SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 2学期の終わりを迎え、リコたちはついに全国大会の舞台であるガラル地方へ出発した。
 各地より集うライバルたちの姿に、リコは胸が熱くなるのであった。


全国大会開会式

 クリスマスの概念が存在している以上、ポケモン世界にもイエス・キリストはいたしキリスト教も存在はした。

 歴史の授業においてイエスはキリスト教という旧世紀に流行った宗教とともに教室の黒板なりホワイトボードなりに教師がその名を書き込んでいる。

 それらは大半の学生からすればテストの穴埋め問題で持ち出される回答ワードにしかならず、時が経つにつれて記憶の風化と共に消えゆく程度の認識でしかなかった。

 ポケモン社会に残るクリスマスとは、単なるプレゼントのやり取りや馬鹿騒ぎの理由……あとは恋人の逢瀬のきっかけくらいのものにしかならない。

 何故ポケモン世界においてキリスト教が『こちらの世界』ほど広がりを見せなかったかといえば、ポケモン世界にはポケモンが存在しているのが何よりの理由であろう。

 世界規模の自然現象を巻き起こすような伝説のポケモンなどはそれこそ『神』として崇められる文化が生まれ、その数は全国各地において枚挙に暇がない。

 間違いなく神とされるが姿の見えないデウスより、神かどうかは分からないが確かに存在する伝説のポケモンたちを人々は神として認めてきたのがポケモン世界における人類史なのだ。

 ポケモン歴2025年のクリスマス当日を迎えたリコたちセキガクバトル部にとっても、この日はずっと重ねてきた練習と準備の成果を見せる全国大会当日という認識しかなく、その起源などに思いを馳せる余裕はない。

 

「お城みたい……」

 

「……ナックルシティそのものが古い城砦都市の名残。スタジアムは実際城そのもの」

 

セキガクバトル部は朝9時に会場入りし、お決まりな純白のユニフォーム姿で整列をする。

 リコにはスタジアムが身近なガラルの風土そのものが新鮮であった。

 

「まず私たちとクロ工、次にクロ工とポケスクで、最後に私たちとポケスクだっけ」

 

「あぁ。ポケモンスクールは言うに及ばず、クロガネ工業も全国レベルの強豪だ。油断は出来んぞ」

 

「嬉しいねェ。そう言ってもらえるのは」

 

 ミコにホタルが返す中、スタジアムを一望する選手入場口に整列待機をするセキガクの左隣に同じく整列しながら並んできたのは『屈強』という文字が服を着て歩いているかのような男たちだ。

 全員がモンスターボール型のライトを前面に装備したヘルメットのカラーに合わせたユニフォームを着るオレンジ軍団こそが、シンオウ地方の予選大会を突破してきたクロガネ第3工業学校バトル部の面々である。

 

「せっかく全国って最高の舞台でやり合うんだ。どうせならお互いに舐めてかかることなく真っ向勝負でぶつかりたいもんだよな。おっと! 申し送れちまったい。俺はクロ工3年バトル部部長のグステンというものだ」

 

「セキガク部長のマフィン。よろしく」

 

 最前列でチーム名の書かれたプラカードを持つ部長同士、試合に先駆けて挨拶をする。

 メンバー全員筋骨隆々、180cmオーバーの巨漢が揃う中でも190cm台と文字通り頭1つ飛び抜けたグステンからすればプラカードもおもちゃのようにしか見えない。

 反面、マフィンの方はむしろプラカードに持たされているという雰囲気すらあった。

 

「なんだか、いい人たちって感じ」

 

「そりゃあ全国まで来るようなチームだぜ? 礼儀作法だってしっかりしてらぁな」

 

 アンが呟くのにナギは変わらぬ口調で重ねる。

 内実としては厄介なことこの上ない話だ。侮ってくれている方がペテンにかけやすいのだから。

 

「よし。全員止まれ」

 

 セキガクの右隣に待機するのはポケモンスクールの面々。その最前列でプラカードを持つのはもちろんマヤだった。

 マフィンとマヤが横並びとなるだけで場の空気がズシリと重くなる。

 なにやら事情があるようだとグステンも察したが、その中身に踏み込むことはしなかった。野暮だと思えたからだ。

 

「BGMがかかったら入場行進お願いします」

 

 スタジアムを管理するナックルジム所属のジムトレーナーである青年から指示が入り少しして、吹奏楽の演奏が始まり、少年少女たちは全国制覇へ向けて歩き出した。

 

 

 

