奮闘するアンだったが地力の差は歴然。あっという間に敗れてしまうのであった。
「シングルバトル2はグステン部長がアン選手を相手にまさしく貫禄勝ち! 見事に切って落としてクロガネ第3工業はコレで1勝取り返しました! 団体戦の決着はシングルバトル1で決まります!!」
「エネルギーチャージに時間のかかる技の発動に際して溜りかけのエネルギーを技とは違う活かし方で扱う……今や学生レベルでも筋のいい奴はやってるもんなんだな」
技エネルギーの流動活用とは確か、アサギ塾のナンテ塾長が最初に提唱した理論だったかとキバナは思い出す。
スマホロトムによる自撮りパフォーマンスから軽薄なイメージが先行しがちで、実際重いか軽いかで言えばいわゆる軽い性質ではあるのがキバナという人間だ。それでもジムリーダーとして長らくナックルスタジアムの宝物庫を預かり、そこにある蔵書にすべからく目を通している程度には勤勉だった。蔵書に手を付けるきっかけは『暇潰し』という側面が大ではあるが。
ライバルとして今でも打倒を掲げるダンデに勝つためならば、どんなに突拍子もないような話でもとりあえず試してみる積極性も若い頃から変わっていない。
「各スタジアムにて行われているグループリーグにおいて控え戦はありません! もし1勝1敗1分けとなれば、そのまま団体戦としても引き分けとして扱われます!! グループリーグ初戦に相応しい激闘を制するのは果たしてどちらでしょうか!?」
「くぅ〜ッ! 回転が足りなかったのかな? にしても凄かったなぁメガプテラ!!」
倒れたフタチマルを戻してからトレーナーサークルを出るアンは努めて明るさを全面に押し出す。
決して俯いたりはしなかった。自分が負けてもチームが負けたわけではない。ならば暗い影は落としてはならない……勝っても負けても明るく振る舞うことが自分の役割であるとアンの中でうっすら自覚が芽生え出していた。
「ドット! あとよろしくゥ!」
「ん」
アンにドットは最低限のリアクションを返してからトレーナーサークルへ入る。
ドットの意識は既に戦闘モードへ切り替わっていた。側から見れば普段とさして変わらぬ仏頂面のままではあるのだが。
『この試合はボクが決めてやる……いつまでもあいつにデカいツラさせてられるかよ』
背中に感じるリコの視線に、ドットは静かに発奮していた。無論、対抗心からである。
「さぁ、決めてくれよな。次期部長さんよ」
「グステン部長……!?」
グステンに2年生のモンチセリはギョッとした表情を向ける。
次期部長の話などは少なくともモンチセリの聞こえる範囲において、今の今まで部内でろくに議論されてこなかったのだ。
「待ってください! 俺は今までことあるごとに生意気かまして部長や先輩の言うことに楯突いて、部の空気を悪くしてたんスよ? なんでそんな……」
「憎まれ口を叩いてチームのガス抜きをしてくれてたこと、気付かぬほど鈍い男じゃないぜぃ。俺はよ」
「……!!」
図星を突かれたモンチセリの背をグステンは押してやる。
「部長!!」
グステンは言葉を返さない。ただ口角を目一杯吊り上げて見せてから背を向けベンチへと戻っていく。
こうなってしまっては、モンチセリとして出来ることはトレーナーサークルに入り、勝利を収めることのみだった。
『やるしかねェ……!』
「これよりシングルバトル1! クロガネ第3工業2年モンチセリ選手vsセキガク1年ドット選手の試合を行います!!」
「クロ工はやっぱりあのグステンって部長さんが要注意人物で、お姉ちゃんが直接当たるしかないんだよね?」
「だろうな。オーダーとしてはクロ工は基本的に2勝先取系だから次もグステンはシングル2に入るはず。そこで姉さんが仕留めるはずさ」
セキガクとクロ工の試合は開始時点からポケモンスクールも観戦していた。
マヤ部長率いる選手団は控え室のモニターから、応援団であるタダノとライカは客席からそれぞれここまでの流れを観ている。
タダノとライカの興味といえば、この後姉たちが戦うことになるクロ工に比重が置かれていた。
「セキガクは余程選手層が薄いんだな。1年をシングル2本に回すしかないなんてさ」
マヤの所属するポケモンスクールにしても選手としては20人ほどとそこまで多い方ではない。
それでも総勢9人で、控えを加えた公式戦方式の練習試合が人数の関係上どうしても出来ないセキガクに比べれば余程大所帯といえた。
