文武両道パワーに押されながらもマフィンが勝利を収め、団体戦の価値を確定させるのであった。
「なぁマフィン。リコのオーダー起用のことなんだが」
「んー?」
「あの娘は周りに気をつかえる協調性のある娘だ。ダブル起用も悪くないと思うのだが」
それは、セキガクのオーダーを預かっているホタルから見れば至極真っ当な指摘であった。
アン、ドット、ロイの馬鹿ども……もとい、赤点トリオに比べればはるかにダブルバトルにおいての適性がありそうだというのだ。
「セオリー的にはそうだね。だけどリコちゃんには、そんなセオリーすら覆して余りある素養が備わっている」
「素養、か。確かにリコの独創性は大きな魅力だが……」
「でしょ? 俺はあのセンスに賭けてみることにしてるんだ」
マフィンの要求はあくまで自身が部長、キャプテンとして部に在籍しているうちのことでしかないとは本人が一番よく分かっている。
ホタルも副部長としての立場から最大限マフィンの要望は容れ、リコをこれまでずっとシングルバトル1本で起用してきた。
リコの起用法の今後は、これからのリコのバトルぶりにかかっていることであるのは間違いない。
「お願い、ゴローン!!」
「ロゼリア、ステージ・オン!!」
互いにフィールドへ投入するモンスターボールから先発を繰り出す。
「いらっしゃ〜い!」
「ろぉぜ!」
ゴローンが重量感たっぷりに着地し、対照的に軽やかなフィールドインを見せるのはいばらポケモンロゼリアだ。
サイガ視点、フィールドインの第一印象においては1歩リード出来たと思うが、コレはコンテストバトルではないとすぐに思考を切り替える。
『雨も止んだしちょうどいい……それになにより!』
タイプ相性的な観点から最悪な『出し負け』をしているリコ側に動揺が見られないところから、サイガはゴローンの初手を看破する。そしてそれを潰すよりは、こちらの手を通すことを優先した。
「せいちょう!」
「ろぉぉぉ……!」
ラグラージが呼んだ雨雲が霧散し、晴れ間の覗く空の下、ロゼリアは太陽エネルギーを糧にパワーアップを図る。
「ステルスロック!」
「らっしゃいしゃい!!」
ロゼリアの周囲にゴローンは体を震わせ、鋭い石片を配置していった。
『見抜かれた!?』
ゴローンの特性『がんじょう』を活かして強引にステルスロックを通し盤面を有利に動かすお決まりの戦法には、相手の攻め手を先に見ることが出来るという副産物もあった。
が、タイプ相性を理由に嬉々として仕掛けに来ることはなく、悠々とパワーアップを選ぶサイガに、リコは手の内を気取られたことに気付く。
それでも当初の狙いそのものは通せたところを御の字とした。
「戻ってきて、ゴローン!」
リコがゴローンを引っ込める、そのタイミングであった。
「ロゼリア、どくびしを!」
「ぜりぁ〜!」
ロゼリアは右手の赤い薔薇と左手の青い薔薇からそれぞれの色をしたエネルギーを散布。
赤と青のエネルギーは混ざり合い、紫色のどくエネルギーとなりフィールドの地面あちこちに設置された。
「周囲にステルスロック、地面にどくびし、か。あれ? そういえばリコって……」
「……ひこうタイプは持ってない」
「ヤバくない?」
「……ヤバい」
ミコに返すキラリはクイ、と眼鏡のズレを直す。
「いくよ、カルボウ!」
リコの交代先にサイガは内心ほくそ笑む。フィールドへ着地した瞬間にどくびしの効果が襲いかかるからだ。
「な、なにィッ!?」
が、カルボウが降り立ったのはフィールドではなかった。
「ぼうッ!」
カルボウは、ステルスロックの石片の上にてバランス感覚で以て立ち、ロゼリアを見下ろした。
「なんて身のこなし、驚いたカモ……!」
素直に口にしながらも、サイガはフィールド中のステルスロックの配置を確認する。
カルボウの身のこなしから、石片と石片の間を飛び交うことくらいはしてくると踏んでいた。
『足場を壊せば降りて来ざるを得なくなる、そこを叩く!』
サイガは、己の自負する発想の豊かさは母譲りであると認識していた。
『ホウエンの舞姫』と異名を取り、今もなお父と張り合う形でコンテストの世界にて華やかに舞い続ける母はサイガにとって誇りであり、目指すべき目標だ。
