クロ工の次期部長として指名され奮起するモンチセリを相手にパワー爆発、目の覚めるような勝利を収めるのであった。
午前9時30分に開会式から、10時に始まったセキガクとクロ工の試合は11時を少し過ぎた頃に終了した。
試合終了から1時間半をかけてナックルスタジアムではフィールド整備が行われ、試合を行なった選手のポケモンたちは併設されたポケモンセンターでの回復を受けていた。
次の試合は12時30分過ぎにクロ工とポケモンスクールが激突する予定だ。その試合終了時刻からおおよそ1時間と30分後にセキガクがポケモンスクールとの試合を行い、グループリーグの順位付けがされるのだ。
「ジャスティスの会のバトルガールたちも頑張ってはいたが、やはり役者が違いすぎたな」
ガラル地方といえばカレーライス、ということでマフィンによるひと声からスタジアム内部にあるダイナーにてセキガクバトル部は皆昼食をカレーとしていた。無論、支払いは全てフリード監督の自腹である。
昼食を食べながらキラリのタブレットロトムが再生する各スタジアムの予選の模様、最新の試合記録をチェックしているのだ。
試合記録にはアサギ塾がジャスティスの会に完勝する様が映し出されていた。
「全国大会ともなればアサギ塾も本腰を上げてるわけだ。『帝王』ジャキと至天王フルメンバーで固めた盤石のオーダーだね」
ナギに続き、ミコも戦慄を口にする。
初戦のダブルバトルに至っては、ナオリとシナンの2人がかりですらジャキのバンギラス1体に手も足も出ない有様であった。
相方のエイケイが繰り出していたオオニューラはフィールドの隅でジッとしていたのみである。
「ウルト、凄く試合したがってるだろうな……」
ロイには映像の端、応援席にたまたま映っていたウルトのなんとも恨めしそうな表情が印象的だった。
完全実力主義であるからこそ、1軍メンバーでない自分の無力さが溢れ出ていた。コレに関しては事実上学校総出で学生バトルに本気なアサギ塾にいる以上仕方のない話ではあるが。
「Aブロックはまぁほぼほぼアサギ塾だとして、Bブロックは意外だな」
「……オレンジアカデミーに関してはデータが不足している」
Bブロックの初戦、オレンジアカデミーとカナズミトレーナーズスクールの一戦はオレンジアカデミーが勝ち抜いていた。
ホタルが呟き、キラリがチラと1年生たちを見る。
言葉はなくても『何か知っていることはないのか?』と視線から訴えていた。
「他地方交流で仲良くなって練習試合とかしましたけど、正直その頃は私たちも無我夢中で必死だったんでキラリ先輩みたいに詳しくデータ化できるようなのは……」
「……そう」
リコが話すのでキラリは納得を示し、次の試合映像を再生すべくタブレットロトムを操作し始める。
創立800年以上の歴史を持つオレンジアカデミーが独自のカリキュラムとして取り扱っているものの中には『宝探し』という課外活動が存在する。
生徒たちはその中でジムチャレンジなり学業に励むなりして自分の人生における『宝物』を見つける、というコンセプトで、コレを目当てに進学先に選択する志望者も数多い。
反面、一般的な学校が保有する部活動の多くがこの宝探しの中へ集約されるために全国規模の校外活動があまり盛んでない側面も見られた。
他の学校に比べ極めて長大な運営実績を持ちながらも今回で参加回数が3回目だというのもその辺りが理由であろう。
「なんだか、この人たちのポケモンたち苦しそう……」
チャンとシゲルもリコ目当てに合流し、セキガクバトル部に混じって昼食をご一緒していた。
無論、試合記録も一緒に観ていたところでチャンがシゲルの顔を覗き込む。
エクシード学園のサンゴが繰り出したオニゴーリの放つ強烈なブリザードがパシオアカデミーのタッグを薙ぎ倒す様を観ていたシゲルは小さく首肯をした。
「あのモヤは……!」
ミコは全身に悪寒を覚える。
今年の春休み、帰省していたキッサキシティに突如現れたマニューラもまた映像の中のオニゴーリと同じくピンク色のモヤを放ち、力に呑まれた瞳をしていた。
襲い来る鉤爪に切り裂かれ、消えない傷を残した背中の疼きにミコは口元をキュッと締め付ける。
「そういえば……!」
「どったのリコ?」