タダノは、セキガク側ベンチに一瞬だけ哀れみの視線を向けてからすぐフィールドへ向き直した。
「いくぞ! ぐるみん!!」
「ぐるくい〜ん!!」
「やるぞカブトプス!!」
「かぁぁッぷす!!」
先発としてドットのぐるみんとモンチセリのこうらポケモンカブトプスがボールから飛び出し対峙する。
「カブトプス! アクアジェット!!」
「ぷしあああッ!!」
睨み合いもそこそこにカブトプスが全身に水流を纏い突撃。先制技のスピードを存分に活かしての速攻だ。
「打ち返せぐるみん! ポイズンテール!!」
「ぐるぶぅん!!」
「ぬうッ! カブトプス!!」
「ッ!!」
待ってましたとばかりにぐるみんが反時計回りに全身を回転させ、どくエネルギーを纏った尻尾をフルスイング。
迎え撃たれた形のカブトプスはすんでのところでアクアジェットの軌道を変え、跳躍をした。
「10まんボルト!!」
「ぐぅ〜るぅ〜…!!」
「そうはいかんぞ! 輝け! カブトプス!!」
「みぃぃぃん!!」
空中へ逃れたカブトプスに対してぐるみんが電撃を放つところにモンチセリがテラスタルオーブを投げ込む。
「かぷしゃあッ!!」
岩の宮殿を頭に打ち立てたいわジュエルの輝きを全身から放つカブトプスは10まんボルトを余裕を見せつつ耐えて見せた。
『モンチセリ選手、カブトプスにテラスタルを使用!! いわテラスです!!』
『いわ、みずタイプのカブトプスがいわ単タイプ扱いとなれば10まんボルトも効果抜群じゃあなくなる。お手本のような守りのテラスタルだぜ!』
「カブトプス、あまごいッ!!」
「かぶ〜…! かぶ〜…!」
カブトプスの全身から発射されたみずエネルギーが雨雲となり、フィールド上空に展開される。
程なくして雨粒が降り注ぎ始めた。
「いわ単タイプになったら……ぐるみん!!」
「ぐるる!!」
皆まで言う必要はなかった。『ばかぢからで捻り潰すのみ』とドットとぐるみんはコンセンサスが出来ていた。
「げんしのちからだ!!」
テラスタルジュエルが一際輝けば、カブトプスの周囲はもちろん、フィールド中にいわエネルギーの凝縮された岩塊が生成され、浮遊し始める。
ドットはそれら岩塊をカブトプスの制御により襲いくる弾幕と予測した。
「いけぇカブトプス!!」
「かぷしッ!!」
「なにッ!?」
『あーッとカブトプス! 浮遊する岩塊同士の合間を飛び交い、猛スピードでニドクインを撹乱だーッ!!』
「出たな。モンチセリ流すいすい殺法……! 地方予選にてアレを破れた者は1人としておらんかったぜぃ」
ふふふ、とベンチからグステンは腕組みしながら呟く。
来年を託すと決めた後輩の戦法が上手く発動したのを見て、グステンは勝ちを確信していた。
雨音の中にヒュンヒュンという風切り音が混ざる。
「ぐぅッ…!」
「速い……!」
げんしのちからによりまんまと設置された岩塊を足場としてめまぐるしく跳び回るカブトプスの鎌が、ぐるみんのボディへ着実に切り傷を増やしていく。
『すいすいとアクアジェットを合わせることで凄まじいスピードを叩き出してる、と』
ドットもまた、キラリからモンチセリのデータは受け取っていた。
驚かされたのは、実際に目の当たりにしたすいすい殺法のスピードが想像以上であったところだ。
『スピードで翻弄しながら徐々にダメージを与え続け、フィニッシュに重い一撃をかましてくるのが奴の定石なわけだが、ぐるみん相手ならまず間違いなく背中からはない』
ぐるみんことニドクインの背には毒がたっぷり染み込んだ棘がある。そんなところにわざわざ突っ込む馬鹿ではないだろうとドットは踏む。
『決めに来るコースは前から以外あり得ない……!!』
「ぐるみぃ……!」
四方八方から鎌で襲われながらもぐるみんは右腕に力を込め、爪先をコキ、コキと鳴らす。
「カブトプス!! 仕留めにいくぞ!!」
モンチセリの号令に呼応するように、カブトプスは両腕の鎌にみずエネルギーを纏わせてゆく。
『向こうは弱点を突けるつもりでいる。下手にテラスタルすれば戦い方を変えてくるかもしれない』
ぐるみんの右腕が少しずつパンプアップされる。
『チャンスは1度きり。捉えられればボクの勝ち、空振ったらばジリ貧で負けだ!』
「シェルブレードをくらえぃッ!!」
「かぷしゃあああああいッ!!」
カブトプスが鎌をクロスに構えて飛び込む。そのコースは……ぐるみん正面!
