彼は肥えても最強忍者! 〜肉の下に潜む王子★百地大地は、現代忍びの世界で密かに無双する〜   作:山下敬雄

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第十二話 スーパーマン

 午後4時53分、外はまだ白く煙る青い空がずっと広がっている。そんな変哲のない日差しの中、自動車一台ない解体中の立体駐車場の中へと素速い人影が忍び込んだ────。

 

 『このところ多い暴漢のボディーガードをするかわりに、俺様の役に立ってもらう』護衛対象に対して、そんな脅し文句にも似たことを堂々と宣う男がいる。

 

 赤見高校に配備されていた忍びの一人、藤林雷牙(らいが)。彼の主導するいつもの放課後の強制デート道の途中にて、護衛対象である町原由璃が、散漫な警備体制を掻い潜り隙をついた敵の忍びの手に攫われ捕まっていた。

 

 工事用の黒と黄のロープで逃げないように手首足首と体を拘束された町原由璃の前には、鼠色のコートを着た知らない大人の男が一人立っている。

 

 『またいつもの彼の喧嘩の時間が始まってしまうのか──』町原由璃は冷たいコンクリートの柱に諦めるようにもたれ座りながら、事の成り行きを緊張の面持ちで見守った。

 

 そして今駐車場内に遅ればせながらも堂々とした足取りで歩き現れたのは、同じ学校の臙脂色のブレザーを纏う男子生徒。だが彼はただ単に、町原のことをその親切心の欠片から助けに来た訳ではなかった。

 

「ざるな警備の割に早かったな忍者、だが忘れるなこっちには人質がいるんだぞ。──この口座に指定の額の金を振り込め、それで手打ちにしてやる」

 

 町原由璃を誘拐したグレーコートの男は、要求のメッセージの書かれた紙を、今到着したボディーガードの忍びの足元へと投げつけた。

 

「人質? ははは、てめぇらみたいな金のない暇な阿保を、おびき寄せるための餌に気づかねぇなんてな」

 

「はぁ? 何を言っている?」

 

 要求を投げつけたグレーコートの男は、この期に及んでナメた態度を取る不出来なボディーガードへと首を傾げた。

 

「こっちの方が戦いやすいから、わざわざ間抜けにも分かりやすいようにくれてやったんだよ!! 俺の名はライトニングビーストッ、藤林雷牙、様だ!!」

 

 この男の前に提示する人質作戦など、まるでその意味を成さない。

 

 鼠色のコートの男から受け取った数字の書かれた紙屑を片手に握り燃やす。

 

 そして臙脂色の学生服の男子は、堂々と己のことを名乗り上げて汚い口調で豪語する。

 

 暗い駐車場内を青い光が一瞬で駆けた。金髪の男子生徒はその歯を剥き出しにし、吊り上げた口角で笑わずにはいられない。

 

 冥力を放出し繰り出した雷を纏う右の手が、隙だらけの抜け忍の左腕へと、今、勢いよく唸りを上げて噛みついた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいっにがさんぞ! もつこさんと保健室で何を話しちょった!! 言え!! ってなにさっきから土いじくっとんじゃ!! そのケツ蹴飛ばすぞ??」

 

(はぁ……せっかく撒いたのについて回りやがって、こいつの執着と忍耐は忍者並みかよ。さすが丹波もつこに五回もアタックしただけあるぜ、まったくお手上げだ)

 

 大地は校舎内で絶賛、厄介な男に絡まれてしまっていた。あの屋上でタップダンスをしていた西嶋という背丈のある男だ。

 

 西嶋という暑苦しい男の言葉を流し聞き、大地は学校の花壇をいじりながら状況を確認していく。

 

(どうも連携が取れてねぇな? 仕方ない。隠れん坊は今回は俺の負けということで──あったあった……無粋だが登録された通信機の信号を辿るか)

 

 花壇から回収した二重構造の特殊なコインをスライドし開く。その中に入っていた小さなSDカードをスマホ端末へと差し込み、なかなか見つからない忍び仲間のシグナルを大地は確認していく。

 

「西嶋、その話また明日でいいか。外せねぇ用ができた」

 

