「残念ながら今日はこれで解散だ」
イミ総の空気にアテられていたところに冷や水をかけられた気分のリコとアンは怪訝な表情でホタルを見る。
ホタルとしてもその意欲そのものは大変好ましいものだったがどうにもならない現実というものはある。
「まずは明日の中間テストだ。そのやる気はテスト勉強へ向けるように」
露骨に肩と一緒にテンションがガタ落ちとなるアン、ドット、ロイにリコは苦笑いするよりなかった。
同時にホタルからのアイコンタクトを受け取る。アンのテスト勉強をサポートしろというお達しにゆっくりと首肯を返すのであった。
『リョウゴ』
10歳。イミテ総合芸能学院アイドル科1年生。
人懐こい笑顔がチャームポイントの美少年で、イミ総バトル部未来のホープ。
色違いのジグザグマとラビフット同様に可能性の塊だ。