「全力の右ストレートだぐるみん!! いっけえええええッ!!」
「ぐるぐるみいいいいい!!」
ぐるみんの右腕が筋肉により瞬間的にモリモリと盛り上がり、圧倒的な密度となっていく。
『あーッとニドクインの右腕がみるみるうちに肥大化していくーッ!!』
『ははッ、やるモンだな! ばかぢからのかくとうエネルギーを右腕に集中させたか』
放送席が盛り上がる中、カブトプスの鎌と、ぐるみんの右拳が衝突し、重く低い音がスタジアム中に響く。
次いで迸るはわざエネルギー同士が衝突することで発生するスパーク現象。
「ぷぷし……!?」
「ふ、り、ぬ、けえええええッ!!」
「んんんりゃあああッ!!」
ドットの絶叫に双眸が輝き、ぐるみんは力の限りを出し切れば、
「かッぷしゃがぁ〜!!」
カブトプスは殴り抜けられた衝撃で吹っ飛ばされ、空中に浮かんでいた岩塊に背中を叩き付けてからうつ伏せでフィールドへ落着した。
「ぐるぅ……!」
筋肉で膨張していたぐるみんの右腕は元のサイズに戻り、全身からは蒸気が吹き出す。ばかぢからによるフルパワーを発揮したことで肉体が強制的なクールダウンに入っていた。
「な、なんというパワー……カブトプス!」
モンチセリが絶句する中、フィールド中に浮遊していた岩塊がボトボトと落下する。カブトプスの制御下から外れたためだ。
そしてカブトプスのテラスタルジュエルが霧散する。そこには完全に目を回している表情があった。
「カブトプス、戦闘不能! ニドクインの勝ち!! よって勝者、セキガク1年ドット選手!!」
『試合終了ーッ!! 予選Dグループ、まず初戦白星スタートを切ったのはセキエイ学園ですッ!!』
「ッッッしゃあッ!!」
あまごいで生成された雨雲が散り消え、元の晴れ間が戻る中ドットはガッツポーズとともにシャウトする。
「ぐるくいん」
勝ち名乗りを受けるぐるみんは、そんな主人に慈愛に満ちた顔を向ける。
ニドクインは子育てに適した生態を有したポケモンであり、潜在的に強い母性を持つ。
成長と進化を重ねたことで主人であるドットには自分の子供のように深い愛情を向けるようになっていた。
「ドット〜!!」
「や、やめろ馬鹿!」
そんなドットに引っ付き、アンが頭をもみくちゃにする。
「よくやってくれたなドット。見事な勝利だった」
整列でベンチから出てくるホタルの柔和な笑みに、ドットはアンを振り解くのも忘れて口角を上げながら返した。
「……ウス」
「俺の、俺のすいすい殺法が破られた……!?」
「いや、そうじゃねェ」
カブトプスをボールに戻し、呆然とするモンチセリの意識をグステンは肩をがっしり掴んで引き戻す。
「監督が言うには、カブトプスの跳躍コースと締めの1発の突入ルートがあらかじめ読まれてたんだと」
「それじゃあ、俺がワンパターンだったってことスね……」
「それ以上に相手の覚悟がキマッてたんだよ」
気落ちするな、とグステンは言外にモンチセリに伝える。
コレはグループリーグ。残りの試合次第で予選突破もじゅうぶん狙えるのだから。
「Dグループ予選、クロガネ第3工業学校vsセキエイ学園の試合は2勝1敗でセキエイ学園の勝利とします!! 両チーム、礼ッ!!」
「「「「「ありがとうございました!!」」」」」
「やったやったぁ〜ッ!!」
「ほっほーう!」
センターサークル内での儀礼の挨拶が済めば客席からは拍手が送られ、チャンはオドリドリと手を繋ぎながら飛び跳ねる。
『ただいまより、勝ちましたセキエイ学園の栄誉を讃え同校の校歌を演奏し、校旗の掲揚を行います』
ウグイス嬢のアナウンスから、リコたちの聴き慣れたメロディが響き渡る。
赤きほのおのように燃え
己の道を駆け抜けよ
緑のくさのように萌え
友と健やかに伸び行けよ
ああ ああ 我らが母校
セキエイ学園
全国の舞台に流れる校歌からリコたちは勝利を実感する。
セキガクバトル部は、全国大会にて最高のスタートダッシュを切ったのであった。
『セキエイ学園校歌』
1番
赤きほのおのように燃え
己の道を駆け抜けよ
緑のくさのように萌え
友と健やかに伸び行けよ
ああ ああ 我らが母校
セキエイ学園
2番
青きみずのように流れ
大海原を渡り行けよ
黄色きでんきのように弾け
正しき信念貫けよ
ああ ああ 我らが母校
セキエイ学園