超常のレーヴェ   作:さぁ

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探知

 賢者会アリシア支部は、その見た目通り大きい。

 

 通路は広く、天井は高く、柱は分厚い。

 要塞のような造りであり、壁面には無数の魔術式が刻まれ、淡い光が脈動している。

 そこは魔術師のための迷宮である。今も、数多くの魔術師たちが自らの実験のために走り回っている。

 

「さ、こちらですわ!」

 

 ロスティアが、ずんずんと先を歩いていく。

 縦ロールを揺らしながら、迷いなく進むその背中には、一片の不安もない。

 その姿に、一抹の不安を覚えてしまうのは失礼だろうか。

 

「……本当に大丈夫?」

 

「まぁ、ロスティアも客人がいるのに変なことをする奴じゃ………ないと思うよ」

 

「そこは断言をして欲しかった」

 

 どうしよう。扉を開けた瞬間に爆発したら。普通はあり得ないと思うだろう。それがありえるのだから賢者会は恐ろしい。

 そんなことを考えつつ、三人は一つの扉の前で足を止めた。

 

 分厚い鉄扉。

 表面には幾重にも重ねられた封印術式。そして、警告用の看板が立てかけられていた。

 看板曰く、

 

『勝手に入った後の生死は自己責任ですわ!』

 

あぁ、終わったかもしれない。

今からこの看板を立てた人の部屋に入るのか。

その事実に、レーヴェは絶望してしまう。

 

「ここが、わたくしの部屋兼研究室ですわ!」

 

 そんなことを思われているなどつゆ知らず。

 ロスティアは、誇らしげにそう言って、扉を開けた。

 

 賢者会の研究者に与えられる部屋は、簡易的な実験場も兼ねているため、かなり広く作られている。部屋を与えられる条件は、いくつかある。

その一つに階級制度というものがある。これは功績によって変動し、1〜9までの段階に分けられている。

9〜6が補助研究員。ここまでは私室が与えられず、5級以上の研究員のサポートとして常駐し、その補佐をすることで功績をあげることができる。ここまでは、賢者会において魔術師と認められておらず、ゆえにノルマも課されていない。

5〜4以上が一般研究員。ここでようやく私室が与えられる。大半の所属員がこの階級であり、魔術師として認められる分水嶺でもある。彼らは一人前の研究員としてノルマと特権が与えられるのだ。レーヴェもノイノも4級であり、己の部屋を持っている。しかし、レーヴェに関しては、研究室を維持する金が苦しく、解約しようか悩んでいた。世知辛い世の中である。

 

ここからさらに上位となると専用の実験施設を与えられたり、賢者会での方針を決める議決権を得たりなどの特権が得られたりなど多くの特権を持つことができる。

 

 そして。ロスティアの部屋を見るレーヴェとノイノ。その部屋を見てまず思ったことがある。

 

 ――汚い。

 

 床には書類が散乱し、机の上には触媒瓶と魔術具が積み重なり、どこからどこまでが研究途中の成果物なのか判別がつかない。

 壁際には破壊試験の痕跡と思しき焦げ跡が残り、天井からは用途不明の魔導配線が垂れ下がっている。はっきり言ってゴミ屋敷もいいところだろう。

これは……とレーヴェがロスティアを見ると彼女は振り返りもせずに答えた。

 

「必要なものは、必要なときに手の届く場所にある! それが最適解ですわ!」

 

「いや、それ事故るでしょ……」

 

「そんなことは些事ですわ!! さあさあ!! お入りになって!! 」

 

 ロスティアが足の踏み場もないその部屋を突き進んでいく。

 ノイノがあはは、と苦笑いを浮かべている。

 レーヴェもまたこの部屋の惨劇には頰が引きつった。

 

(よく歩けるな)

 

そんなことを思いながら、覚悟を込めてレーヴェも、彼女の部屋へと足を踏み入れたのだった。

 

カチッ

 

(ん?)