チャンと出会い、オーキド研究所へ出入りするきっかけとなったオニドリルも映像の中のオニゴーリとそっくりな現象下にあったとリコもその時のことを思い出す。
「今のふぶき攻撃だけど、このレベル帯のオニゴーリが体内に保有出来るタイプエネルギーの倍近くのパワーが出ていたね。それにボールから飛び出してずっと身体中より噴き上がっているピンク色のモヤ……アレはなんなんだろうねフリード博士?」
シゲルの問いかけ、その声音はわざとらしさの極みであった。
今年の6月にマサラタウンの町民から話を聞き付け、ゲットに漕ぎ着けた『様子のおかしなオニドリル』を助手のケンジが出入りするタマムシ大学に送って経過を尋ねてみたところ、ポケモンの精神を凶暴化させ、エネルギー機関の制限を取り払う働きをする極めて特殊な粒子が体内に蔓延していたと報告を受けていた。
フリードに問いかけてみたのはその辺りの報告とは関係ない。ただ単にオニゴーリを見た瞬間、僅かな表情の強張りを見逃さなかっただけのことである。
「……ッ!」
「なにか知っているなら話してあげた方がいいんじゃあないかな。現状どうにかならないとしても、あらかじめ頭の片隅にあるのとないのとではだいぶ話は変わってくるし気の持ちようも違ってくる。なにより、この子たちのためでもある」
シゲルに諭され、皆からの視線に晒され、ついにフリードは観念するよりなかった。
「俺は……俺は、元々エクシード社で働いていた。ほんの短い間だったが、アサギ塾からパルデアの高校、大学までずっと主席だったところを評価してもらえてスカウトを受けたんだ。それでウキウキでガラルへ行ってみりゃあ、なんと創業者一族様のお屋敷に住み込みさせてもらったんだ」
「そっか。だから監督はアメジオと知り合いだったんだ」
「ポケモンバトルの専属家庭教師って奴だな。そっちの分も気前よくお給料は弾んでくれたよ」
ロイに返すフリードの笑みに力はなかった。
ここまで話したことがエクシード社での絶頂期であると表情が語っていた。
「……俺がこうまで優遇されてたのもポケモン博士の資格を持ってたからなんだろうな。だからこそ金と待遇で以て抱え込もうとした」
コップの水を一気飲みし、吐息ののちに言葉を続ける。
「俺が配属されたのは本社ビル……昔ローズタワーって言われてた場所の地下に構えられてた研究部署だった。そこは、地上の部署からも認知されてない奴らの裏の顔……ギベオン会長お抱えの実行部隊『エクスプローラーズ』の心臓部だったのさ」
「実行部隊?」
「大企業てのは大体がポケモン愛護をスローガンに掲げて傷付いた野生ポケモンの保護事業を大なり小なり抱えてる」
「なんのために?」
「外部へのアピールついでに自分たちの開発途中の製品のサンプルにするためだな。コレ自体はデボンやクエーサー社だっていくらでもやってる話が……エクシード社のそれは確か公式には認知されてねェんだったような?」
ロイの疑問にナギが簡潔な解説を入れる。
「そこで行われていた、いや、今も行われているんだろうな。俺が見てきたものはとてもじゃあないが正気の沙汰ではなかった」
フリードの告白に皆息を呑む。
「そこで専ら進められていたのは『ラクリウム』という鉱石の研究だった。ルーツのよく分からんその鉱石には、ポケモンの精神を昂らせ、体内のエネルギー管理器官を暴走させる作用が見られた。奴らは日夜、そのラクリウムを利用したポケモンの強化実験を行なっていたんだ」
「じゃあ、エクシード学園の選手たちが使っていたポケモンたちのあのパワーも……?」
「おそらくはラクリウムの効力を利用するための技術が実用段階にまで至ったんだと思う」
「……試合記録を確認する限り、ボールそのものに仕込みがあると思われる」
キラリが指摘する通り、記録内ではドーピングを疑ったパシオアカデミー側の監督が審判団に抗議を入れ、エク学側のボディチェックが行われていた。
「奴らは多分、ボールの中にポケモンに影響がある分量のラクリウムを仕込んだんだろうな。シンオウにはボールデコっていうボールの開閉ギミックに演出を加える技術がある。それの応用だろうさ」
フリードの語る中、審判団はエク学側に違法性、反則性は見られないと通達を受けるので、パシオの監督をしている大柄な筋肉質で厚みのある巨漢は坊主刈りの頭を抱えながら引き下がっていった。
