地下大洞窟由来の掘削パワーを存分に振るうファイターたちがセキガクに襲いかかるのであった。
「なかなか厄介な相手みたいだね。おそらくみんなのポケモンはもちろんのこと、トレーナーとしての癖も見抜かれている」
「にしてもああまでやられるとは」
ヒョウタ監督のひと言にクロ工ベンチは息を呑んだ。全国区のチームとして扱われるようになって久しく、ライバルチームにはデータ収集の1つ2つくらいそりゃあされてるものだとは分かっていた。それでもアンケルとズニの鉄板タッグが翻弄されるとまでは考えてはいなかったのだ。
『やはり全国に出てくるチームは違うな』
クロ工メンバーは改めて気持ちを1つにした。セキガクを強敵として認識し直したのだ。
「……」
それほどのデータマンがセキガクにいるのか、というようなクロ工ベンチからの視線に対し、キラリの視線は普段と変わらぬ無表情のまま、フィールドと手元のタブレットロトムを行き来していた。
「なんか奴さんたち、こっちへの印象をだいぶ改めたみたいだな」
「……元よりこちらは全力投球」
ナギの言にも平静のまま返す。キラリとしてはデータマンとしての職務をひたすらに全うするのみであり、渡した後のデータをどう活かすのかもまた収集対象だからだ。
「びりびりエレキ、発射ッ!!」
「ぶいッ!!」
交代してすぐ、イーブイは電撃を飛ばしてアーマルドの背中へぶち当てる。
「まるぅッ!?」
「くッ、相棒技か!!」
効果抜群である以上にまひ状態にさせられたのがアーマルドにはまずかった。ラムパルドの救援に赴く足を止められたからだ。
「今はこちらが盾になる時か! ラムパルド戻れ!!」
右の顔面から首筋辺りまで凍らされたラムパルドをアンケルが引っ込めたのを見てホタルはZパワーリングへチラと視線をやる。
『キラリのデータ通りならば……』
「防ぎ切るぞユレイドル!!」
『よし!!』
『ここでアンケル選手、ラムパルドを交代! 今度はホウエン発の化石ポケモンコンビを展開だーッ!!』
「ゆくぞッ!!」
アンケルがいわつぼポケモンユレイドルを繰り出し、フィールドに着地すると同時にZパワーリングを起動させたホタルはゼンリョクポーズを決めた。
「向かい風の強さは己のゼンリョクの証!! 決めるぞロコン!!」
『あーッとホタル選手、ここでZワザだーッ!!』
「それなら私たちも! 決めにいくよ相棒!!」
「ぶいいぁッ!!」
ホタルの左隣でミコが握り拳を見せれば、イーブイは体が痺れて動けないアーマルド目掛け全力疾走。
「「ぬ、ぬううッ!!」
「レイジングジオフリーズッ!!」
「必殺!! ブイブイブレイク!!」
「こおおおおおん!!」
「ぶぃありゃあああああッ!!」
Zパワーに満ち満ちたロコンは強烈な凍気を全身から放ってユレイドルへ叩き付け、イーブイは全力疾走のままにアーマルドの背中へ肉弾突撃をかます。
Zワザと必殺技のエネルギー爆発がモヤを生み、フィールドへ向けられる視界を封じていった。
「うわっはぁ!! 決まった〜!!」
ネクストサークルからアンは快哉する。
ホタルとミコが翻弄するままに攻め手を通し切ったので勝ちを確信していた。
「セキエイ学園……タマ大を破ってきただけのことはある」
グステンは昨年の全国大会のことを思い出していた。グループリーグを突破し、準決勝でタマ大部長のヒカミに敗れベスト4に終わった苦い記憶だ。その雪辱を晴らすためにも鍛錬を積み重ねてきたのだが、いざ全国まで駒を進めてみればタマ大は敗れ去っていた。
もとより油断、慢心するつもりのないグステンであったが、ここまで鉄板タッグがいいように立ち回られては今はまだグループリーグ、とはとても言えなくなった。
これほどのチームならばヒカミたちが負けてもおかしくはないと思えた。
『セキガク2年生タッグ、ここで切り札システムを切っての猛攻!! クロガネ第3工業タッグは果たして防げたのでしょうか!?』
「むむッ!」
モヤが晴れていき、まずいの1番に皆の目に止まったのはうつ伏せに倒れたアーマルドの姿だった。
相方の救援のためとはいえ、相棒イーブイの猛攻を前に背中を晒したのが仇となった形だ。ブイブイブレイクの直撃が体力をゴッソリと削り切った。
「アーマルド、戦闘不能! イーブイの勝ち!!」