 

何か足元で音がした。まるでスイッチが入ったような音の出所を確認すると、そこには拳大ほどのカプセルのような何かがあった。

それが、何かを確認するよりも早く。

 

 ——ぞわり。

 

 足元で、明確な魔力のうねりを感じた。

 

「っ!」

 

 反射的に、防御術式を展開する。

 半透明の魔力障壁が形成された、次の瞬間。

 

 ——ドォンッ!!

 

 鈍く、腹に響く爆音。

 防御結界の表面を叩く衝撃と、熱。

 

 衝撃波が室内を叩き、紙束と小物が宙を舞った。

 防御術式がなければ、間違いなく吹き飛ばされていた。

 

「はっ……?」

 

 思わず、間の抜けた声が漏れる。

 爆煙の向こうから、ロスティアの声が聞こえた。

 

「あら〜! ごめんなさいですわ〜! ちょっと散らかっておりまして! 魔道具が落ちてましたの!」

 

「えぇぇ!? 何してんの? 死ぬところだったんだけど!?」

 

 ノイノが叫ぶ。

 レーヴェとノイノは、無言で顔を見合わせた。

 

(……帰る?)

(……帰る?)

 

 一瞬、本気でそう思った。

 

 だが。

 

「……せっかく、協力してくれるって言ってるんだし。行こう」

 

「………まじ?」

 

「……魔道具を魔力感知で探ってれば、爆発も起きないでしょ」

 

 そうだ。対策をすればなんてことはない。

 心を強く持て。

 

 そう自分に言い聞かせ、奥へと進む。

 

 すると、不思議なことに。

 

 部屋の最奥。

 数段下がった区画だけが、異様なほど整っていた。

 

 床には煤けた巨大な魔術陣。

 周囲に幾重にも重ねられた構造式。

 周囲には整理された触媒と補助媒体。

 

一眼でここが彼女の実験場所だとわかるだろう。 

 

「では、改めて盗まれたものを教えてくださいまし」

 

 ロスティアが魔術陣に魔力を込めながら質問する。

 レーヴェも魔術陣を起動させる為の手伝いをしながら質問に答えた。

 

「集めていた勇者の書。参考資料。実験途中の手帳かな」

 

「どれくらい、触れていまして?」

 

「……ほぼ、毎日」

 

「まぁ!!」

 

 ロスティアが目を輝かせる。その瞳が眩しい。

 

「素晴らしいですわ!! 魔力の残滓、しっかり刻まれておりますわね!!」

 

 やかましく称賛しつつ、魔術陣に触媒を配置し術を重ねていく。その手際は、目を見張るものがあり、彼女が一角の魔術師であることが知れる。

二人のそれを手伝い、探知の術式を構築する前段階までこぎつけた。

 

「ふぅ。これくらいでしょうかね」

 

「うん。これなら割と早めに見つけられそうだね。問題は……建国祭だってことか」

 

人が多ければ、その分魔力も増える。多くの魔力が混在する王都で微々たる魔力の痕跡を見つけるのは至難の業といえる。ノイノの懸念は最もだろう。

だが——

 

「——そんなこと関係ない」

 

「……レーヴェ?」

 

「僕をこんなにコケにしてくれたんだ。そんな障害程度で止まってたまるもんか」

 

「その通りです!! そんなことで止まっていてはそれこそ賢者会の名折れ!! それに王都は確かに魔力が混線しております! ですが! ここには魔術師が3人もいる!!」

 

 ロスティアが腕を広げれば魔術陣が、淡く光を帯び始める。

 魔術の片鱗が形を持ち始める。

 

「分担すれば、詳細な探知も十分可能ですわ!!」

 

 ロスティアは、指示を飛ばし始めた。

 

「ノイノ! 広域魔力変動の補助を! レーヴェ! 宿を魔力解析して残滓の輪郭を固定してくださいまし!」

 

「了解」

 

「まっ、やってみるか」

 

 三人の魔力が、魔術陣の上で交差し始める。

 そして、魔術師3人の協力の元レーヴェの所有物は迅速に発見されることとなる。







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