SEKIGAKU DIARY   作:nami73

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 世間ではクリスマスムード一色の中、リコたちは待ち望んだ熱狂の只中にいた。
 全国大会の開会式を終え、早速セキガクバトル部は予選の試合を迎えるのであった。


剛力集団! vsクロガネ第3工業

「さぁ開会式が終わってそのままこちらナックルスタジアムでも予選Dグループの試合が始まります!」

 

「セキガクってなぁアレだろ? ワタルがたまたまいたおかげで昔強かったんだろ?」

 

「えーっと、そういう側面もありますね。当時の全国大会は勝ち抜き方式で行われていましたから」

 

「勝ち抜き方式じゃそりゃあワタルが無双しちまうわな」

 

 キバナはその派手な見た目や自撮りパフォーマンスから来るイメージとは裏腹に、10歳からナックルジムにジムトレーナーとして入門し堅実そのものなトレーナー人生をスタートさせている。

 そんな若かりし頃に遠くカントーから長期休暇を利用してやって来たいかにも真面目な好青年であるワタルと知己になっている。

 互いに鍛錬の事情もあり、あまり深い仲にはならなかった。それでも話してみれば気さくであり、決して隙を見せることなく日々鍛錬に打ち込む姿にキバナは感心したものだった。今思えばバトル出来なかったことはもったいなかったと思う。

 ワタルがナックルジムのユニフォームをリスペクトし、その意匠を組み込んだコスチュームを自作したばかりか、フスベ出身のドラゴン使いたちの正装にまで押し上げた熱意はキバナは人伝に聞いたものである。

 ポケモン歴1985年にポケモンリーグ本部がチャンピオンリーグ制を導入した際、セキエイ学園を卒業して間もないワタルがセキエイリーグ四天王として抜擢されたというのも大して驚きはしなかった。

 それくらいはやれる奴だとキバナは知っていたからだ。

 

 

 

「これよりDグループ予選! クロガネ第3工業学校vsセキエイ学園の試合を行います!! 両チーム、礼ッ!!」

 

「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」

 

 スタジアムセンターサークル内で儀礼の挨拶を済まし、両チームともベンチへと下がる。

 すかさずモニターには双方のオーダーが表示された。

 

ダブルバトル

アンケル&ズニvsホタル&ミコ

 

シングルバトル2

グステンvsアン

 

シングルバトル1

モンチセリvsドット

 

控え

アイオvsキラリ

 

 

 

「よーしみんな! 集合!」

 

 ヒョウタ監督はクロガネジムを預かる傍ら町の炭鉱で働いており、それとは全く別のライフワークとして化石探しに精を出していた。

 ポケモン歴2010年、その過程で発見した『地下大洞窟』はなんとシンオウ地方全土の地下に広がる規模であると判明し、大発見の張本人としてヒョウタは大洞窟全域の管理人となった。現在バトル部を率いている第3校は2015年に開校している。

 ヒョウタは大洞窟を開拓していく中でさらに7つにエリア分けをし、大洞窟全体を教育機関として開発していった。各エリアにある大規模空洞にて開校する工業学校にそれぞれ創部されたバトル部の総監督にも就任している。

 一連の流れに関しては大洞窟全体を教育機関化するプロジェクトの発案者であるシンオウリーグチャンピオンシロナ直々の指名だった。

 大洞窟の発見者である以上に長らくファーストジムリーダーとしてシンオウリーグに貢献してきたヒョウタの力量を買ってのことだ。

 

「みんないい顔してるね」

 

「そりゃあ今日に向けて準備してきましたから」

 

 円陣を組む中にヒョウタ自身も加わる。監督という立場からチームの一員として一緒に戦うという一貫した意思からだ。

 アンケルの返しにも白い歯を見せる。

 

「よし! 目指す目標は高くとも、目の前のことからコツコツと!! 勝利のためにご安全に行こうぜぃ!!」

 

「「「「「ウーッス!!」」」」」

 

 タイテンの声出しに応える形でクロ工メンバー全体は士気を高め、ダブルバトル担当の2人がトレーナーサークルへ向かった。

 

 

 

 一方のセキガクも円陣を組む。

 

「いよいよ、いよいよと事あるごとに繰り返してきたが、ここからが本当にいよいよだ」セキガク全国制覇への夢、ここからが本当のスタートラインなんだ!!」

 

「「「はいッ!!」」」

 

「ウス」

 

 ホタルの一言にリコたち1年生が大きな返事をする。

 フリードはベンチからその様子を眺めるのみとした。無論、責任感がないわけではない。長らくだらけていた分の気の引け目から1歩身を引いた位置からチームを見ているのだ。

 

「まずはグループリーグ突破。それだけを意識してやっていこう!!」

 

「「「はいッ!!」」」

 

「ウス」

 

 可愛い後輩たちの返事に満足げに頷いてからホタルはスゥ、と息を吸い込み、

 

