そこから攻めに転じたキラリとミコは、目の覚めるような勝利を収めるのであった。
「これよりシングルバトル2、セキガク3年マフィン選手vsカナズミスクール3年タダムネ選手の試合を行います!!」
「僕は去年、全国大会でタマ大のヒカミさんとバトルして、負けたリベンジを目的に頑張って来ました!」
「そいつは申し訳ないことしちゃったかな?」
「いえ! ヒカミさんに勝ったほどの人と戦えるのが凄く嬉しくて!」
ハキハキと話すタダムネにマフィンは好印象を持った。部をまとめる立場の人間とは本来こうあるべきなのだろうと。
「両者、ポケモンを!!」
セイヨのコールに促され、マフィンもタダムネもホルダーからボールを手に取り構える。
「ゆけッ! ラグラージ!!」
「ぐらあああい!!」
「ゲッコウガ!」
「くがッ……!」
「初心者用みずポケモン対決か」
「純粋にトレーナーの腕前がモロに出る勝負ってところかな。どちらも付き合いは長いはずだし」
ミコの呟く通り、初心者用ポケモンはルーキーデビューの際に手渡されるケースの多いポケモンだ。大体のトレーナーは初心者用ポケモンの育成から始まり、そこから自身の特色を把握し、育成方針固めて進んでゆくのが主流と言っていい。
マサラタウンのサトシは当初ゼニガメを希望していたが旅立ちの朝に盛大な寝坊をかまして初心者用ポケモンを受け取れず、代わりに受け取ったのがピカチュウであるというのはあまりに有名な話だ。
そんな一時期話題になった公共放送制作のノンフィクションドラマや、彼の仲間だというポケチューバーのヒカリン氏が自身のチャンネルで語っていたのを見たことがあるミコだが、その辺りは誇張が多少なりとも入っているものとしてあまりまともに受け止めてはいなかった。
「ゲッコウガ、ダッシュ!」
マフィンの指示を受けてゲッコウガはラグラージとの距離を詰めてゆく。
『ここで下手に殴り掛かったらマフィンさんの思う壺だぞ』
タダムネは研究職志望で、将来は『偉い学者さんになる』と両親や仲間たちに常々語っている。偉い学者さん、の方向性としては今はまだなんとなくポケモンに関するところをイメージしているくらいの段階であった。バトル部に所属したのは体力作りの一環としてだ。
真面目な勉強家であるタダムネは事前に各地方の予選大会をチェックして分析をするデータマンの役割もこなしており、それに付け加えて個人的なリベンジのための調査も怠ってはいなかった。
打倒ヒカミのために割く予定であったトレーニングは、そのままマフィン対策のために使われていた。
「のろいだ! ラグラージ!!」
「ぐらいいいッ!!」
全身から気合いを発散させることで筋肉を盛り上がらせ、圧力を増し受けて立つ構えをラグラージは取る。
「『呪い』ではなく『鈍い』か……! ゲッコウガ、みずしゅりけん!」
「こッ! がッ!」
ゲッコウガは殴り合いの出来る間合いからみずしゅりけんを乱射した。
「気合いのれいとうパンチ!!」
「ごるぅあ〜!!」
みずしゅりけんがラグラージの太く強靭な右腕へ次々突き刺さってゆく。
「げこッ……!?」
ラグラージの気合いを込めた右ストレートが止まることはなかった。
強烈なパンチスピードを前に突き刺さったみずしゅりけんはたまらず凍結してしまったからだ。
筋肉の塊のラグラージのパンチがゲッコウガを捉えれば、華奢なボディが宙へ飛ぶ。さながら強烈な風にあおられて飛ばされる枯葉のそれだ。
「やるなッ……!」
タダムネは直撃を避けたゲッコウガの反応速度に舌を巻く。れいとうパンチがお腹に突き刺さる前に水を圧縮した小太刀を合わせて防いだのが見えていたからだ。
「のろいの効果で攻撃力、即ちパワーの差がダンチだ……!」
「攻撃力がアップしたということは、技が内包するタイプエネルギーも増加した、ってことですか?」
「だろうな。みずしゅりけん自体がどちらかといえば牽制用の技で、威力はそこまででもないのもありはしただろうがああまで綺麗に押し切られるとは」
ネクストサークルからのリコにホタルが答える。
のろいという技はゴーストタイプが発動するのと、それ以外のタイプが発動するのとでは技の効果そのものが変化する特殊な性質を持っている。