 花壇の草花の中から顔を出し、やっとケツだけを見せていた太っちょの生徒が西嶋が振り返る。そして振り返ったと思えば、その太っちょは何やら格好つけて妙な事を言っている。

 

「はぁ? なんやそれは? お前そうやってまた適当ぬかして煙に巻くつもりか? 土ごそごそいじくったあげく何をいっちょ、おい待て!! ────ハァハァ……なんやアイツ、太っとる割にやけにはえぇ……」

 

 大きな体が軽やかに花壇を飛び越えて、真っ直ぐに校内の正門へと向かって走っていく。

 

 西嶋は息を切らしながら追うが、自分が正門前に出た時にはもう既に桃乃木大地の姿は居なくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 バチバチと唸る雷の手が、敵の腹ごとその運ぶスピードに乗せ、駐車場のコンクリートの柱へと押し付けた。

 

 激しく衝突する手応えに、己のペースで手早く敵を圧倒していく藤林雷牙はニッと笑う。

 

 しかし、今ひび割れ崩れたコンクリートの柱の周囲に、何やらガタガタと騒がしく振動する音が立つ。

 

 奇妙な音に、耳の良い雷牙は柱に押さえ付けていた敵の元から一時飛び退いた。

 

 すると崩れ散った辺りのコンクリートが敵の男の身に集つ。やがてそれがまるで甲冑のようになり、破砕したコンクリートを全身に纏い出した。

 

「……あいにく俺は、お前みたいな聞き分けのない生意気な忍びもどきは嫌いでね。もう一度問う、とっとと有金を渡して失せろ」

 

 モザイクのように見える石のマスクの隙間から、鋭い眼光がぎろりと睨む。さらに怒気を孕んだその静かな声色で、また敵の忍びは要求を突きつけた。

 

「はははそうかよ……じゃあ望み通り……有りったけを浴びてくたばりやがれ!!! 【雷遁:尾雷(びらい)】!!!」

 

 両掌をスライドし回転させるように擦り合わせる。背の後ろまで合わせた両手をじっくりと引きながら……身に宿る電流を引き起こしていく。

 

 そうして掌の狭間に色濃くチャージした青く粘る雷の冥力を、今睨み見据えたコンクリートの的へと解放すべく──

 

 雷牙は後ろに溜めていた掌を一気に前へと開き、手の華を広げて咲かせる。そして大きな雄叫びと共に、前方へと宙を走る雷撃を放射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 炸裂した【雷遁:尾雷】。しかし、グレーの厚い鎧を着込んだ武者は、白煙を垂れ流しながら多少焦げついた姿で悠然とそこに立っていた。

 

「────印の優劣を知っているか? あいにく俺は手堅い天敵だ、荒っぽい雷小僧……お前のな!!」

 

 土の印と雷の印。本来ならば雷は木に属するが、その優劣は五行通りにはいかないことは明らかだ。

 

 敵が両足で立つアスファルトがひび割れている。地に電流を逃がされれば、その雷遁の威力は落ちてしまうのは明らか。さらに藤林雷牙はもう一つ、全力を出せない懸念点を抱えていた。

 

(土野郎め。チッ、冥力が上がらねぇ。今日がこっちの日じゃなきゃアレぐらいの安い鎧、即抜いてやるってのによ……)

 

 今日の尾雷の威力は、その目の前のコンクリ武者を倒す決定打となるには不足していた。雷牙は冥力は落ちるが肉体的なパワーは上がっているこの体に有用な、そんな戦闘プランに切り替えた。

 

「あぁ? ナメんなコンクリ! だせぇ鎧着込んで良い気になってんな。びびりの説く相性なんて内からぶん殴って焼き尽くしてやるよばーか!」

 

 殴る蹴る離れるを繰り返す、雷牙は鈍重になった敵と比べて勝るそのスピードを活かし、翻弄しつつ敵の纏う装甲の脆い部分を探っているように見える。

 

 まさに狡猾な獣の如き立ち回りに、打たれても打たれても怯まずにいた全身コンクリート人間は──

 

 ついに駆ける獣の足をそのゴツゴツとした手に捉えた。

 

 雷牙の狙う思惑通りにわざと崩し晒した脆い箇所へと、蹴りを打ち込ませたのであった。

 