「年の瀬に若き才能が海を越えて一堂に介し、これより全国制覇の夢のための大一番を迎えます! 全国のポケモントレーナー、ポケモンバトルファンの皆様こんにちは! 本日はここ、ナックルスタジアムより第98回全国中学校ポケモンバトル選手権大会グループリーグ予選の様子をお送り致します!! 実況は私、ガラル担当ジッキョーブラザーズの次男ジッキョー!! 解説にはナックルジムのジムリーダーキバナさんに来て頂いております!! キバナさん、本日はよろしくお願いします」

 

「あぁ、よろしく」

 

 側頭部と後頭部を刈り上げたショートのツーブロックに、褐色の男性な顔立ちには50歳を越えた相応の落ち着きと色気を携えているのが28年前から変わらずナックルシティでドラゴンジムを預かり続けるキバナだった。

 目尻のシワとほうれい線の深さがそのまま歴戦振りを物語っている。

 

「さて、中学の全国大会はまず12チームを4つのグループに分け、それぞれのグループを首位通過した4チームによる決勝トーナメントという構成となっておりますがキバナさん。どこか注目しているところはありますでしょうか?」

 

「んー。ここ最近あんまり学生バトルの方はリサーチできてなくって記憶にあるデータはだいぶ古いかもなんだが、アサギ塾は今も強いんだっけ?」

 

「はい。2007年以降18年連続でジョウト予選を突破しているアサギ塾は今年12回目の優勝を狙っていることでしょう。ここでこのスタジアムにてグループリーグを戦う3チームが入場して来ます!!」

 

 

 

『今回で出場回数19回目とポケモンレンジャー養成所と並び2位タイであるシンオウ代表のクロガネ第3工業学校は、その1人1人がまさしく重戦車!! 鉱山での作業を通して培ったパワーと、シンオウの誇るファーストジムリーダーとして確かな実績を持つヒョウタ監督の指揮のもとグループリーグ突破を目指します!!』

 

 西側ベンチからクロ工メンバーの行進を温かい眼差しで以て見つめるメガネをかけた作業着の男もまた、生徒たちと同じヘルメットを被っている。

 正確には、彼のトレードマークであるヘルメットを選手たちが被っていた。

 クロガネ第3工業学校のバトル部監督としてヒョウタは自身を持ち選手たちを送り出していた。

 

『こちらは9回目の出場となりますアローラポケモンスクール! 去年ベスト4という躍進の原動力となった3年マヤ選手を今年はチームの柱として更なる飛躍を狙っていることでしょう!!』

 

「いいぞいいぞ! お前たちは輝いてるぞ! 青春の汗と魂で、夢にときめけ!! 明日にきらめけ!!」

 

 教え子たちの晴れ姿を感涙しながら目に焼き付けるのはポケモンスクールの監督にして名将と謳われるカキだ。

 はがねの如く鍛え抜かれた褐色の肉体美を上半身から晒すスタイルは28年前から一切変わっていない。

 

『そして今年で4回目、ポケモン歴1984年以来41年ぶりの出場となりますカントー代表セキエイ学園!! 過去3回の出場は全て当時在籍していた先代ジョウトリーグチャンピオンにして現在はフスベシティの竜の里に入り里長として活動しているワタル氏の活躍により大会3連覇を達成しておりますが、今年のセキガクは一体どのような活躍を見せるのでしょうか!?』

 

 

 

「お姉さーん!! 頑張ってー!!」

 

 入場行進中のセキガクメンバーに、主にリコに声援を送るのはチャンだった。

 経緯としてはマグノリア博士主催の大規模なシンポジウムに参加する予定であったシゲルに引っ付いての半ば強引な渡航だ。

 小さいながらもレディの頼みは断らないというシゲルの信条に加え、チャンの両親としても高名な2代目オーキド博士の迷惑にならないならば、と娘の説得に折れた形で送り出していた。

 当然、チャンの側ではシゲルがにこやかに客席に座っているのでフリードは恐縮するよりなかった。

 

「ハッ、問題ないさ。姉さんたちが勝ち上がるに決まってる」

 

「でもマフィンとかいうお姉ちゃんの昔のお友達もかなりやるみたいだよ?」

 

「姉さんが負けるはずないだろ」

 

 そんなチャンの応援を冷ややかに聞き流しながらタダノは自信満々であった。懸念をぶつける妹ライカの言も意に介していない。

 

「姉さんは去年のベスト4でぶつかったアサギ塾の『帝王』ジャキにリベンジするために1年間アローラの島中を駆け巡って修行して来たんだ。こんなところで躓くわけない」

 

 姉の血の滲む努力を間近で見て来たが故の実感を、タダノは言の葉に込めていた。

 

 

 

『各スタジアム、全チーム入場。整列を確認。これより第98回全国中学校ポケモンバトル大会、開会式を行います』

 

 4箇所に分かれた開催スタジアムに響くのはウグイス嬢のシズクだ。ホウエン地方からガラルへ留学しているバンドマン志望で趣味はテレビゲーム。

 

