データマンキラリは他地方交流でゲットしていたネマシュを初めて試合に投入するのであった。
「それではッ! 試合開始ィィィッ!!」
「うわー……セイヨさんの声めっちゃよく通ってる」
セイヨのコールを遠く1年1組の教室から聞いてから、アンは机に置かれたプリント用紙とのにらめっこに戻った。戻らざるを得なかった。
リコに手助けしてもらったテスト勉強の甲斐もなく補習に出る羽目となった情けなさは自分の不出来な頭脳の結果として受け入れているし、当然のことながら他責などはあり得ないと思っている。
それはそれとして、配られた答案用紙の問題がちっとも分からないので脂汗が止まらなかった。どこがどうという以前に『分からないところが分からない』のだ。
「ううー……」
「ぐ、ぐぐぐ」
1年2組では、ドットとロイが全く同じ状況に陥っていた。
「ソルロック! ネマシュを狙ってかえんほうしゃ!!」
「そるるぼぁぁ!!」
「ミミッキュ! ネマシュに動いてもらって!」
「きぃ〜ッ!!」
体の部分から覗くミミッキュの双眸が光れば、ネマシュが瞬時にソルロックの目と鼻の先へ移動する。
「コレは、おさきにどうぞか!!」
「……ねむりごな」
「きゅぃ〜ッ!!」
ほのおエネルギーが発射される直前にネマシュは緑色のエネルギーを粉塵化してソルロックの顔面へと散布する。
「そるろ、ッくががが……!」
「ソルロック!」
「まだまだ攻め手はあり申す!!」
ソルロックが眠りこけてフィールドにその名の通り日輪を模した岩石ボディを横たえたところへの追撃を阻止せんと、ルナトーンがネマシュを狙っていた。
「ルナトーン、れいとうビーム!!」
「させるかッ! ミミッキュ!!」
「きぃッ!!」
ルナトーンの双眸から放たれた凍結光線を前にミミッキュがネマシュを庇い立てて飛び出す。
ミミッキュの首の部分がれいとうビームの圧力に負けてポキリと折れ、ばけたすがたからばれたすがたへと一見分かりにくいフォルムチェンジをさせられるが、ネマシュを守り切れたと考えれば収穫として悪くはないとミコは思う。
そして追撃のチャンスは文字通りフィールドに転がっている!
「ミミッキュ! 寝てるソルロックへシャドークロー!!」
「きぃぃ〜〜ッ!!」
着地と同時に影腕を伸ばしながらソルロックへとミミッキュは突き進む。
28年前、野試合やジム戦においてねむり状態は戦闘不能と同義に扱う地方がいくらが存在した。ねむりこけた無防備な状態で攻撃を受けてしまってはポケモン側に想定以上のダメージが通ってしまいかねないという配慮からだ。現在ではねむり状態は他の状態異常と同様、ポケモンに緊急性の高い急変が見られない限りはそのまま試合は続投される扱いとなっている。
「ダイチュウ! お願い!」
「無論姉上!」
「るるるるるなん!!」
ルナトーンがソルロック同様にこれまた文字通り三日月型の岩石ボディを激しく回転させ、狙うはソルロックを狙うミミッキュ……
「……ミコ、ミミッキュを下げて」
「んッ」
「ルナトーン、投げろ! ジャイロボール!!」
ではなかった。ルナトーンは、激しく回転する自らのボディをフィールドに叩き付けたのだ。
その意図するところは……
「そるぁ!?」
「よし! ナイス!!」
ソルロックを強引に叩き起こす一手であった。
「流石は全国クラス、ダブルスの動きもまるで違うな」
呟きながらホタルは、セキガクにてオーダーを編成するに際しての大きな弱みを見つけた。
『練習量に裏打ちされた体力に加え、部員それぞれの個性とガッツはどこにも負けてないつもりだが、いざという場面で自信を持って送り出せるタッグがウチにはない』
セキガクはダブルスに穴がある。2勝先取ルールで必ず最初にダブルが行われる以上この欠陥は大きい。気付いたはいいものの全国大会まで残り3ヶ月、鉄板ダブルスを構築するには急ピッチで動くことが急務なのは間違いない話であった。
「あっさりねむりを解除してくるね……キラリ、何か手は?」
「その前に時間が来た」
言葉の意味を分かりかねたミコが聞き直す間もなくフィールドにて異変が起こる。
「きゅい〜ッ!!」
力強く鳴き声を上げるネマシュの全身が眩い光に包まれていき、
「きゅうい……!」
ネマシュは頭にキノコの傘をつけた人型のマシェードへと進化を果たしたのだ。