「セキガクゥゥゥーーーッ!!」

 

 掛け声をスタート。

 

「「「「「ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!! ファイオゥッ!!」」」」」

 

「ウオーーーーーッ!!」

 

 全員で声を張り上げ、最後はマフィンの雄叫びで締める。

 セキガクの円陣パフォーマンスが完了し、ホタルとミコがトレーナーサークルへと入った。

 

「これよりダブルバトル! クロガネ第3工業3年アンケル選手&ズニ選手vsセキエイ学園2年ホタル選手&ミコ選手の試合を始めます!! 試合方式は2C1D! 切り札システムは1試合につきどれか1つを1度のみ使用可能!」

 

 眼鏡をかけたナックルジムトレーナーのリョウタが明瞭に試合進行を担当する。

 

『さぁー大事なグループリーグ初戦の1番手!! 是非とも勝ち星が欲しい両チーム!! それぞれのタッグが繰り出す先発ポケモンや如何に!?』

 

「そーれ!!」

 

「いっちょうご安全にィ!!」

 

「らむぱぁぁぁい!!」

 

「どぅえッし!!」

 

 アンケルはずつきポケモンラムパルドを、ズニはシールドポケモントリデプスを繰り出す。

 

『クロ工タッグはラムパルドとトリデプス! シンオウで発見された化石ポケモンによるコンビです!』

 

「いくぞ」

 

「りょーかい」

 

「「ロコンッ!!」」

 

「「こんこぉーんッ!!」」

 

 対するホタルとミコは、どちらもアローラロコンが先発だ。無骨な化石ポケモンを、2体の純白ボディが見上げていた。

 

 

 

「アローラのロコンは確かこおりだからー……不味いよ博士! いわタイプのラムパルドにも、いわとはがねのトリデプスにも弱点を突かれちゃう!」

 

「おっ。流石チャンさん、未来のセキガクバトル部員さん。よく勉強しているね」

 

「えへへへ……」

 

 ホタルとミコの相性的な出し負けを指摘するチャンをシゲルが褒めれば、慌てていたのがついつい照れ隠しの笑みを浮かべてしまう。

 

「さてさて、どちらもどんな戦い方をするのやら」

 

 シゲルとしてもせっかく足を運んだ以上は試合観戦を楽しむ腹積もりであった。

 トレーナーを引退した後に全盛期を迎えたと言われている『天才』にして『最強の遺伝子』を継ぐ男は、ほんの少しだけ往年のファイターとしての眼差しを瞳に蘇らせていた。これから始まる試合を堪能するためだ。

 セキガクメンバーの試合ぶりを見るのは夏の地方予選以来だ。だいたい半年ほどでリコたちがどれほど成長しているのかも楽しみとした。

 

 

 

「ロコン! ゆきげしき!!」

 

「こんこぉーん!!」

 

 ホタルのロコンが吼えれば全身より打ち上げたこおりエネルギーはフィールド上空で滞留し、みるみるうちに雪雲を形成する。

 

「ぬぬッ!」

 

 この時点でズニは相手のロコンコンビの手の内を看破した。

 

「そうはさせるか! トリデプス、すなあらしで雪雲を吹き飛ばせ!!」

 

「どぅえええッぷしぃッ!!」

 

『さぁ試合開始早々に天候の奪い合いです! ホタル選手のロコンがゆきげしきを使ったのに対し、ズニ選手はトリデプスにすなあらしを使わせ、即座に天候を塗り替えたーッ!!』

 

 トリデプスの大きなくしゃみにより噴出されたいわエネルギーが砂を纏った突風を巻き起こし、雪雲を霧散させる。

 コレで相手の策を瓦解させることに成功した、そうズニがほくそ笑むところだった。

 

「かなしばりッ!!」

 

「なにッ!?」

 

「こんんぬッ!!」

 

 ミコのロコンがトリデプスの間合いに入り込み、強烈な思念波を叩き付けた。

 

「でッぷぅッ……!」

 

 思念波を前にトリデプスは苦悶の表情を浮かべる。同時にすなあらしの再発動を封じ込められていた。

 

「うおおラムパルド!! とっしん攻撃!!」

 

「らむぱおらぁい!!」

 

 ミコのロコンの左側面を突く形でラムパルドが巨体を震わせ走り込む。

 

「ロコン! もう1度ゆきげしき!!」

 

「こぉぉ〜んッ!!」

 

 ホタルのロコンが再度上空に雪雲を展開。今度は即座に消されることなく雪が降り出せば砂嵐が消失する。

 

「よッし! ロコン! オーロラベール!!」

 

「こんぬらばぁ!!」

 

 ミコのロコンが迫るラムパルドに対し極光の障壁を展開する。

 

「こぉッ……!」

 