「シツの悪い攻撃、読めれば躱すまでもないか」

 

 いくら素速い攻撃も動きを読まれれば捕まえることなど容易いこと。読み合いでもコンクリ武者の方が雷牙より一枚上手であった。

 

「──んなろ!?」

 

「フンヌッ!!」

 

 コンクリ武者は捉えた右足をがっちりと掴み離さない。そして枝のように使い、そのまま地面へと真っ逆様に調子に乗った金髪ごと叩きつけた。

 

「そらそらどうした! 取り柄のスピードも出せていないぞ、それで何がライトニングビートルだぁ? はははは、バチバチ鳴らすだけなら屁こき虫にでも改名しろ、そらよっ! おっと屁より先に血が出てきたなァ? あぁーあ、いけないなぁ、お兄さん我慢してたのに。最近はこうもションベン臭いガキまで同じフィールドにいる気になって、忍びだなんて名乗りやがる。あぁーそんな気の大きい勘違いは真っ平らになるまで正すべきだ、そうだな、なぁそうだろ! 若さに任せてればそれで勝てると思いやがる! そういう手遅れな頭をぶつけたことねぇ奴を、大人としてご立派にこうしてッ踏んづけて修正してやるのが、やはりお兄さん、随一の楽しみでねぇ!!」

 

 倒れた金髪をボロ雑巾のように扱い、コンクリの足で何度も踏みながら黒いアスファルトを拭いていく。

 

 語気を荒げ豹変したコンクリ武者は、調子に乗りすぎた若い忍びをいたぶり始めた。

 

「もう一度問う、ここに金を移せ。これ以上ガキの遊びをやらせるな」

 

 コンクリ武者は、顔を覆う石のマスクを解き汗と泥でベタついた髪をじっくりとかき上げる。

 

 そして、足元に転がる金髪の雑巾へと要求の紙を再び落とした。

 

「ぅ……へへっ……汚くて読めねぇナ……」

 

 雷牙ひ受け取った紙を握り締め、また手を開いた時にはそれは焼け焦げて無くなっていた。

 

 不敵な笑みを見せた若造に、お兄さんは呆れたように片手で頭を抱えながら、また冷たい石のマスクを被った。

 

 

「はいお兄さん、続行──」

 

 

 もぬけの立体駐車場に呻き声と重い足音が再開し響く。

 

 その時もう一つの影が、きらり、メガネを覗かせる。駆けつけた時には既に危うく出来上がったそんな仲間の状況を、物陰に忍び見つめていた────。

 

 

 

 

 

 

 

 

(こいつ毎週毎週無駄に敵を呼び寄せやがって……何故私がこうも尻拭いを……はぁ、この長期任務引き受けたのはとんだ失敗だな。平和で楽できると思ったのに結局こうかよ。人員の増強を上に要請したのに誰も来る気配ねぇし……そりゃこんな任務好き好んで来るやつはいねぇか)

 

 赤見高校に属する忍びは二人、これ以上の増援は期待できない。愚痴りつつも物陰に身を隠す鶴橋綾子(つるはしあやこ)、彼女一人である。

 

(で、相手は土の印か。破砕したコンクリをおそらく……付着させた冥力を混ぜた泥かなにかで纏ってる? しかもありゃえらい強そうだな……キレてるし。──どうするか……。これだけ気を引いていれば対象の保護は可能、しかし双方そんなことにはまるで興味なし。まるでただの舞台装置、暇な忍び同士の戦いの理由作りか)

 

 鶴橋綾子は置かれたどうにもならない状況を、今一度どうにかなりそうか整理していく──。

 

 コンクリ武者の印は未だその詳細は不明ながらも、そうと仮定。

 

 護衛対象の町原由璃の拘束は緩い。今動き出せばおそらく助け出すことはできると考えた。

 

 だが問題はこの護衛対象がコンクリ武者と藤林雷牙、戯れ合うどちらにとっても重要ではないということだ。

 

(──このままじゃアイツ下手すると死んじまうな。任務を妨げ敵を呼び寄せる、そんな散々の迷惑行為で正直コイツを助ける義理は1ミリもないがっ、味方がおっ死んだとなればあたしの査定にも響く。優先すべきはそっちになっちまうか……はぁーぁ……出費はいくらになりそうか。そもそもアレ倒せんのか……?)