「流石はキラリ。ネマシュの進化タイミングをデータできっちり把握して、今日の試合に合わせていたんだな」
マフィンがキラリのネマシュ先発の意図を読み取れば、ホタルは鉄板ダブルスの一角にキラリを置くのがしっくりくるような気がした。データを駆使して試合をコントロールする手練手管はダブルバトルにおいて有用だと思えたからだ。
『キラリともう1人、なんだよな』
頭の中でキラリの横に自分含めてセキガクメンバーを組ませたタッグのシュミレートをしてみるもストンとハマるような組み合わせは見つからない。
これ以上は自分1人ではどうにも出来ないと、ホタルはこの場でのシアンは打ち切ることにした。堂々巡りになっていても仕方ないのだ。
「進化するタイミングを読んで試合に持ち込むなんてね、なかなかやる!」
「姉上!」
ダイチュウからの自然にチサは無言で頷く。
「「投げろ! ジャイロボール!!」」
「そるるるるぉッ!!」
「るるるるなぁッ!!」
ソルロックもルナトーンも全身を激しく回転させれば、フィールド中を所狭しと飛び回りはじめたではないか。
「ぐッ! ミミッキュ、でんじは!!」
「きゅ! きゅ〜ッ!!」
たまらずミミッキュが相手の動きを阻害するでんきエネルギーを折れた首の目の部分より発射するも、ジャイロ回転のかかった2体の不規則な挙動を前に捉えることはない。
「ビリヤード戦法……先輩たち本気カモ」
「マシェードもミミッキュもフェアリータイプ。弱点を突けるはがね技であるジャイロボールを中心に攻め立てるのはいい判断ですね」
サイガに合わせてツツジも監督として双子タッグの攻め手を褒める。
ソルロックとルナトーンの連携攻撃に用いられるビリヤード戦法が広がったのは25年前、ポケモンナショナルチームトーナメント(PNTT)にてジョウト地方代表チーム<シロガネ>のメンバーであったコガネジムのジムリーダーアカネと、現在ではパルデアリーグ四天王で当時はなんら肩書を持たない若手トレーナーであったチリのタッグが繰り出したのが始まりとなっている。
フィールド中を縦横無尽に駆け回る2体の動きで相手をタッグごと翻弄して叩く連携は25年の歳月の中でさまざまな変化、改良が加えられてきた。
チサとダイチュウ姉弟の扱うそれは、ベースとなっていたのがあくまで地上を爆走するためのころがる攻撃を使用していたのに対し、ソルロックとルナトーンはどちらも激しいジャイロ回転をしながら空中を飛び回っている。これによりオリジナルにあった空へ逃れれば簡単に避けられるという弱点が封じられているのだ。
「くぅッ! 流石全国タッグ、ダブル慣れしてらっしゃる!」
「ききッ……!」
ソルロックとルナトーンによるジャイロ回転を利かせた肉弾攻撃の連続が狙いを定めたのはミミッキュであった。
2vs1の数的有利を取り確実な攻め手を打たれているのに対して、ミミッキュは影腕を振り回して直撃を避けるのが手一杯だ。
「……データは集まった。マシェード、交代」
「「なにィ!?」」
キラリがマシェードを引っ込めたのに双子は驚愕をする。
ポケモンが試合中に進化したならばその試合の中で活躍させたいと考えるのがトレーナーの人情、思考傾向として普通であり、あっさりとマシェードを下げる判断をするキラリが予想外であったからだ。
「……攻めに転じる。サメハダー」
「しゃめらぁ!!」
キラリが次に繰り出すのはサメハダー。
タイプ相性としてはなるほど有効な一手だと双子は思わされる。
「ならば先にミミッキュを仕留めてから!」
「2vs1の形にしてサメハダーを倒すべし!」
「そるるるる……!」
「るなななな……!」
ジャイロ回転したままのソルロックとルナトーンがミミッキュを挟み撃ちの形で追い込む。ダブルバトルとして理想的な攻め手だ。
「……相手の連携を崩す。ミミッキュは回避を」
「りょーかい」
意図するところはイマイチ理解しかねるミコであったが、キラリの指示に素直に従うことにする。このままではジリ貧になりかねないからだ。
「……サメハダー、あくのはどうをミミッキュのいるところへめがけて」
「ききィ!?」
「しゃあああ……!!」
左右から挟まれていたところに正面へ回り込まれたミミッキュからすれば驚愕どころではなかった。