ゴーストタイプが発動させれば自らの体力と引き換えに相手ポケモンに呪術を叩き込んで絶えず体力を削り、それ以外のタイプが発動させればスピードを犠牲にパワーアップを行う純粋な強化技となるのだ。
みずしゅりけんは強化されたラグラージのこおりエネルギーによるれいとうパンチにて生成された『氷のグローブ』の前にシャットアウトされていた。
「らぐらぐらぁ〜……!!」
ラグラージがぶっとい腕で思い切り胸を打ち付けるドラミングとともに雄叫びを上げればみるみるうちにフィールド上空の雲行きが怪しくなってゆく。
「あまごいかッ……!」
「一気に勝負をかけさせてもらいますよ!!」
タダムネは左腕のメガリングを翳し、キーストーンに右の人差し指と中指で触れる。
「夢中になれるモノがいつか僕たちを凄いやつにする!! WE GOTTA POWER!!ラグラージ!! メガシンカ!!」
「ぐぉるあらららぁぁぁッ!!」
ラグラージが虹色の繭に包まれ、姿を見せればよりマッシヴなメガラグラージにメガシンカをする。
通常よりもさらに全身の筋肉が盛り上がっているのはのろいによるパワーアップが続いているからだ。
「いけラグラージ!!」
「らがぁぁじゃ!!」
素早さと引き換えに攻撃力と防御力を高めたラグラージの足取りは軽やかだった。巨体を揺らし、凄まじい俊足を見せる。
とても素早さを犠牲にしたとは思えないほどに。
「そっか、ラグラージはメガシンカすると特性が『すいすい』に変わるから、のろいで素早さが下がっても雨を降らせれば特性の力でカバーできるんだ」
「らぐあらぁぁぁッ!!」
リコが呟く中、ラグラージ渾身の肉弾攻撃はこれまた虹の繭にて阻まれる。
マフィンもまたメガヘアピンに装着してあるキーストーンを起動させたのだ。
「さぁ、油断せずに行こう! ゲッコウガ、メガシンカ!!」
「くがッ……!!」
繭が消失し、回転する水の手裏剣に逆さ立ちの姿を見せるゲッコウガ。
対戦する両名を知る者がなんとなく予期していた盤面となった。初心者用みずポケモン同士のメガシンカ対面だ。
「メガラグラージの威力で一気に勝負だ!!」
パワーとスピードの双方に突き抜けた相棒に寄せるタダムネの信頼は絶大。ラグラージもそれを強く認識しているからこそメガシンカが成立する。絆の力だ。
「たきのぼり!!」
「ぐらぁじゃあああッ!!」
逆さ立ちの手裏剣を操作しながら後退するゲッコウガをラグラージは全身からみずエネルギーを発散させながら追いかける。
「ワザプラスパワー! みずしゅりけんッ!!」
「くぉおらッ!!」
ゲッコウガは逆さ立ちしていた水の手裏剣を手に持ち、勢いよく投擲。威力の集約されたみずしゅりけんがラグラージへ一直線に飛ぶ。
「振り払えッ!!」
「らごぁら!!」
「うッ……!」
ラグラージの剛腕、横払いの左腕がみずしゅりけんを弾き飛ばす。
「腕全体をこおりエネルギーで包み込んでいるからゲッコウガの粘液に引っかからない訳か」
初手のみずしゅりけんをれいとうパンチで防いだところがここにきても効いている。伊達にタマ大のヒカミ部長を仮想敵として動いてはいないとホタルはタダムネの周到さに思わされた。
「たたみがえしッ!!」
軽やかな着地とともにゲッコウガは両手を地面に付け、『水の畳』を幾重にも立ててラグラージの進路を遮る。
「今こそ気合いだ! 一気に突き破るぞ!!」
『何事も気合いが大事』とは父マサムネからの教えであった。
気合いを身上とするマサムネは、根性を旨とするマサラタウンのサトシとの戦いの日々を幼き頃のタダムネに言い聞かせていた。
タダムネは、今もバトルの世界で気を吐き続ける父に恥じぬ生き方をしようと心に誓っていた。
「らがらがらがらがらがぁぁぁ!!」
ラグラージが両の剛腕でラッシュをかけ、たたみがえしを真正面から突き破ってゆく。
れいとうパンチの冷気で水の畳は凍結され、直後に拳の力で粉砕しながらの進撃だ。
「でてこい、とびきりZENKAIパワー!」
たたみがえしを突破したラグラージが肉薄する。
ゲッコウガは……両手を地面に付けた状態から手のひらを合わせていた。
「ゲッコウガはたたみがえしでの足止めができなくて、そのショックから反応が鈍り逃げ遅れたと見える!」
「タダムネ部長が王手をかけた訳だな姉上!」