 

 コンクリ武者が金髪を足蹴にし踏みつけつづける。

 

 状況が好転する材料はもはや彼女の手中にしかなかった。

 

(くっそもう出たとこでやるしかっ!! 3、2、いッ──ん?)

 

 長い得物の柄を掴み、鶴橋綾子が『3、2、1……』のタイミングで飛び出そうとしたその刹那──。

 

 鶴橋の目に映ったのは、突然コンクリ武者のぴったり近くへと現れた黒髪の王子の姿であった。

 

「加勢していいか」

 

「あぁ? 誰だお前?」

 

 忽然と後ろ近くに現れた黒髪の王子は、コンクリ武者のその無機質な右腕を掴んでいる。

 

 そして、まるでコンクリ武者のことを無視して、口から血を流し寝転んでいたその金髪の男に問うた。

 

 金髪の男は痛みを堪えながらも不敵に笑い、自分のことを高みから見下す見知らぬ王子へと、不遜にもだらんと舌を出し見せつけた。

 

「おい、ガキのお遊戯会のつもりか。……いつまでもお兄さんの袖を掴んでんじゃナっ──!?」

 

 袖を掴むガキの遊びには付き合わない。コンクリ武者は今掴まれた腕ごと振り払い、後ろにいる無礼者を弾き飛ばそうとするも、おかしい──。

 

 右に振り返り振り払ったその勢いはそのまま、必要以上に流れ続け、やがてグレーの石塊ごと回転しながら宙を舞っていた。

 

 綺麗にスピンしながら後ろへと投げ飛ばされたコンクリ武者が、鈍く大きな衝突音を立て、背中から無様にアスファルトの地に落ちた。

 

「手ェ出したってことは、こっからは──俺の喧嘩だな?」

 

 シンプルかつお得であった加勢の提案は拒まれた。

 

 ならば、舌を垂らす金髪の忍びの喧嘩の続きなど彼は知ったこっちゃない。

 

 満身創痍の様相でアスファルトの上に休む金髪の男を一瞥する。百地大地は助けない。

 

 決して身勝手な彼の為には戦わない。

 

 理不尽かつ強力な理由を握り締め、敵対する者へと、百地大地はその身勝手な拳を構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 背を重く打ち、衝撃で砕けたものがボロボロとはしたなく地に垂れていく。

 

 そんな、ゆっくりと立ち上がる珍妙なコンクリートの鎧武者に対して、大地は早々の挑発をかました。

 

「喧嘩する前に身だしなみを整えたらどうだ?」

 

「まぁーた、お兄さんに……修正されたい口の悪い奴……パートツーゥゥ!!」

 

 コンクリ武者は砕き落ちていたコンクリートを弾とし利用し、前方へと次々と飛ばした。そして宙を飛び交ったそれらが、余裕をかましていた黒髪の王子へと突然に襲い向かった。

 

「そんなに積極的に身銭を切って大丈夫か? 忍びの冥力は無限じゃねぇぞ」

 

 飛んで行ったグレーの弾は、全てターゲットへと当たった。しかし、その全てが彼の背後ろを通過することなく粉々に砕け散っていた。

 

 あり得ない早業。見てくれだけじゃない実力を持つ黒髪の王子が、両手についた石埃を払いながら、また気の利いた挑発をする。

 

「おうおぅ……お兄さんの嫌いなもの、もひとつ思い出した。スーパーマン気取りの出る杭って奴は、こうして手堅く実力通りに叩いておかないと──ねェ!!」

 

 静かなる怒りをぶつけるように、隣にあったコンクリートの柱を裏拳で砕く。歯抜けになっていた鎧をもう一度身に纏い補修しようとする。

 

 あいにく、百地大地はその悠長な化粧直しを待たない。彼はスーパーマンではなく姑息な忍者だ。柱を壊した瞬間、急接近し殴りかかった。

 

 鎧を着込む時間を与えられなかった男は後ろに離れた。そして着込もうとしていたコンクリート製のパーツを、敵と自分を隔てる目眩しのカーテンにした。

 

 今前のめりにやって来た大地の意表をついたのはそれだけではない。本命は別にあった。

 