 ラムパルドの勢いの前に障壁が突き破られるもとっしんの威力は確かに減退され、肉弾攻撃で弾き飛ばされるミコのロコンは空中で姿勢を制御し軽やかな着地を見せた。

 ダメージは決してゼロではないが、戦闘不能にはまだまだ遠い。

 

「くっ、こいつらやりやがるぜ!」

 

 アンケルとしては今のとっしんで最低でもロコンに痛烈な大ダメージを与えている算段だった。それがオーロラベールによりあっさりと崩された形である。

 

「ひとまずラムパルドはトリデプスの後ろに下げるんだ。かなしばりが解け次第すぐにゆき状態を砂嵐に塗り替えて、向こうがさらに上書きしに来る隙に……!」

 

「「走れ! ロコン!!」」

 

 ラムパルドが脚力を活かして見た目とは裏腹のバックジャンプ。トリデプスの後ろに交代したところであった。

 

「「こんこんこんこん!!」」

 

 2体のロコンは鼻先から左右に分かれ、完全にトリデプスを素通りしたのだ。

 

『あーッとセキガクアローラロコンコンビ、トリデプスをスルーしたーッ!!』

 

「くそ! こいつら……!!」

 

 トリデプスが困惑する中、ズニはホタルとミコの狙いに歯軋りした。

 

 

 

「盤面を整えてから一気に数的有利を取りに行く。ダブルバトルの基本だわな」

 

 ナックルジムはジムチャレンジにおける最終盤に配置されている難関ジムであり、そこの伝統的なトレーニングメニューとしてダブルバトルはキバナが入門した頃より存在している。なんならキバナ自身、ジムリーダーとして挑戦者に課すジムチャレンジの内容に加え、ジム戦のルールもダブルバトルを採用していた。

 他のジムの様子に対して口を出すつもりはさらさらないが、おおよそダブルに関しては他のガラルジムリーダーよりは知っていると自負するキバナとしてもホタルとミコのコンビネーションは妙手だと褒めた。

 

「先に相手に型に入られた以上、後手側は色々切り替えにゃあならんがさて……」

 

 放送席からフィールド全体を俯瞰するキバナからすればロコンコンビの攻め手への対応はそう難しいことではない。ただしそれはキバナがガラルリーグでなければチャンピオンになっていてもおかしくない傑物であるが故の話だ。

 

 

 

『『ホコタテフォーメーション』は崩された。こだわり過ぎるなよズニ』

 

 ベンチやネクストサークルからフィールドで戦う選手に許される声掛けは応援と、ごく軽度なアドバイスに限られている。

 ネクストサークルよりグステン部長はこの盤面をひっくり返す択を思いつけたが故に歯痒かった。

 同時にアンケルとズニが前衛と後衛にハッキリポジション分けして立ち回るコンビネーションを開発。地方予選にて暴れ回った成功体験を引き摺ってしまうところへ理解も示していた。

 人は上手くいった方策やパターンにこだわり、依存してしまうものなのだから……。

 

 

 

「どちらもまとめて粉砕してくれる! ラムパルド! アームハンマー!!」

 

「むぱぁぁぁ!!」

 

「あくのはどうッ!!」

 

「こんッは!!」

 

 ラムパルドが両手にかくとうエネルギーを溜め込んだところにミコのロコンは全身から真っ黒なあくエネルギーの奔流を叩き付ける。

 

「むふうッ……!」

 

 ダメージとしては軽微だが、怯んでしまって動けない。

 溜めかけていたかくとうエネルギーは霧散させられ、アームハンマーは不発に終わる。

 

「こるるるるる……!!」

 

 怯んだラムパルドの右首筋側へホタルのロコンがれいとうビームを直撃させた。

 

「ラムパルド!!」

 

「くッ!! ここは乱戦に持ち込むしか!!」

 

 ズニはボールを構え、トリデプスを引っ込める。

 

「いけアーマルド! ラムパルドを助けるんだ」

 

「あんまるぅッ!!」

 

 交代先はかっちゅうポケモンアーマルド。がっしりした水陸両用タイプのポケモンが殴り込みをかけに走る。

 

「キラリのデータ通り! ロコン交代!!」

 

 ズニが鉄板の連携を自ら御破算にするタイミング含めてキラリは対戦相手のデータを調べ上げ、リコたち仲間に共有済みであった。

 ミコはすぐさまロコンをボールへ戻す。

 

「イーブイ! レッツゴー!!」

 

「ぶーい!!」

 

 アーマルドを指差しながらのミコに応え、相棒イーブイは勢いよく飛び出した。

 

 

 




 『キバナ』
 53歳。ナックルシティのジムリーダーでキャッチコピーは『ドラゴンストーム』。
 ダンデとともにガラルのNo.2として長らくガラルリーグを牽引して来た猛者中の猛者。
 背番号241はナックルジムの永久欠番となることが決まっているんだって。
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