リョウタがジャッジする中でロコンは警戒の構えを解かない。
「ごくりんこ」
Zワザを耐え切ったユレイドルの細長い首が動き、頭から胴体へエネルギーを飲み込んでいく。するとみるみるうちに全身の凍傷が治癒されていくではないか。
「よーし、よく耐えたぞユレイドル」
「たくわえるからののみこむを使ったな。たくわえるにはポケモンの防御と特防を高める効果がある。それを活かしてロコンのZワザを耐え抜いたんだ」
「流石は全国区。大技一発決められてすんなりやられてはくれねェか」
フリードもナギも確かにクロ工側のガッツを評価する。それでも危機感は何ら浮かんではなかった。ユレイドルの粘りなどは誤差レベルでしかないからだ。
「ぐぬう、こうなればせめてロコンだけでも仕留めてくれる!!」
1体も倒せずに負けるのとある程度食い下がるのとでは流れの変わり具合も違う。この即断が出来るのもアンケルの強みだ。
「るぇぇぇいどあ〜!!」
「そうはさせるかーッ!!」
ユレイドルがその壺のような頭部を縁取る8枚の触手をロコンへ伸ばさんとしたところであった。
「ぶいぃこちゃあ!!」
突出したイーブイが冷たく凍った黒い結晶をユレイドルの顔面にぶつけたのは。
黒い結晶は着弾しては弾け、くろいきりを発生させてゆく。
「こちこちフロスト……! この状況じゃ霧は目眩しくらいならもんだけどね」
本場のこおり技に比べればパワーも精度も劣るだろう。それでもこの一瞬を稼ぐことこそが勝利の鍵だ。
「あとは任せたよ、ホタル!!」
「承知した!! 決めるぞロコン!! ムーンフォース・スパイク!!」
「こぉぉぉんらぁッ!!」
Zワザ直後の全身の硬直が解け、エネルギー供給が間に合ったロコンはフェアリーエネルギーの光球を空中へ打ち上げてはジャンプし、右の前足を使って激しくスパイク。
「るどぁッ!?」
豪速球が顔面にムーンフォースが叩き込まれたことでくろいきりが晴れ、ユレイドルは左半身側をフィールドに横たえた。
「ユレイドル、戦闘不能! ロコンの勝ち!! よって勝者、セキガク2年ホタル選手&ミコ選手!!」
スパイクを決めたロコンが着地すると同時に歓声が上がる。
その声の数は、セキエイスタジアムでの地方予選のそれとは比べ物にならないくらい多く、大きかった。
『団体戦においてペースを握るのに重要な初戦のダブルバトルを制したのはセキエイ学園! 見事なコンビネーションで勝ち星を挙げました!!』
「よーし!! ホタル副部長たちナイス!!」
「流石はホタル、セキガクの『顔』だ。ミコも怪我をしてチームから離れていた間に大きくなった自分の『背』を示してくれた」
ロイは無邪気に喜び、マフィンは満足げに頷いていた。
全国の舞台において初戦を飾るのはあの2人の他になしという期待に、最高の形でホタルとミコは応えたのだ。
「すまんグステン。いいようにやられちまった」
「気にするなぃ。手を抜いてたわけじゃねェのは見りゃあ分かる。相手がきっちり上回ってきただけのことよ」
ベンチに引き下がるアンケルとズニの肩に手を置きながらグステンは2人の健闘を労う。
「全国区ともなりゃあ予選の初戦を落としたぐらいで慌てることも騒ぐこともなし、か。空気の1つも悪くなってくれりゃあしめたもんだったが」
タッグと入れ替わりにトレーナーサークルに入るグステンの対応は敗れた仲間を迎え入れるに完璧なものだとナギは舌を巻く。
190cm台の鍛え抜かれた巨体に1敗したチームを支える分の覇気が上乗せされ、さらに巨大に見えていた。
「これよりシングルバトル2! クロガネ第3工業3年グステン選手vsセキガク1年アン選手の試合を始めます!! 試合方式は3C1D!!」
「おっしゃあ〜ッ!! 決めてやるもんね!」
「アン、凄く気合い入ってる!」
「いけいけー!!」
リコもロイもアンに声援を送る中、イケイケとなっている潮流に待ったをかけるのを憚るホタルには、この試合がかなり険しいものとなる確信めいた予感があった。
『辛い展開にはなるだろうが、そこを通してみないことにはアンの適性は測りかねるからな』
学年の違いはそのままポケモンのレベル差に直結することも多い。まして相手は部長が出て来ている。すんなり連勝を決められるというのは楽観が過ぎる話だ。