「なんか、ちょっと違和感あるカモ」
決定的な場面に双子が快哉するところでサイガは静かに呟く。
マフィンのゲッコウガの身のこなしから、防ぎの手立てが破られたくらいでレスポンスに異常が生じるとはどうにも考え辛かった。
なにか、別の意図があってゲッコウガは『逃げられなかった』のではなく『逃げなかった』としか思えなかった。
「流石全国クラス。奥の手を切らされるなんてね」
「げこッ……!!」
今度こそと剛腕を振り上げるラグラージ。そこに地中から飛び出した草の根が瞬く間に四肢を絡め取っていた。
「な、なにッ!?」
「そうか! くさむすびか! 印を結んで地中の根っこを制御していたんだな!」
「……ただのくさむすびじゃない。ワザプラス状態のくさむすび」
「ワザプラス?」
ホタルとキラリの会話にリコは首を傾げる。聞いたことのない単語に反応していた。
「キーストーンにあるメガシンカのためのエネルギーにはポケモンをメガシンカさせるだけじゃなくて技のパワーを高める効果もあるんだ。それがワザプラス。キーストーンに蓄積されたメガエネルギーは一定量を個別に消費して通常形態でも技を強化することも出来るんだけど、大体の使い手はメガシンカありきで運用してる感じかな」
「だからゲッコウガであれほどのくさ技を使えるんだ……」
キラリの説明で納得してからリコはフィールドへ視線を戻す。
マフィンの持つ実力の引き出しをまた1つ見ることが出来たのが嬉しかった。コレもまた、部長の力の一端なのだろうと。
「ぐらう〜ッ!!」
「ま、マズイッ……!!」
身体中に絡み付く根っこを前にラグラージはもがくも振り払える気配はない。みず、じめんタイプのラグラージにとって、くさ技がタイプ相性二重に弱点であり、くらってしまえば命取りとなるのはメガシンカしていても変わらないのだ。
「これぞ木遁・くさむすびの術……ゲッコウガ!」
「こぁがぁ〜ッ!!」
両腿にマウントしていた小型の水手裏剣を繋ぎ合わせ、掌の上で回転させればみるみるうちに逆さ立ち用のそれと変わらないサイズへと至り、
「みずしゅりけんッ!!」
マフィンの指示のもとにゲッコウガは力一杯手裏剣を放る。
くさむすびによる根から体力を吸い出されていたラグラージにみずしゅりけんを再度払いのけるだけのパワーは残されていなかった。
みずしゅりけんがお腹に次々と突き刺さり、着弾。それら全てがエネルギー爆発を起こす。
「ぐ、ぐらぁ〜ッ……!」
くさむすびの拘束から解放されたラグラージが仰向けに倒れ、メガシンカが解除された。
メガシンカ、ダイマックス、テラスタルの3種に共通する要素としては、戦闘不能の際には強制的に解除されるというところからセイヨでなくともジャッジは決定的であった。
実際にラグラージは目を回している。
「ラグラージ、戦闘不能! ゲッコウガの勝ち!! よって勝者、セキガク3年マフィン選手!!」
「ま、負けた……参りました!」
「いやいや、メガラグラージのパンチが1発でもまともに入ってたらヤバかったさ」
「続けてシングルバトル1の両選手はトレーナーサークルへ!」
マフィンはメガシンカを解除したゲッコウガを、タダムネは倒れたラグラージをボールに戻してベンチへと戻る。
「僕のまとめたデータから最低でも30%増しの戦力として認識した方がいいよ」
「了解」
タダムネはサイガに、
「正直な話、木遁忍術は全国本場まで取っておくつもりだった。流石はホウエン第一級の強豪校。隅から隅まで油断ならない強さだよ」
「はい!」
マフィンはリコに、それぞれ入れ替わり際に言葉を投げかける。
チームの大黒柱からバトンを引き継いた1年生同士、トレーナーサークルへと入るのは同時であった。
「これよりシングルバトル1、セキガク1年リコ選手vsカナズミスクール1年サイガ選手の試合を行います!!」
セキガクとカナズミスクールの練習試合は残すところあと1つ、両チームともに今後を担う期待を背負った1年生同士の対決だ。
『タダムネ』
12歳。カナズミトレーナーズスクール3年生でポケモンバトル部部長。
父にチャンピオンリーグ経験者の強豪トレーナーであるマサムネを持つ真面目な好青年。
将来の夢は『偉い学者さん』で、父親と声がそっくりだという。