 鉄骨を柄にした石の刀を隠した背から抜き出し、それを豪快にも天から振り下ろし、礫でモザイクがかった黒髪のターゲットの頭へと切り掛かった。

 

「防御転じて攻撃と成す、(しつ)の良い剣だな」

 

 だが、ピタリと黒髪の頭上に翳り止まった。その太い剣幅の石の剣は、それ以上地へと下ることはなかった。

 

 たった手裏剣一枚で、重量感あふれる特別な黒い冥力を纏う石の剣は受け止められてしまった。

 

「……!(俺の固めた【漆石祭剣(うるしせきさいけん)】を、噛ませた手裏剣一枚で!? コイツ、その歳で俺以上の三技の一つを……おいおいならねぇぞ、それは)」

 

 【三技ノ漆(さんぎのしつ)】──忍びの身に宿る冥力を粘り固めて、あらゆる攻撃に対しての硬質な層を形成する防御の技。基本は防御用のこの技だが、その硬度を活かした攻撃に転じることもできる。【漆石祭剣】は漆の冥力で塗装した硬質の剣、普通ならばその華奢な手裏剣一枚で止められることはない。百地大地の忍ばせていたその手裏剣もまた、質の良い漆で塗り固められていた。何層にも──

 

 

 受け止められていた石の剣はやがて、憎たらしい若造の頭をかち割ることなく逸らされ、逆に、天から下る鋭い手刀でへし折られた。

 

 なぜコンクリ武者は自身の得意なレンジである接近戦から今、後ろに飛び離れたのか。

 

 それは得物を失ったからではない。黒髪の若造の脈打ち発するような冥力とその鋭く変わった眼光に、本能的に気圧されたからだ。

 

「悪いけど喧嘩はもうお終いでいいか? さて、色々とお待ちかねだ。こっからは、手早くやらせてもらうぜ。──腹筋をよぉく、食いしばれよ」

 

「……土遁忍法三技ノ漆──【浸・泥身武者狂(しん・でいしんむしゃぐるい)】……来いっ、小手先だけの愚者(スーパーマン)!」

 

 また厚くコンクリの鎧を纏い直したのは、慎重気味から一転、腹を括ったからか。

 

 いつまでも粘り漂う死の予感に抗うように応え、敵の忍びは硬く備えた。

 

 冥力を帯びた泥の汗が鎧の隙間から滲み出ていく。それが漆のように剥き出しのコンクリを覆いコーティングし、数多の冥力を練り今あつらえた鎧は黒く硬く変容した。

 

 まるで威圧感を放つ黒い鬼武者の鎧、しかし目先に立つ敵が鬼であろうが城であろうが、百地大地は怯まない。むしろこの技を心置きなく披露するために、──敵の用意はそれで足りていた。

 

 

「三技ノ剥──【波悶八卦(はもんはっけ)】!!!」

 

 

 一気に駆け出して炸裂したのは、どっしりと待ち構える黒い鎧の鳩尾付近を的確に打つ掌底。

 

 防御を固める漆に対して生み出されたのが、敵の防御を剥がす剥の技。

 

 ひび割れた黒の塗装が色褪せながら剥がれおちる。塗装の剥げたただのコンクリートの鎧は一斉に振動しながら砕け、掌底一打の衝撃波が内部まで伝った。

 

 泥が飛び散り岩が砕ける、やがて骨身、頭まで伝った波動冥動が敵の全身を激しく揺さぶった。

 

 勇ましく突き出した掌底、その伸びた右腕のブレザーの袖を、敵の忍びはがっしりと掴んだ。

 

 大地は、そんな名も知らぬ忍びの男の目を見つめてこう呟いた。

 

「スーパーでもなんでもねぇよ、実力通りマンだ」

 

「くだら……ねェ……ッ────」

 

 忍びの男はそれで満足したのか、袖を掴んでいた震える手先は緩み、やがてその場にどさっと、膝から崩れるように倒れ込んだ。

 

 手堅く固めた漆黒の石鎧を完膚なきまでに砕いたのは、波打つ掌底。杭のように胸に打ち込まれた剥の技の極意が、敵の忍びを無力化したのであった。





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