コンテスト志望の独創的なファイトにリコも独創性で対抗し、見事勝利を収めるのであった。
カナズミトレーナーズスクールとの練習試合を終えた翌日9月29日。週の中で月替わりとなる中、セキエイ学園では大きなイベントが控えている時期特有の独特な空気がにわかに学園全体を包み込もうとしていた。
「それでは来月10月25日から26日にかけて行われる『セキエイ祭り』において、我々1年1組の企画としてなにか意見のある人は挙手と共に提案願います!」
1年1組学級委員のザキレイが6時間目の学活の時間全体を取り仕切っている。
『セキエイ祭り』とはセキガクにおける文化祭のことだ。
「はいはいはーーーい!! あたし焼きそば屋さんやりたいでーす! こう見えても焼きそばには自信あって、姉ちゃんや弟からも評判は良くって〜!!」
「焼きそば屋なんてド定番なやつ、真っ先に3年生に取られるでしょ」
いの1番に元気よく挙手し、提案したアンだったが即座にデンサに打ち落とされる形に終わった。
セキエイ祭りにおけるクラス単位の出し物は上級生から優先的に選択権が与えられており、出し物の『被り』は原則NGなのだ。
セキガクは各学年ごとに16人編成のクラスが4つ存在し、1組と2組は一般科、3組はスポーツ特進コース、4組は進学特進コースと明確に分けられており、1学年最大72人が定員となっている。
それらに加えて強豪クラブである野球部、柔道部、バレー部、吹奏楽部が独自に出し物を展開する。
つまり出し物の枠は12クラスに加えて4つの部で合計16、なのだがスポーツ特進コースは原則所属している部活の出し物に合流し、進学特進コースは勉強を優先するために自分たちのクラスから出し物を企画することはない。
なので結果的にはおおよそ10の枠で企画を取り合うのがセキエイ祭りにおける出し物事情であった。
「ならオクタン焼き!」
「あー悪い。オクタン焼きは野球部がやるんだわ。なんでも創部以来の伝統なんだと」
「嘘じゃん……」
次案もあっさり野球部のオリに封じ込められたアンは意気消沈しながら着席するよりなかった。
「ならお化け屋敷とかどうよ?」
「誰かゴーストタイプ持ってる?」
「あたし持ってるけど駄目よ。ウチのゴース人見知りだもん」
学級委員としてこの場を仕切るザキレイにとって、通る見込みのない意見ながらも臆せず元気に提案してくれるアンはありがたかった。アンの提案を皮切りにクラス全体の議論が進むからだ。
「ドンマイ、アン」
「リコはなにかないのか?」
「私? うーん……吹奏楽部は演奏があるんだよね?」
「あぁ。体育館を使ってな。事実上貸切ステージだな」
前の席から振り向いて聞いてくるオリに、リコは左隣のイクスに確認を取ってから思案をする。
オクタン焼きは野球部指定の出し物としてグルメ企画の焼きそば、お好み焼き、フライドポテトなどはデンサが言った通り上級生が掻っ攫っていくので望み薄であろう。
となればクラス内で挙がっているようにアクティビティ系の企画が狙い目だろうか。そうなんとなくよぎったところであった。
「おーいザキレイ。ちょっといい?」
「ん? どしたのキョウコ」
ガラリと教室の戸を開けて入ってきたのは2組の学級委員であるキョウコだった。
出迎えたザキレイが話を聞けば、改めて教壇に戻る。
「みんな。たった今2組の方からセキエイ祭りの出し物を1組と2組合同企画として男女逆転喫茶にしようって話が来たんだけどどうかな?」
「「「男女逆転喫茶?」」」
1組一同、少し思案してから提案の中身を咀嚼してゆく。
「1組と2組で男女に分かれてそれぞれに喫茶店をやるんだ。1組は男装で2組は女装。売り上げはそれぞれの店ごとに計上していく形になる」
「良い悪いはともかく、実際のところ通るかどうかよね?」
廊下側最前列に座るコーニの言は疑問として当然のものである。
「確証はないがおそらくは大丈夫だと思う。同じ喫茶店でもコンセプトが違えば別企画として通用するはず」
「ならいいんじゃあないか?」
窓際2列目のニッシュは、アンが女子のムードメーカーならば男子のムードメーカーとしてクラスの中心人物である。彼の同意により自然と1年1組全体の空気は定まった。