ホタルがアンに対して望むところが表面化するのは、全国大会を終えて年を越し、チームが新体制となる3学期を迎えてからのことである。
「いくよ! フタチマル」
「たぁぁぁッち!!」
先勝の勢いに乗り、自身のテンションのままにアンはフタチマルを繰り出す。
「悪いなお嬢ちゃんよ。ここはガッツリいかせてもらう!!」
言いながらもグステンからすれば試合になるならばやることに変わりはない。ダブルスが勝っていようと負けていようと、対戦相手が誰であろうとも、だ。
「がぁ〜ッ!!」
グステンが繰り出すは灰色の翼竜……その分類の通りにかせきポケモン。化石から現代のテクノロジーで蘇るカテゴリーの代表格たるプテラだ。
「うッ!?」
アンが驚くのは、グステンが被っているヘルメットのライト部分が持ち上がることで煌めくキーストーンが見えたことだった。
「今こそ力を尽くす時! この手で開こう勝利への道!! メガシンカだぁい!!」
ヘルメットのキーストーンが起動してはプテラは虹色の繭に包まれる。
「がぅあぁ〜ッ!!」
『あーッとグステン選手! 試合開始早々にメガシンカを発動!! メガプテラの登場だぁーッ!!』
「それならこっちだって!」
全身から鋭いツメのような黒い岩が突き出た攻撃的なフォルムのメガプテラを前に、アンもまた出し惜しみはしなかった。たじろいではいられない。
「掴むは1つ! 勝利の輝き!!」
アンが力一杯オーブを投げ込めば、フタチマルはクリスタルに包まれることでテラスタルを発動。
「たぁッちぃッ!!」
みずのジュエルを被り、全身から眩い輝きを放ち続けるテラスタル状態へ突入をした。
『すかさずアン選手はテラスタル!! 両者早々に切り札を使い、競り勝つのはどちらかーッ!?』
「いっちゃえ〜!! フタチマル!! テラスタルパワー全開ッ!!」
「たちゃあまぁ〜ッ!!」
いきなり切り札を使った全力勝負というのはアンの高いテンションとしても歓迎だ。
ミジュマルは両腿部分に収納してあるホタチを二刀流で構え、テラスタルで増強されたみずエネルギーで刃を形成する。
「サーッ、こいッ!!」
「回れば大体なんとかなる!! フタチマル!! ホタル二刀流!! 突撃回転斬りだぁ〜!!」
「たちゃあままま……!!」
『あーッと! フタチマル、シェルブレードを二刀流で構えながら回転!! メガプテラめがけ突撃だーッ!!』
『ほぉ、なかなかユニークじゃねェの』
独楽のように激しく回転しながらフタチマルはプテラへぶつかりにかかる。
「ん……アレは!?」
フタチマルの回転殺法を受けに入るプテラの全身が光り出すのを見たネクストサークルのドットは、アンが拙攻であると思い至るが、気付いた時にはどうにも出来なかった。
「たぁちゃりゃあッ!!」
フタチマルは回転の勢いを込めて思い切り二刀を叩き付ければ、
「「ふぁッ!?」」
シェルブレードを形成するみずのエネルギーブレードがポキリと折れてしまった。
「これぞチャンピオンサトシ考案の『ゴッドバード・バリア』!! 蓄えたひこうエネルギーはそれなりに防御に消えたが、技発動の分には問題なし!!」
熱狂的なサトシのファンであるドットの中でフタチマルが斬りかかる直前に浮かんだ情景がそのまま現実のものとなっていた。
そして、この後の展開といえば……
「くらわせろプテラ!!」
「がぅらぁぁぁッ!!」
防御に転用していたゴッドバードのエネルギーを本来の形で解放したプテラのトップスピードにフタチマルは巻き込まれた。
「たぁちゃがぁッ!?」
「フタチマルッ!!」
あっという間にお腹からはプテラの頭、背中からはスタジアムのフェンスで強烈なサンドイッチにされたフタチマル。
プテラが頭を引っ込めて悠々とニュートラルポジションへ飛び去れば、フタチマルはそのままうつ伏せに倒れ込んでしまう。
テラスタルが解除され、目を回す表情からリョウタはコールした。
「フタチマル、戦闘不能! プテラの勝ち!! よって勝者、クロガネ第3工業3年グステン選手!!」
『グステン』
12歳。クロガネ第3工業学校ポケモンバトル部部長。
剛勇自慢の勇士たちを束ねるは彼らに負けじと鍛え抜かれた上腕二頭筋が由来の剛力無双。
化石ポケモンプテラをメガシンカさせればとびっきりのパワーとスピードを兼ね備えた全国区の実力を遺憾なく発揮するぞ。
cv想定は小野友樹さん。