『あなたがママやパパと同じ世界に来てくれるのは嬉しいけど、それにはまず下地が要るわ。ママの友達にセレナって娘がいるんだけど、その娘もあまりバトルをやらずにトライポカロンからコンテスト系の世界に入って苦労したって話だし。まぁ、そこはサイガの気持ち次第カモ』
カナスクに進路を定めてバトル部に身を置いたのもこうした母からのアドバイスを素直に受けたからだ。
いずれは自分もコンテストの世界へ身を投じる。その為の土台としてバトルの実力を身につけようというためだ。
それはそれとして全国区レベルのカナスクの一員として部活動は本気で取り組んでいる。今日の練習試合もせめて自分だけでも勝って一矢報いたい。
「ロゼリア! ステルスロックを狙ってマジカルリーフ!!」
「ろぉぜぁッ!!」
ロゼリアが両手の薔薇を振るうことで周囲にエネルギー葉を展開する。
無数のエネルギー葉がステルスロックを撃ち抜き粉砕していく。
「カルボウ!」
「ぼぁ!」
ロゼリアの正面側、カルボウが乗っていた石片も破壊されてはたまらずフィールドへと落下。
「どくびしへ向けてやきつくす!」
「ぼふぁぁぁ〜!!」
「不味い……ロゼリア、ジャンプを!」
「ぜりぁッ!!」
ロゼリアがジャンプ1番跳んですぐ後だった。
円筒型の両手から発射された灼熱の炎がフィールド中を焼いたのは。設置されたどくびしがみるみるうちに焼き払われていった。
ロゼリアが跳んだのは言うまでもなくやきつくす攻撃に巻き込まれないための待避だった。
「互いに設置技を破壊した形ですわね」
ツツジが呟く中、既に自由落下のロゼリアはカルボウめがけ攻撃体勢に入っている……!
「どくづき攻撃!!」
「ろぉおッ!!」
棘がたっぷり仕込まれた両手の薔薇をロゼリアが振り上げながら迫るが、カルボウは決して動じない。
信ずるに足りる主人を背にしていくさ場に立っているのだから。
「クリアスモッグ、いっぱい!!」
「ぼぅらッ!!」
『しまったッ……!』
カルボウが生成し、足元へ叩き付けることで爆発させた煙玉の煙にはポケモンの能力を元に戻す作用がある。
コレにより初手に打ったせいちょうでのパワーアップがチャラにされたことをサイガは呻いた。
「いいね。全国区相手に戦えてる」
マフィンは満足げに頷いていた。お気に入りのリコの奮闘は、いつだって胸がすくのだ。
「ん、見ろ! フィールド中央!」
煙が晴れ、ホタルが指差す先には……
「にゃろろろろ……!」
「しゃもももも……!」
ニャローテとわかどりポケモンワカシャモがロックアップの形を取っていた。
「クリアスモッグで視界が塞がれているうちにどちらもポケモンを交代させていたのか!」
タダムネの推察通りに動いていたリコとサイガの口元は自然と吊り上がり、白い歯を見せ合う。
互いに精一杯の力をぶつけ合って五分と五分のやりとりが連続しているこのバトルを心から楽しんでいた。
『コレが、全国クラス……!』
リコは、内から湧き上がる高揚のままに右手を開いて突き出す。
「アクロバット!!」
「とびはねる!!」
「にゃろあッ!」
ロックアップの体勢からニャローテもワカシャモも同時に手を離し、両足裏を叩き付け合う強烈なドロップキックが伯仲。
どちらも後方へ吹き飛び、バク宙から空中で体勢を立て直し、片手と両足の三点着地をする。
「にゃろぉ……!」
「しゃもぉ……!」
「「「おぉ〜……」」」
いわゆるヒーロー着地に外野の見物人たちは感嘆の声を上げる。
当のニャローテとワカシャモは、互いの一挙手一挙動に注視すべく視線をぶつけ合ったままだ。
『『善き好敵手(ライバル)と巡り会えた!』』
サイガは直感し、歓喜した。そして、その歓喜をリコも共有をした。このままいつまでも応酬を交わし続けたいとすら思えた。
だがこの場は真剣勝負、善き好敵手を相手にしたからこそ終わらせるために手を打つことこそが相手へのリスペクトなのだ。
無論、自分の勝利で終わらせるためだ。
「ワカシャモ! かえんほうしゃ!!」
「しゃもぼあああああ!!」
ワカシャモが大口を開き灼熱のブレスを吐く。
かわすだけならば跳べば済む話。しかしワカシャモは先ほどとびはねるの技を見せてきた。つまり空に逃れることも想定の範囲内、なんならかえんほうしゃは撒き餌とすらリコには見えた。
これら思考の転換は、リコの脳内にて一瞬で処理される。
『今なら出来るかもしれない……!』
真剣勝負に病みつきで、善き好敵手との応酬にて湧き立つ高揚感が、リコの心に不思議な自信を生む。