「1組と2組で男女逆転喫茶か、なかなか考えたな。誰の発案だ?」
「ウチのクラスのオーエとルエム」
「あぁ、あの双子か。バレー部で頑張ってるとは聞いたが」
ホタルにロイが答える。
放課後、ほのお校舎の部室に集まっての全体ミーティングが行われれば、メインはセキエイ祭においてのスタンスを改めて確認するところに終始していた。
セキエイ祭りは文化祭であるが、同時にオープンキャンパス的な側面も持ち合わせている。外部からの来客も多数セキガクを訪れるのだ。
その中には当然、未来の新入生たちもいくらか存在していることだろう。そんな未来の後輩候補たちに部活動所属の生徒たちが自分の競技以外で部をアピール出来る良い機会であった。
「リコの可愛いファンも来るのかな?」
「あはは、さ、さぁ?」
ミコがカラカラと笑いながら話すのはチャンのことである。進学の折、彼女がセキガクに入り、バトル部に来てくれるらしいというのは地方予選からリコたち皆共通の認識であった。
「ホタル副部長。バトル部としてはなんかしないんスか?」
「したいのは山々だがあいにく予算がないのでな」
アンにホタルが苦笑いしながら返す。
確かにセキガクバトル部は地方予選を突破し、全国大会出場を決めこそした。だがそれだけで学園内での評価が180度変わることも、活動費に直結する部費の増額に繋がることもない。イミ総やカナスク相手に全勝したことで生徒間での期待値が上がったとはいえ、実利としては微々たるものだ。
今後のバトル部の扱いがどうなるかはどこまでいっても全国大会での結果如何であった。
それに、何かするにしても細かな部分を詰めるのに必須なデータマンのキラリが生徒会での活動に取られているのが痛かった。
現にこのミーティングにもキラリは参加していない。セキエイ祭りに際して始動する生徒会側の会議に出席するのが優先だからだ。
「バトル部としてのことは俺に良いアイデアがある」
ミーティング開始からずっと無言を貫き、リコをひたすら見つめていたマフィンが口を開いた。
「まだ何も確定してないから詳しくは後日追って、ってことになる。来週、最悪本番当日までに話はまとめておくから」
不敵な笑みの部長に、一同揃って『ロクなことを考えていない』と思った。
ともあれ全く預かり知らないところから急なサプライズからの対応を強要されるよりはよほどマシではあった。
コレには昨年、ギリギリのタイミングでサプライズを放り込まれたことでホタルがガチめにマフィンにキレたのが理由なのだが、そこはリコたちには知る由のないことである。
「文化祭? もちろん行くよ! あたしの入る学校だもん!」
ミーティングを終え、ロードワークがてらに訪れたオーキド研究所でチャンは変わらずリコに満面の笑顔を向ける。
憧れのリコを見るチャンの瞳は、未来の母校へ足を踏み入れる期待からキラキラと輝いていた。
「なんだか面白そうだね」
2人の話にシゲルも食い付きを見せる。
ワールドチャンピオンのサトシやシゲル含めたオーキド一族のような歴史に名を残す偉人を数多く輩出しているとはいえ、マサラタウンはどこまでいってもカントーの片隅にある田舎町。過疎化が進む町中において働き口を見つけるというのはポケモン歴1990年代後半の時点で既に無謀な話であった。
故にこの町の少年少女は10歳となり、トレーナー免許を取得すればすぐさま研究所でポケモンをもらって外へ飛び出してゆくのがかつての通例であった。
ポケモントレーナーの就職難問題がより顕在化してきたポケモン歴2010年代以降から徐々に学力と学歴の重要性が増していき、10歳になって即トレーナーとして旅をスタートさせられるのはある程度トレーナーとしての才能を認められた有望株の特権となっている。
ポケモン歴1997年にデビューしたシゲルもまたマサラタウンの慣習通りにポケモンをもらってから即旅を始めた1人であり、トレーナーから研究者に転身してからも絶えず現場に張り付き続けて現在に至るので、いわゆる中等教育からの催し物に対しては人伝ての知識しか持っていなかった。中学から高校、大学の卒業資格は転身以降に取得したものである。
「ならシゲル博士も一緒に行こうよ! きっと楽しいよ!」
「チャンさんはご両親と行くんじゃあないのかい?」