「ボールにも異常が見られないとジャッジされたならば、そのラクリウムなる鉱石の作用をもたらすための仕掛けは投入後は残らないと見た方がよさそうだね」
シゲルは、ラクリボールの効力が現状は充電方式であると看破していた。
「俺は……3ヶ月も経たないうちに連中がやっていた実験で我を失っていくポケモンたちと、それを見て狂喜乱舞する同僚たちが怖くなって逃げた。そこからはいつ奴らに目をつけられないかビクビクしながらの世捨て人生活さ。そんな中でセイヨさんに拾われた」
「だから監督はずっとぐうたらしてたんだ」
アンは妙な部分で合点する。
「監督がえらいもん見せられたのは分かったとして話を纏めるぜ。つまるところエク学の奴らは事実上合法的なドーピングをかまして来るときたもんだ」
「あの……」
「なんだ?」
ナギの言葉を遮るようにリコか口を開く。
「その……アメジオと、アメジオを信じてる人たちは、そういうのに手を出したりしないと思います」
「そりゃなんで」
「なんで、って言われると……えっと……」
「俺もリコちゃんの言う通りだと思う。リコちゃんの言ってることだから、じゃあないぜ?」
リコにマフィンが同調する。
「合同合宿の時にいくらか話したけど、アメジオってのはどこまでも爽やかな青年だった。それこそエク学の空気に似つかわしくないほどにね。そんな漢が、たとえ審判団を騙くらかして、法的にもセーフだからといってあんなドーピング行為に手を出すとは思えないね」
「部長……」
視線に応えるようにマフィンはウインクを返す。
マフィンがアメジオを高く評価してくれていたことが、リコは嬉しかった。
「漢アメジオの身の潔白さは分かったが、そのアメジオがオーダーされてねェんだよな?」
「……2人の言い分は希望的観測に依っている。ただ、2人の鑑識眼は信じてもいいと思う」
ナギに反応を振られたキラリとしてもデータもへったくれもない、と自身の意見に自嘲する。
それでもマフィンはさておき、リコのひたむきさを知っている以上無碍にもしたくはなかった。
「ともかくエク学については当たるとすれば決勝トーナメント……フェルムの学習塾が2勝するかもしれんし、プレーオフだってあり得る。今のボクたちが優先すべきは次のポケモンスクール戦だ。まずは目の前の試合から集中していこう」
「「「はいッ!」」」
「ウス」
ホタルが話を纏め、下級生の返事で綺麗に締め括られる。
フリードのぐうたらぶりに思うところをずっと抱えていたホタルだったが、相応に事情があったと分かれば納得するよりなかった。
「お前ら……」
「いいチームだね。フリード監督」
シゲルの向けられる笑みにフリードは視線を返せなかった。
まだまだこいつらのために働き切れてはいない……つい最近心を入れ替えたに過ぎない自分を恥じていた。
だからこそぐうたらしていた分を取り返さなければならないとフリードは思っているのだし、シゲルもそういうフリードの真摯さが好印象であった。
『試合終了ーーーッ!! ポケモンスクール、クロガネ第3工業相手に連勝を収めストレート勝ち!! セキエイ学園とのグループリーグ突破を賭けた1勝同士の試合になります!!』
昼食を済ませ、客席から観戦したポケスクとクロ工の試合は完全にワンサイドゲームと言うよりなかった。
鉄板コンビも、グステン部長も完封されたのだ。
「……地方予選までのデータだけでこうまでマークを強めることは容易ではない。ポケスクには、直前の試合含めてリサーチの間に合う優秀なデータマンがいる」
「キラリん以上のってか?」
ナギの軽口にキラリは返さない。
元より自分がデータマンとして1番だと自負している訳でもない。
誰かと比べてなんてのは本当にどうでもいいという意思表示をナギは受け取る。
『マヤ……』
挨拶を済ませ、校歌斉唱もそこそこに引き上げるかつての同志の視線に気付かぬマヤではなかったが、振り返ることもしなかった。
この後否応なく対峙することになるからだ。
『ボールデコ』
シンオウ地方のコンテスト界隈発であるボールのエフェクトをカスタマイズ出来る機能。
独自規格のシールを貼り付けることで開閉機能に紐付けし、ポケモンの登場をトレーナーの好みに合わせて演出が出来るのだ。