「ニャローテ! ひっかく、いや! めいっぱいのきりさく!!」
そして、トレーナーのメンタルとはポケモンにも伝播するもの……リコの高揚は、ニャローテの高揚でもあった。
「にゃろおっしゃあああああッ!!」
くさタイプに対して放つほのお技はまさしく『必殺』の意気が籠るもの……ワカシャモのかえんほうしゃからそのままタイプ相性の優劣により結果を見ていた野次馬から声が上がった。
「か、かえんほうしゃが……!」
ニャローテは、かえんほうしゃを文字通り切り裂いたのだ。
「今だよニャローテ! アクロバット!!」
「くッ! 負けるなワカシャモ! とびはねる!!」
ニャローテが飛び出し、負けじとワカシャモも前に出る。
「にゃろあろあろあ〜!!」
「しゃもらあああ〜い!!」
空中で飛び蹴りの姿勢を取り、再度激突するはセンターサークル内。
互いに突き出した右足が顔面を捉え、ニャローテもワカシャモもフィールドへと落着をする。
どちらも効果抜群の1発を叩き込みあった形となった。
「ニャローテ!!」
「ワカシャモ!!」
リコもサイガも相棒に呼びかける。
『ニャローテもワカシャモも頭を捉え、急所に当たった……今のでどちらも体力はほぼ尽きた。ポケモン愛護の観点からすればこの時点でダブルノックアウトとして試合を打ち切るのがセオリー、ってところかしらね』
頭で理解していても、実際のところとしてセイヨにはギリギリまで引き分けで済ませる選択肢はなかった。学生ながらにこれだけの熱い勝負を見せてくれたリコとサイガに対し、この場において審判がすべき最高の仕事とは、ハッキリとした勝敗を下して見せることだと判断したのだ。引き分け自体あまり好むところではない性分でもあるが。
すかさずセイヨは倒れている2体の側へ駆け寄る。
「にゃ……ろ……!」
「しゃもも……!」
身体は幽鬼の如くふらつきながらも、その瞳に宿す闘志が折れずにいるままのニャローテとワカシャモは、体がゆらめきながらも両の足で以て大地に立つ。
「にゃろぉ……!」
「しゃあも……!」
双方共にファイティングポーズを取った、その時だった。
「ぐふぅッ!!」
糸の切れた人形のようにフィールドへ左半身から横たえたのは……ワカシャモ。
完全に目を回しているのをセイヨは確認した。
「ワカシャモ、戦闘不能! ニャローテの勝ち!! よって勝者、セキガク1年リコ選手!!」
「ッッッにゃおおおッ!!」
勝ち名乗りを受け、ニャローテは雄叫びを上げる。
「よッッッし!!」
リコとニャローテ、両手を突き上げる勝利パフォーマンスがシンクロしていた。強敵を相手に勝ちを収めた爽快感が体中を駆け巡っていた。
「お疲れ様、ワカシャモ」
サイガは倒れたワカシャモをボールへ戻す。
敗因としてはなんてことない話、最後の一撃の際に踏み込むのが遅れたからだ。
ワカシャモのボールをジッと見るサイガの左肩に置かれるのは、タダムネの手。
「今日のリベンジは全国大会でしよう」
「はい……!」
わざわざ敵地に乗り込んでの盛大な3連敗は、カナスクのメンバーに全国への意識をさらに強めさせ、固い団結を補強することになった。ツツジからすればじゅうぶんに収穫であった。
「以上を持ちまして、セキエイ学園vsカナズミトレーナーズスクールの練習試合を終了します。一同、礼ッ!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
儀礼の挨拶と共にバトルコートへ野次馬たちから拍手が送られる。
「なぁ。バトル部の奴ら、前の試合でも3タテしてなかったか?」
「かなり調子いいらしいな」
「もしかしてあいつら、全国大会でも勝っちゃったり?」
外野の中でこんな会話がちらほらと出ていたのはバトル部には聞こえていない
「あー……終わっちゃった」
赤点3人衆は、窓の外から聞こえる声や音からなんとなく事情を察することしか出来なかった。
ちなみに補習の方は、担当した先生のお情けからギリギリのところで3人ともクリア出来たという。
『サイガ』
10歳。カナズミトレーナーズスクール1年生。
両親ともにトップコーディネーターという生粋の『2世さん』。
コンテストの世界に飛び込む準備としてトレーナーの基礎能力向上のためにバトル部に所属している。
想定CVは斎賀みつきさん。