「パパとママは土日も仕事。だからシゲル博士が来ないんならあたし1人で行くつもり」
チャンが研究所に預けられているカビゴンのお腹にオドリドリや他の小さなポケモンたちと一緒に寝そべりながら誘いをかける。
リコは、なんとなくチャンと両親は上手くやれているというのを感じ取っていた。休日も仕事で家を空ける両親に対して、チャンがなんら不満のようなものを見せないからだ。
コレに関してはチャン視点、リコとセキガクバトル部という、親のぬくもりなどどうでもよくなる興味の対象を見つけたからに他ならないし、そこも隠してはいないのだが、その辺りはリコは察していなかった。
「そのセキエイ祭りとやらはいつだったかな?」
「25日と26日です」
「なるほど。トキワシティからセキエイ高原の近くまでをチャンさん1人はちと危ないかもしれないなぁ。ちょっと失礼」
思案の表情からシゲルはスマホロトムを起動し画面を注視する。当日周りの予定をチェックしているようだ。
「ふむ」
すぐに小さく頷き、スマホロトムを白衣のポケットへ引っ込めれば、チャンに笑みを返した。どうやらちょうど予定は差し込まれていなかったらしい。
「よろしい。僕でよければエスコート致しましょう、レディ」
「わーい! わーい!」
「ほろろッ、ほーぅ!」
恭しく同行を申し出たシゲルにチャンとオドリドリがカビゴンのお腹の上で体を跳ねさせては、周りのポケモンたちが弾き出されてしまう。
落っことされたポケモンであったが、なんだかんだで許せてしまう天真爛漫さがチャンの魅力であった。
セキエイ祭りに近付くにつれて独特な空気というものは徐々に強まっていく。
当日25.26日は全ての部活が本番に合わせて出し物のために独自の動きをする以上、その分の活動強度を埋め合わせするために前日までの練習をよりハードにする方針が主流となっていた。そこはバトル部も同様である。
「そういえばナギ先輩はセキエイ祭り来るのかな?」
「なんでも2組の方でフリマやるってんでそれに合わせて動いてるみたいよ」
「フリーマーケットかぁ」
トキワの森までのロードワークからの帰りにて、ドットが先頭を走る中でロイにミコが軽く答える。
2年1組に所属するホタル、キラリ、ミコに対してナギはオンラインで授業を受けているために基本学園に不在な立場ながら形式的には2年2組所属である。
ミコとしても同じ学年であっても別クラスの事情はあまりよく把握していなかった。人当たりはよく、2組にも友達は数多くいはするのだが、なにしろセキガク祭りの出し物における売り上げで競争をする側面からあまり突っ込んだ話を大っぴらに聞くことは憚られた。
そこまでシビアな風潮でもないからこその距離感というのもあるのだ。
「ふぅ。キラリ先輩忙しそうだね」
「日中もあちこち動き回ってるみたいだしね〜」
ワンタッチ式のバトルで一本取られたリコとアンは筋トレを済ませてから寮への道を走り出す。
セキエイ祭りが近付くにつれて、キラリは練習を欠席するのが日増しに多くなっていた。生徒会会計としての役割だ。
「生徒会の仕事から戻ってきたキラリにデータを見てガッカリされんようにボクたちもしっかりしなければならんな」
「「はい!」」
ホタルにリコとアンは元気よく返事をする。
「ひ、ひぃ〜ッ……!」
「ほらマフィン! もうちょっとだぞ! 俺もリザードンも待ちくたびれちまってるぜ」
「ぐるぅぅ!」
リコたちとすれ違いにようやく折り返しエリアまで辿り着かんとするマフィンへフリードが発破をかける。
かかってこい! とばかりに鼻息を荒くするリザードンに、マフィンは息を整えながらゲッコウガのボールを取り出していた。
「リコ! この看板あっちによろしく!」
「分かった。ペンキ、新しいのこっち置いとくね」
セキエイ祭りを1週間後に控える頃になると1日の時間割の中に必ず学活の授業が盛り込まれ、その時間は丸々出し物の準備に使われた。
教室内の装飾や使用物品の安全確認、試用を積み重ね、セキエイ学園は10月25日、セキエイ祭り当日を迎えるのであった。
『ザキレイ』
10歳。セキエイ学園1年1組所属。
リコとアンのクラスメイトで学級委員を務める。
相棒ポケモンはフォッコで、1年1組のいいまとめ役。