「ふわあ〜あ。オニだるオニ寒……」

 

 キルクススタジアムに整列しているエクシード学園のチームにおいてあからさまに開会式の進行をだらけて受け取るサンゴに周囲は難色を示すも口にはしない。

 オニキスもそんなサンゴに襟を正すような声かけはしなかった。そのような指示は受けていないからだ。

 

『ウフフフフ……この大会を通してラクリボールの威力を実戦でチェックはしないといけませんからね』

 

 初戦を控えるスピネル監督はチーム最前列でプラカードを掲げ、姿勢良く直立しているアメジオをニヤケ面で見ては鼻で嗤う。

 12月に入り、スピネルが研究部から支給されたラクリボールをチームメンバーに配布する際、アメジオはその使用を断固として拒否。部長として監督であるスピネルに真っ向から抗議をした。

 

『そんな手品みたいなやり方でパワーを増強させて何が楽しい? ほとんどドーピングではないか!! そんなもの使わなくても俺たちは全国制覇して見せる!!』

 

『もし、出来なかったらば?』

 

『その時は責任を取って俺はこの部を……学園を去る!!』

 

 アメジオの啖呵は酷く直情的で、売り言葉に買い言葉という勢い任せのものというよりない。

 この辺りの真っ直ぐさがジルとコニアのようなアメジオを慕う者たちにはアメジオらしさとして浸透していたが、この場においてその真っ直ぐさは危険だとしか見えなかった。

 この言質を取った時点でスピネルからすれば全国大会の結果などはどうでもよくなった。

 

『いくら彼が吠えようが試合のオーダー権限は私にある。グループリーグを突破するくらいまでいけば私の面目も保てるでしょう』

 

 ニヤケ面のまま、クククと笑いが漏れる。

 

『負けさせるとするなら準決勝辺り、出来過ぎにしても決勝はおそらくアサギ塾相手となるはず。そこでラクリボールを拒否する彼の一派をボコボコにしてもらえば私はチームを決勝まで導いた名監督として公然とアメジオを退部させられましょう』

 

 エクシード社会長にしてエクスプローラーズのトップであるギベオンはアメジオの祖父であるが、孫が専横によりチームの輪を乱した、と伝えれば済む話とスピネルは考える。

 そうした先に待つエクシード学園バトル部の姿とは、研究部の実験動物集団に他ならない。

 

 

 

『続きまして、ガラルリーグチャンピオンダンデ氏による挨拶です』

 

 4箇所のスタジアムに設置されているモニターへ同時に映り込むのはガラルではお決まりのリザードンポーズ。

 シュートスタジアムの真ん中にてド派手な演出と共にダンデが姿を見せ、相棒のリザードンからマイクを受け取った。

 

『やぁみんな! 今日は絶好のバトル日和だな。真冬の寒さを吹き飛ばす熱い戦いを期待しているぜ! 明後日からの決勝トーナメント、このシュートスタジアムに足を踏み入れるのは誰か、楽しみにしてるからな!!』

 

『ぐるぅぅぅ!!』

 

 リザードンはパフォーマンスとしてダンデの背から天へ火炎を吐いて見せる。

 ダンデとしても学生バトルを盛り上げてゆくことにはずっと前から熱心であった。

 ポケモントレーナーとしてリーグ制覇を目指す『本格派』の絶対数が全国規模で減少の一途を辿っているのはガラルでも例外ではない。

 明日のチャンピオンを夢見て、ジムチャレンジの門を叩きに来る有望株はあらゆるところから少しでもかき集めたいと思っていた。

 50を過ぎて、いつまでも全盛期というわけにもいかないのだ……。

 

『宣誓! 我々選手一同は、この素晴らしい舞台に立てることを心から誇りに思います。これまで支えてくださった両親、指導者、マネージャー、そして地域の方々に心からの感謝を捧げます。我々は、この大会をこれまで支えてくれた人々への『恩返し』の場と捉え、仲間と共に流した汗と涙を力に変え、正々堂々! 最後まで諦めずに戦い抜くことを誓います!! ポケモン歴2025年12月25日! アサギ塾3号生、ジャキ!!』

 

 モニター越しの選手宣誓に拍手喝采となり、ジャキはスピーチ台からチームの列へ戻ってゆく。

 

「いよいよ……本当に、始まるんだ」

 

 開会式の終了は、リコにポケモンバトル部を取り巻く熱き烈風の到来を確信させていた。

 

 

 




 『ジャキ』
 18歳。アサギ塾3号生。1軍キャプテンで部長。
 『帝王』の二つ名を持ち、中学バトル界にて最強の存在。
 彼を原動力として昨年の全国大会をアサギ塾は制したのだ。
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