味方であるはずのサメハダーが大口を開け、凝縮させてゆくあくエネルギーの狙いをこちらへ向けてくるではないか。
「大丈夫だよミミッキュ! 落ち着いてジャンプ1番!」
「……発射」
「しゃあおらばああああ!!」
ミコの指示にミミッキュは影腕を使った反動をつけ全力でジャンプ。
ミミッキュのいた場所、ソルロックとルナトーンのちょうど間をあくのはどうが通り抜けていった。
「今のは、我らではなくミミッキュを狙って……? だが外してミミッキュは身動きの制限された空中へ跳んでいる!」
「ならば今こそこちらも飛び上がり追撃致すまでですな姉上!」
「「一気に仕留める時!!」」
「そるばぁ……!?」
「るなッが……!?」
しかし、ミミッキュへの追撃のための方向転換が出来ず、ソルロックとルナトーンは正面衝突。
「「な、なにィッ!?」」
想定外の事態に双子タッグは目をパチクリさせるしか出来なかった。
『ソルロックとルナトーンの移動にはエスパータイプとして内包するサイコパワーが用いられている……無論のこと、ジャイロ回転する自分のボディの軌道制御も2体それぞれのサイコパワーで賄われていた。そんな両者の間にサメハダーがあくのはどうを放った。サイコパワーに対する強力な遮断作用を持つあくエネルギーを挟み込ませたことで、一瞬だけど2体のサイコパワーの制御をおかしくさせた、ということね』
この辺りの状況認識としてはやはり歴戦の猛者としてセイヨは早かった。
「あくタイプはエスパータイプの力を受け付けない……キラリめ、なかなか味のある戦い方をするぜ」
同じくキラリの狙いに辿り着くフリードはほくそ笑み、ツツジは僅かに眉をひそめた。
「ソルロック! なんとか持ち直して!」
「ルナトーン! 気をしっかり持つんだ!」
ジャイロ回転したままの正面衝突というのがソルロックにもルナトーンにもまずかった。どちらもいわタイプであり、はがね技には弱いからだ。
「チャンス到来ッ!」
互いに盛大な誤爆をさせ合ってグロッキーな2体めがけてミミッキュが迫る。
「シャドークローでまとめて切り裂けーッ!!」
「ききききィ〜ッ!!」
自由落下の勢いに加え、2体がかりで散々いたぶってくれた分のお返しとして影腕を振り抜いたミミッキュのシャドークローがソルロックとルナトーンを薙ぎ払う。
「そるぁッ……!!」
「るぅなッ……!!」
渾身の爪撃を叩き込まれた2体はたまらずフィールドへコロリと落とされた。
どちらも空中に浮かぶ特性『ふゆう』を持つ同士、再浮上することはなく、完全に目を回していた。
「ソルロック、ルナトーン、戦闘不能! ミミッキュの勝ち!! よって勝者、セキガク2年キラリ選手&ミコ選手!!」
「ぶいぶーい!!」
セイヨからの勝ち名乗りにイーブイが飛び跳ね、ミコは勝利の高揚からキラリに両の掌を向ける。
「ナイスファイト!」
「……ナイスファイト」
暫し間を空けてから、キラリは掌を合わせ2人でパシン! と軽快な音を立てるハイタッチを祝砲とした。
「くぅ……調子に乗って前のめりで攻め手に走りすぎた」
「姉上、すまない……」
ソルロックとルナトーンを戻し、意気消沈しながらベンチへ引き下がる双子の肩をネクストサークルから出たタダムネが掴む。
「連携、いつも通りバッチリだったよ2人とも。今回は上手くやられたけど、その辺は次に備えて対策すればいいんだ」
「「部長……」」
フォローを入れてからタダムネはトレーナーサークルへと向かう。
「お疲れ様です。ポケモンのケアだけはしっかりとお願いしますね」
ツツジは労いの言葉をかけるだけであった。監督としてかけるべきだったものは大方部長が言ってくれた後だからだ。
「練習試合とはいえ初戦を落としたくらいじゃビクともしない……流石は全国区だ」
戻ってくるキラリとミコの2人とハイタッチしてからマフィンはトレーナーサークルへと入る。
「部長同士の一騎討ち、燃える展開カモ」
カナスク側、ネクストサークルに入ったサイガはひと言呟くのであった。
『セイヨ』
38歳。セキエイ学園の教諭にしてにポケモンバトルの実技担当最高責任者。
チャンピオンリーグ経験者であり、トレーナーとしてもセキガクの名物教師としても有名人。
独特の世界観を展開する癖があるも生徒からの信任はとても厚い人だよ。